最近の美少女はお金で俺を買うらしい

鍵山 カキコ

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第一章 『謎の美少女』

しつこい人は嫌われる

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「……ただいま」
「おかえり晃狩。何だかテンション低いね~どうしたの?」
 帰宅早々、憂鬱な気分だ。
 何故かって? この母さんの表情を見たら一目瞭然。
「!? か、彼女!? まだ今日入学式なのに、やるねぇアンタ」
 愛ちゃんが「保護者様に挨拶をしたい」という事で、家に上げることになったのだ。
 母さんは嬉しそうに俺の背中をパシパシ叩く。愛ちゃんは『彼女』の否定をせずに、無垢な笑顔を母さんに向けていた。
「そんなんじゃないって。送ってもらっただけだから」
「ハァ? 女の子に送ってもらった、だってぇ? 男としてどうなんだい、晃狩?」
 般若のような顔をして母さんが俺に迫る。
 いつもの事であるが、恐ろしい剣幕だ。
「いや違うんだって。厳密には、運転手さんに……」
「運転手?」
「うん」
 まだピンときていない様子。俺がどうにか言い逃れようとしている、なんて思っている事だろう。
「ねぇ、本当なの? 笑顔が素敵なお嬢さん」
(恥っず! 何でそんなキザなセリフを吐けるんだよ母さん!)
「ええ、まあその……。家のしきたりなんです。車での登校は」
 愛ちゃんは「笑顔が素敵」と言われ、喜びを隠せていなかった。少し照れながら話している様子が愛らしい。
「へぇ、厳しいご家庭ねぇ。ところで、うちの晃狩とはどんな関係で? 高校生活始まってすぐに車で送ったんだから、何にもないって事は無いでしょ」
 母さんはいつにも増して楽しそう。
 恋バナをする機会なんて歳をとると訪れないだろうから、その手の話に飢えていたのだろう。いくつになっても、女は乙女なのか……。
「えっと……」
 出会い頭にあんなに堂々と『アナタを下さい』とか言っておいて、いざ訊かれてみると愛ちゃんは更に頬を赤くした。
 まあ他人の母親なのだから、話しにくいのもあるだろうが。
「赤くなっちゃって~! ますます可愛いわね~。こんな可愛い子が、どうして晃狩なんかを──」
ではありません!!」
 真っ赤に染まった頬を隠すのに精一杯だった愛ちゃんが突如大声で叫ぶ。
 あまりにも急だったもので、俺も正面に居た母も唖然としていた。
「あ。す、すみません……。つい」
「「……」」
「えっと……、私、感情が昂ぶるとすぐ声に出してしまうんです。本当にごめんなさい」
 もう冷静になったみたいだ。申し訳なさそうに頭を下げている。
「いや……謝る事無いよ。頭上げて? アタシが晃狩なんかって言ったのが悪いんだから。……ごめんね」
「いえ……。私の悪い癖ですので」
 愛ちゃんは頭を上げなかった。自分の犯した過ちを噛みしめて、涙を流しているのかもしれない。
 さすがにオーバーに考え過ぎかもしれないが、愛ちゃんだから分からない。
「……では、その……。挨拶という挨拶は出来ませんでしたが、これから宜しくお願い致します。あと、こちらを」
 愛ちゃんは鞄から箱を取り出すと、顔を少しだけ上げた。垂れた髪で顔が覆われているため、表情は伺えない。わざとそうしているんだろうけど。
「あ、ありがとう。えっと……またいつでも来て大丈夫だからねっ」
「……嬉しいです」
 そう言うと、愛ちゃんは我が家を後にした。
「……良い子だね、あの子。というか、名前なんていうの?」
 そういえば、愛ちゃんが自己紹介をするタイミングが無かったな。
「神田愛」
「へぇ。可愛い名前。……にちょっと似てない? 『愛』って入ってるし」
「全然似てないしっ。てか、あっちは読み『まな』じゃん」
「そうだけどね~。でも、良い子で可愛い所はそっくりだったけど」
「そうかもしれないけどもうどうでも良くない? マジ腹減ってんだけど!」
 小熊さんとひと悶着あったり送ってもらったりで忘れてしまいがちになっているが、俺はまだ昼食を食べていない。それなのに時計の針はもう一時半を指していた。
「うわっ。もうこんな時間なの!? カップ麺で良い? ご飯作るの忘れてた」
「もう何でもいいから早く食べたい」
「じゃあお湯自分で沸かしてね~」
 母さんは何やら嬉しそうに自室へ歩いていった。
 玄関に一人取り残された俺は無言のまま、台所まで向かったのだった。

     ● ● ●

「いってきま~す」
 学校に行くため、俺は玄関のドアノブを握りしめる。
(ん……? 影?)
 ドアの前に人影が見えた。誰だろう。
 登校は香山と一緒だけれど、アイツはドアの前にまで来ることは無いし、来たとしても無言で突っ立っている事はまずあり得ない。
 というかよく見たら、シルエットは全然香山じゃない。
 髪の毛が長いのだ。即ち、ここに居るのは女の子。
 ガラッ……。
「あ、愛ちゃん……?」
 予想は的中。彼女は何も言わず、微笑みだけを向けてきた。
「あれ、車じゃないの?」
「車ですよ。ただ、晃狩さんと一緒に行きたくて」
「えっ。でも俺、香山と登校する約束してるから──」
「香山さんなら、車内に」
「え!?」
 道路に停まっていた車に目をやると、確かに香山の存在が確認できる。昨日は二人の方が良いみたいな事を言っておいて、何なのだアイツはっ。
 何食わぬ顔で手を振る香山を見て、憤りを覚えた。
「では晃狩さんも、乗りましょう」
 考える暇も与えず、愛ちゃんが俺の背中を押してきた。
「えっ、ちょっ。ちょっとだけ待って!!」
「もう、何ですか?」
「香山に何て言って車に乗せたの? 昨日はあんなに乗り気じゃなかったのに!」
「え、そんな事ですか?」
 愛ちゃんはキョトンとした表情になる。
「まあ私も構えてはいたんですけどね。けど今朝伺ってみたら、「車って絶対楽だわ」の一言ですぐに乗ってくださいましたよ」
「ズルい奴め……」
 今更どうこう言うつもりも無いのだが、まあ何と言うか。
「では、今度こそ乗りましょう! グズグズしていると遅刻してしまいます!」
「あ、うん。急ごうか」
 大した距離でもないのに愛ちゃんに手を引かれ、俺は車に足を踏み入れた。

「おっはよ~! 神田さん」
「またアナタですか、しつこい方ですね」
 教室に入るなり、小熊さんが声を掛けてきた。まあ俺にではないが。
「私はしつこいんだよ。友達になってくれるなら、行動を改めてもいいけど」
「昨日も申し上げた通り、私はアナタと友達になる義理は無いのです。赤の他人ですから」
 やっぱり、小熊さんと話す時の愛ちゃんは冷えきっている。芯のない薄い声が余計にそう感じさせる。
「友達って、他人からなるものじゃない? 逆に神田さんは何を基準にして『友達』って言うの?」
「……私は友達と呼べる人がいませんので、分からないです」
「そうなんだ。まあでも仕方ないね、何となく察せるよ。……じゃあ君は? 多田くん」
 緊迫した雰囲気に包まれて二人の事を真剣に見ていた俺を、突如小熊さんは指差した。
「へっ?」
「さっき姿を見かけたけど、その時男の子と一緒に居たよね? 神田さんも居たけど。……で、その子とはどうして友達になったの?」
「ど、どうしてって言われても……」
 友達になったのはかなり昔の事だ。物心ついた頃には、とっくに仲良くしていたような気さえするし。
「覚えてないの? それ程古い友達って事かな」
「あぁ、そうなんだ。アイツとは幼馴染だからさ」
「ふ~ん。じゃあ、最近友達になった人っている?」
「う~ん」
 最近……愛ちゃんを含めてもよいのだろうか。いやしかし、友達と言うにもあやふや過ぎる関係だしな。
 なら中学での友人を挙げなければ。誰がいたっけ?
(近い内に友達になった人っていうのは思い浮かばないなぁ。大体皆、卒業する頃には仲良かったし)
「いないの? 使えないなぁ」
「なっ! そこまで言う事ないでしょう!! アナタが勝手に話を振ったくせに!」
(うわっ。ビックリしたぁ)
 昨日俺の母さんに叫んだのと同じように、感情が暴走しているのだろうか。
「ご、ごめんなさい……。でもそこまで怒られるとは思ってなかったな」
 小熊さんには反省した様子が伺えなかったが、少し戸惑いを見せた。
「もう高校生なんですから、自分の発言くらい責任を持つべきです! 口は災のもとなんですから」
「う、うん。だから、ごめんねってば」
「いくら謝ったって無駄です。もう私の前に執拗に現れないでください」
「あ……」
 愛ちゃんはズカズカと席に向かっていく。俺も一応、それに付いていった。
 そして俺は自分の席で荷物をまとめながら、愛ちゃんの様子を眺めている。
 彼女はただ真顔で椅子に腰掛け、前を見つめていた。その少し後ろでは小熊さんがチラチラと愛ちゃんに視線を向けている。
(説教されたっていうのに、懲りないな……)
 何度話しても無駄だと分かっていての行動なのだろうか。……それにしても、そこまで金が欲しいのか?
「……!」

「晃狩さ──」
「多田くん、ちょっと良いかな?」
 休み時間、先に俺によってきた愛ちゃんのセリフを遮り、小熊さんが話し掛けてきた。
「え……何?」
「ちょっと用があるんだ。君に」
 口を開いたと同時に彼女は俺の体に触れてくる。何とも言えない気持ちだ。
「ちょっと! そんなにベタベタ触ることないじゃないですか!」
 目の前の愛ちゃんは当然お怒り。力強い声で叫ぶ。
「別に触るくらい普通でしょ。気にし過ぎだって。んだからさ」
『誰のものでもない』というワードを聞き、愛ちゃんは眉をピクリと動かした。
「それは、そうですけど……。と、というか、晃狩さんへの用事って何なんですか!?」
 とりあえず話を逸らそうとしたのか、愛ちゃんは話を本題に戻した。
「えぇ~。それは、神田さんには関係無いでしょ? 二人だけで話したいんだよね~」
 ムカッ!
 そんな音が、前から飛んできたような気がした。いや、それ程までに愛ちゃんが憤っているのだ。
「……」
 愛ちゃんは少し俯くと、途端に何も発さなくなった。引き止めるつもりもないみたいだ。
 しかし、それだと困る。小熊さんと二人で話なんて、何を言われるか分かったもんじゃないからだ。
「神田さんもすっかり黙っちゃったし、ちょっと廊下行こうか」
 彼女の笑みの中には、有無を言わせぬ何かがあった。
「う、うん……」
 一体何を企んでいるのだろう。
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