たまには異能力ファンタジーでもいかがです?

大野原幸雄

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たまにはオモチャでもいかがです?

54 チャイルド・プレイ、そしてジュラシック・パーク④

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ショコラ・ベルスタインは混乱している。
突然自分の視力が奪われたからである。

しかしショコラはすぐに状況の把握につとめた。


「…」


視力を奪われる前、一瞬長くて赤い髪の何者かが目の前に現れた。
しかしそいつが男か女かもわからない。




「うわああああああああ!?ショコラ様ッ!?ショコラ様ッ!?」



ナヴァロの声。
すぐそこにいる。
おそらく同じ能力によって視力を奪われている。


ショコラは状況を素早く整理していく。


男女の声が聞こえた…敵は2人以上、複数。
会話を聞く限りイノはホワイト・ワーカーのもとへ向かったようだ。
敵は視力を奪う能力を保有している。



「集まりなッ!」



ショコラは店内に散らばっているオモチャを呼び戻す。




「飛べる奴は私の周りを旋回しなッ!」



ブロロロ…



ラジコンヘリ数機が自分の周囲を旋回する音が聞こえる。
こうする事で敵が近付いてくればすぐにわかる。


「…」



ショコラの今やるべきことは、逃げられたイノを追う事ではない。
できるだけ素早く、視力を奪ったロストマンを殺すことが先決だ。

当然視界を奪っただけで終わりじゃない。
このあと何かしらの攻撃がやってくる。


‐即座にそれに反応し、反撃しなければ‐


視界を奪われたショコラにできることは少ない。
標的が見えなければオモチャで攻撃を仕掛けることもできない。




「ショコラ、お前を殺す…」




直ぐ近くで、ショコラの知らない男の声が聞こえる。
その瞬間…




ガシッ!



ショコラの足が強く握りしめられた。





「オモチャどもッ!私の足を掴んでる奴を殺しなぁッ!」





バババッ!




「はぁ…はぁ…。ハッ!」




すると突然ショコラ・ベルスタインの目に光が戻った。
ショコラはすぐに足元を確認する…すると…



「…!?」



足元には、オモチャ達によって首や眼球をメッタ刺しにされ、血を噴き出している男がいた。
それは…



「ナヴァロ…」



ナヴァロであった。
暗闇で足を握ったのは、ナヴァロであった。
もう息をしていない…ショコラはナヴァロを殺したのだ。




「…!」




するとショコラの視界に金髪の女が飛び込んでくる。
ピース・エイジアである。

ピースは鉄の棒のようなものを持っており、それを今まさにショコラに振りおろそうとしているところだった。



「くッ!」



バッ!



ショコラは間一髪で鉄の棒を手の平で受け止めた。
しかし…



「『Iron cage times, back one hour』…」



ピース・エイジアがそういうと、受け止めた鉄の棒の形がみるみる伸びて変化し、気付けばショコラを閉じ込める一人用の檻になっていた。




ガシャン…




突然現れた鉄の檻、それに閉じ込められている自分…
自分が殺した部下ナヴァロが目の前で横たわっている。

そのあまりにもめまぐるしい状況の変化に、ショコラの思考は完全に置いていかれていた。




「『人形回し』ショコラ・ベルスタインだな…?」




ショコラの目の前に、男が現れた。
おそらく…男である。


ショコラには目の前に現れた男が「男」であるかどうかがわからなかった。


なぜなら髪は虹色で流動的に変化しており、なぜか顔のあたりにモヤがかかったようにひん曲がっている。
そして気づけば金髪の女(ピース・エイジア)もショコラの前から姿を消していた。




「だ…だれだ?…ロストマン・ハンターか…」

「そうだ…CIAからの情報どおりだな…あまりにも壊れたオモチャは操作できねぇらしい」




ショコラが周囲を見渡すと、たくさんのオモチャが壊されて、残骸があちこちに落ちていた。
残った少数のドール人形はまだナヴァロを叩いたりしている。




「今からお前にいくつかの質問をする…が、その前に警告しておきたいことがある…」

「だまれッ!オモチャどもッ!目の前のこの男を殺しなッ!」



ショコラは聞く耳を持たず、直ぐに次の行動に移ったが…



「…な…なんだ?」



なぜかオモチャ達はその場で制止して動かない。




「どういうことだッ!私の命令が聞けないのかいッ!?」

「やめておけ…お前のオモチャには俺が見えない…」

「は…?」

「正確には、お前が今見ている俺の姿に細工をしている。お前が今見ている俺の姿は、お前にしか見えていないんだ。」

「…」

「お前が見ている俺の姿が正しくなければ、オモチャたちは俺を正確に判断できない…」



ショコラには、男の言葉の意味がわからなかった。
しかし次の瞬間、ショコラは男の言葉の意味を少しだけ理解する。

虹色の髪の男の輪郭がぐわんっと消えて、明るくて黄色い『何か』に変化したのだ。

ショコラ・ベルスタインはここで、まだ自分がこの男の能力の影響下にいることを把握する。
私の視界は、まだこの男によって正常に戻っていないと。




「負けたんだね…私たちは…」

「そうだ…」




ショコラは目の前で起きている現象が何一つわからなかった。
しかし檻に閉じ込められている現状…数の少なくなったオモチャ、それらを考え自分の負けを認めたのだ。




「いったい…どんな能力なんだい…」

「悪いがお前からの質問は一切受け付けない…お前はただ俺からの質問に答えるだけだ…」

「…」




実はショコラに見えていないだけで、ピース・エイジアも彼女の目の前にいた。
しかし、ショコラにはピース・エイジアのことは見えない。



ラブの能力は、範囲を指定するとその中の『光の向き』を自在に操ることができる能力である。



一切の光を入れなければ、視界は真っ暗になる。
光を複雑に屈折させれば、偶像をつくりだすこともできる。
光を規則的に反射させることで鏡にもなる。



『光の向き』を自由に操作するというのは、それすなわち相手の視界に入るもの全てを自在に操ると同義なのである。
彼の能力の影響下にいる時点で、『目』から入ってくる情報で正しいものなど一つも無い。




ショコラ・ベルスタインの見るもの全てが『嘘』なのである。




ラブの能力は決して万能ではないが、ショコラに負けを認めさせるのには十分だった。








■No16.ショコラ・ベルスタイン 
能力名:チャイルド・プレイ(命名:ショコラ・ベルスタイン 執筆:失慰イノ)
種別:観察系 指定効果型
失ったモノ:宝物
オモチャを操作する事が出来る。
操作出来る数やオモチャの形にもほとんど制限は無い、ラジコンヘリなども可能。
なお、操作中の人形・フィギュアから離れた装飾品(BB弾など)は本体から離れた時点で能力の対象から外れるため操作できない。
(能力者本人から距離が離れるほど動作が荒くなり、本人から1キロ以上離れると停止する。また、ある程度破損したものは操作できない。)


■No17.ジョン・ジュ・ナヴァロ
能力名:ジュラシック・パーク(命名:ショコラ・ベルスタイン 執筆:失慰イノ)
種別:観察系 指定効果型
失ったモノ:姉
対象者に触れながら能力名とサイズを言うと、対象者は元の身長からそのサイズに変わる。
確認できているのは「1/2(ハーフ)スケール」「1/48(ディスプレイ)スケール」「1/72(ウォーバート)スケール」の3種類。
これらのサイズは市販されている縮尺模型プラモデルの一般的な規格であり、ジョン・ジュ・ナヴァロの能力発現に縮尺模型がなんらかの影響をもたらしたのは間違いないだろう。
(対象となる人物の正確な身長を知る必要があり、効果は24時間継続する。24時間以内にもう一度効果を発動すると、効果を更新する事ができるがその際ひとつ前と同じサイズは指定できない。)


■No18.ラブ・エイジア
能力名:デッドマンズ・ギャラクシー・デイズ(命名:ラブ・エイジア 執筆:失慰イノ)
種別:概念操作系 指定効果型
失ったモノ:仲間
半径10mの効果範囲を指定し、その中の「光の向き」を自由に操ることができる。
その用途は多岐にわたり、ラブは主に使用する方法に元カノの名前をつけている。

・ブラック・シンディー
効果範囲内の光を一切遮断することで、真っ暗な空間を作る。
その空間は外からの光も一切入らないため、外から見ると真っ黒な球体に見える。

・ホワイト・ルーシー
効果範囲内の光の向きを外に反発させ、目くらましにつかう。
閃光弾のように一瞬だけ光らせるのではなく、断続的に光を放ち続ける。
球体の中にいる人は逆に光がまったく入ってこないため、暗闇である。

・ゴールド・シャロン
光の向きを複雑に屈折させ、蜃気楼をおこす。
蜃気楼は通常、異なる大気の層を複数必要とするが、それらを完全に無視することができる。
通常の蜃気楼とくらべ、偶像はハッキリ視認できるため見破るのは非常に困難である。

・シルバー・ケリー
光りの反射を規則的にすることで球体の鏡のようなものを作る。
効果範囲内であればどんな大きさ、形のものも作れる。
主に新しい服を買った時に使う。便利。


効果それぞれに名前をつける事で、能力名を特定されにくくしている。
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