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たまにはオモチャでもいかがです?
番外編 ジョン・ジュ・ナヴァロという男
しおりを挟む私の人格形成に大きな影響をもたらしたのは、父と姉である。
父は厳格な人間で、「常に先を考えろ」が口癖の男だった。
「ナヴァロ…いいか、優秀な人間は常に先を考えている」
「はい」
「大人は金を手に入れるために仕事をしているのではない…金を使うために仕事をしているのだ…勉強自体に意味などない…それによって得たものだけが必要なのだ」
「はい」
「物事の理由を考えるな…物事の後、常に先を考えるのだ」
私は父の言うとおり、優秀な人間になった。
しかし、性格は良いとは言えず、常に結果を求める人間になっていた。
先を見据えて行動する人間になっていた。
人間?いや…今思えば、父には人間らしさというものが著しく少なかったように思う。
「ナヴァロ…お父さんの言う事は正しい…けれど、大切なモノは自分で考えなくてはダメよ…」
「うん…わかってるよ、エレナ姉さん」
そんな人間味のない父からの教育を受けていた私が、辛うじて人間であれた理由。
それは他ならない優しい姉がいたからだ。
母親のいなかった私にとって、エレナ姉さんがその代わりをしてくれていたのは言うまでもない。
私は優秀なまま学業を終え、有名な会社に入った。
すぐに出世し、たくさんの部下がついた。
「オイ…こんなこともできねぇのか…」
「ナヴァロさん…すいません…しかし、仕事量が多すぎます…今月は決算期でもあり、皆忙しいのです…」
「私のいうことが聞けないのか?」
私がたった数時間でこなすような仕事に、部下たちは一週間かけた。
いいわけは「ミスをしないように…丁寧にやったのです」とかなんとか…
…くだらない。
常に先を考えている私にとって、出来なかったことのいいわけほどくだらないものはなかった。
「オイ、服を脱げ…」
「…え?」
「これから仕事を一日過ぎるごとに、一枚づつ服を脱いで仕事をしろ…」
「ナヴァロさん…なぜそんな…」
「その理由を考えるな…服を脱いだ後のことを考えろ…仕事を一日でも早く終わらせないといけない気持ちになるだろ?」
…
私が24の頃。
姉が病気で死んだ。
「…」
しかしその時父が放った言葉は、信じられないものだった。
「…ナヴァロ…エレナのミサ(葬儀)に出る必要はない」
「…え」
「先をみるんだ…エレナは死んで過去になったのだ…私たちは先を見なければならない」
「何を…言っているのですか…」
「言葉通りの意味だ…私達は常に先をみて行動する…そう教えたはずだ…そう育ったはずだ」
「…」
父のその言葉が正しいとは思えなかった。
私は父の生き方の「正しさ」と、姉の存在が唯一のよりどころだった。
エレナ姉さんが死んだこと…
父が間違ったことを言っているということ…
私は二つのよりどころを失った。
…
私は、姉の死をキッカケにロストマンとなった。
仕事を辞め、酒におぼれ、借金をするほど落ちぶれてしまっていた。
姉の死と引き換えに手に入れたのは「人を小さくする能力」だった。
自己顕示欲が強く、仕事の出来ない人間をバカにしてきた私の性格を反映したような能力だ。
私はその能力を使って、毎日カツアゲまがいのようなことをして日銭を稼いでいた。
このままではいけないと思いつつ…エリートコースから外れてしまった私はそのレールに戻ることができなかった
…いや、戻ろうともしていなかった。
「…」
このまま死ぬんだろうなと。
俺は思った。
あんなに先を考えることを重要視していた私に…
こんな未来が訪れることを誰が予想した?
「…っく…ひっく…」
雨の降るニューヨーク。
私は酒に酔い、道端で横になり、ただ雨に打たれていた。
私は孤独だと痛感し、自分という人間を悔やんだ。
「…」
そんな時、こんな私に傘を指してくれる人がいた。
いや、正確には人ではなかった。
「…夢でも…みてるのか…」
私に傘を指してくれたのは、綺麗なフランス人形だった。
ついにあの世から迎えが来たのだと思った。
色々な人をバカにして生きてきた私が、天国にいけるはずがない。
しかし地獄から来た死神にしては、そのフランス人形はあまりにも美しかった。
「ジョン・ジュ・ナヴァロだね?」
「…」
その声に視線をずらすと、スラリと伸びた褐色の美しい足がそこにあった。
顔を上げると、とても美しい黒人の女性がいた。
「寒いだろ?なにか食わせてやる…」
「…」
私はその褐色の美女に、今は亡き姉の姿を見た。
エレナ姉さんが死んでから、誰も私に優しくなんてしてくれなかった…
私の目からは知らず知らずのうちに涙があふれていた。
「…はい…」
人の上に立って生きてきた私の居場所は、人の上では無かったのだ。
私はこの人の下で、這いつくばるように生きて行こう…
私は直観的にそう感じたのである。
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