12 / 56
第一章
夕梨目線
しおりを挟む
──今日は曇りだった。
朝目覚めた瞬間から嫌な予感がしたのだ。
黒く濁った空が、どこまでも続いていたから。
そしてそれは、見事に的中。
理由はただ一つ。蘭さんが家に来たからだ。
母と父は仕事。姉もバイト。
ほとんど毎週そうなのだが、いつだって、家で一人とは良いものである。
何をしていたとしても邪魔が入らない、幸せな時間。決して、変な事をする訳ではないが、な。
今日もゆっくり一人を満喫(主に勉強だが)して、静かに過ごそうと思っていたのに。
ピンポーン。
朝食のパンをかじった瞬間、そんな音が響いた。
(? インターフォン?)
我が家のインターフォンが押されることなど滅多にない。
何故なら、必要ないからだ。
宅配便などは基本利用しない。押しに来るような友人すら、存在しない。ならば、押される理由はない。そういう事だ。
だから、妙に不審に思ってしまう。更に嫌な予感もする。
けれど、それに出る必要もない。
これは、母の定めたルールだ。『私が居ない時にインターフォンが鳴っても、別に出なくていいから』というルール。
僅かな時間だけぐるぐる考えていたが、食事を再開した。
(まあ、大した用じゃないでしょ)
そもそも、私に大事な用がある者など存在するはずがない。
すぐに食べ終え部屋に入った瞬間、再びインターフォンが鳴った。
(しつこいなぁ。誰だろう)
少し気になった。
真正面を見つめると視線の先にある窓。そこから覗けば、外が見える。
(ちょっと見てみよう)
カーテンを開けて、下を覗いてみた。
(……ゲッ)
蘭さんが堂々たる態度で立っていた。
こちらを睨みつけて。
(カーテンを開ける音が聞こえたの? この部屋二階なのに)
どうやら蘭さんは、聴覚がたいへん良いみたいだ。
「下りてきなさい! 絶対に呪いをとかせてやるんだから!」
蘭さんの元気な叫び声が我が家に響いた。
(どうしよう。でも、下りたら前みたいに殴られるかもしれないし……。それに、ここに居ればさすがの蘭さんも家に入ってはこないだろうし)
という訳で、外には出ない事にした。どちらにせよ、私はパジャマで、髪もボサボサ。人前に出られるような恰好ではない。
この姿で出たら、「失礼である」という理由で殴られる可能性もあるからな。
「早くこっちに来なさいよ!」
不機嫌な様子の蘭さんは先程よりも声を荒げた。
「……」
怖かった。
だが、じっとしていれば大丈夫。と自分に言い聞かせた。
蘭さんはしばらく私を睨みつけていたが、やがて痺れを切らして歩き出した。
「ふぅ……。良かった」
疲れが吹っ飛んで、思わずベッドに腰かけた。
(朝からすごい疲れた……)
数分間壁を眺めて、念の為再度窓の外を確認した。
「えっ!?」
小さかったが声が出てしまった。
蘭さんと戸山君が家の前で何か話しているようだ。
(戸山君はどこから!? しかも、人の家の前で何を話してるの!?)
二人の声は聞こえてこない。カーテンは開いているものの、窓が閉じているからだ。
(一応、聞かないでいた方がいいかもな)
盗み聞きは好まない。人として当然だ。
蘭さんが爪をかじっているのを見たのを最後に、私は勉強を始めた。
「おはよう」
今日も満面の笑みの戸山君。朝から元気いっぱいのようだ。
「あ、うん。おはよう」
私はもう動揺せず、挨拶を返せるようになった。かれこれもう一ヶ月程こんな生活だからである。
「昨日、蘭が家に行ってたけど、その時居た?」
「う、うん」
早速その話題とは。
「また嫌がらせしようとしてたみたいだけど、ちゃんと話したら改心したみたい。もう妙な事はしてこないと思うよ」
太陽の光に照らされ、彼はいつも以上に輝いていた。その眩しさに、眠気も吹き飛ぶ。
「そう、なんだ。良かった」
「だけどやっぱり、木嶋さんのことは好きになれないって言ってた。俺としては、二人が仲良くしてくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「日暮さんが嫌だって言うんなら、仕方無い……よ」
「だよね。まあ嫌がらせが無くなるだけでも良い方か」
「うん」
蘭さんは彼に何を言われたのだろう。気になる所ではあるが、他人に深入りするのは好きではない。
今良い結果になったのだから、それで良い。
今朝の晴れ空は、なんだかとっても印象深かった。
朝目覚めた瞬間から嫌な予感がしたのだ。
黒く濁った空が、どこまでも続いていたから。
そしてそれは、見事に的中。
理由はただ一つ。蘭さんが家に来たからだ。
母と父は仕事。姉もバイト。
ほとんど毎週そうなのだが、いつだって、家で一人とは良いものである。
何をしていたとしても邪魔が入らない、幸せな時間。決して、変な事をする訳ではないが、な。
今日もゆっくり一人を満喫(主に勉強だが)して、静かに過ごそうと思っていたのに。
ピンポーン。
朝食のパンをかじった瞬間、そんな音が響いた。
(? インターフォン?)
我が家のインターフォンが押されることなど滅多にない。
何故なら、必要ないからだ。
宅配便などは基本利用しない。押しに来るような友人すら、存在しない。ならば、押される理由はない。そういう事だ。
だから、妙に不審に思ってしまう。更に嫌な予感もする。
けれど、それに出る必要もない。
これは、母の定めたルールだ。『私が居ない時にインターフォンが鳴っても、別に出なくていいから』というルール。
僅かな時間だけぐるぐる考えていたが、食事を再開した。
(まあ、大した用じゃないでしょ)
そもそも、私に大事な用がある者など存在するはずがない。
すぐに食べ終え部屋に入った瞬間、再びインターフォンが鳴った。
(しつこいなぁ。誰だろう)
少し気になった。
真正面を見つめると視線の先にある窓。そこから覗けば、外が見える。
(ちょっと見てみよう)
カーテンを開けて、下を覗いてみた。
(……ゲッ)
蘭さんが堂々たる態度で立っていた。
こちらを睨みつけて。
(カーテンを開ける音が聞こえたの? この部屋二階なのに)
どうやら蘭さんは、聴覚がたいへん良いみたいだ。
「下りてきなさい! 絶対に呪いをとかせてやるんだから!」
蘭さんの元気な叫び声が我が家に響いた。
(どうしよう。でも、下りたら前みたいに殴られるかもしれないし……。それに、ここに居ればさすがの蘭さんも家に入ってはこないだろうし)
という訳で、外には出ない事にした。どちらにせよ、私はパジャマで、髪もボサボサ。人前に出られるような恰好ではない。
この姿で出たら、「失礼である」という理由で殴られる可能性もあるからな。
「早くこっちに来なさいよ!」
不機嫌な様子の蘭さんは先程よりも声を荒げた。
「……」
怖かった。
だが、じっとしていれば大丈夫。と自分に言い聞かせた。
蘭さんはしばらく私を睨みつけていたが、やがて痺れを切らして歩き出した。
「ふぅ……。良かった」
疲れが吹っ飛んで、思わずベッドに腰かけた。
(朝からすごい疲れた……)
数分間壁を眺めて、念の為再度窓の外を確認した。
「えっ!?」
小さかったが声が出てしまった。
蘭さんと戸山君が家の前で何か話しているようだ。
(戸山君はどこから!? しかも、人の家の前で何を話してるの!?)
二人の声は聞こえてこない。カーテンは開いているものの、窓が閉じているからだ。
(一応、聞かないでいた方がいいかもな)
盗み聞きは好まない。人として当然だ。
蘭さんが爪をかじっているのを見たのを最後に、私は勉強を始めた。
「おはよう」
今日も満面の笑みの戸山君。朝から元気いっぱいのようだ。
「あ、うん。おはよう」
私はもう動揺せず、挨拶を返せるようになった。かれこれもう一ヶ月程こんな生活だからである。
「昨日、蘭が家に行ってたけど、その時居た?」
「う、うん」
早速その話題とは。
「また嫌がらせしようとしてたみたいだけど、ちゃんと話したら改心したみたい。もう妙な事はしてこないと思うよ」
太陽の光に照らされ、彼はいつも以上に輝いていた。その眩しさに、眠気も吹き飛ぶ。
「そう、なんだ。良かった」
「だけどやっぱり、木嶋さんのことは好きになれないって言ってた。俺としては、二人が仲良くしてくれた方が嬉しいんだけどなぁ」
「日暮さんが嫌だって言うんなら、仕方無い……よ」
「だよね。まあ嫌がらせが無くなるだけでも良い方か」
「うん」
蘭さんは彼に何を言われたのだろう。気になる所ではあるが、他人に深入りするのは好きではない。
今良い結果になったのだから、それで良い。
今朝の晴れ空は、なんだかとっても印象深かった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
復讐のための五つの方法
炭田おと
恋愛
皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。
それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。
グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。
72話で完結です。
課長と私のほのぼの婚
藤谷 郁
恋愛
冬美が結婚したのは十も離れた年上男性。
舘林陽一35歳。
仕事はできるが、ちょっと変わった人と噂される彼は他部署の課長さん。
ひょんなことから交際が始まり、5か月後の秋、気がつけば夫婦になっていた。
※他サイトにも投稿。
※一部写真は写真ACさまよりお借りしています。
エリート警察官の溺愛は甘く切ない
日下奈緒
恋愛
親が警察官の紗良は、30歳にもなって独身なんてと親に責められる。
両親の勧めで、警察官とお見合いする事になったのだが、それは跡継ぎを産んで欲しいという、政略結婚で⁉
将来の嫁ぎ先は確保済みです……が?!
翠月るるな
恋愛
ある日階段から落ちて、とある物語を思い出した。
侯爵令息と男爵令嬢の秘密の恋…みたいな。
そしてここが、その話を基にした世界に酷似していることに気づく。
私は主人公の婚約者。話の流れからすれば破棄されることになる。
この歳で婚約破棄なんてされたら、名に傷が付く。
それでは次の結婚は望めない。
その前に、同じ前世の記憶がある男性との婚姻話を水面下で進めましょうか。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる