深夜のコンビニバイト始めたけど魔王とか河童とか変な人来すぎて正直続けていける自信がない

ガイア

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深夜のコンビニバイト九十三日目 番外編 綾女さんと俺のクリスマス

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深夜のコンビニバイト九十三日目 

今日は、口裂け女さんとのクリスマスデートの日だ。
いつも俺の事を店の外で見守ってくれる口裂け女さんだが、流石に冬は寒いし風邪をひくといけないからクリスマスデートをする代わりに冬は家にいてくれとお願いした事により今日デートという事になったわけだけれど。

「あら、随分遅かったのね」

「いや、なんで待ち合わせ場所にいるのがナイチンゲールさんなんですか」

白衣の上にコートを羽織ったナイチンゲールさんが、腰に手を当ててカップルの待ち合わせ場所として有名な広場のクリスマスツリーの前で待ち構えていた。

「考えてみて。どうしてあなたの彼女ではなく私がここにいるのかを」

「綾女さんに何かあったんですか!?」

「ついてきて」

やれやれといったような表情で俺に人差し指をちょいちょいとやってついてくるように言ったナイチンゲールさんに、俺は心配の色を隠し切れなかった。

ナイチンゲールさんに連れてこられたのは、病院だった。しかもとんでもなく大きな病院だ。東京ドームで例えられるレベルの。

「いや...病院...予想はしてましたけど」

「私が運営している病院」

運営してる!?凄すぎるよやっぱりこの人!!
コートのポケットに手を突っ込んで、ナイチンゲールさんは、首だけ俺に向きながら、

「彼女の病室は、1225室」

「いや、病室多すぎでしょう。ホテルレベルじゃないですか」

「クリスマスデート..クリスマスデートとぼやいていたから病室も合わせておいた」

「いらない世話ですよ。それより、綾女さんに何があったんですか!?」

「.....会って彼女に聞きなさい」

「ここよ」と言われた病室に飛び込んでいくと、パジャマを着た綾女さんがベッドの上で横になっていた。

「綾女さん!!大丈夫ですか!どうしたんですかよかった.....」

「あっ.....ハル...ごめんなさい...ごめんなさい...」

心底申し訳なさそうに俺の顔を見た途端目に涙を浮かべる綾女さんに、

「いやいや、謝らないでください!それより無事でよかった」

安心して微笑み綾女さんの手をとると、綾女さんは、ポロポロ涙を流しながら、

「まだ私の事愛しているの?」

「いや何言ってるんですか当たり前じゃないですか」

「よかった...よかった....嫌われてしまったかと思った」

「そんな事あるわけないでしょう」

病院にいるという綾女さんをめちゃくちゃ心配した俺は、綾女さんのことがやっぱり好きなんだと再認識こそすれ嫌いになるなんて事は絶対にない。

「私...クリスマスデートが楽しみで、一週間前からあのツリーの前で待ってたの」

「うん、待ってごめん。もう一回お願い」

ナイチンゲールさんが、眉間を抑えて呆れたように俺達を見ていた。

「綾女さん。彼を愛する事は自分を犠牲にする事ではないのですよ。12月とは冬です。冬は寒い雪も降るし、霜だって降るし、水なんて凍るんですよ。そんな中貴方が外でずっと彼を待っていたというのは、愛故に死ぬかもしれなかったんですよ。現にクリスマスにたどり着く前にこうして病院に運ばれてるじゃないですか」

「ごめんなさい」

素直にしゅんとなる綾女さん。いつも俺の事になると攻撃的になる綾女さんが素直に従っているのは前に俺をナイチンゲールさんが助けてくれたのもあるんだろう。

「でも、俺は素直にその楽しみにしてくれていた気持ちが嬉しいですよ。デートなんてまたいつでもいけますから。俺は一緒に過ごせるだけでいいんです」

「ありがとう...ハル」

ナイチンゲールさんは、いつのまにかいなくなってきた。気を使ってくれたのだろう。ほんといついなくなったのかわからないのが凄いな。

「今日は一日一緒に過ごしましょう。俺も病室に泊まりますよ」

「ありがとう、ハル」

二人で微笑み合い手を取り合う。
あぁ、今日のクリスマスは素敵な日になりそうだ。

「ゴートゥーヘールメリークリスマースゴートゥーヘールメリークリスマスゴートゥーヘールメリークリスマースアンハッピィリア充死ねアンハッピー」

ベッドの下から何かが聞こえた。
俺は一瞬固まったが、綾女さんは反応が早かった。ベッドの横に立てかけてある鎌を手に取りすぐさまベッドの下を見て鎌を構えた。

「誰もいない」

振り返ると、真っ赤な帽子に、真っ赤な服を着た男性が立っていた。

「うわぁあああ!!!」

いつの間に!?こんな奴が病室にいたらとっくに気づいてるはずなのに!
綾女さんは俺を庇うように鎌を構え、

「誰」

警戒心むき出しでその全身赤い服を着た男を睨む。いや、俺は見た事がある。
この奇妙な格好の人を。

「サンタでぇーす」

やる気のないゾンビみたいな顔色のサンタを名乗る男。いや、格好はそのまま俺が昔本で見たりテレビや、世間的によく出てる一般的なサンタ。でも顔色やなんかこう、覇気がない。サンタさんってニコニコして子供にプレゼント配るものじゃないのか!?

「はー」

早速ため息をついてベッドに座って肩を落とすサンタ(自称)は、首だけ俺達を振り返り、感情なく言い放つ。

「いいよ?続けて」

「いやいやいやいや!?何言ってるんですか無理ですよ何ですかそもそもあなた!!突然変な歌歌いながらベッドの下から出てきて!」

指をさして叫ぶと、

「はー...いやだってさぁ。ねぇ?サンタさんって大変なんだよ?クリスマスまではクリスマスに子供達にプレゼント配るからその準備でしょう?ずーっと準備。この世界にどんだけ子供がいると思ってんの。ねぇ、それでクリスマスの夜に子供にプレゼント配ってクリスマスだけ休日って。何どんだけブラック企業なの。しかもブラック企業に加えてブラックサンタとか現れ始めたからね。悪い子にはお仕置きをしますっていやいやもうそんなんするんなら僕達を手伝ってくれと。ねぇ、休日をくれと。上司がさぁ、ねぇ。「クリスマスまでに君達には子供達にプレゼントを配ってもらうから、クリスマスには君達には休日をプレゼントするよ!」って言われたけどもうはぁ?って感じ。いや休日をプレゼントってお前どんだけ働かされたと思ってんねん一日てお前...いい加減にしろと」

サンタさんの愚痴は続く。
この人がサンタさんと信じたくないが物凄い真剣に怒りをあらわにしてるし貧乏ゆすりとんでもないし、これが演技だとは俺は思えない。

「いや、他の仲間達はほら仕事のしすぎで馬鹿になってるのか知らないけど「子供達にプレゼントを届けるのが僕達の生きる歓びだ!」とか、「休日は何をしようかな!サーフィンかなぁ?」とか、いや洗脳された奴隷なのかとお前らは。僕は違う。冷めた目であいつらを見ていた。クリスマスに幸せにしてる奴を見ていると腹が立って仕方ない。リア充爆発しろ。もうそれしか言えない。こちとらサンタさんだ。出会いがない。卵から生まれてきたんかってくらいポンポンポンポン沢山いるくせに両親を見た事ないし今まで教室でサンタさんになる為だけの勉強を受けてきたから彼女の作り方とかも知らんし、いいなぁ。何だよ~何だよ~この野郎。いいなぁ~」

う、うぜぇ...ずっと喋り続けるし。
しかも喋ってる事が妙に面白いのがまた腹立つ。

「そう....」

綾女さんは、ぽつりと呟くとサンタさんにぬらりと近づいた。

「同情とかいいんですよ。慰めの言葉とか。ただ僕は話を聞いて欲しかっただけ。なんというか、クリスマスだっていうのに孤独だし働きづめだったから何したらいいかわかんないし過労で倒れて病院に運ばれて労災下りるかなぁとか考えてたら幸せそうな声が聞こえてきたからベッドの下に潜り込んで話を聞いていただけですから本当ナチュラルに鎌向けるのやめてもらえますか」

なんでそこでベッドの下に潜り込んで話を聞こうと思ったのとツッコむ隙も与えず綾女さんは鎌の先をサンタさんに向けていた。

「私とハルとの時間を無駄話で5分以上無駄にしたからよ。死んでいいわ」

「いやいやいや病院で病人出さないようにしてください綾女さん!それと病み上がりなんですから安静に!」

俺が必死に止めて、少しだけ目に光が戻った綾女さんに、

「いいなぁ、こう自分より幸せな人を見て一度でいいから幸せな気持ちになってみたいもんだ」

捻くれたことをいうサンタさん。綾女さんがまた手に力を込める。
だが、ガラリと扉の開く音がして、

「何の騒ぎです」

ナイチンゲールさんが現れた。
ナイチンゲールさんは、白衣のポケットに手を入れ、サンタさんを一瞥。

「過労で倒れていたサンタさんじゃないですか。元気になったようですね」

ふっと天使のような微笑みを浮かべるナイチンゲールさんに、サンタさんは目を見開いて、

「僕を運んでくれたのはもしかして貴方なんですか...?ありがとうございます。あのまま僕はサンタ社に殺される所でした。貴方のおかげでこうして話が出来てるわけですよ。ところでお礼といってはなんですが貴方はこのクリスマスに何か欲しいものはありますか?」

ナイチンゲールさんは、眉一つ動かさず、

「私は何もいりません。平和なこの国で患者さんの為に尽くす事ができる今が一番幸せだからです」

胸に手を当ててにっこり微笑んだ。
サンタさんは、ポケットに手を突っ込んでベッドから重い腰をあげると、

「何だ。何でも欲しがったり欲しいものが尽きなかったり。強欲なのは子供達だけかい。あんたみたいにサンタやれたら、あいつらみたいに前向きにこの仕事に取り組めたらなぁ。僕には他人の幸せなんてトナカイの糞程どうでもいい」

俺達に背中を向けたまま手を振るとサンタさんは、

「はぁ、また来年もよろしくお願いします」

クマの濃い目をナイチンゲールさんに向け、口元に笑みを浮かべるサンタさん。

「来年は来ないで下さい」

サンタさんの皮肉を真面目に切り捨てるナイチンゲールさんに、俺は苦笑いした。

彼女と最初の過ごすクリスマスは、まさかの病院だったわけだけれど、気がついたらお見舞いのフルーツが机の上に置いてあって、綾女さんがめちゃくちゃ警戒してたけど俺はサンタさんからのプレゼントなんじゃないかという事で綾女さんに向いて食べさせてあげた。

サンタさんからのプレゼントがお見舞いのフルーツなんて、なんとも皮肉めいていて苦笑いしたわけだけれど、あの人はいい人なんだと思う。
コンビニにも来店してくれないかななんて思いながら俺はりんごを一口かじった。


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