深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト十六日目 織田信長再来店

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深夜のコンビニバイト十六にっ「うぉおおおおおおおお!!!お市ぃいいいいい!!!!」

いつもの俺のお決まりを始めて遮った男、コンビニに駆け込んできた織田信長様は、レジに立っている俺の前でキキィッと止まった。

「お市がぁ...ハァッ...お市っウォッゴホッゲホッ...お市がぁっ...」

コンビニの外を見ると、馬がいなかった。
今日馬にも乗ってないんだけどこの人!
相当焦って走ってきたんだな。汗びっしょりで、ちょびひげに汗がしたたっている。
いつものティーシャツには、「お市LOVE」の文字。手にはスマホ、映し出されていたのはゲームのガチャ画面らしきものだった。

「お主ィ.....ヒーッ...ハーっふぅ、ふぅ、ヒッヒッふー、ヒッヒッふー」

なんとなく言いたい事はここまでの一連で全て分かった。要するに──。

「ワシの愛する妹、お市のピックアップガチャが来た...引いてくれ!!」

そういう事だろ?

「はいはい、わかりましたよ」

俺は、にっこにこでスマホをスマホを差し出して来た信長様のスマホのガチャ画面──10連ガチャを引くを押した。

「ほほほーい!ほほほーい!」

腕を上下に突き上げ上機嫌ハイテンションな信長様。
前のガチャで爆死した干からびたオタクのような面影は一切なく、完全に勝ちを確信したオタクの顔をしていた。

だが────。

「あれ?」

「どうしたんですか」

「お市.....どころかピックアップのキャラさえ一人も...」

そう、俺達は思い出した。
俺が前にたまたま織田信長ピックアップで本当に、たまたま織田信長を引き当てただけで、実際はあんなのその時に運が良かっただけだった。
だからといって、今回のピックアップですんなりお市さんを引ける保証なんて一つもなかったはずなのに。

「も、もう一回引いて?」

「あっ、はい」

10連ガチャを無償石で10回引いてかすりもしないあたりで、信長様も俺も大体それに気がついてきて、

「おい貴様...ワシと話す時には最初に信長様、お話がありますをつけぃ...」

最低だこいつ!!!!
最初はへこへこ引いて!引いて!わんわん!って感じだった信長様が、どんどん、「おい...お前、前はできたじゃん?なんでできないの?ねぇ」と、冷たい部活の先輩みたいな態度になっていく姿に俺も何か申し訳無くなってきてたけど、よく考えたら前はたまたま俺が引いて当てる事ができただけで今回信長様が、全速力でコンビニに走ってきて俺がガチャを引いてお市さんを当てる保証なんて一つもないじゃないかよ!!
ふざけんなよ!!

これが俺"達"のガチャ地獄の始まりだった。

「前は引いてくれたのになー、何で突然引けなくなったのじゃ」

「前はたまたま引けたんですよ。お市さんが引けないのを俺のせいにしないでください」

いじけて足をぶらぶらされる信長様に、俺もちょっと、いやだいぶイライラしてくる。
ガチャを引いてくれと頼まれて、いざ引いてそいつの思った通りのキャラが出なかった時に「何で引けないんだよ」みたいな態度を取られる事ほどこの世でムカつく事はないのかもしれないと俺は今確信している。
正直グーで殴りたい。
殴ったら織田信長グーで殴った男として歴史の教科書に載るんだろうか?
そもそもこのおっさん織田信長なのか?ただのガチャ狂いのおっさんじゃないの?
織田信長ってもっと...なんていうか威厳があって、自分に自信があって、プライドが高くて、部下に慕われてたりして、戦国武将の中で一番偉い人ってイメージがある。

それがなんだ、こいつは。
今は背中を丸めてカード売り場で課金カードを半分くらいごっそり持ってこっちに歩いてくる。
その姿は、「あぁ...ワシまた戦に行くんか...行きたくないのう」と言っているようだった。
ガチャ地獄の苦しさを味わっているオタクの顔をしていた。
出ないものは100万円つぎ込んでも出ないらしいからなぁ、本当に。

「しかも今回は確率二倍もなしなんじゃ...普通にクソ低確率のままじゃ、SNSで引いてるやつのツイートとか見るとそいつを殺してお市のデータを抜き取りたくなるのじゃ...」

何クソ物騒な事ぶっこいてんだこのおっさんは。
ガチャは人を変える──俺は静かに目を閉じて店で出している半分の課金カードを信長様に早速売ることになったのだ。

「出ない、出ない、出ない、くそっ...何でワシの妹なのにワシに無償で配られんのじゃぁ!!」

頭を抱えて前みたいに淡々と引いて行く信長様。

「ワシは今回もお主が引いてくれると期待しておったんじゃ...課金なんて考えてなかったんじゃぁ...」

俺の事信用しすぎだろ。

「前に引いた時は喜びすぎてワシの妹の夫にしてやる!なんていってましたけど、今回もし俺がお市さんをまた引いたら何してくれるんですか?」

ついついわざと意地悪な事を言ってしまう、信長は、きょとんとして

「え?ワシそんな事言った?たまたまだったんでしょ。今回は引けるかわかんないんでしょ。じゃあ大事な妹をあげるわけないじゃん」

言ったわボケ。

「ただ、ワシの元に本当にお市をガチャで恵んでくれたとしたら、そうじゃな。お市を本当にお主にあげる事を考えてやらんこともない、冷静にな」

可愛い妹をガチャ結果で俺に売るなよ。
本当に大丈夫なのかこのおっさんは。

「まぁ、当てたら余ったワシのポケットマネーちょっとあげるよ」

「お金で来ると思わなかったな、いくらくらいなんですか」

どうせ300円とかなんだろうな。

「ポケットにワシにいい事をした人間に配るように30万くらい入ってるから、それとガチャ用に銀行貯金今回のお市ガチャ用の100万円用意してあって、それで余ったやつと30万円合わせた金額で」

「ちょ、ちょ、ちょっと待てちょっと待て」

規模が!!規模がおかしい!!!

「あの、前からちょいちょい疑問だったんですけど、何でそんなにお金持ってるんですか!?」

「お金?何か知らんが勝手に入ってくるんだ」

毎日毎日深夜のコンビニバイトで魔王とか河童とか変な客が多すぎて正直続けられる自信がないと思いつつも、こうして出勤して毎日右往左往しながらバイトを頑張っているコンビニバイトの俺に対して何だって?
全世界のお仕事を頑張っている人達に向かって、何だって?
聞き間違えだよな。そうだよな。

「ワシの秘書が全部やってくれてるのだ。ワシは毎日ゲームをしているだけでお金が入ってくる」

ガチャを引きながら当たり前というように言う信長何か夢でもみているのかこの人はという事を言うが、実際はこの信長様、課金するお金があるっぽいから真実なのか?
その秘書さん、こんなダメ人間の秘書なんてどうしてやってるんだろう...。

「ほら、ワシは指が疲れた!お主引くのじゃ」

「へいへい」

むくれながら10連ガチャを引いて行く。やっぱりガチャを引くのは楽しいけど、隣で腕を組んで物凄い顔でガチャ画面とを見てガチャ途中には一喜一憂し、ガチャ結果が出ると俺の顔とガチャ結果を交互に見て「え?お市は?」みたいな顔するのまじでやめろ。

仕方ないだろ、最高確率星5なの。当たらないのが当たり前なの。

こりゃ、今夜は長くなりそうだな...がっくりと休憩スペースで肩を落とした俺の耳に、

ピロリロピロリロ

お客様がご来店した音が聞こえ、飛ぶように休憩スペースの椅子から立ち上がる。その姿はさながら、火をつけた瞬間に夜空に飛び立つ花火のようだっただろう。
それくらい、俺は焦りと驚きで高く高く真っ直ぐに──椅子から飛び上がっていた。

勤務中に、お客さんとガチャ引いてたなんて他の普通のお客様に知られたら完全にクレームどころの騒ぎじゃなくなる!やばい、やばいやばいやばい!!

だが、ご来店してきたお客様を見て俺は目を大きく見開いた。

透き通るように白い肌。
黒い首までの短髪から白いエルフ耳がスッと覗き、黒と白の全く露出のないフリルのついた長袖シャツ、首元も隠れた長袖、ロングスカートの元祖メイド服といえるようなメイド服。
フレームのない黒眼鏡をかけた眼鏡の向こう側には、闇を映しているような漆黒の瞳がこちらを見据えていた。

「黒い短い髪に漆黒の目だから見ればすぐわかるっすよ。一目見ただけで只者じゃないってわかるっすから」

「あっ....」

エルフメイドさんの言葉が俺の脳裏にフラッシュバックする。

「クロノアが好みの男性は、自分が絶対的に正しいと自信があり、プライドが高い、部下からの信頼も厚く実際地位が高かったりすると尚ポイントが高いっす。更にクロノアが優秀だと思った人材──そういう元から優秀な人間を180度ただのダメ人間に変えてしまうんすよ」

エルフメイドさんの言葉が俺の頭に次々と蘇る。

『そもそもこのおっさん織田信長なのか?ただのガチャ狂いのおっさんじゃないの?
織田信長ってもっと...なんていうか威厳があって、自分に自信があって、プライドが高くて、部下に慕われてたりして、戦国武将の中で一番偉い人ってイメージがある』

「や、そういう犠牲者じゃなくて、クロノアは完璧超人で史上最悪なダメ人間製造機なんすよ...魔王が魔界で我儘放題好き放題ぐうたれ甘ったれになっちゃったのも、クロノアが甘やかしすぎたせいっすね」

もしかして...信長様って本当は、ここにきたばかりのときは、いや、この今俺の目の前にいる人に会う前は、歴史通りの、俺のイメージ通りの人だったんじゃないか?

眼鏡をクールにクイっとあげ、

「クロノア、お迎えにあがりました。信長様、帰りましょう」

魔王の世話係のメイドにして、驚く程美しいエルフメイドクロノアさんは、その夜深夜のコンビニに来店してきた。


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