深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト十二日目 鬼の夫婦来店

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深夜のコンビニバイト十二日目。

ピロリロピロリロ

「いらっ」

俺のいらっしゃいませ、は甘ったるい猫なで声の二人組に遮られた。

「やーだ♡もうおーたんったらぁ」

「もーう♡やめてよぉポムポムきっちょむぅ」

「ぶっ.....くっくく....」

だめだ。笑うな俺。落ち着け、無表情だ。俺は今無表情、無の境地。
うわぁ.....バイト早々きっついなぁ。
しかもなんか、あの、頭に...角が生えてるんだけど二人共。

「おーたん♡」

「ポムポムきっちょむ♡」

おーたん(笑)の方は、丸メガネでいかにも弱々しそうなごく普通の黒髪の男性だった。
ただ、頭に二つ鬼のような角が生えている事を除いて。

一方ポムポムきっちょむ(笑)これはちょっとネーミングセンスがどうかと思うし、俺も吹き出す一歩手前だった。いやごめんちょっと吹き出した。
遊園地のキャラクターじゃねえんだよ。
ふざけんなよ面白いじゃないかよ。

ポムポムきっちょむさんは、黒髪を後ろで一つ結びにしている俺の母親より若い美人な主婦って感じだけど。
胸から「本日の主役」という赤文字のたすきをかけていて、頭には三角コーンみたいな金と赤のストライプの帽子が頭に生えている立派な角に被さっていること以外は。

二人はどピンク色の空気を周期に撒き散らしながら腕を組んで店内を回っていた。
その間も、店内から

「おーたん♡」

「ポムポムきっちょむ♡」

とずっと聞こえてくるのもう頭からポムポムきっちょむが離れなくなるからマジでやめてくれ。
耳を塞いでポムポムきっちょむをシャットダウンして悶えていると、店内をぐるりと回ってきた二人は、レジにまっすぐ歩いて来た。

「「(せーの)店員さん、誕生日ケーキはない?」」

何を言われるかと思えば。
そんな事どっちかが言えばいいじゃないか...。

「スイーツコーナーに二つセットでショートケーキがあれば...」

俺は、スイーツコーナーに向かおうとしたが、

「もう見たよ、ケーキらしいケーキがもうなくてね、どら焼きとか、ロールケーキがあったけど、そうじゃないんだよね。俺はポムポムきっちょむの折角の誕生日、ちゃんとしたスポンジケーキを食べさせてあげたいんだ」

ロールケーキもスポンジのケーキなんですけど。
ただ、言っていることはわかる。
ポムポムきっちょむさん今日誕生日だったのか。だから本日の主役...成る程ね。
はぁ、そもそもケーキを今更買いに来るなって話だよ。
今はケーキ屋さんもしまっているだろうし、作るにしてもスーパーは言わずもがな深夜2時以降しまっているに決まっている。
呆れながらも一応在庫確認しに行ってみるか。

「在庫を確認してまいります。少々お待ちください」

「よかったね、ポムポムきっちょむ!あるかもしれないよケーキ」

「ふふ、よかったなぁおーたん♡さっきの嬉しかったよ。鬼格好良かった!」

「そんな、やめてよ。ポムポムきっちょむの可愛さなんて、俺の格好よさを遥かに凌駕して俺なんか角の先っちょも見えないよ」

何言ってんのかよくわかんないけど鬼っぽい話をしているのはわかる。

在庫を確認しに行ったが、最悪だ。
届いても今日の朝。今日の朝にドサっと来るんだけどな。
この二人には申し訳ないが、お断りするしかないか...。

在庫確認を終えた俺を、待ちわびたというキラキラした顔で待っていた二人に、この事実は大変伝えにくい。
だが、真実を伝えるしかない。

「お客様、申し訳ございません。ケーキ類、本日の朝になら届くのですが只今在庫切れでして」

頭を下げて誠心誠意伝える。
...あれ、何も言わない?
顔をゆっくり上げると、さっきまでニコニコキラキラしていた二人が鬼の形相でこちらを見ていた。
俺はサァッと血の気が引いていくのを実感した。

「それは困るよ。今日は何の日って可愛い可愛い俺のポムポムきっちょむがこの世に生を受けたこの世で一番素晴らしい日だよ。俺は今日この日、ポムポムきっちょむと誕生日ケーキを一時間ごとに一つたべるって決めてるんだ。その度に二人で愛を語り合いたいの。俺達いつもはベッドでいちゃいちゃしながら深夜2時に寝るんだけど今日はついさっき話し合って、ポムポムきっちょむの誕生日で一時間でも長く起きてようってことで3時まで起きてるつもりなの。3時から8時までぐっすり寝て、朝にケーキを食べるの。だから俺達はこの一時間は二人でケーキを食べる大事な時間にしたいの。ない、じゃ済まされないんだよ。色々回ってもうここしかないんだから」

息継ぎなしで顔面ギリギリまで顔を近づけておーたんは話し続けた。
めちゃくちゃ二人勝手な話を。
そりゃあ大事な人の誕生日に何かしたいというのはいいことだと思うけど、それは他人に迷惑をかけてまでする事じゃないだろ。
ないもんはないんだから、我慢して二人でいちゃいちゃして寝ればいいじゃないか。

「用意してくれるわよね?」

鬼の形相がにっこり笑ったポムポムきっちょむ。
全然ポムポムきっちょむじゃないよ。
無理だって言ってんだろ。
二人が俺にじりじりと顔を近づけて迫ってくる。

「今日は大事な日なんだよ。ケーキ今から発注して届けてもらってよ」
「この世界ではお客様は神様なんでしょう?」

勝手な事言うなと怒鳴りたくなるのをぐっと我慢する。
こいつら...もう俺は知らないぞ。
店長を呼んでやる。

「申し訳ございませんが、少々お待ちいただけますか」

俺は一方的に言って店長のすやすや寝ている休憩室に駆け込んだ。

「店長ぉお...」

弱々しく店長を呼ぶと、ふしゅううぅと、店長がスリープモードから起動するように大きく息を吐いて、

「...何か、あったのか?」

ゆっくりと起き上がる店長の顔を見てちょっと今回、俺涙が出そうなくらい安心してしまった。

電気をつけわけを話すと、店長は目を閉じてうんうん、うんうん、と腕を組んでじっくり聞いてくれた。すごく安心した。
もう俺店長大好き...。

「分かった。ちょっと準備する」

準備?
首をかしげると、店長は安心しろと言うようにグッと親指を立てた。

「じゃあ、俺先に戻ってますね」

「いや、俺が準備できるまでここにいなさい。話を聞く限り今君が外に出たらまたお客様に集中攻撃を受けてしまうからね。俺の後ろに隠れていていいから、一緒に外に出よう」

「店長ぉお.....」

何で店長独身なんだろ。俺でよかったらもらってほしいくらい格好いいのに。
かちゃかちゃと店長が休憩室で取り出したのは、予想外にも包丁だった。
包丁を持ってにやりと笑う店長に、俺は殺人鬼の顔を見た。

「店長ぉおおおお!!!!やめてください!!確かにあのお客様は嫌な客ですけど!店長が手を汚す事はありませんよ!!まじで!!やめて!!そんな店長見たくない!!」

必死に駆け寄って店長にすがりつくと、

「おいおい、俺は包丁を持っただけだぞ?そんなに怖い人相してるわけでもあるまいし、そんなに慌てなくても」

いや十分怖い人相してるから。
裏で天頂とか世紀末覇者とか呼ばれてるからねあなた。

「と、ところでその包丁...何に使うんですか?」

「まぁ、見てなって」

店長は、まな板や他の調理器具を休憩室の棚から出して、自分のバックからいくつか調味料を取り出した。

「店長、バニラエッセンスとかカバンに入れてるんですか...」

「あぁ、今時普通だろ」

「普通じゃないです」

即答だった。

「匂いを嗅ぐと落ち着くんだよなぁ...」

スーッと匂いを嗅ぎながらうっとりする店長は可愛いけど、街中で突然カバンからバニラエッセンス取り出して嗅いでる男がいたら俺は距離を置く。

「よし、こんなもんか」

店長は、準備が終わったようで入り口に向かった。
俺も後ろについて行く。

「大変お待たせ致しました。理由はバイトの村松さんから聞きました。奥様の誕生日ケーキという事で、素晴らしく仲のいいご夫婦なのですね。これからお作り致しますので、よろしければお二人の素敵な今後の事を語り合いながらそちらの休憩スペースでお待ちいただけませんか?」

店長は、にっこりと営業スマイルで...なんて言った?作るって?これから?
確かにここにはオーブンレンジも、休憩室には料理が趣味の店長が勝ったたこ焼き機やホットプレートカセットコンロとかが揃ってるけど...。

二人が休憩スペースの椅子に座ろうとした際、すかさずどっから持ってきたのか白と赤のハートのクッションをしいて、テーブルにはファサッとどっから出したのかレースのテーブルクロスをかけた店長。
もはや店長はマジシャンだ。

店長は急いで、コンビニをあるきまわり、板チョコ、卵、小さいシュークリーム、アポロチョコ、アラザン、生クリーム、フルーツの缶詰、白ワイン、アイスの実を買い集め、自分で凄い勢いでレジを打って自費で支払い休憩室へ。

「ちょいとレジ見ててくれ。お客様に呼ばれたら呼んでくれ」

「は、はい」

少ししたら店長がピンクのエプロンをして出てきた。可愛い。

「お待たせいたしました」

お盆には、どっから持ってきたんだっていうカクテルグラスが乗っていて中身は透明な飲料に紫色の丸い玉が入った飲み物だった。
何だあれ...。

完全に高級レストランのウェイターって感じで現れた店長シェフ兼ウェイターは、飲み物をお二人の前に置いて、

「お待たせいたしましたお客様。白ワインと禁断の果実~アダムとイブ~でございます」

いやここコンビニだから!!!
そして店長ここの店長だから!!
何高級レストランの飲み物みたいな感じで出してんの!?
アダムとイブって何!?

「おぉ、最初に飲み物まで出てくるなんてここはなかなかいい店だねポムポムきっちょむ♡」
「綺麗ね、おーたん♡」

そして店長は黒子のように休憩室に戻っていった。

「白ワインにしゅわしゅわした冷たいアイスみたいなのが入ってるね」
「美味しいわねおーたん♡」

それさっき店長が買ってた白ワインとアイスの実やんけ!!
すごい...全く今後の展開予想ができないんだけど。

「お待たせ致しました」

今度は、お盆に小さいシュークリームがタワーとなって連なり、そこにアポロチョコがところどころデコレーションされているホームパーティとかでよくあるやつを持ってきた。
ダメだよ店長...その二人はメインをはれるようなケーキを求めているんだよ!!

「これ、違うよ。どういう事だい...?俺が求めているのは」

あぁ、やっぱりおーたんが噛み付いてきやがった。顔が少しずつメキメキと鬼の顔に変わって...。

「お客様、こちらは前菜のようなものでございます。メインのケーキはこの後にご用意しております。もう少しで焼き終わりますので」

「な、なんだと.....」

「こちらのスイーツ、これから少々仕上げをさせていただきます」

店長は、また休憩室に戻り溶かしたチョコレートを持ってきた。

「ま、まさか...」

「失礼致します」

さながらショコラティエのようにチョコレートを高い位置から回しかけ、その姿はさながら、妖精が美しい鱗粉を振りまいているようだった。
そして、アラザンを塩をひとつまみかけるようにまぶし、それで終わりかと思ったら小さい小人達のチョコレート細工まで用意して、シュークリームの山に登る小人達を配置していった。

「あらぁ可愛いわ♡」

これには女性のポムポムきっちょむもご満悦だった。
それを見て嬉しそうなおーたん。

「こちら、~愉快な小人達の山登り~でございます」

題名まで可愛いじゃないか。やるな店長。
俺もちょっとワクワクしてきていた。

「お待たせいたしました」

ラストは生クリームの乗ったケーキに飴細工のようなもので鳥の巣が作ってあり、鳥の巣の前には「HAPPYBIRTHDAY~末長くお幸せに~」のチョコレート。
まじで神だよ店長。

「ケーキだ...すごいよポムポムきっちょむ♡今深夜2時50分。3時までに食べれたね」
「えぇ、見て!おーたん♡ちゃんと文字が書いてあるわ!」

きゃっきゃとはしゃぐ二人に、店長はラストに飴細工で作った透き通った白鳥を鳥の巣に乗せた。

「こ...これは...素晴らしい完成度だ。コンビニだから小麦粉なんてないはずだろ?どうやって作ったんだ...?」

おーたんが神パティシエ店長に問うと、神パティシエ店長は、

「恐れ入ります。卵とチョコレートとサラダ油で炊飯器を用いてケーキを作らせていただきました。真ん中には食感を加える為に缶詰のフルーツなども挟んでおります。道具などはもともと私が料理が趣味という事もあり用意してありましたので」

「すごい...あんたは立派な神パティシエだよ。ありがとう。ありがとう...誕生日にポムポムきっちょむの笑顔が一時間でも長く見えて俺は嬉しいよ」

目が潤んできたおーたんの肩にそっと手を添えた店長は、

「奥さんを愛するあなたの気持ちが、彼女を笑顔にするんですよ...素敵な誕生日をお過ごし下さい」

惚れた。

「はい!ありがとう...正直期待はずれかなって思ってたんですけど、予想以上だったよ。ね、ポムポムきっちょむ♡」

「本当よ、このコンビニを選ぼうっていってくれたおーたん♡のお手柄ね」

「いやいやポムポムきっちょむだってぇ」

幸せそうな二人を腕を組んで休憩室の前からうんうんと頷き見守る店長を見て、俺はこの人と結婚したら絶対に幸せにしてもらえそうだと思った。

「お金はいりませんよ。誕生日プレゼントって事で」

店長は最後まで気前が良かった。

「店長、よかったんですか?お金くらい貰っておけばよかったのに」

「いいんだよ。毎日が誰かの誕生日だってぇのに、俺には祝う相手がいねぇからさ。こうして久々に誰かの誕生日を祝えるってのが楽しいのよ」

鼻を擦りながら微笑む店長に、俺は心の底から店長の誕生日、七月一日は盛大にお祝いしようと思った。
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