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たまには決戦でもいかがです?

58 ゴッド・ファーザー⑦

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そこにいるのは、黒の使途の中でもそれなりに権力を持った男だ。


矢代新、
スヴェンソン・ドハーティ、
レオナルド・リッジオ、
ノートン・ハッピー・ルチアーノ、
ショコラ・ベルスタイン、
ジョン・ジュ・ナヴァロ


これらの強敵を従えて日本に乗り込んできた、俺にとってはラスボスみたいな男。




「クリングホッファーッ!いま、俺を操ったな!?自分のしたことがわかっているのかッ!?」




しかし、うろたえた様はその威厳を完全に失っていた。
俺から奪った能力を失い、自分の能力さえ失った男。
すでにロストマンでもなくなった、ただ一人の男だった。




「うるさいッ!僕も殺すつもりだったんだろッ!?そこを動くんじゃないッ!ピストルも捨てろッ!」




クリングホッファー少年がそう言うと、バルバロザン・コルレオーネの身体が光る…
バルバロザンは顔をゆがめてはいるが、それが身体に反映されることは無く、ピストルを床に落とし、硬直した身体を必死に動かそうとしている。




「クリングホッファー!?能力を解けッ!」




バルバロザンは少年の操り人形となった。





「僕は、こいつに兄妹を殺されたんだ!僕が殺してやる!僕が殺してやる!」

「ダメっ!けほっけほっ!」




バルバロザンの名前が書かれた契約書を少年は握りしめる。
突然の逆転劇に興奮したクリングホッファーは、ここぞとばかりに感情をあらわにした。
それをかなちゃんは必死に止めていた。




「離してよっ!僕は、あいつを殺さなきゃいけないんだっ!」

「そんなことしちゃダメっ!けほっけほっ!そうしたら、あなたもあの人と同じ殺人鬼になっちゃうんだよ!」



少年の言葉は英語だった。
けれど、かなちゃんは彼の言葉をちゃんと理解していた。
そして必至に、言葉の伝わらない彼に伝えようとしている。

俺は、ボロボロになった身体を起こして、暴れる少年のもとにいった。




「なんだよっ!!」

「クリングホッファーくんだっけ?」

「…そうだ!離せ!」

「君の手を汚す必要はない…」



俺は少年の握りこぶしを優しく握った。
彼に視線を合わせるために、少ししゃがむ。



「君があいつに何をされたのかはわからない…けど、君はあの男とは違うだろ?」

「…」

「君があの男を殺したら、君を守るものは何もなくなってしまう…奴を殺して、罪を増やしたら、また何かを失ってしまう」

「…ッ!」




俺は、ゆっくり立ちあがった。
たくさんの想いを乗せて、あいつに一発くれてやるために…




「くそっ!くそぉッ!」




バルバロザン・コルレオーネは、動けないままで俺を睨みつけた。
俺は、バルバロザンの目の前に歩く…




「バルバロザン…」

「…イノォ…ッ!」




バルバロザンの目は血走っている。




「イノッ!お前も…色々なところでロストマンというだけで差別を受けて来たはずだッ!差別を受けたロストマンをたくさん見て来たハズだぞッ!」

「…」

「我々は能力を持っていない一般人よりも、はるかに優秀な人間なのだッ!進化した人類だッ!なのにッ!なのにッ!」




バルバロザンの口から出たのは、一般人を馬鹿にするような言葉。
差別するような言葉。




「バルバロザン…今、あんたが口にしてる言葉と、あんたが一般人から受けた言葉と何が違うんだ?」

「なに…!?」

「本当に差別や迫害を無くしたいのなら…俺たちから、一般人に歩み寄らなくちゃいけないんじゃないのか?」

「…なぜッ!?なぜわからないッ!イノォッ!」

「あんたがやっていることは…啓蒙運動でもなんでもない…ただの復讐だ」

「…!?」

「俺はアンタに説教できるほど優秀な人間じゃないし、アンタを殺したりする権利なんてない」

「…ふぅッ!ふッ」

「だけど、色んなもんを差し引いてもな…」





俺と黒の使途との、日本での戦いが幕を閉じる。





「渾身の一発であんたをぶん殴るくらいは…残ってる…」

「くそおあああああああああああああああああああああッッ!!!!!」





ゴッ!










少年は、ずっと気を失ったバルバロザン・コルレオーネを見ていた。
バルバロザンとこの子にどんなことがあったのかは知らないが、この子の想いも乗せて殴ったつもりだ。


バルバロザンと出会ってからの数カ月…
黒の使途との攻防…
これで、全部が終わった。



「イノさん…」

「かなちゃん…これで終わりだ」




数分後、ラブとピースが入ってきた。
ピースの能力でかなちゃんのカビもどうにか取り除いた。




「見てくださいイノさん…ピースさんの能力、すごいですね…」

「うん…」




今回の件を通して…
俺は色んなことを考えさせられた。



『何が正義で、何が悪か…』



自分の気持ちに気づいたこともあった。
いや、気づいていたのに気づかないふりをしていたんだと思う。

色んな場所を、空白にしたまま俺はここに立っているということ。




「帰りましょう…イノさん」

「あぁ…」




全てに答えをつけなきゃいけない時が…
近づいている気がしたんだ。








■No19.バルバロザン・コルレオーネ(ホワイト・ワーカー)
能力名:ゴッド・ファーザー(命名:バルバロザン・コルレオーネ 執筆:失慰イノ)
種別:観察系 指定効果型
失ったモノ:家族
ロストマンであり、なおかつ能力者本人に触れながらバルバロザンの名を呼んだ者が対象者となる。
対象者の能力と『ゴッド・ファーザー』を入れ替えることができる。
『ゴッド・ファーザー』による能力交換は同時に1回しかできない。よって、能力を入れ替えられたロストマンが『ゴッド・ファーザー』を使って再度自分の能力と入れ替えようとしても(すでに『ゴッド・ファーザー』が発動中のため)不可能である。
(『ゴッド・ファーザー』を解除するにはホワイト・ワーカーと対象となったロストマンのどちらかが死ぬか、『ゴッド・ファーザー』を所有している人物が「I'm gonna make him an offer he can't refuse(奴が決して断れない申し出をするさ)」と唱える必要がある。
しかし能力を入れ替えられたロストマンがそれを知るはずもなく、能力を交換させられたロストマンが解除することは困難である。)

■No20.トム・クリングホッファー
能力名:クロックワーク・オレンジ(命名:トム・クリングホッファー 執筆:失慰イノ)
種別:観察系 指定効果型
失ったモノ:兄と妹
「同意書」に自分の名前を記入した人間を意のままに操る事が出来る。「同意書」となる紙はどんなものでも問題無い。
人数や人種などの制限は一切なく、条件を満たせれば人間以外の動物でも可能。
対象者に命令する際は「同意書」を手に持っていなければならず、直接言葉で指示を出す必要がある。

■No21.失慰イノ
能力名:アルジャーノン(命名:失慰イノ 執筆:失慰イノ)
種別:観察系 瞬間効果型
失ったモノ:両親
対象者(ロストマン)に向かってその人物の名前と能力名を発する事で発動する。
対象者は自分の能力を失い、さらにもう一つ能力に関係した何かを失う。
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