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たまには決戦でもいかがです?
55 ゴッド・ファーザー④
しおりを挟む「はぁッ…はぁッ…」
辿りついたのは、ショッピングモールの4階にある大きな広場だった。
天井は大きなガラスで仕切られていて、室内であるのにも関わらず妙に開放感のある場所だ。
「…」
広場の中心には、幾何学模様のオブジェがある。
その下の台座に座り、本を読む男の姿があった。
スーツ姿、清潔感漂うたたずまい。
身長が高く、くっきりした顔つきの外国人。
「ホワイト・ワーカー…」
「お久しぶりですね…」
妙に落ち着いた口調。
4カ月前に初めてあったときと、何一つ変わっていない。
「刑務所、ピストル、車、パズル、オモチャ、縮尺模型…あれは黒の使途メンバーの能力のことだったんだな?」
「…えぇ…役には立ちましたか?」
「たたなかったよ…ホワイト・ワーカー…いや…」
「…」
「バルバロザン・コルレオーネ…」
「…」
バルバロザン・コルレオーネ。
ラブから聞いたホワイト・ワーカーの本名。
「…」
ホワイト・ワーカー…
もといバルバロザンは本を閉じて立ち上がり、後ろのポケットにそれをしまった。
ピッとスーツのシワを正す。
「何年ぶりでしょう…その名前で呼ばれるのは…」
バルバロザンは動揺するそぶりを見せなかった。
適当な名前でごまかすこともしなかった。
「はじめてアンタと会ったとき、アンタは俺に名前を書かせようとしたな?」
「…」
「アレが能力を発動するための条件だったんじゃないのか?」
バルバロザンは表情を変えない。
「なるほど…さすが、優秀ですね…私のようなロストマンにたくさん出会ってきたのでしょうね」
「かなちゃんをどこへやった?」
「その質問に答える前に、私からもひとついいですか?」
「…」
聞きたい事…
そんなの決まっている。
これまで、黒の使途の連中が何度も俺に問いかけてきたことだ。
「どうしても…黒の使途には入っていただけませんか?」
黒の使途が日本にきた目的。
俺の、勧誘。
「俺は、その質問に何度も断ってきた。けれど、何度だって言うぞ…」
「…」
「俺は、黒の使途には入らない」
バルバロザンはため息をつく。
「…わかりました…それでは、私も最終手段をとるしかありません」
「…最終手段?」
「えぇ…」
すると、オブジェの後ろからぬるりと人影が現れる…
かすかにダストの光りを帯びている…
「…」
オブジェの陰から出てきたのは4人。
15歳くらいの外国人の少年、老人、30歳前後の日本人、そして…
「かなちゃんっ!?」
「…」
かなちゃんだった。
4人はバルバロザンの目の前で横一列に並ぶ。
彼らの視点は定まっておらず、立ち止まったその場でふらふらとして今にも倒れそうだ。
明らかに自分の意志ではない…
おそらく…操られている。
「まさか…かなちゃん…」
「そのまさかですよ…イノさんと違って…紙に名前を書いたのです…他の3人もね」
「…!」
対象者に名前を書かせると、その人物を操ることができる…
そんなところか、こいつの能力は。
くそっ!
かなちゃんがバルバロザンと会ったって聞いたとき、紙に名前を書いていたか聞いておくべきだった。
「この4人は全員、私の指示に従順です…私が死ねと命じれば、自分で舌を噛み切るでしょう…」
「…ッ!?」
「これが私の能力『ゴッド・ファーザー』です…イノさん…私が言いたいこと…わかりますよね…?」
かなちゃんを殺されたくなかったら、黒の使途に入れ…
「けほっけほっ…」
かなちゃんはふらふらして、その場に立ちつくしていた。
かすかに咳をしている…
「かなさん…でしたっけね、名前は。イノさんが来る前、彼女は岡野という男と戦っていました…」
「…岡野…?」
「カビを操るロストマンです…この国で雇った…アルバイトみたいな男ですよ…」
「…」
「彼の能力によって付着したカビは、今もまだかなさんの身体の中で繁殖しつづけています…」
…!?
カビ…?
「私も詳しくは知りませんが…カビの中には人を死においやるものもある」
「…!」
「私と戦うつもりで来たのでしょうが…仮に私に勝ったとして、それまで彼女の身体がもちますかね…」
「…お前ッ…」
考えろ…
かなちゃんは一体どれくらい前からあの状態なんだ?
かなちゃんから連絡が来たのが40分前くらいだ…あの時すでにカビに侵されていた…?
ピースの能力を使えば、かなちゃんの身体の時間を1時間戻すことができる…
20分でケリをつければ…
しかし、そのためにはかなちゃんを自由にする必要がある…
おそらく操られている他の3人も、俺に攻撃を仕掛けてくるはずだ…
それをかいくぐりながら、バルバロザンの能力を奪う…?
しかし奴の能力名を俺は知らない…能力を奪う事はできない…
どうする…どうする…
「答えは1つしかないでしょう…」
「…」
「私は嘘つきですが…常に物事の答えを正しく判断する事に関しては、人並み以上に長けている自信があります…」
「…何がいいたい?」
「貴方の選択によって、助かる命がある…ということです…」
助かる…命…
「私は決して快楽殺人鬼ではありません…人を殺すことに慣れているとはいえ、好き好んでそれを選択する事はない」
「…」
「私達には目的がある…宗教的、政治的な思想はあれど、小説やドラマにでてくる世界征服やテロリズムのようなくだらない妄想はしない」
バルバロザン・コルレオーネの言葉は、相変わらず芯が通った声で発せられた。
「現実的であり、自分たちの利のために行動する。かなさんを操っているのはその為の手段でしかない…」
回りくどいが…
つまり俺が黒の使途に入れば…
「つまり私達にとって大切なのは目的を達成することだけなのです…かなさんの命は保障しましょう」
「…」
「…もう一度聞きます…イノさん…」
「黒の使途に入っていただけますね?」
「…」
俺にとって、正しい選択
「…イノさん?」
「…」
俺にとって、一番正しい選択は…
「わかった…」
かなちゃんを、守ることだ
「黒の使途に…入る」
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