深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト十七日目 クロノア来店

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「クロノア...さんって、あの...魔王の」

思わず呟いた俺の目の前からクロノアさんがシュッと消えて、一瞬で俺の顔面近くまで近づいて来た。

「ヒィッ!」

俺の顔を両手で挟みこみ、じっと目を見つめながら、

「今貴方...魔王といいました?魔王様について何かご存知なんですか?ねぇ、貴方、魔王様について何か何か何かご存知なんですか?」

俺の顔に跡が出来るんじゃないかというくらい凄い力で顔を挟み込み、俺とギリギリまで顔を近づけ漆黒の瞳を限界まで見開き必死に問い詰めるクロノアさんに、俺はいってもいいものかと目をそらす。

いいや、やっぱりダメだ。
エルフメイドさんは、魔王がダメ人間にされてしまうからクロノアさんに会いたくないと言っていた。
俺は...あの健気なエルフメイドさんの思いをくみたい。

「知りません」

「嘘ですね。今、目そらしましたよね。わたくしは見逃しませんよ」

「お、おい、一体どうしたのだクロノア?」

ピロリロピロリロ

俺には、誰かが入店するいつもの音楽が耳に入っていなかった。

困惑して近づいてくる信長様の方を見た瞬間に、クロノアさんは俺から飛ぶようにして離れた。

シュッと風を切るような音がして、大きな銀の刃物が、俺のレジ前をすごい速さで通過した。

飛び退いた後、ズサっと店内で滑るように着地するクロノアさんは、店内に入ってきた相手を見て目を見開いた。

「この世界の人間は──そんな物騒なものを常に持ち歩いてるなんて、聞いてませんよわたくし」

壁にビーンと突き刺さった鎌を見て俺は来店した人物を察した。

「綾女さ.....ん?」

入り口で怒りで髪の毛がゴウゴウ逆立ち、両手を血が出る程に握りしめ怒りのオーラ全開で立っていたのは、口裂け女さんこと綾女さんだった。

やばい、クロノアさんが殺される。
このコンビニが血で血を洗う戦場になってしまう!

「綾女さん、お、落ちついてください」

一応近寄って声をかけてみるが、獰猛な動物のごとく話が通じていないようだ。
ブツブツと何か言っている為、耳を近づけて聞いてみると、

「わ、私の...ハルとキスした。ハルとキスした許せない...許せない....殺す。殺さなきゃ殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す」

遠くからいつも俺を見ているらしい綾女さんは、そう見えたのだろう。
まずいこれ、どうしよう。

「綾女さん、違いますよ、誤解ですよ誤解、キスなんてしてないですからね」

どうどうどう綾女さん、どうどうどう。と目の前に立って真実を口にするが、

「無理やりキスされてたわ。ハルが他の女に触られるだけでも許せないのに、あんなに至近距離で、何を話していたの。ねぇ、ハル...ハルは人気者ね。前のあの吸血鬼はどうしても生きる為にお腹が空いていたからという話だったじゃない?今回のキスはそうなの?やっぱり店員さんは、女の人にこういう事されるのが日常茶飯事なの?」

日茶飯事なわけないだろ!
深夜のコンビニバイトが女性にキスされるのが日常茶飯事なら、健全な男子達は皆深夜のコンビニバイトしたがるわ!
いや、知らんけど!

「だからしてませんって!大丈夫ですよ」

「成る程...そういう事ですか。随分可愛い方なんですね?大丈夫ですよ。わたくしはこの人に微塵も興味がありませんから」

来店した時から、魔王の話になるまで表情が全く変わらないクロノアさんは、先ほどまでと同じ無表情のまま淡々と綾女さんに告げた。
俺はホッと胸をなでおろす。この人は話がわかる人だ。

「こんなに可愛くて格好よくて優しくて完璧なハルに微塵も興味がないですって...?貴方、ハルをバカにしてるの?」

いや、ややこしくなるならやめて!
俺全然ショックとか受けてないから!!

「安心してくださいな。わたくしには他に好きな人がいますから。これ以上わたくしがここにいると彼女の怒りを逆なでしてしまうかもしれませんね」

クロノアさんは、相変わらずの無表情のまま、綾女さんに近づいて来た──訳ではなく俺の腕をぎゅっと抱き寄せて、耳元で囁いた。

「また絶対に来ます──魔王様の事詳しく教えていただきますからね」

そして、綾女さんをちらりと見て口元だけふふと笑った瞬間、綾女さんの一本の糸が切れた。

「やっぱりお前は許さない」

片手を鳴らす綾女さんに、頰に手を当てて

「わたくし、昼ドラで見たぽっと出て来てラブラブなカップルを引っ掻き回す謎の女役に憧れてましてね。ちょっとやって見たかったんですよ」

なんて表情は変わらないがちょっとウキウキなクロノアさんに掴みかかろうとする口裂け女さんをスッと身軽に交わし、呆然とする信長様を抱き抱えて俺にウインクすると、クロノアさんは、飛ぶようにコンビニを後にした。

「はぁ...何だあの人...良くも悪くも濃い人だったな...」

流石あの魔王のメイドと言ったところか.....。
常に無表情、感情のこもってない声色で淡々と話し続けるクロノアさんの真意は汲み取れないが、とにかく俺が分かるのは、魔王といったときのあのクロノアさんの様子──エルフメイドさんのいう通り、クロノアさんと魔王は会わせてはいけない気がする。

「ハル...」

低い声で名を呼ばれびくりと肩が跳ね上がる。

「あや...あやめさ」

こりゃ怒ってるわ。完全にこれ怒ってるわ。さっき耳元で何言われたのとか、問い詰められるパターンだ、それで何言っても信じてもらえないやつだ。

ガチガチに緊張で固まりながらカタカタと振り返った俺の目に飛び込んで来たのは、綺麗な赤い瞳からポロポロと涙を流す綾女さんの姿だった。

「ちょ、どうしたんですか!?綾女さん何で泣いてるんですか!?」

「...ハルがあの人にとられちゃうんじゃないかって思ったら涙が出て来てしまって...私、分かってるのよ、自分は面倒くさくて、酷い女だって事、口だって裂けてて醜いわ」

醜いと言って自分の顔を覆った綾女さんは、続けた。

「私昔から言い寄られる事が多かったの。マスクをしている時の容姿はいいみたいで、でも私の顔を見ると皆醜い!近寄るなって、殺そうとしてきたりそっちから近づいてきたのに...好きだって言ってたのに、必ず裏切られる」

俯いて、泣きながら話し続ける綾女さんに、俺はぎゅっと目を閉じて話を聞いていた。

「でも...唯一ハルは、貴方だけはマスクをとった私を醜いとも、気持ち悪いとも、化け物だとも言わなかったわ。だから、だから...私、貴方の事が好きになったの、大好きになったの、私のこと貴方は私のこと...嫌い?ワタシ...キライ?」

俺は、思わず綾女さんを抱きしめた。

「大丈夫ですよ。嫌いじゃないですよ」

「本当...?私...ストーカーだし、病んでるし、顔だって醜いし」

「俺がピンチの時助けにきてくれたじゃないですか、俺なんかの事、大好きって言ってくれるじゃないですか、綾女さんは、綺麗で優しい人ですよ」

「ありがとう...ありがとうハル...」

綾女さんは、救われたというようにマスクをとった後、俺を見て優しく微笑んだ。
俺はこんなに素敵な笑顔を見たことない。

綾女さんが帰った後、鎌の突き刺さっていた穴をどうしようかと考えて、店長になんて言おうか考えていた。

そんなことを考えていたらキィっと休憩室が開いて、目を真っ赤にした店長がぬるりと出てきた。
 俺の肩にガシッと手を置き、

「幸せに.....してやれよな」

グッと親指を立てる店長に、俺は今日一番驚いた。
聞いてたの!?

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