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「この世界はもうだめね…」
早朝にも関わらず空には真っ黒な雲が立ち込め、世界は紫色の霧に包まれていた。窓際に置かれたアンティーク調の白い椅子に腰掛けつつ、私は部屋の中からただ静かに空を眺めていた。しばらくそうしていたが空を見飽きた私は気だるげに立ち上がる。床一面に書かれた魔法陣の中心へゆっくり歩きながら移動し、腰に携えていた杖をとる。杖の長さは二十センチほどの長さだったが、私が触れたと同時に白い光を帯びながら床から私の胸までの長さに伸びた。私は特に驚くこともなく、その杖で床を数回叩く。すると床に描かれた魔法陣が白くまばゆい光を放ち始めた。頭の中に浮かぶ呪文を口で紡げば円の中に書かれた文字がより一層光を放つ。呪文が終わる頃には床と壁一面文字に埋め尽くされていた。呪文が終わったと同時に光の色は白から若草色へ変化し、部屋全体がその光に包まれる。私はその光景を満足気に見つめ、口元に笑みを浮かべた。
その瞬間、部屋唯一ある扉が突然開かれた。そちらへ目を向けると、そこには見知った顔。
「あら、ごきげんよう勇者様」
わざと意地悪そうに笑うと、勇者と呼ばれた男が腰から瞬時に剣を抜き、突然床を蹴り上げ、私に飛びかかってきた。私はそれを冷たい眼差しで一瞥する。剣が私の頭に振り下ろされた瞬間、見えない何かによって勇者の剣は受け止められた。
「くそおおお!魔女が!」
勇者は宙に浮きながら私を睨みつつ、雄叫びを上げる。剣を私に振り下ろすのを諦めたのか、勇者が剣を振り払い、床へ着地する。人が一人入れるほどの距離をあけて私と勇者は見つめ合う。勇者の瞳には憎悪だったり、悲愴感だったりが見てとれた。
「世界を救えなかった勇者様が、世界一悪い魔女の私に何の用?」
私がわざとらしくそう言って首を傾げると、勇者は自分の唇を血がにじむまで噛みしめた。そして、意を決したように口を開く。
「けじめをつけに来た…」
「そう、なら取引よ」
私が手を差し伸べれば勇者の瞳から光が失われる。その瞳には絶望の色が色濃く表れていた。それは私の手を取るほかないことを、彼が誰よりも理解している証だった。男性特有の筋肉質でごつごつした逞しい手が私の白い華奢な手に重なる。
「対価は?」
勇者は悲しそうに、どこか疲れたように私へ問いかける。対価は彼の魂だ。それは彼も承知していることだったが、改めて伝える気も起きず、私は口を開く。
「そうね、来世で幸せになること、かな」
「は?」
「だって、魔王を倒したのに、誰もあなたを労わないわ」
真っ赤にひかれた唇に意地悪く笑みを浮かべる。勇者は私の言葉を聞くと呆けた顔をした。それがなんだかおもしろくて、私は言葉を続ける。
「倒した魔王から毒が溢れ、紫色の毒が世界を包むなんて誰が想像した?なぜ魔王を倒さなければいけなかったのかしら?魔族を根絶やしにするにしても代償が大きすぎたと思わない?」
勇者の指に自分の指を絡めて引き寄せる。勇者は操り人形のように、簡単に私へ引き寄せられた。はたから見たら男と女が魔法陣の中心で抱き合っているようにも見えるだろう。だが、お互いに恋愛感情はないし、男の腕に抱かれてもいない、女も男にしな垂れかかっているわけでもない。ただ、片手だけ恋人つなぎをしているだけだ。
「勇者、今度は自分の人生を生きるのよ」
彼の唇に自分の唇を重ねる。その瞬間、緑の光がより一層強く輝いた。その光は部屋を、その地域一帯を、世界中を包み込んだ。
そして、世界は救われた。
早朝にも関わらず空には真っ黒な雲が立ち込め、世界は紫色の霧に包まれていた。窓際に置かれたアンティーク調の白い椅子に腰掛けつつ、私は部屋の中からただ静かに空を眺めていた。しばらくそうしていたが空を見飽きた私は気だるげに立ち上がる。床一面に書かれた魔法陣の中心へゆっくり歩きながら移動し、腰に携えていた杖をとる。杖の長さは二十センチほどの長さだったが、私が触れたと同時に白い光を帯びながら床から私の胸までの長さに伸びた。私は特に驚くこともなく、その杖で床を数回叩く。すると床に描かれた魔法陣が白くまばゆい光を放ち始めた。頭の中に浮かぶ呪文を口で紡げば円の中に書かれた文字がより一層光を放つ。呪文が終わる頃には床と壁一面文字に埋め尽くされていた。呪文が終わったと同時に光の色は白から若草色へ変化し、部屋全体がその光に包まれる。私はその光景を満足気に見つめ、口元に笑みを浮かべた。
その瞬間、部屋唯一ある扉が突然開かれた。そちらへ目を向けると、そこには見知った顔。
「あら、ごきげんよう勇者様」
わざと意地悪そうに笑うと、勇者と呼ばれた男が腰から瞬時に剣を抜き、突然床を蹴り上げ、私に飛びかかってきた。私はそれを冷たい眼差しで一瞥する。剣が私の頭に振り下ろされた瞬間、見えない何かによって勇者の剣は受け止められた。
「くそおおお!魔女が!」
勇者は宙に浮きながら私を睨みつつ、雄叫びを上げる。剣を私に振り下ろすのを諦めたのか、勇者が剣を振り払い、床へ着地する。人が一人入れるほどの距離をあけて私と勇者は見つめ合う。勇者の瞳には憎悪だったり、悲愴感だったりが見てとれた。
「世界を救えなかった勇者様が、世界一悪い魔女の私に何の用?」
私がわざとらしくそう言って首を傾げると、勇者は自分の唇を血がにじむまで噛みしめた。そして、意を決したように口を開く。
「けじめをつけに来た…」
「そう、なら取引よ」
私が手を差し伸べれば勇者の瞳から光が失われる。その瞳には絶望の色が色濃く表れていた。それは私の手を取るほかないことを、彼が誰よりも理解している証だった。男性特有の筋肉質でごつごつした逞しい手が私の白い華奢な手に重なる。
「対価は?」
勇者は悲しそうに、どこか疲れたように私へ問いかける。対価は彼の魂だ。それは彼も承知していることだったが、改めて伝える気も起きず、私は口を開く。
「そうね、来世で幸せになること、かな」
「は?」
「だって、魔王を倒したのに、誰もあなたを労わないわ」
真っ赤にひかれた唇に意地悪く笑みを浮かべる。勇者は私の言葉を聞くと呆けた顔をした。それがなんだかおもしろくて、私は言葉を続ける。
「倒した魔王から毒が溢れ、紫色の毒が世界を包むなんて誰が想像した?なぜ魔王を倒さなければいけなかったのかしら?魔族を根絶やしにするにしても代償が大きすぎたと思わない?」
勇者の指に自分の指を絡めて引き寄せる。勇者は操り人形のように、簡単に私へ引き寄せられた。はたから見たら男と女が魔法陣の中心で抱き合っているようにも見えるだろう。だが、お互いに恋愛感情はないし、男の腕に抱かれてもいない、女も男にしな垂れかかっているわけでもない。ただ、片手だけ恋人つなぎをしているだけだ。
「勇者、今度は自分の人生を生きるのよ」
彼の唇に自分の唇を重ねる。その瞬間、緑の光がより一層強く輝いた。その光は部屋を、その地域一帯を、世界中を包み込んだ。
そして、世界は救われた。
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