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たまには喫茶店でもいかがです?

17 ブラウニー・ビー

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どうも、沖田かなです。
気づけばもう11月も終わり。
イノさんと出会ってからもう3カ月が経っていました。
恋人には楽しい、受験生には厳しい12月がやってきます。

桜乃森大学への受験を決めてから、特に勉強に熱が入るようになりました。
成績はもともと悪くないので、受験に対しての心配はありません。
1月のセンター試験もきっと大丈夫なはずです。

「ふぅ…」

朝の勉強を終え、私はでかける準備をします。
今でも毎週土日は研究室のお手伝いです。
着なれない冬服に着替え、スニーカーの靴ひもを結びます。

「かな、行ってらっしゃい」

「うんママ。行ってきます」

ママは、少し前に退院することができました。
だいぶよくなったと思います。

ママはおそらくイノさんから私の能力について聞いてます。
けど、特に何も言いません。
言いたいことはたくさんあると思います。
けど、私の言いたくないことを無理には聞きません。

「あ…かな待って」

「…ん?」

「今年の年越し、予定あるの?」

「ううん。どうして?」

「私の体調も良くなったし、今年はお婆ちゃんの家で年越ししない?受験で忙しい?」

「そんなことないけど…お婆ちゃんの家…」

毎年、年越しは家族3人で過ごしてました。
私とママと…パパの3人。

「最近勉強ばかりで疲れてるでしょ?少しは羽のばさなきゃ」

「…うん」

「今年は…パパもいないしね。」

悲しい顔なんてしちゃダメだ。
私は、強くなるって決めたんだ。

「楽しみだね!行ってきます!」






「おはようございます」

研究室につくと、麻衣さんが誰かと電話してました。
多分男の人です。

「どうしてケンタ!クリスマス一緒に過ごそうって言ったのに!」

また違う人の名前です。
さすが麻衣さん。

麻衣さんの電話に少し呆れていると、イノさんが私に声をかけます。

「おはよう、かなちゃん」

私より早いなんて珍しいな。

「おはようございます。また大学生ですか?」

「いや、今回はサラリーマンだって。あの調子じゃ今年もクリスマス一人だね麻衣さん。」

12月…
そっかクリスマス。
受験とか年越しとかで何も考えてなかった…

女子高生としてクリスマスを忘れてるなんて…
自分の女子力の低さにあきれます。

「イノさんは…」

「…ん?」

「あ…いえ」

イノさんは…誰と過ごすんだろう。
クリスマス。

「かなちゃんは誰とクリスマス過ごすの?」

「私は…多分…ママ…とです」

「ふうん。そっか」

「…はい」

「…」

あ、会話がおわっちゃう…

「かなちゃんッ!うわあああああん!」

「う”ッ!」

麻衣さんが私の身体へ抱きついてきました。
どうやら振られちゃったみたい。
私は頭をなでてあげます。
よしよし…

「ケンタ…ひっく…同じ会社の…若い子と過ごすんだって!私なんかよりいいんだって!」

私に甘える麻衣さんは割と可愛いです。
このやりとりに慣れてきている私がいます。
麻衣さんを慰めるのも私の仕事のひとつみたいになってます。
研究室での私の仕事といえば、ロストマンの資料をまとめることとこれくらいです。

「よしよし…きっとクリスマスまでにはいい人見つかりますよ。麻衣さん綺麗ですし」

「うぇぇぇん!もうかなちゃんが私と付き合って!優しくして!」

「はいはい…」

私は麻衣さんの頭をなでながら、今日まとめる資料を開きます。
だいたい5分くらいなでてあげると麻衣さんは復活します。
…しかし今回は…

「麻衣さん、かなちゃんに頼みたい仕事があるんだろ?」

「あ、そうだ!」

イノさんの言葉で、何事もなかったかのように麻衣さんは復活しました。
麻衣さんはひょいっと立ちあがり、自分のデスクの書類を手に取ります。

「今日はね、かなちゃんにお願いしたい仕事があるのよ。」

「…依頼…ですか…?」

「ううん。とあるロストマンの所に行ってきてほしいの。」

久しぶりのフィールドワーク(外仕事)だ。
でも私一人…?

「イノさんは行かないんですか?」

「俺もやることがあるんだ。」

「…」

そっか…

「知り合いなんだけどね。能力を使って商売してる人がいるのよ」

「…商売?」

「そう。遠藤さんって人なんだけど、渡してきてほしいものがあるの。はい、これ住所。」

そう言って麻衣さんは私に住所の書かれた紙を手渡します。

「かなちゃんのことは伝えてあるわ。お金は渡すから電車で向かってくれる?」

…?
住所の紙だけ?
渡してきてほしい物は?

「えっと…何を渡せばいいんでしょう?」

「それは行ってみればわかるわ。お願いね。」

????

「じゃあ…とりあえず行ってきます。」

こうして私は初めての一人仕事を与えられました。
すぐに準備を済ませて、私は遠藤さんのもとへ向かいます。
任務は「渡す」ことなのに…手ぶらのままで。





ガチャリ…


「…かなちゃん、道わかるかな」

「大丈夫よ。あの子しっかりしてるしね」

「…麻衣さん。」

「…ん?」

「かなちゃんをあんな感じで追い出さなくたっていいのに…」

「…そうでもしなきゃ、かなちゃんを危険な目にあわせることになるでしょ」

「放任主義の麻衣さんが心配するなんて…今回の依頼、そんなにヤバいんですか?」

「…カンだけどね。嫌な予感がするのよ」

「麻衣さんのカン当たるからなぁ…」

「そろそろ依頼者が来るころよ。イノもすぐ出られるようにしときなさいね。」

「…はいはい」

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