深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト六十日目 マリーアントワネット出勤

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「私、行くところがないわ」
 
あっけらかんと言うマリーアントワネットに、僕は頰をかきながら目をそらす。
 
「は、はい」

「あなたのお家に住まわせて下さる?大丈夫よ、多少狭くても私、全然平気よ」

「いや俺が全然平気じゃないですから」

年頃の娘をバイト帰りに家に持ち帰ってきたら流石に両親妹達共に怒られる。
何より恋人に申し訳ない。

「さて、どうしたものか」

ガチャリと音がして、店長が休憩室から出てきた。
ピンクドレスのお姫様と向かい合う俺をみて、

「寝ぼけてんのかぁ...」

目をしぱしぱしながら休憩室にくるりと戻って行く店長。

「店長!!!夢じゃないです!!寝ぼけてもないです!ちょっとご相談が!!」

「ん?」

***

「いらっしゃいませ!」

「ようこそいらっしゃい!よく来たわね!」

満遍の笑みで復唱する、いや復唱ができてないよマリーさん。

「違いますよ、マリーさん。いらっしゃいませです。お客様には敬語を使わないといけないんですよ。それだとタメ口です」

「あら?どうして?私がここにある資源を来た人たちに売ってあげるわけでしょう?どうして私の方が下になるの?」

頭を抱えた。
成る程、成る程そんな考え方があるのか。
何か、これは結構手こずりそうだ。

「マリーさん、何となく歴史で習って貴方がどういう生活をしていたかはわかりますけど、ここではそれを全て捨ててください」

「そんな事はできないわ。お父様もお母様も私をこうして立派に育ててくれたもの。この世界に来て、私不安だけれど頑張ろうって思えたのも、私を前向きに育ててくれたお父様とお母様とお陰だと思ってるわ」

胸に手を立てて気品溢れる笑顔で答えるマリーさんに、俺はずっと聞きたかった事を聞いてみることにした。

「あの、一つ聞いてもいいですか」

「えぇ、何かしら」

「マリーさんって今何歳なんですか」

「あら、レディに年齢を聞くなんてふふ、ヒミツよ」

唇に指を当てて悪戯っぽく微笑むマリーさん。この人自分がめちゃくちゃ可愛いって事分かってるなぁ...。

「俺21なんですけど、マリーさんって」

「あら、私の方が三歳年下ね」

あらぁ!とニコニコするマリーさんに、俺より年下っぽいのに大人っぽくて品があるから本当に何歳なのかわからなかったから驚いて声をあげてしまった。

「今18!?」

「えぇ、18よ。私ね、14歳で結婚したの。国の為に」
 
マリーアントワネットって歴史上だと亡くなっているけど、織田信長さんや、ナイチンゲールさんの時と同じく、別の世界にいた歴史上の人物が何かしらの手違いで若い頃のままこっちの世界に来てしまったんだろうか。

「こうして、国から離れて過ごしてみて感じたのは、お城も使用人もいないけれど、とっても自由で楽しいって事よ。お城がなければ作ればいい。使用人がいなければなってもらえばいいもの。パンがなければケーキを食べればいいんだわ」

にっこり微笑んだマリーさんに、俺はこの人ならあのホームレスの皆さんを自分の下につかせ、自分のお城を作る事は簡単なんだろうなと感じた。
できないじゃない。やればいい。
それでも無理なら別の事で代用すればいいだけ。
素直に尊敬するし、改めて彼女は凄い人だと感じた。

深夜のコンビニバイト六十日目。

ピロリロピロリロ。

「ほら、お客様ですよマリーさん」

だから普通に接客もやってくれ。

「ようこそいらっしゃい!」

.....俺は一瞬で店に入ってきたのがお客様ではないと察した。
黒い目出し帽に、黒いパーカー、黒い手袋をした手には、ナイフが握りしめられていた。

「金を出せ!」

「え!?」

「金を出せって言ってんだろ!!早くしろ!!」

ご、ごっご、ごごご強盗!?強盗だこれやばい、待ってどうしよう。あれ、あのナイフ本物かな、でもそんな事考えてる暇はない。店長、いや待て強盗や変な奴が来たらレジの下にある防犯ボタンを。
目が泳ぎ頭もぐるぐる回り、どうしたらいいかわからない。マリーさんを守らなきゃ。店長呼ばなきゃ。

「妙な真似をしたら殺すぞ」

そいつは、レジに向かって猛突進し、

「きゃっ!」

マリーさんの手を掴み自分の所に引き寄せナイフをマリーさんの首元にぎらりと当てた。

「おい、お前こいつを殺されたくなかったらなぁ!女もそうだ。叫び声をあげた途端に殺す。大人しく言う事を聞くんだな。おいレジのテメェ、まず両手の平をレジ台に置け」

俺は、黙って大人しくレジ台に置いた。
コンビニ外で怒りに髪の毛を逆立たせた俺の恋人、綾女さんが鎌を構えてこちらをみている。
俺は目で絶対に来ないでと訴える。綾女さんが危険な目にあうし、何よりマリーさんが人質になっている。寝ている店長を呼びたいが、下手な事をするとマリーさんが危ない。どうしたらいいんだ。

「レジのテメェ、そうしたら次にレジの中に入ってる金をこの袋に詰めろ」

男が放り投げて来た大きくて白い布袋。俺は、言われた通りレジをカシャンと開けた。

「そうだ、全部詰めろあとでチェックするからな」

「ねぇ、どうして?」

マリーさん!!人質になっているマリーさんは、ナイフを突きつけられているのに特に怯えている様子もなく、ただただ疑問を抱えた瞳で、強盗犯を見つめた。

「はぁ?なんだよ殺すぞ」

「ねぇ、どうしてこんな事するの?お金が欲しいなら働けばいいじゃない」

もしかして、マリーさん....そうか!強盗犯を引きつけている間に、防犯用のボタンを押そう。
冷静に考えたら、レジが混んだら押してと言われているレジ下にある休憩室に繋がるボタンを押して店長を呼べばいいんだ。
今俺はレジのキャッシャー前にいる。強盗犯に気がつかれないようにレジ前に移動してボタンを押すんだ。
マリーさんが強盗犯を引き付けてくれている間に。

「.....うるせぇよ。そんな馬鹿らしいことやってられねぇよ」

「どうして?こんな事をしたら貴方、処刑されてしまうわよ。真っ当に働いた方がいいに決まっているわ」

まっすぐ当たり前よ。というように話すマリーさんに俺はびくびくしっぱなしだ。勘弁してくれただでさえ人質の貴方が危険な目に遭わないようにどうしたらいいか考えたり神経使ってるのに自分から殺されに行くような事しないでくれ頼むから!!!そっちに集中してボタンどころじゃない。

「真っ当に働けてたらこんな事してねぇんだよ!!」

強盗犯の叫び声にも似た声にびくりと体を震わせる俺だが、マリーさんは落ち着いていた。

「そんな事ないわ。働けない人なんてこの世界にどこにもいないもの。生きる為には働かなくてはいけないのでしょう?私はそうやって店長さんに教わったわ。だからこうして働いているの。生きる為には働かなくてはいけないのなら働けない人なんているわけがないじゃない。違う?」

彼女に惹きつけられるように俺も、強盗犯も彼女を見る。言葉の力が凄い。今のうちに俺は少しずつ移動を始めた。

「はぁ?説教すんのか?俺は生憎お前みたいな真っ当な人間じゃねえんだよ。もう戻れねぇんだよ」

強盗犯は、思わず吐き出してしまったと言うような様子で、動揺した様子だった。
マリーさんは子供を諭すように優しい声色でマリーさんの首元に当てていたナイフを握る強盗犯の手に、優しく自分の手を重ねた。

「そんな事ないわよ。貴方はまだお金を盗んでないでしょう?大丈夫よやり直せるわ。働く場所がないならここで私と一緒に働けばいいんだわ」

レジ前、ボタンの場所までたどり着いた。すぐさま押すと耳を塞ぎたくなるようなけたたましく警報が鳴り響き、店長が休憩室から飛び出して来た。

「どうした!?」

「きゃっ!なんですかこの大きな音!」

驚いてよろめいたマリーさんは、

「いてっ!何すんだ!」

強盗犯の足を踏み、前の方へおっとっととバランスを崩した。

「ごめんなさい。わざとじゃ、ないのよ」

「マリーさん!早くこっちへ!!」

俺はその隙にマリーさんの手を引いて店長と三人で休憩室前で強盗犯と向かい合う。

俺は一応コンビニの外にいる綾女さんに鎌をしまって!もう大丈夫とアイコンタクトを取り、だらりと体から力が抜けた。

「お前...俺に今まで話してたのはあいつにボタンを押させる為の演技だったって訳かよ。最低だな!くそ女!」

その言葉に、隣にいたマリーさんは心から傷ついている様子だった。

警察が来て、事情聴取されて、俺は心の底から疲弊していたが、更にあの時のマリーさんの顔が頭にフラッシュバックしてきて、強盗犯の件も相まって、心臓がバクバクと鳴り響き、その音がうるさくて、耳を塞いでも警報の音は鳴り止まない。
家に帰ってきてもなかなか寝る事ができなかった。

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