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聖なる力は煙の奥に
Ⅲ
しおりを挟む農園を出て十分ほど歩くと…
森の入口に、味のある一軒家がたっていた。
庭には大量の木材や木を切る道具が置いてある。
いかにも木こりの家という雰囲気だ。
コンコン…
ドアをノックして少しまつと…
すぐに髭をたっぷり蓄えた大男が現れた。
「ん?どうしたんだい?」
「ヴェル・トゥーエ家の使者として来たモンスタースレイヤーのジェイスだ…キャローズ農園産のタバコについて調査している…木こりのファッテだな?」
「あぁ、そうだ」
「調査に協力してほしいんだが…話を聞けないか?」
「かまわないよ…出荷に制限がかかる前は、俺もキャローズのタバコファンだったしな…」
「助かるよ…最近、木を切りに森に入ったか?」
「いや…ここ数日は入って無いよ…最近森の様子が少しおかしくてな…」
「…森の様子がおかしい?」
「あぁ…今までいなかったグールの鳴き声が聞こえたり…最後に森に入った時なんか、木々が枯れている一帯を見た」
「…もしかして、先々月の嵐の後から…か?」
「あぁそうだ…よくわかったな」
ジェイスは徐々に真実を掴み始める。
「その木々が枯れている一帯に案内してもらえないか?金は払う」
「は?…だから言っただろ?グールがいるんだよ…」
「俺がアンタを守る…俺の本業はモンスタースレイヤーだからな」
「…」
…
森の中は、異様に暗かった。
何やら腐敗臭のようなものがふわっと臭ったり…音が全然反響しなかったり。
遠くでグールと思われる鳴き声が聞こえる。
「なんだか…前に入った時より様子がおかしいぜ…なぁ、やっぱり戻らないか?」
「大丈夫だ…グールの主食は動物や人間の死骸…滅多に生きている動物は襲われない…」
「しかしよぉ…なんか不気味じゃねぇか…?」
たしかにその森には、形容しがたい異様さが漂っていた。
ジメジメしているのに妙に寒い。
しかしジェイスはまっすぐに歩を進める。
「ほら、あそこだ…うわ…前に見た時よりも広がっているぜ…」
「…」
木々が枯れている一帯…
言葉だけでは分かりにくかったが、実際に見ているとその異様さにジェイスも言葉を失う。
まるで山火事にでもあった後のように…その森の一帯の木に葉は一切なく、灰色になり、地面には土が露出していた。
当然、他の場所以上に光は入り込んでくるものの…
まるで曇り空のように暗い。
「この一帯の中心に…池や川はないか…?」
「確かに大きな池がある…こんな風になる前は、そこでよく弁当を食ったよ…よくわかったな…」
「…」
森の一帯を進んでいくと、今度は逆に不気味な恐怖は無くなっていた。
見晴らしがいいので、周囲を見渡せることができる…というのもある。
しかしそれ以上に、その一帯に『命の感覚』を感じなかったからだ。
人間、動物、幽霊、悪魔…グールでさえも存在しない無機質な場所。
この一帯は、そんな印象を2人に与えた。
「あそこだ…うわ…」
「…」
枯れた一帯を10分ほどあるくと…大きな池があった。
しかしその池はひどく濁っており…灰色がかっていた。
森と同様に、その池も死んでいた。
「…」
ジェイスは池の前にひざまづいて、手のひらで池の水をすくう。
そしてクンクンと臭いをかいだ。
「(何の臭いもしない…腐敗臭すら…)」
そして今度は腕をまくって浅瀬の泥を救う。
胸ポケットから小さい顕微鏡を取り出し、その泥を見る。
「(これは藻(も)か?…色を失って、水分が多いのに干からびたようになっている…)」
ファッテは早くこの場から立ち去りたいのか…
ジェイスを少し急かす。
「おい…もう出ようぜ?」
「…」
「水の中に…何かいたのか?」
「…」
そしてジェイスは…
ようやく真実に到達した。
「いや…何もいない…本来、いるべき存在ですら」
「…本来いるべき存在?もしかして…何か事件についてわかったのか?」
「あぁ…」
ジェイスは軽く泥をすすいだ後…
立ち上がり、今回の事件を解決するため農園に戻る。
「あの事件を引き起こしたのは…水の精霊、ウンディーネだ」
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