吸血鬼だって殺せるくせに、調査と謎解きばっかりじゃん

大野原幸雄

文字の大きさ
18 / 56
吸血鬼の殺し方

しおりを挟む


「ニンニク畑を荒らす泥棒ね…」

「えぇ…」



イーストレア村を去って3日後…
ジェイスとディページは プルーシェ村長に教えられたリドルナードという街に到着した。

リドルナードはフュリーデント公国の中でも、首都の次に大きな町として知られている。
近代的な石造りの家が立ち並び、人口も非常に多い。


何より特徴的なのは、街と同じ総面積を誇る畑だ。
フュリーデント公国の約60%の農作物がこの町から出荷されているいるリドルナードは『食産の聖地』とも言われている。


ジェイス達は街で宿を取った後、美味しいものでも食べようとぶらぶらと散歩をしていた。
しかしなぜか畑が広がる場所に出てきてしまい、戻ろうとしたところ…

農家のおばさんに声をかけられ…
いつものようにモンスタースレイヤーとしての仕事の依頼をうけることになった。


「盗まれたのはニンニクだけか?」

「はい…うちでは色々作ってはいるのですが…なぜかニンニクだけ盗まれまして」

「動物の仕業じゃないのか?」

「…近くにイノシシや熊はでますが…にんにく畑だけを荒らすような動物はいません…それに綺麗に房だけを取っていくんです…畑には鉄柵もあるのに」

「なるほどな…それでグールや怪物の仕業だと?」

「はい…」

「グールではないな…奴らは食いもんにこだわりなんて無い…この辺りに怪物はよくでるのか?」

「昔はドラゴンやバジリスクもでたらしいのですが…街の魔術師達が退治して、ここ数十年現れていません」

「魔術師がいるのか…?…そいつらに頼んだ方がいいんじゃないのか?…俺みたいな得体のしれないモンスタースレイヤーより…」


ジェイスはお腹もすいていたので…
やや依頼が面倒だった。


「いや…もうリドルナードに魔術師はいないのですよ…」

「そうなのか…?」

「数十年前…魔法が異端だと言われ、街にいた魔術師達は追放されたのです…」

「…そうか」

「今は特に魔術師達に対する厳しい法はありませんが…当時はひどく嫌われておりました」



魔術師や魔法が、一般人から嫌われることは珍しくもない。
みんな強力な力を持つ存在が恐ろしいのだ。

ジェイスはよくある話だと受け流した。

農家のおばさんからの話を聞き…
ジェイスは離れた所で日向ぼっこをしていたディページの所へ戻る。



「どーだったー?」

「特定のものにこだわりを見せるところをみると…おそらくは悪魔だろうな」

「普通に人間が盗んだってことはないの…?」

「あるかも知れんが…可能性は低い」

「なんでよ」

「リドルナードで採れた野菜は、身分証を持っていれば街の中でタダで貰えるんだよ」

「…?どういうことそれ…無料で配ってるってこと?」

「あぁ…そうやって観光客を集めてるのさ…観光客は酒場や娼館や賭場にたくさんの金を落とす…そしてその金から農民へ給料が分配される」

「へぇ…なんか変わってるね」

「この街ならではだな…まぁどちらにせよ、こんな街で農作物を盗もうとする奴らはいない…野菜を手に入れたいだけなら、盗むより身分証を偽造した方がずっと安全で確実だしな」


この仕組みによってリドルナードは街の食産を管理していた。
報酬もいいので農民が勝手に密売をすることもないし、街としても観光客が増えて経済効果も高い。


「んで、悪魔だとして…ニンニクが好きな悪魔なんていたっけ?」

「知らん」

「知らんて…モンスタースレイヤーが聞いてあきれるねぇ…」

「悪魔に言われてもな」

「ていうか、どうしてニンニクだけなんだろ…もっと美味しそうな野菜たくさんあるのに」

「食べるのが目的ではないんだろう…何かしらの儀式用かもな」

「ニンニクを使う儀式ってなによ…?パン生地の上にトマトケチャップで魔法陣を描いて上からチーズと一緒にまぶすわけ?…そんなんじゃ悪魔も召喚できないよ」

「その儀式で召喚できるのは、せいぜいピザか味気ないハンバーガーだな」

「お腹すいてきた…」

「とりあえず畑に行ってみよう…現場を見てみないことには話が進まん」



ジェイス達は農家のおばさんから許可を得て、ニンニク畑に向かった。
大きな畑だったが周りには木と鉄線で3mはあろう高い柵壁が作られている。
どこも破られたような形跡はない。

ジェイス達は畑の中には入らず、柵壁の外からニンニク畑を見る。


「特に不思議なものはないな…」


ジェイス周囲を歩きながら、畑の中を探した。
しかし特に侵入された形跡もない。

ジェイスが畑を一周し終わると、ディページが畑の入り口で鉄柵の下を見ながらうずくまっていた。


「…」

「…」

「…トイレか?」

「ちがうよ!…これ見てよ」


ディページが指さした地面を見ると…
ニンニクの皮が大量にばらまかれていた。


「ここで皮をむしって捨てていった奴がいるのか…」

「農家の人?」

「いや、ニンニクは皮を剥かずに出荷されるものだ…犯人かもな」

「もしかしてディページくんのお手柄?褒めて褒めて!」

「おい、これを見ろ…足跡があるぞ」

「褒めろや!」


ジェイスは、鉄柵から5mほど離れたところに足跡を見つけた。

人間の靴のような足跡だがとても奇妙で、両足が揃っている。
しかも辺りにはそれ以外に足跡はない。


「人間の足跡…?なんか深くない?」

「…」

「…畑の中からジャンプして着地したみたいな足跡だね」

「ジャンプ…」

「でも畑から離れてるし…高い柵もあるしね」


ジェイスはもう一度柵を見た。
柵の上は棘のようになっており、どうやっても乗れそうではない。

しかし位置関係的にみても…
確かにディページの言うとおり「畑の中からジャンプしてきたような」足跡だ。

だが…
3mほどの高い壁を越えてなおかつこれほどの脚力を持った人間などいるはずがない。


「やはり悪魔だな…どうやらお前みたいに人間に化けられるような奴らしい」

「この足跡の深さ…たぶんここでもっかいジャンプしたんだね」

「この辺りに足跡がないか探そう」


ジェイスとディページは周囲に足跡がないか探し始めた。
そして今度は10mも離れた場所に、今度は片足だけの足跡を見つけた。

さらにその10m先にも…
2人は足跡をたどって林の中に入っていく。







しばらく林の中を足跡を追っていった2人。
草の生い茂る林の中で足跡を見つけるのは大変だったが…

どうにか小さい洞窟のようなものを見つけた。


「…」


ジェイスとディページは…
ここに犯人がいることを確信した。

なぜなら…


「くっさ…」

「ニンニクの臭いだな…」


洞窟からは、ニンニク特有の強い臭いが漂っていた。
ディページは鼻がいいのか…中に入りたがらなった。

しかしジェイスは無理やりディページの首根っこをつかみ…
ニンニクの臭いが漂う洞窟の中に入っていく。


「…ディページ…火をつけろ」

「悪魔使いあらいなぁ…」

「はやくしろ」

「はいはい…油ある?」

「ん」


ジェイスは布切れと油の入った瓶をディページに渡す。
ディページは落ちていた木の棒の先端に布切れを巻き、油を染み込ませて呪文を唱えた。


「『イグナティオ』…」


ボッ…


木の棒に火が灯る。
洞窟が明るくなる。

狭い洞窟だったが奥はかなり広い。

ディページは明かりを灯しながら鼻を押さえて奥に入っていく。
ジェイスもそれにつづく。


「何か見つけたらすぐに言えよ」

「はいはい」


ジェイスは洞窟の地面にたくさんの足跡を見つけていた。
やはりここに間違いない。

念のためすぐに剣が抜けるよう、ジェイスは柄に手を添えた。


「…」

「…」


そして…
洞窟の中の少し開けたところにでる。

そこは小さい空間だった。
2人は身を乗り出しすぎないよう、慎重に中をみる

すると…


むしゃむしゃむしゃむしゃ…


明かりもつけず…
奥で誰かが何かを食べている…

いや、何を食べているかなんて決まっていた。
強烈なにおい…畑から盗んだ大量のニンニクだ。

ディページはゆっくりとそいつを後ろから照らす…
その時…



「…ジェイス…あれって」

「あぁ…」



2人の顔が…
今までにないほどの緊張に包まれた。

ジェイスはすぐに剣を抜き…
ディページもたいまつを持ったまま臨戦態勢に入った。

火でゆっくりと照らしたその後ろ姿に…
2人とも見覚えがあったからだ…



「誰だ…」

「!」

「動くなッ!」

「…」

「…」



ジェイスは…
一瞬もそいつから目を離すまいと…

切っ先を向けて背後を取った。
ディページもいつになく真剣な表情だ。

それもそのはず…
狭い洞窟の奥でニンニクを食べているそいつは…

本来、こんな辺鄙な場所にいるような者ではない。


悪魔。
それも超ド級の上級悪魔。


すなわち…



「なぜ…吸血鬼がこんなところにいる…」

「…」

「人間…か…」



吸血鬼。

妖艶な血のように紅い瞳を持ち、真っ黒な髪と爪。
温度の無い青白い肌…切り裂くような美しさをもった男の吸血鬼。

高級そうなシャツとベストを着て…
彼は両手にニンニクを持っていた。



「争う気はない…話を聞きにきただけだ」

「…」



ジェイスは剣を向けたまま、慎重に言葉を選んだ。

身体の緊張を保ったまま…
振り返ろうとする吸血鬼を見つめる。


しかし…
次の瞬間、吸血鬼は…

まったく予想だにしない行動をとった。






「ま、まて!…危害を加えたりしない!剣を下してくれ!」

「…!」





吸血鬼が…
手を挙げて降参するようなポーズをとったのだ。



「…?」

「!」



これにはさすがに驚いたが…
吸血鬼が一歩前に出ようとしたので…


「動くなッ!」


と声を発した。

吸血鬼は両手を挙げたまま、そこで止まった。


「お前だな…畑からニンニクを奪っているのは…」

「…!…畑の者か?」

「いや、俺は雇われたモンスタースレイヤーだ…お前、吸血鬼だな…?どこの一家の者だ!?」

「俺はリオンコート一家の吸血鬼だ…いいから剣を下してくれ…」

「嘘をつくな…フュリーデントはドラキュール一家の縄張りのはずだ…他の一家の吸血鬼が入り込んで黙って見過ごされるはずはない…嘘をつく理由はなんだ!?」

「ま、待ってくれ本当なんだ!話を聞いてくれ!」

「動くな!」


ジェイスは声を張り上げる。


「ジェイス…なんか様子がおかしくない…?」

「…」


ディページが吸血鬼の様子がおかしいことに気づく。
たしかにプライドの高い吸血鬼が、ここまで謙るような態度をとることはめったにない。

ジェイスも確かにそれを感じていたが…
警戒を説いた瞬間にすぐに襲いかかってくる可能性もある。

そんなことを考えていると…



「ジェイス…?」

「?」

「アンタ…もしかして吟遊詩人の歌に出てくる『吸血鬼殺し』か?」

「…俺を…知っているのか…?」

「あぁ…なんてことだ…アンタに頼みたいことがある…」

「…?」









「俺を…殺してくれ」





しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

ゴミ捨て場領主のクラフト無双 ~最弱魔法【分解と合成】で領地を黄金郷に変えたら、俺を見下していた大貴族令嬢たちが掌を返してすり寄ってきた件~

namisan
ファンタジー
東西南北の大貴族から「毒の川」「凶暴な魔獣」「莫大な借金」を押し付けられ、王国の『ゴミ捨て場』と化したローゼンベルク領。 父と兄を謀殺され、その絶望の領地を押し付けられた無能貴族のアークは、領地の分割を企む高慢な令嬢たち(王女、公爵令嬢、姫将軍など)に嘲笑われていた。 だが、彼には現代の知識と、隠された最強チート能力があった! 触れたものを瞬時に素材に戻し、全く別のモノに作り変える神の御業――【分解と合成】。 「毒の川」を分解して『超高価な宝石と純水』へ! 「魔獣の死骸」と「瓦礫」を合成して『絶対に壊れない防壁』へ! 借金取りには新素材を高値で売りつけ、逆に敵の経済を支配していく。 圧倒的なクラフト能力で、瞬く間にゴミ捨て場を「無敵の黄金郷」へと作り変えていくアーク。 己の敗北を悟り、震え上がる悪徳貴族と高慢な令嬢たち。 さらに、アークの圧倒的な知略と底知れぬ実力は、気高い令嬢たちの本能に深く刻み込まれていく。 「どうか、私をあなたの手駒としてお使いください……っ!」 プライドを完全にへし折られた最高位の美少女たちは、いつしかアークの与える『恩恵』なしでは生きられないほど、彼に絶対の忠誠と依存を誓うようになっていく――。 最弱のゴミ捨て場から始まる、爽快クラフト内政&ざまぁファンタジー、堂々開幕!

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLの白瀬凛は、過労死した翌朝、異世界の侯爵令嬢アリア・ヴェルナーとして目を覚ました。   転生初日。 婚約者であるシュルツ公爵令息から、一方的に告げられる。   「君は無能だ。この婚約は破棄する」   行き場を失ったアリアが選んだのは、王城のメイドに志願すること。 前世でブラック企業に鍛えられた凛には、武器があった。 ——人を動かす技術。業務を改善する知識。そして、折れない心。   雑用メイドからスタートした凛は、現代の知識を武器に王城を変えていく。 サボり魔、問題児、落ちこぼれ——誰もが見捨てたメイドたちが、次々と凛に懐いていく。   そして転生からわずか一年。 凛は王城に仕える500人のメイドを束ねる、史上最年少メイド長となっていた。   「——なぜ、君がここに」   国王主催の晩餐会。 青ざめた顔で立ち尽くす元婚約者の前で、500人のメイドたちが一斉に頭を下げる。   「アリア・ヴェルナー・メイド長。晩餐会の準備が整いました」   私を捨てたあの日、あなたの後悔も始まっていたのです。 ——もう、遅いですけれど。

ヤンデレにデレてみた

果桃しろくろ
恋愛
母が、ヤンデレな義父と再婚した。 もれなく、ヤンデレな義弟がついてきた。

処理中です...