128 / 223
四章 罪の元凶
百二十七話 聖人の教え
しおりを挟む「聖女にも勝る……凄いな」
「いえいえ、僕は天才などではなく単に努力しただけですよ。聖女様は最初からこの程度出来ますから……」
「ねぇねぇテル君。聖女様は知ってるけど『聖人』って何~?」
「俺もよく知らないな。男性が得ることが出来る称号のようなイメージはあるが……」
「それは僕が説明しましょう。一応聞きますが、まず聖女については知っていますよね?」
『聖女』。それは『法皇』や『大司教』等とは別枠に存在する位における最高権威の者に与えられる称号だ。
その名の通り聖女には女性しかなることは出来ず、そして何よりも『神に愛された者』だけが選ばれるそうだ。
では、神に愛された者とは何か。それはどれだけ『神の力』を扱えるかという話になる。
『神の力』とは光魔術等の『属性魔術』と呼ばれるもの達とは全く違う正に特別な力と言うべき代物らしい。
どれだけ神を信仰し神に愛されているか次第でそれは強くなり、かなり人によって個人差がある力でもある。
神の力は特殊な条件下でないと攻撃に転用することはほぼ不可能らしいが、その代わり回復と浄化に関してはあらゆる力よりも優れていると言われている。
そんな神の力を誰よりも強く使えるものこそが、誰もが憧れる『聖女』であるのだ。
「ああ、勿論だ」
「え~と、凄い回復の力を持つ女の人だよね~?」
「ええ、その認識で大丈夫です。では、『聖人』とはなにか。それは光属性魔術の一定の技量を得た者に与えられる称号です」
アラルド曰く、宗教国である『ミレテスティア神聖教国』ではどういう訳か光属性への適性を持つ者の出生率が全世界で一位らしい。
それを昔の人達は神の導きだと考え、光属性魔術に関してなら最も詳しく学べる『魔術学校』を作ったらしい。
そして、その魔術学校で学んで無事に卒業できた者が『聖人』と呼ばれるようだ。
「だがな、その学校ってやつは卒業するのがかなり難しいらしくてな。卒業どころかほとんどのやつは一年目で辞めちまうらしい。だが、こいつはそんな地獄を耐え切っただけじゃなく、『首席』……つまり誰よりも優れたという称号も得て卒業したらしいぜ。しかも歴代トップの成績で」
「ははは。運が良かったんですよ」
「歴代トップが運ねぇ……」
グランはアルドラの謙遜具合に呆れたような喋り方でそう言うが、表情は何やら楽しそうであった。
「まぁ、話をまとめると。『聖女』は神の力を借りてそれを行使する女性の事を指し、『聖人』は光属性魔術を学んだ者を指すって事です。質問はありますか?」
「はいは~い!聖人って女性もなれるの~?」
「はい、なれますよ。ただ、大抵の女性が聖人ではなく聖女を目指すので、その厳しさも相まって女性が聖人になった例は極小数ですね」
「へ~♪」
なるほど。だから男性がなるイメージがあるのか。
それにしても歴代トップ……。確かにそれほどの実力と実績があるのならこの街を任されてもおかしくはない。
先程見て感じたアルドラの魔力の流れ。確かにあれは『天才』だけでは説明のつかない圧倒的な『努力』により得た技術である事は俺でもわかった。
俺は回復してもらった腕をゆっくりと動かし、動作を確認するように手を閉じたり開いたりを繰り返す。
流石に一週間近く動かしていなかった為、少し違和感が残るがほぼ完璧に治っていた。
「……うん、完璧だ。本当にありがとう。助かった」
「いえいえ、僕が光属性魔術を学んだのは誰かを癒す為でもあります。無事治療が成功して僕も嬉しいです」
アルドラはニコッと慈悲深い笑みを浮かべる。……これが世に言う『イケメン』と言うやつなのか。
「容姿もいい、性格もいい、能力もあって更に家柄も良い。しかも、地位も将来有望ってかほぼ最高の立ち位置にいる。まさに勝ち組って奴だ。神ってやつは一人に二物も三物も与えるらしいな」
「ん?何の話ですか?」
「いや、何でもねーよ。そろそろ本題に入ろうじゃねーか」
グランは嫌味ったらしくそう言うが、アルドラはよくわかってなさそうに首を傾げる。
何となくこの人はわかっている上でとぼけているようにも感じるが、そんな事考えてたら人間不信になりそうなので思考を放棄する。
っていうか、グランもいくつも貰ってそうだがな。
そんな首を傾げたままのアルドラを無視し、グランはそのまま話を続けた。
「お前らがここに来て一番望んでるもの。それは間違いなく例の施設だろ?」
「……ああ、そうだ。両方ともな」
「ほう、やっぱり知ってたか」
「え?両方~?テル君、確かここにあるのは……」
「ああ、ここには罪を帳消し……いや、『たった一日で償う施設』がある。だか、この街がなんて呼ばれてるか思い出してみろ」
「この街?え~と、『罪と試の街』……あっ、『試み』って……」
「ああ、ルバルイト聖教街には王国でここにしかない施設が二つあるんだ」
「では、それについては移動しながら説明しましょう。こちらです」
アルドラはソファから立ち上がり、三つ目の扉に向かいそれを開いた。
俺達もソファから離れてアルドラの後ろをついて行くと、最後が見えないほど長く下へと続く階段が現れる。
ひんやりと冷たい空気と張り詰めていく緊張感にほんの少し体を硬直させながら一つ一つ階段を降り続ける。そんな俺達を見てアルドラは話し始めた。
「では、このルバルイト聖教街にある二つの施設について話しましょう。一つ目は通称『断罪の扉』。文字通り、中に入ったものは神により罪の重さだけの罪を許されるまで受け続けます」
「罰……それってどんな罰なんだ?」
「それは私にも分かりません。罪によって内容は変わりますし、何よりその罰が与えられているのは現実ではなく、『精神世界』なので視認はできないのです」
「「精神世界?」」
ここに来て新たな単語が現れる。その聞きなれない言葉を聞き返すと、アルドラはそう来るとわかっていたようにわかりやすく説明を始める。
「『精神世界』とは、文字通り精神だけの世界です。そこには肉体はなく、精神だけで構築された自分が居ます。そこで起きた現象は現実になんの影響もなく、例え命を落としたとしても現実で死ぬ事はありません」
「なるほど……。要するに、眠った時にみる夢のようなものか?」
「はい。ですが夢よりも圧倒的に鮮明で現実的です。代わりとして、その世界では疲労も痛みもありません。ですので、精神が壊れない限り本当の意味で死ぬことはありません」
「……逆に言えば、精神が壊れてしまえば……」
「はい、現実でまた目覚めることは無いでしょう」
「俺もそうなった奴を一度だけ見たことがあるが……。俺やアルドラが手を尽くしても目を覚ますことは無かったな」
俺とシエに今までとは違う『恐怖』から生まれる緊張感と背筋に冷たい汗を感じる。
精神が壊れてしまえば、もう目を覚ますことは無い。その未知の恐怖はじわじわと俺達を侵食して行った。
実感はまだなんとなくでしか感じないが、それが事実であるという雰囲気を俺達が進む方向と二人の言葉から嫌という程全身で感じとった。
「そしてもう一つの施設。先程言っていました『試み』の施設です。こちらは『試戦の扉』と呼ばれ、『断罪の扉』のように精神世界で行われます」
「『試戦の扉』か……」
「はい。そこでは精神世界で自らが納得いくまで何日、何ヶ月、何年も戦い続けられるという人によっては夢のような世界になっています」
そう、それこそがこの街で最も俺が使いたかった施設だ。
俺が今までの戦いにおいて何よりも足りなかった物。それは『経験』。
それを得て体に染みつけるには何よりも回数と時間が必要。俺にはそれを得る為の機会が全くなかった。
だから、俺は俺自身を最大限に生かせていない。
「ですが、この施設も『断罪の扉』と同じ諸刃の剣です。先程も言った通りこの部屋は自分が納得いくまで出られません。なので、辛いから辞めるということが出来ず、一度掲げた目標を達成できるまで出られないのです」
「つまり、もしテルが俺を目標にしてたならお前の中の俺を超えなきゃならないって訳だ。それまでお前はたった一人でその空間で戦い続けるんだ」
「「……」」
二人は俺達をこの先に進めないようにするような脅迫にも似た説明を続ける。
グランは知らないが、きっとアルドラは何人も帰って来れなかった人達を見ていただろう。そして、その人を大切に思っていた人も。
俺たちの中に長い、とても長い沈黙が訪れる。四つの階段を降りる音だけがこの空間に響き続けた。
長い沈黙の末、俺達はついに目的の場所にたどり着く。
そこに並ぶ二つの大きな扉。そこから漂ってくるここが現実だとは思えない雰囲気。それは本当に人が立ち寄っていい場所なのかと疑うほどだった。
二人はその場を躊躇いなく進み、アルドラは『断罪の扉』を、グランは『試戦の扉』を手で触れる。
「君達」「お前等」
「覚悟は出来ましたか?」「覚悟は出来たか?」
そしてその扉を押し開き、最終決断を俺達に迫るのであった。
♦♦♦♦♦
某龍玉漫画の神殿にあるやつのパクリじゃないです。オマージュです。リスペクトです。勘弁してください……。(泣)
面白い!続きが読みたい!と思ったら是非お気に入り登録をよろしくお願いします!
『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。二千文字程度なので良ければ見てみてください!
0
あなたにおすすめの小説
拾った子犬がケルベロスでした~実は古代魔法の使い手だった少年、本気出すとコワい(?)愛犬と楽しく暮らします~
荒井竜馬@書籍発売中
ファンタジー
旧題: ケルベロスを拾った少年、パーティ追放されたけど実は絶滅した古代魔法の使い手だったので、愛犬と共に成り上がります。
=========================
<<<<第4回次世代ファンタジーカップ参加中>>>>
参加時325位 → 現在5位!
応援よろしくお願いします!(´▽`)
=========================
S級パーティに所属していたソータは、ある日依頼最中に仲間に崖から突き落とされる。
ソータは基礎的な魔法しか使えないことを理由に、仲間に裏切られたのだった。
崖から落とされたソータが死を覚悟したとき、ソータは地獄を追放されたというケルベロスに偶然命を助けられる。
そして、どう見ても可愛らしい子犬しか見えない自称ケルベロスは、ソータの従魔になりたいと言い出すだけでなく、ソータが使っている魔法が古代魔であることに気づく。
今まで自分が規格外の古代魔法でパーティを守っていたことを知ったソータは、古代魔法を扱って冒険者として成長していく。
そして、ソータを崖から突き落とした本当の理由も徐々に判明していくのだった。
それと同時に、ソータを追放したパーティは、本当の力が明るみになっていってしまう。
ソータの支援魔法に頼り切っていたパーティは、C級ダンジョンにも苦戦するのだった……。
他サイトでも掲載しています。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
封印されていたおじさん、500年後の世界で無双する
鶴井こう
ファンタジー
「魔王を押さえつけている今のうちに、俺ごとやれ!」と自ら犠牲になり、自分ごと魔王を封印した英雄ゼノン・ウェンライト。
突然目が覚めたと思ったら五百年後の世界だった。
しかもそこには弱体化して少女になっていた魔王もいた。
魔王を監視しつつ、とりあえず生活の金を稼ごうと、冒険者協会の門を叩くゼノン。
英雄ゼノンこと冒険者トントンは、おじさんだと馬鹿にされても気にせず、時代が変わってもその強さで無双し伝説を次々と作っていく。
どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜
サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。
〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。
だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。
〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。
危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。
『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』
いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。
すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。
これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。
【本編45話にて完結】『追放された荷物持ちの俺を「必要だ」と言ってくれたのは、落ちこぼれヒーラーの彼女だけだった。』
ブヒ太郎
ファンタジー
「お前はもう用済みだ」――荷物持ちとして命懸けで尽くしてきた高ランクパーティから、ゼロスは無能の烙印を押され、なんの手切れ金もなく追放された。彼のスキルは【筋力強化(微)】。誰もが最弱と嘲笑う、あまりにも地味な能力。仲間たちは彼の本当の価値に気づくことなく、その存在をゴミのように切り捨てた。
全てを失い、絶望の淵をさまよう彼に手を差し伸べたのは、一人の不遇なヒーラー、アリシアだった。彼女もまた、治癒の力が弱いと誰からも相手にされず、教会からも冒険者仲間からも居場所を奪われ、孤独に耐えてきた。だからこそ、彼女だけはゼロスの瞳の奥に宿る、静かで、しかし折れない闘志の光を見抜いていたのだ。
「私と、パーティを組んでくれませんか?」
これは、社会の評価軸から外れた二人が出会い、互いの傷を癒しながらどん底から這い上がり、やがて世界を驚かせる伝説となるまでの物語。見捨てられた最強の荷物持ちによる、静かで、しかし痛快な逆襲劇が今、幕を開ける!
断罪まであと10分、私は処刑台の上で「ライブ配信」を開始した〜前世インフルエンサーの悪役令嬢、支持率100%でクズ王子を逆処刑する〜
深渡 ケイ
ファンタジー
断罪まで、あと10分。
処刑台の上で跪く悪役令嬢スカーレットは、笑っていた。
なぜなら彼女は――
前世で“トップインフルエンサー”だったから。
処刑の瞬間、彼女が起動したのは禁忌の精霊石。
空に展開された巨大モニターが、全世界同時ライブ配信を開始する。
タイトルは――
『断罪なう』。
王子の不貞、聖女の偽善、王家の腐敗。
すべてを“証拠付き・リアルタイム”で暴露する配信に、
国民の「いいね(=精霊力)」が集まり始める。
そして宣言される、前代未聞のルール。
支持率が上がるほど、処刑は不可能になる。
処刑台は舞台へ。
断罪はエンタメへ。
悪役令嬢は、世界をひっくり返す配信者となった。
これは、
処刑されるはずだった悪役令嬢が、
“ライブ配信”で王子と王国を公開処刑する物語。
支持率100%の先に待つのは、復讐か、革命か、
それとも――自由か。
防御力を下げる魔法しか使えなかった俺は勇者パーティから追放されたけど俺の魔法に強制脱衣の追加効果が発現したので世界中で畏怖の対象になりました
かにくくり
ファンタジー
魔法使いクサナギは国王の命により勇者パーティの一員として魔獣討伐の任務を続けていた。
しかし相手の防御力を下げる魔法しか使う事ができないクサナギは仲間達からお荷物扱いをされてパーティから追放されてしまう。
しかし勇者達は今までクサナギの魔法で魔物の防御力が下がっていたおかげで楽に戦えていたという事実に全く気付いていなかった。
勇者パーティが没落していく中、クサナギは追放された地で彼の本当の力を知る新たな仲間を加えて一大勢力を築いていく。
そして防御力を下げるだけだったクサナギの魔法はいつしか次のステップに進化していた。
相手の身に着けている物を強制的に剥ぎ取るという究極の魔法を習得したクサナギの前に立ち向かえる者は誰ひとりいなかった。
※小説家になろうにも掲載しています。
スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~
深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】
異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる