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吸血鬼の殺し方
Ⅲ
しおりを挟む「人間と…」
「…」
「両想い…になることが…吸血鬼を殺す方法だと?」
「…」
「何言ってるんだ…私とケイトは愛し合っていたんだぞ…」
「…」
「吸血鬼が人間と両想いになることで死ぬと言うのなら…」
ジェイスはデューダの表情が急激に変わっていくことに気づいた。
ニンニクの臭いが充満する洞窟内に緊張が走る。
「なぜ私は死んでいないッ!!!」
バンッ!
ジェイスの超人的な反射神経を持ってしても、吸血鬼の運動能力を超えることはできず。
デューダは一気に距離を縮め、ジェイスの首をとり地面に叩きつけてた。
「私は心のそこから彼女を愛している!今もだッ!」
「…」
「なぜ…なぜそんな嘘をつくッ!?私や、私たちの愛を侮辱する行為だッ!許さないぞッ!」
「事実だ…」
「…」
「吸血鬼はとても感受性が豊かな悪魔だ…今お前が俺の首をつかんでいることからもそれはわかる…」
「何が言いたい!?」
「吸血鬼は愛を持たずに繁殖をする…本来お前らの遺伝子には愛が組み込まれていないんだ…」
「…」
「感受性が異様に発達した現代の吸血鬼にとって…『愛する人に愛される』という満足感は死に値するほどの毒になる」
「…」
ジェイスの首を絞めるデューダの手は、小刻みに震えていた。
恐れているのではない…悲しんでいるのではない。
ただ伝えられた事実を受け入れることができないのだ。
その置きどころのない感情は、すぐに怒りに変わる。
そしてその怒りこそが…
ジェイスの言う感受性の豊かさを立証するなによりの証拠となっていた。
「…」
デューダの表情が…徐々に悲しみに変わる。
ジェイスの首を絞めている手をゆるめ、デューダはへたりと地面に膝をついた。
今度はジェイスが魔法を使うまでもなく…
デューダは自分の行いを悔いた。
「両想いになることで…吸血鬼は死ぬ…か」
「…」
「私は…間違いなく彼女を愛していた…しかし、死んでいない…つまりあいつは…ケイトは…」
デューダは…
崩れ落ちそうになるプライドを必死に支えながらジェイスに聞いた。
「俺を…愛していなかっただろうか…」
ジェイスは少し沈黙し、答える。
「…それは…俺にはわからない」
「しかし、そういうことだろう…?両想いとはお互いがお互いを愛するということだ…それくらい、俺にもわかる」
「…」
デューダを頭をかかえる。
そしてこぼれ落ちるように本音を語る。
「だが…今になって考えれば…彼女が俺を愛していないんじゃないかという不安がこみ上げてくる…」
「…?…心当たりがあるのか?」
「あぁ…彼女はいつも感情的になる俺を嫌がっていた…だから浮気もしていたのかもしれない」
「男と会話することを言っているのなら、それは浮気じゃないでしょ?」
「同じことだ!」
「落ちつけ…」
「…」
感情のコントロールができない自分に気づき…
デューダはまた落ち込むようにうつむいた。
「私は…人間になろうとしたんだ…」
「…人間?」
「彼女と暮らしているとき…私は毎日薬草や作物に水をやったし、料理を作ることも覚えた…リオンコート家にいたときはこんなことしたこともなかった」
「…」
「しかし…喧嘩は多かった」
「原因は…?」
「そのほとんどは、俺の嫉妬だ…男と話すあいつを見ると、ふつふつと怒りがこみ上げて来た…そして醜く嫉妬する自分自身にもイラだっていた」
「男のジェラシーはみっともないよ~」
「そんなこと、俺もわかっていた…彼女もそんな俺をみっともないと思っていたのだろうな」
「…後悔…しているのか?」
「…」
「…あぁ」
デューダはうつむいたまま…
低い声で返事をした。
「…」
「私が感情的になるたびに…ケイトもお前のように魔法を使って、俺をなだめていたよ」
「…」
この言葉を聞いて…
ジェイスの顔が変わる。
「…なんだと?ケイトは何を使ってお前をなだめていたと言った…?」
「魔法だよ…さっきお前が私に使ったような魔法だ…」
「ケイトは…魔術師だったのか?」
「いや…本職は薬草医だった…しかし母親が魔術師だったらしい…彼女も少しだけ魔法を使うことができた」
「…」
ジェイスは自分の感じていた違和感の正体がわかった。
見たこともないケイトという女性がどんな人生を歩んできたのか…
そしてこの物語の結末を、ジェイスはここで理解したんだ。
「ケイトも…俺と同じ魔法を使ったのか?」
「…同じものなのかはわからない…しかし、俺の心を落ち着かせてくれる魔法を喧嘩の時にはよく使っていた」
「魔法を使う時、なんて言っていたか覚えていないか?アクシリオスとか…ウッターンとか…なんと詠唱していた?」
「いや、特に言葉を発していなかった…しかし、かけられた感じはお前が使ったものと良く似ていた」
「…」
本気で暴れだした吸血鬼を止められる人間などいない。
感情的になった吸血鬼は、雷よりも恐ろしいとはよく言ったものだ。
つまりケイトは、魔法でデューダの感情の起伏を抑制することができた。
だからこそ数年も一緒に住むことができたんだ。
「ここでお前に出会ったのは…なにかしらの運命だったのかもな…」
「…どういうことだ?」
「ケイトは…故郷がフュリーデントの魔術師…そういうことだな?」
「あ」
ここでディページも気づいた。
「そういや…ニンニク畑のおばあさんが言ってたんだよね?…リドルナードで魔術師狩りがあったって…」
「…?」
「あぁ…ヴィンドールは人間の法がない国だ…外国から見たらどんな国なのかも想像もつかない…なぜケイトの家族は、フュリーデントという豊かな国からそんな国に行ったのか…」
「…」
「…おそらくケイトの母親はリドルナードの魔術師狩りによって街を追い出されたんだ」
…
「数十年前…魔法が異端だと言われ、街にいた魔術師達は追放されたのです…」
…
それは、今まさにいるこの場所こそが…
デューダの恋人・ケイトの故郷であることを示していた。
最後は故郷のフュリーデントに、この身を埋めて死なせて下さい。
この言葉が事実なら…
ケイトはこの地で死んだのだ。
「知っていたのか?…ここがケイトの故郷であることを?」
「気づかなかった…」
デューダは驚きを隠せないようだった。
名も知らない彼女の故郷を探してこの国にやってきたデューダという一人の吸血鬼は…
気づかぬうちにその場所にいたのだ。
「…ここが…ケイトの故郷…」
「あぁ…そしてデューダを押さえつける魔法…おそらくアクシリオスやウッターンだと思うが…それらを使っているのであれば十中八九『聖法魔術師(せいほうまじゅつし)』の一派だ…」
「『聖法魔術師』…?なんだそれは…」
「魔力ではなく…聖感、つまり人の喜びや願いの力を使って魔法を使う魔術師だ…しかも呪文を口に出さずに使うことができるとなると…おそらく彼女や彼女の母親は…」
ジェイスは…
この先を話すことをためらった。
この先は、デューダに語ることはできないと思った。
なぜなら…
いや…
いまはやめておこう。
ジェイスが口どもっていると、デューダが聞いた。
「人の…喜びや願いの力で…魔法が使えるのか?」
「あぁ…魔力のように汚れた力ではない…人を傷つけることのない優しい魔術だ」
「…」
デューダはそれを聞いて…
何かを想ったのか、少しうつむく。
それを見てジェイスは…
「デューダ…俺には、お前を殺してやることはできない…」
「…」
「だけど、一緒に行かないか?リドルナードに…」
と提案をした。
「しかし…彼女はもういない…彼女に愛されていないとわかった今…俺はその場所にいく理由は…」
「いや…まだやるべきことはある…」
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