紋章斬りの刀伐者〜無能と蔑まれ死の淵に追い詰められてから始まる修行旅〜

覇翔 楼技斗

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四章 罪の元凶

百二十七話 聖人の教え

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「聖女にも勝る……凄いな」
「いえいえ、僕は天才などではなく単に努力しただけですよ。聖女様は最初からこの程度出来ますから……」
「ねぇねぇテル君。聖女様は知ってるけど『聖人』って何~?」
「俺もよく知らないな。男性が得ることが出来る称号のようなイメージはあるが……」
「それは僕が説明しましょう。一応聞きますが、まず聖女については知っていますよね?」

『聖女』。それは『法皇』や『大司教』等とは別枠に存在する位における最高権威の者に与えられる称号だ。

 その名の通り聖女には女性しかなることは出来ず、そして何よりも『神に愛された者』だけが選ばれるそうだ。
 では、神に愛された者とは何か。それはどれだけ『神の力』を扱えるかという話になる。

『神の力』とは光魔術等の『属性魔術』と呼ばれるもの達とは全く違う正に特別な力と言うべき代物らしい。
 どれだけ神を信仰し神に愛されているか次第でそれは強くなり、かなり人によって個人差がある力でもある。

 神の力は特殊な条件下でないと攻撃に転用することはほぼ不可能らしいが、その代わり回復と浄化に関してはあらゆる力よりも優れていると言われている。

 そんな神の力を誰よりも強く使えるものこそが、誰もが憧れる『聖女』であるのだ。

「ああ、勿論だ」
「え~と、凄い回復の力を持つ女の人だよね~?」
「ええ、その認識で大丈夫です。では、『聖人』とはなにか。それは光属性魔術の一定の技量を得た者に与えられる称号です」

 アラルド曰く、宗教国である『ミレテスティア神聖教国』ではどういう訳か光属性への適性を持つ者の出生率が全世界で一位らしい。
 それを昔の人達は神の導きだと考え、光属性魔術に関してなら最も詳しく学べる『魔術学校』を作ったらしい。

 そして、その魔術学校で学んで無事に卒業できた者が『聖人』と呼ばれるようだ。

「だがな、その学校ってやつは卒業するのがかなり難しいらしくてな。卒業どころかほとんどのやつは一年目で辞めちまうらしい。だが、こいつはそんな地獄を耐え切っただけじゃなく、『首席』……つまり誰よりも優れたという称号も得て卒業したらしいぜ。しかも歴代トップの成績で」
「ははは。運が良かったんですよ」
「歴代トップが運ねぇ……」

 グランはアルドラの謙遜具合に呆れたような喋り方でそう言うが、表情は何やら楽しそうであった。

「まぁ、話をまとめると。『聖女』は神の力を借りてそれを行使する女性の事を指し、『聖人』は光属性魔術を学んだ者を指すって事です。質問はありますか?」
「はいは~い!聖人って女性もなれるの~?」
「はい、なれますよ。ただ、大抵の女性が聖人ではなく聖女を目指すので、その厳しさも相まって女性が聖人になった例は極小数ですね」
「へ~♪」
 
 なるほど。だから男性がなるイメージがあるのか。
 それにしても歴代トップ……。確かにそれほどの実力と実績があるのならこの街を任されてもおかしくはない。

 先程見て感じたアルドラの魔力の流れ。確かにあれは『天才』だけでは説明のつかない圧倒的な『努力』により得た技術である事は俺でもわかった。

 俺は回復してもらった腕をゆっくりと動かし、動作を確認するように手を閉じたり開いたりを繰り返す。
 流石に一週間近く動かしていなかった為、少し違和感が残るがほぼ完璧に治っていた。

「……うん、完璧だ。本当にありがとう。助かった」
「いえいえ、僕が光属性魔術を学んだのは誰かを癒す為でもあります。無事治療が成功して僕も嬉しいです」

 アルドラはニコッと慈悲深い笑みを浮かべる。……これが世に言う『イケメン』と言うやつなのか。

「容姿もいい、性格もいい、能力もあって更に家柄も良い。しかも、地位も将来有望ってかほぼ最高の立ち位置にいる。まさに勝ち組って奴だ。神ってやつは一人に二物も三物も与えるらしいな」
「ん?何の話ですか?」
「いや、何でもねーよ。そろそろ本題に入ろうじゃねーか」

 グランは嫌味ったらしくそう言うが、アルドラはよくわかってなさそうに首を傾げる。
 何となくこの人はわかっている上でとぼけているようにも感じるが、そんな事考えてたら人間不信になりそうなので思考を放棄する。
 っていうか、グランもいくつも貰ってそうだがな。
 
 そんな首を傾げたままのアルドラを無視し、グランはそのまま話を続けた。

「お前らがここに来て一番望んでるもの。それは間違いなく例の施設だろ?」
「……ああ、そうだ。な」
「ほう、やっぱり知ってたか」
「え?両方~?テル君、確かここにあるのは……」
「ああ、ここには罪を帳消し……いや、『たった一日で償う施設』がある。だか、この街がなんて呼ばれてるか思い出してみろ」
「この街?え~と、『罪とこころの街』……あっ、『試み』って……」
「ああ、ルバルイト聖教街には王国でここにしかない施設が二つあるんだ」
「では、それについては移動しながら説明しましょう。こちらです」

 アルドラはソファから立ち上がり、三つ目の扉に向かいそれを開いた。
 俺達もソファから離れてアルドラの後ろをついて行くと、最後が見えないほど長く下へと続く階段が現れる。

 ひんやりと冷たい空気と張り詰めていく緊張感にほんの少し体を硬直させながら一つ一つ階段を降り続ける。そんな俺達を見てアルドラは話し始めた。

「では、このルバルイト聖教街にある二つの施設について話しましょう。一つ目は通称『断罪の扉』。文字通り、中に入ったものは神により罪の重さだけの罪を許されるまで受け続けます」
「罰……それってどんな罰なんだ?」
「それは私にも分かりません。罪によって内容は変わりますし、何よりその罰が与えられているのは現実ではなく、『精神世界』なので視認はできないのです」
「「精神世界?」」
 
 ここに来て新たな単語が現れる。その聞きなれない言葉を聞き返すと、アルドラはそう来るとわかっていたようにわかりやすく説明を始める。

「『精神世界』とは、文字通り精神だけの世界です。そこには肉体はなく、精神だけで構築された自分が居ます。そこで起きた現象は現実になんの影響もなく、例え命を落としたとしても現実で死ぬ事はありません」
「なるほど……。要するに、眠った時にみる夢のようなものか?」
「はい。ですが夢よりも圧倒的に鮮明で現実的です。代わりとして、その世界では疲労も痛みもありません。ですので、精神が壊れない限り本当の意味で死ぬことはありません」
「……逆に言えば、精神が壊れてしまえば……」
「はい、現実でまた目覚めることは無いでしょう」
「俺もそうなった奴を一度だけ見たことがあるが……。俺やアルドラが手を尽くしても目を覚ますことは無かったな」
 

 俺とシエに今までとは違う『恐怖』から生まれる緊張感と背筋に冷たい汗を感じる。
 精神が壊れてしまえば、もう目を覚ますことは無い。その未知の恐怖はじわじわと俺達を侵食して行った。
 
 実感はまだなんとなくでしか感じないが、それが事実であるという雰囲気を俺達が進む方向と二人の言葉から嫌という程全身で感じとった。

「そしてもう一つの施設。先程言っていました『試み』の施設です。こちらは『試戦しせんの扉』と呼ばれ、『断罪の扉』のように精神世界で行われます」
「『試戦の扉』か……」
「はい。そこでは精神世界で自らが納得いくまで何日、何ヶ月、何年も戦い続けられるという人によっては夢のような世界になっています」

 そう、それこそがこの街で最も俺が使いたかった施設だ。
 
 俺が今までの戦いにおいて何よりも足りなかった物。それは『経験』。
 それを得て体に染みつけるには何よりも回数と時間が必要。俺にはそれを得る為の機会が全くなかった。

 だから、俺は俺自身を最大限に生かせていない。

「ですが、この施設も『断罪の扉』と同じ諸刃の剣です。先程も言った通りこの部屋は自分が納得いくまで出られません。なので、辛いから辞めるということが出来ず、一度掲げた目標を達成できるまで出られないのです」
「つまり、もしテルが俺を目標にしてたならお前の中の俺を超えなきゃならないって訳だ。それまでお前はたった一人でその空間で戦い続けるんだ」
「「……」」

 二人は俺達をこの先に進めないようにするような脅迫にも似た説明を続ける。
 グランは知らないが、きっとアルドラは何人も帰って来れなかった人達を見ていただろう。そして、その人を大切に思っていた人も。

 俺たちの中に長い、とても長い沈黙が訪れる。四つの階段を降りる音だけがこの空間に響き続けた。

 長い沈黙の末、俺達はついに目的の場所にたどり着く。

 そこに並ぶ二つの大きな扉。そこから漂ってくるここが現実だとは思えない雰囲気。それは本当に人が立ち寄っていい場所なのかと疑うほどだった。

 二人はその場を躊躇いなく進み、アルドラは『断罪の扉』を、グランは『試戦の扉』を手で触れる。
 
「君達」「お前等」
「覚悟は出来ましたか?」「覚悟は出来たか?」

 そしてその扉を押し開き、最終決断を俺達に迫るのであった。
 
 
 ♦♦♦♦♦

 某龍玉漫画の神殿にあるやつのパクリじゃないです。オマージュです。リスペクトです。勘弁してください……。(泣)

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『【短編】殺戮に嫌気が刺した死神様は、純白少女に契約を持ち掛けられる』という作品も投稿してみました。二千文字程度なので良ければ見てみてください!

 
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