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序章
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──少しだけ、時間が欲しい。
まず、何だこの状況!?
なぜ俺の目の前で、美少女が札束抱えて目を輝かせてるんだ!?
「アナタを、ください♪」
(うわっ。可愛い……)
いや、顔は可愛いが、言っていることは少しも可愛くない。
「えっと、まず君、誰なの?」
俺と同じ学校の制服を着ているから、この学校の生徒であることは確かだ。
まあ、今日が入学式なのだが。
「私は、神田愛と申します。今年で十六歳です」
つまりは、同学年か。
「そ、そうなんだ。それで、『アナタをください』って何?」
俺は若干引き気味で訊いた。
それの問いかけに、愛ちゃんは満面の笑みで答える。
「言葉通りの意味ですよ? お金はいくらでも払いますし、身の回りの世話も勿論しますっ」
まるでそれが当たり前であるかのような言い草だ。
「金とか世話とか……そういう問題じゃないでしょ」
「えぇ? 何が不満なんですか?」
納得いかない様子で愛ちゃんは首を傾げる。その仕草が少し幼く見えて、思わずキュンとしてしまう。
「全部だよ。ぜ・ん・ぶ!」
「んん!? ど、どういう事ですか……?」
中々ピンとこない様子。
(常識っていうか何ていうか……。抜けてるトコロがある、って言うべきか?)
「まず、俺と君は初対面でしょ? 急すぎるよ」
愛ちゃんの表情が暗くなった。
「……何を仰っているんですか? 初対面なんかじゃありませんよ」
「えっ」
彼女の話し方から察するに、冗談ではなさそうだ。
「し、初対面じゃないって、どういうこと? 俺、君の記憶とか一切無いよ?」
「……そうですか。忘れてしまったのですね」
悲しそうな呟きだ。
(な、なんだ? やっぱり本当に、会った事が……? でも、記憶はないからなぁ)
「もう良いです。そのことは。いつか思い出すのに期待しますから」
「え。あ、そ、そうだね……」
どうしよう。愛ちゃんが俯きっぱなしだ。
いくら今出会ったばかりだとしても、更には突然「アナタをください」だなんて言われたとしても、女の子に悲しそうな顔をさせてしまうなんて男として最低だ。
「で、他は?」
「へ?」
「いや、さっき『まず』って仰ったので。まだ何かあるのでは?」
「ああ、そうだったそうだった」
愛ちゃんが悲しそうな顔から一瞬で真顔に変わったので驚いてしまった。
「……君は、人をお金で買えると思ってるの?」
「え? はい」
愛ちゃんは「私、何かおかしいですか?」とでも言うような表情だった。
「家政婦や料理人もお金目当てで働いていますから。それって彼らを『買っている』ようなものではないですか?」
「いや、ちょっと違うと思うけど……? それは買ってるんじゃなくて、君の家が雇ってるんだから」
「そうですか……。けれどそういった手続きは全て母が行っていますし、彼らは私に従順だったので勘違いをしていました」
分かってくれたみたいだ。ほっと胸をなでおろす。
「……けれど、それとこれとは話が別では?」
「へ?」
「アナタが許可して下されば、買うことは可能ですから」
愛ちゃんは汚れのない美しい笑みを浮かべた。本気で人を買えると思っているのか……?
「いや、絶対に許可しないよ」
「何故?」
「だって買われたら、俺は君の所有物になるだろう? そんなのは嫌なんだ。俺にだって、意思とか、やりたい事とかがあるんだから」
愛ちゃんはまだ笑っていた。
「フフ。大丈夫ですよ。所有物と言っても、ほぼ自由に生活してくだされば良いのです。ただ、「私の傍で私を愛す」。というのが条件ですが」
「じゃあ無理だよ。俺好きな人がいるから」
初対面の娘にこんな事を言うのは忍びないが、状況が状況だ。仕方ない。
「そうですか。じゃあ私、頑張りますね」
「は?」
愛ちゃんの笑顔は崩れるどころか、輝きを増していた。
(え、状況分かってるの? 振られたって事だよ?)
「?? 何を頑張るの?」
「何って……。アナタに好きになってもらうことですよ」
愛ちゃんは握りしめた両腕を掲げ、「頑張る」という意思表示をしてきた。
「え。そ、そうですか……」
(何て諦めの悪い娘だ……)
「そうですか。って、他人事みたいな言い方しないで下さい! 私、全力出しますからね!」
そう言って、彼女は俺の右腕にしがみつく。
(俺の高校生活、どうなるんだろ……)
まず、何だこの状況!?
なぜ俺の目の前で、美少女が札束抱えて目を輝かせてるんだ!?
「アナタを、ください♪」
(うわっ。可愛い……)
いや、顔は可愛いが、言っていることは少しも可愛くない。
「えっと、まず君、誰なの?」
俺と同じ学校の制服を着ているから、この学校の生徒であることは確かだ。
まあ、今日が入学式なのだが。
「私は、神田愛と申します。今年で十六歳です」
つまりは、同学年か。
「そ、そうなんだ。それで、『アナタをください』って何?」
俺は若干引き気味で訊いた。
それの問いかけに、愛ちゃんは満面の笑みで答える。
「言葉通りの意味ですよ? お金はいくらでも払いますし、身の回りの世話も勿論しますっ」
まるでそれが当たり前であるかのような言い草だ。
「金とか世話とか……そういう問題じゃないでしょ」
「えぇ? 何が不満なんですか?」
納得いかない様子で愛ちゃんは首を傾げる。その仕草が少し幼く見えて、思わずキュンとしてしまう。
「全部だよ。ぜ・ん・ぶ!」
「んん!? ど、どういう事ですか……?」
中々ピンとこない様子。
(常識っていうか何ていうか……。抜けてるトコロがある、って言うべきか?)
「まず、俺と君は初対面でしょ? 急すぎるよ」
愛ちゃんの表情が暗くなった。
「……何を仰っているんですか? 初対面なんかじゃありませんよ」
「えっ」
彼女の話し方から察するに、冗談ではなさそうだ。
「し、初対面じゃないって、どういうこと? 俺、君の記憶とか一切無いよ?」
「……そうですか。忘れてしまったのですね」
悲しそうな呟きだ。
(な、なんだ? やっぱり本当に、会った事が……? でも、記憶はないからなぁ)
「もう良いです。そのことは。いつか思い出すのに期待しますから」
「え。あ、そ、そうだね……」
どうしよう。愛ちゃんが俯きっぱなしだ。
いくら今出会ったばかりだとしても、更には突然「アナタをください」だなんて言われたとしても、女の子に悲しそうな顔をさせてしまうなんて男として最低だ。
「で、他は?」
「へ?」
「いや、さっき『まず』って仰ったので。まだ何かあるのでは?」
「ああ、そうだったそうだった」
愛ちゃんが悲しそうな顔から一瞬で真顔に変わったので驚いてしまった。
「……君は、人をお金で買えると思ってるの?」
「え? はい」
愛ちゃんは「私、何かおかしいですか?」とでも言うような表情だった。
「家政婦や料理人もお金目当てで働いていますから。それって彼らを『買っている』ようなものではないですか?」
「いや、ちょっと違うと思うけど……? それは買ってるんじゃなくて、君の家が雇ってるんだから」
「そうですか……。けれどそういった手続きは全て母が行っていますし、彼らは私に従順だったので勘違いをしていました」
分かってくれたみたいだ。ほっと胸をなでおろす。
「……けれど、それとこれとは話が別では?」
「へ?」
「アナタが許可して下されば、買うことは可能ですから」
愛ちゃんは汚れのない美しい笑みを浮かべた。本気で人を買えると思っているのか……?
「いや、絶対に許可しないよ」
「何故?」
「だって買われたら、俺は君の所有物になるだろう? そんなのは嫌なんだ。俺にだって、意思とか、やりたい事とかがあるんだから」
愛ちゃんはまだ笑っていた。
「フフ。大丈夫ですよ。所有物と言っても、ほぼ自由に生活してくだされば良いのです。ただ、「私の傍で私を愛す」。というのが条件ですが」
「じゃあ無理だよ。俺好きな人がいるから」
初対面の娘にこんな事を言うのは忍びないが、状況が状況だ。仕方ない。
「そうですか。じゃあ私、頑張りますね」
「は?」
愛ちゃんの笑顔は崩れるどころか、輝きを増していた。
(え、状況分かってるの? 振られたって事だよ?)
「?? 何を頑張るの?」
「何って……。アナタに好きになってもらうことですよ」
愛ちゃんは握りしめた両腕を掲げ、「頑張る」という意思表示をしてきた。
「え。そ、そうですか……」
(何て諦めの悪い娘だ……)
「そうですか。って、他人事みたいな言い方しないで下さい! 私、全力出しますからね!」
そう言って、彼女は俺の右腕にしがみつく。
(俺の高校生活、どうなるんだろ……)
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