深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

文字の大きさ
35 / 96

深夜のコンビニバイト三十五日目 メリーさん来店

しおりを挟む
深夜のコンビニバイト三十五日目。

基本的に、コンビニに電話がかかってきたらバイトの俺ではなく、店長がしっかり応対するから電話がきたら一旦出てから保留にしてすぐに俺を呼んでと言われているが、なにせ俺が働いている時間帯が深夜の為、実際電話がきて店長にかわったことは今まで一度もなかった。

そもそも、深夜2時にコンビニに電話をかけてくる人というのは、恐らく酔っ払いか、間違い電話か、そのような類なんじゃないかと思うけど。

「ヒッ!」

深夜2時22分ジャスト。
今日は初めて深夜のコンビニバイト中、モーソンに今一本の電話がかかってきた。

まずは電話に出て、何か言われたら近くのペンとメモでちゃんとメモして保留にする。
そして、店長を呼ぶ!!はぁ、電話での対応は初めてだから緊張するな、よし。

恐る恐る受話器に手を伸ばした。
静かな店内が俺の緊張を加速させる。

「はい、お待たせ致しました。モーソン....」

「あたしメリーさん、今、病院の前にいるの」

メリーさんって...あの、あれだよな。
人形の...どんどん電話してきて近づいてきて最後には後ろにいて...あの、あれだよな...俺知ってるよ。
病院ってここからちょっと遠いあの赤紅病院?何で病院にいるの?そこもホラーなんだけど?
何でやめて、今まで普通の人は一人も来なかったけどホラー系の人は誰一人来なかったじゃないかよ!!勘弁して。
しかも切られたし!保留にする時間さえ与えてくれなかったんだけど!?

「ま、また、また電話がかかってくるかも、店長を呼ぼう」

休憩室を開けようとすると、逆に扉が向こうから開いて、

「今電話の音しなかった?」

制服を着た店長が出てきた。
この店長が現れた時の安心感といったらない。

「店長...今、電話がかかってきて」
 
「どんな内容だった?」

混乱する俺に、優しく声をかける店長。
その温かな安心も──。

プルルルルル...。

電話の音で凍りついた。メリーさんだ。どんどん近づいてくるんだ。

「む、無視、無視しましょう店長」

俺の腕にしがみつくが、店長は、

「お客様のお電話は無視できないよ。たとえそれがクレーマーのお客様だったとしてもね」

店長は店長だった。
受話器を耳に当てた店長の隣で俺も電話の内容を聞こうと受話器に耳を近づける。

「お待たせ致しました。モーソン犬川店、店長の...」

「あたしメリー...病院を出て、その後少し道なりに歩いて、公園の近くの公衆電話で今電話かけているんだけど、こっからあなたのいるコンビニまでどうやっていけば...いや、別にこれは迷ったとか全然そういうわけではなくて、あの、あれだから、ちょっとあなたの他人に対して道を説明する力を試そうとしているだけだから」

メリーさん、迷った。

「今公園ということは、当コンビニから歩いて10分程の犬川公園の辺だと思われます」

冷静な店長は店長だった。

「びゃあ!!!何!?キモい顔した犬が歩いてた!!!ひっ...怖い...怖いよ。夜に一人で公園って怖すぎるよ!スタートが病院だったまではよかったけど、ほら病院って怖いじゃない?突然病院にいるのってメリーさんから言われたから怖いと思って。病院だと必ず公衆電あるし...でもその後よ!あたしがびゃあ!!犬こっち向いた!ヒッ!こっちめっちゃ見てる!無理無理無理あたし犬とかマジで無理だから。前屋敷に住んでた時とかでっかい犬に臭い口にくわえられてマジでそれで無理になったから!」

「落ち着いてください。コンビニからここまでは歩いて約10分です。公園を出て道なりに歩いていただいて、はじめの信号を右に曲がっていただいて、その後に住宅地を抜けた先に当コンビニがございます」

「わ、わかったわ。メリーさんルールがあって、一度電話をかけた相手には必ず会いにいくっていう絶対的ルールがあるからわかったわよぉ...行くわよ。ヒッ!犬!近寄ってこないでよ!しっ!しっ!あっち行きなさいよ!」

ブツっ...切れた。

「迎えに行った方がいいかな」

「...大丈夫だと思いますよ」

メリーさんのあのホラーなイメージがぶち壊されたのは良かったけど、道に迷うし犬を怖がってるし、メリーさんってお化け枠だと思ってたけど夜怖いとかいうし、もしかして意外とポンコ...。

 ピロリロピロリロ

このタイミングでお客さんって事は...?

「いらっしゃい...ませ。あ、あれ?おっ...人面犬さんじゃないですか!」

「ヨォ!元気かぁ?」

手を、いや前足を上げて微笑むおっさんの顔をしたおっさん犬に、

「親父さん、お久しぶりです!」

心底嬉しそうな店長を見て俺達は久しぶりの再会を喜びあった。
ただ、一人おっさん犬の口に無残にくわえられた髪を振り乱して憎しみ丸出しの西洋人形以外は。

「あたしメリー...今貴方達の目の前にいるの...ねぇ、みて?よだれでベタベタ...髪の毛もボサボサ、体が獣臭い。あたし結構な数人間の所に言って人間を驚かせてきたけどここまで酷い姿になった事はないわよ...小銭入れも臭いし...」

泣きそうなか細い声で呟くメリーさん。

「この嬢ちゃんが公園で一人で困ってたみたいだからよぉ、ちょっとお節介かけちまったのよ」

優しい表情のおっさん犬に、店長もニッコリ微笑む。

「お嬢さんが電話の方だったんですかぃ...また随分と可愛らしい。困ってましたものね、流石親父さんですよ」

「ちょ、ふざっふざけんじゃないわよ!何いい話っぽくしてんのよ!追いかけられて口に瞬時にくわえられて全速力でここに運び込まれたあたしの気持ちになってよね!?どれだけ怖かったと思うのよ!?」

小さい西洋人形のメリーさんはコンビニの床に立ってジタバタ怒り出した。可愛い。

「そ、それとあんた!か、可愛いって、そんな褒めたってあれなんだからね!全然嬉しくなんてないんだからね!丁寧にここまでの道を教えてくれてありがとう...くわえられて運ばれたから全く意味なかったけどね」

髪の毛を振り乱して、よだれだらけの姿だとせっかくの可愛いツンデレセリフもなんだかしまらない。

「あたしメリー...もう帰りたい...」

俺達に背を向けてふらふらの足取りでぽつりと呟くと、

「お嬢ちゃん、気をつけて帰るんだぞ?なんなら俺が送って行ってやるぞ」

良心で言ったおっさん犬に、メリーさんはくるりと振り返り、目を大きく見開いて、

「犬はもうメリーさんに関わるな!!!」

精一杯の力のこもった目力と声で叫ぶと、ふらふらとどこかへ帰って行ってしまった。
道に迷うし、夜道は怖いし、おっさん犬にくわえられるし、メリーさん災難だったな...。

目の前で和気あいあいと話す二人をよそに、メリーさんの残業で疲れ切ったOLのような小さな後ろ姿をみてもうここには二度と彼女から電話がかかってくることはないんだろうなと思った。

プルルルルル....。

「はい」
 
「あたしメリー...あの、病院に帰ろうと思ったんだけどちょっとここがどこかわからなくて、公園に戻ろうとしたんだけど凄い勢いでくわえられてきたから公園に戻る方法がわからなくて...たすけて」


しおりを挟む
感想 64

あなたにおすすめの小説

冷徹団長の「ここにいろ」は、騎士団公認の“抱きしめ命令”です

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー全16話+後日談5話⭐︎ 王都最硬派、規律と責任の塊――騎士団長ヴァルド・アークライトは、夜の見回り中に路地で“落とし物”を拾った。 ……いや、拾ったのは魔物の卵ではなく、道端で寝ていた少女だった。しかも目覚めた彼女は満面の笑みで「落とし物です!拾ってくださってありがとうございます!」と言い張り、団長の屋敷を“保護施設”だと勘違いして、掃除・料理・当番表作りに騎士の悩み相談まで勝手に開始。 追い出せば泣く、士気は落ちる、そして何より――ヴァルド自身の休息が、彼女の存在に依存し始めていく。 無表情のまま「危ないから、ここにいろ」と命令し続ける団長に、周囲はざわつく。「それ、溺愛ですよ」 騎士団内ではついに“団長語翻訳係”まで誕生し、命令が全部“愛の保護”に変換されていく甘々溺愛コメディ!

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】無能と婚約破棄された令嬢、辺境で最強魔導士として覚醒しました

東野あさひ
ファンタジー
無能の烙印、婚約破棄、そして辺境追放――。でもそれ、全部“勘違い”でした。 王国随一の名門貴族令嬢ノクティア・エルヴァーンは、魔力がないと断定され、婚約を破棄されて辺境へと追放された。 だが、誰も知らなかった――彼女が「古代魔術」の適性を持つ唯一の魔導士であることを。 行き着いた先は魔物の脅威に晒されるグランツ砦。 冷徹な司令官カイラスとの出会いをきっかけに、彼女の眠っていた力が次第に目を覚まし始める。 無能令嬢と嘲笑された少女が、辺境で覚醒し、最強へと駆け上がる――! 王都の者たちよ、見ていなさい。今度は私が、あなたたちを見下ろす番です。 これは、“追放令嬢”が辺境から世界を変える、痛快ざまぁ×覚醒ファンタジー。

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

【完結】異世界で魔道具チートでのんびり商売生活

シマセイ
ファンタジー
大学生・誠也は工事現場の穴に落ちて異世界へ。 物体に魔力を付与できるチートスキルを見つけ、 能力を隠しつつ魔道具を作って商業ギルドで商売開始。 のんびりスローライフを目指す毎日が幕を開ける!

白苑後宮の薬膳女官

絹乃
キャラ文芸
白苑(はくえん)後宮には、先代の薬膳女官が侍女に毒を盛ったという疑惑が今も残っていた。先代は瑞雪(ルイシュエ)の叔母である。叔母の濡れ衣を晴らすため、瑞雪は偽名を使い新たな薬膳女官として働いていた。 ある日、幼帝は瑞雪に勅命を下した。「病弱な皇后候補の少女を薬膳で救え」と。瑞雪の相棒となるのは、幼帝の護衛である寡黙な武官、星宇(シンユィ)。だが、元気を取り戻しはじめた少女が毒に倒れる。再び薬膳女官への疑いが向けられる中、瑞雪は星宇の揺るぎない信頼を支えに、後宮に渦巻く陰謀へ踏み込んでいく。 薬膳と毒が導く真相、叔母にかけられた冤罪の影。 静かに心を近づける薬膳女官と武官が紡ぐ、後宮ミステリー。

後宮の手かざし皇后〜盲目のお飾り皇后が持つ波動の力〜

二位関りをん
キャラ文芸
龍の国の若き皇帝・浩明に5大名家の娘である美華が皇后として嫁いできた。しかし美華は病により目が見えなくなっていた。 そんな美華を冷たくあしらう浩明。婚儀の夜、美華の目の前で彼女付きの女官が心臓発作に倒れてしまう。 その時。美華は慌てること無く駆け寄り、女官に手をかざすと女官は元気になる。 どうも美華には不思議な力があるようで…?

天然だと思ったギルド仲間が、実は策士で独占欲強めでした

星乃和花
恋愛
⭐︎完結済ー本編8話+後日談7話⭐︎ ギルドで働くおっとり回復役リィナは、 自分と似た雰囲気の“天然仲間”カイと出会い、ほっとする。 ……が、彼は実は 天然を演じる策士だった!? 「転ばないで」 「可愛いって言うのは僕の役目」 「固定回復役だから。僕の」 優しいのに過保護。 仲間のはずなのに距離が近い。 しかも噂はいつの間にか——「軍師(彼)が恋してる説」に。 鈍感で頑張り屋なリィナと、 策を捨てるほど恋に負けていくカイの、 コメディ強めの甘々ギルド恋愛、開幕! 「遅いままでいい――置いていかないから。」

処理中です...