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第二章 『厄介な日常』
イケメンの決戦
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香山と日溜君の(エアーホッケーでの)攻防は見事なものであった。試合前の香山の顔はゲスかったけれども、勝負自体は正々堂々、不正なしに行っていた。
手に汗握る熱い戦い。それを制したのは日溜君であった。どちらが勝ってもおかしくない接戦であったが、日溜君の方が少しだけ実力が高かったのだろう。
いやまあ別に、それは良いんだ。うん、勝負の結果はな。
問題は──
彼の勝利によって、俺が勝たなくてはならない雰囲気になっている事である。
「多田! 頑張れ!」
「あ、あぁ……。うん」
あらゆるゲームで俺が敗北してきたのを彼はその目に焼き付けているはず。それなのに、まだ期待のまなざしを向けてきている。
やめてくれ。
どうせ俺は、期待には応えられないんだから。
「多田くん。本日のラストを飾る戦い、楽しくやろう」
「は、はあ」
朝日君は余裕の笑みを浮かべて手を差し出す。気のない返事を返して、俺はその手を握った。
「よーい、スタート!」
日溜君の声を合図に、俺達2人は百円玉を機械へ入れる。すばやくマレットを構え、小さな穴が空いている台の全面を睨みつける。
実力がないにしても、やれる事は全力でやらなくては。
カランッ!
決意をしていた矢先に、そんな音が自分の下から聞こえてきた。
(ま、まさかな)
そう思って、機械の横に付いているパックが落ちる穴に視線を向けた。
「えっ……」
覗き込む必要も、もはやない。そこにパックが落ち着き払った様子で鎮座していたからだ。
「た、多田くん? ちゃんと見てた、よね?」
つい先程得点を決めた朝日君。何故か彼まで驚いている。俺がビックリするくらい下手くそだからか? ふざけやがって。
「見てたよ。馬鹿にしてるの?」
「そ、そんなつもりじゃないよ。ただ、俺の手元見てない感じだったからさ」
「……」
台は見ていたけど、敵である朝日君をあまり気にしていなかったな。パットだって目に入らなかったし。
「おい多田ァ! しっかりしてくれよ~」
「蓮と多田じゃあどうやったって無理だろ。分かってやれよ。あれでもアイツ頑張ってるんだから」
「う~む」
外野がうるさい。特に香山。
俺は結構戦いの最中は繊細だ。応援の声も必要最低限のボリュームにしてほしいし、何ならいらないと思ってしまう。そんな性質なのである。
「まあ気を取り直して。多田くん、どうぞ」
「わ、分かってるよ。急かすな」
予想外の出来事のせいで心が乱れてきているんだ。ゆっくり落ち着いて、打たないと。
俺はパットを台に置き、動くそれを押さえながら深呼吸をした。「どうせ何したって変わらない」そんな香山の言葉にも腹を立てないように自分を制御した。
そしてやっと、マレットを構え直すことができたのだ。
(よし、いけるっ)
マレットが台と接触した瞬間、そこがひどく滑りやすいことが伝わってきた。しかし慌てず俺はパットをカン! と打つ。
渾身の一撃。そう言っても過言じゃない。
けれど目の前の朝日君は笑っていた。その顔にはどこか焦りも伺えたが、まあ気のせいだろう。
勝者の笑みは崩れない。そう言いたいのだろうか。
「……あっ」
俺が不機嫌に目を細めていると、彼はそう声を漏らした。攻撃を返すタイミングがわずか0.数秒程度遅れたのだ。
そんな、まさか。
にわかには信じられないかもしれない。しかし得点板にはしっかりと俺に1点入れられている。朝日君だって、何か言いたそうに口をパクパクさせている!
「え、蓮アイツ……」
「多田の打ち方のそこまで悪くなかったからな、まぐれかもしれないけど結構いい勝負になってきたんじゃないか?」
「1対1でいい勝負なのか? よく分からんな」
外野の方もざわつき出す。仕方ないよな、自分でも驚きだ。
あと1点。
もし取れたなら、勝てるかもしれない。今のが偶然起きた奇跡でなければ、可能性はあるぞ。
「多田くん思っていたよりいい出し方をするね。でも、これで終わりにしてあげるよ。もうじき試合終了だからね」
朝日君はすぅっ、と息を吸う。
そして夜のジャングルを彷徨う獣のように眼を輝かせ、マレットを力の赴くままに動かした。
しかし飛ばされたパットは横の壁と衝突し、俺の元へ来る頃には本来の速度を失ってしまっていた。
「もらったぁ!」
勝利を確信した俺は叫ぶとともに、点を取られた時の恨みを晴らすためパットに活を入れた。
そして、俺は──
「おめでとう、多田くん。素晴らしかったよ」
「ありがとう。てか俺、初めて勝ったかもしれない!」
「それは、おめでたい事だね。俺は敗北者第一号、と言った所かな」
「ハハハ、まあそうなるね」
俺が点を決めた直後に試合は終了した。つまり、2対1で俺は勝利したという訳だ。
「白チームが見事に勝利! いや~、いい気分だな、多田!」
突然日溜君が肩を掴んできた。勝った喜びに浸るのも、悪くないな。
「本当におめでとう。さて、じゃあそろそろ帰ろうか」
「そうだな」
「そうだね」
「……」
☆ ☆ ☆
日溜君達と別れ、俺と香山は静かに帰路についていた。
「……そういえば」
「どうした?」
「お前、本気で蓮に勝てたと思ってるだろ?」
「え。うん。だって、そうじゃないの?」
「マジで馬鹿だな。多分お前に同情したんだろうが、わざと負けたんだよ」
「う、嘘だろ……」
それがもし事実だとすれば、朝日君イケメン過ぎだろう。そして俺は結局可哀想な奴という事か。
「嘘じゃない。アイツは絶対もっとできる」
「ハァ、そっか。朝日君凄いなぁ。俺もあんな人間になりたい」
「無理だな」
「ひどっ。即答かよ」
手に汗握る熱い戦い。それを制したのは日溜君であった。どちらが勝ってもおかしくない接戦であったが、日溜君の方が少しだけ実力が高かったのだろう。
いやまあ別に、それは良いんだ。うん、勝負の結果はな。
問題は──
彼の勝利によって、俺が勝たなくてはならない雰囲気になっている事である。
「多田! 頑張れ!」
「あ、あぁ……。うん」
あらゆるゲームで俺が敗北してきたのを彼はその目に焼き付けているはず。それなのに、まだ期待のまなざしを向けてきている。
やめてくれ。
どうせ俺は、期待には応えられないんだから。
「多田くん。本日のラストを飾る戦い、楽しくやろう」
「は、はあ」
朝日君は余裕の笑みを浮かべて手を差し出す。気のない返事を返して、俺はその手を握った。
「よーい、スタート!」
日溜君の声を合図に、俺達2人は百円玉を機械へ入れる。すばやくマレットを構え、小さな穴が空いている台の全面を睨みつける。
実力がないにしても、やれる事は全力でやらなくては。
カランッ!
決意をしていた矢先に、そんな音が自分の下から聞こえてきた。
(ま、まさかな)
そう思って、機械の横に付いているパックが落ちる穴に視線を向けた。
「えっ……」
覗き込む必要も、もはやない。そこにパックが落ち着き払った様子で鎮座していたからだ。
「た、多田くん? ちゃんと見てた、よね?」
つい先程得点を決めた朝日君。何故か彼まで驚いている。俺がビックリするくらい下手くそだからか? ふざけやがって。
「見てたよ。馬鹿にしてるの?」
「そ、そんなつもりじゃないよ。ただ、俺の手元見てない感じだったからさ」
「……」
台は見ていたけど、敵である朝日君をあまり気にしていなかったな。パットだって目に入らなかったし。
「おい多田ァ! しっかりしてくれよ~」
「蓮と多田じゃあどうやったって無理だろ。分かってやれよ。あれでもアイツ頑張ってるんだから」
「う~む」
外野がうるさい。特に香山。
俺は結構戦いの最中は繊細だ。応援の声も必要最低限のボリュームにしてほしいし、何ならいらないと思ってしまう。そんな性質なのである。
「まあ気を取り直して。多田くん、どうぞ」
「わ、分かってるよ。急かすな」
予想外の出来事のせいで心が乱れてきているんだ。ゆっくり落ち着いて、打たないと。
俺はパットを台に置き、動くそれを押さえながら深呼吸をした。「どうせ何したって変わらない」そんな香山の言葉にも腹を立てないように自分を制御した。
そしてやっと、マレットを構え直すことができたのだ。
(よし、いけるっ)
マレットが台と接触した瞬間、そこがひどく滑りやすいことが伝わってきた。しかし慌てず俺はパットをカン! と打つ。
渾身の一撃。そう言っても過言じゃない。
けれど目の前の朝日君は笑っていた。その顔にはどこか焦りも伺えたが、まあ気のせいだろう。
勝者の笑みは崩れない。そう言いたいのだろうか。
「……あっ」
俺が不機嫌に目を細めていると、彼はそう声を漏らした。攻撃を返すタイミングがわずか0.数秒程度遅れたのだ。
そんな、まさか。
にわかには信じられないかもしれない。しかし得点板にはしっかりと俺に1点入れられている。朝日君だって、何か言いたそうに口をパクパクさせている!
「え、蓮アイツ……」
「多田の打ち方のそこまで悪くなかったからな、まぐれかもしれないけど結構いい勝負になってきたんじゃないか?」
「1対1でいい勝負なのか? よく分からんな」
外野の方もざわつき出す。仕方ないよな、自分でも驚きだ。
あと1点。
もし取れたなら、勝てるかもしれない。今のが偶然起きた奇跡でなければ、可能性はあるぞ。
「多田くん思っていたよりいい出し方をするね。でも、これで終わりにしてあげるよ。もうじき試合終了だからね」
朝日君はすぅっ、と息を吸う。
そして夜のジャングルを彷徨う獣のように眼を輝かせ、マレットを力の赴くままに動かした。
しかし飛ばされたパットは横の壁と衝突し、俺の元へ来る頃には本来の速度を失ってしまっていた。
「もらったぁ!」
勝利を確信した俺は叫ぶとともに、点を取られた時の恨みを晴らすためパットに活を入れた。
そして、俺は──
「おめでとう、多田くん。素晴らしかったよ」
「ありがとう。てか俺、初めて勝ったかもしれない!」
「それは、おめでたい事だね。俺は敗北者第一号、と言った所かな」
「ハハハ、まあそうなるね」
俺が点を決めた直後に試合は終了した。つまり、2対1で俺は勝利したという訳だ。
「白チームが見事に勝利! いや~、いい気分だな、多田!」
突然日溜君が肩を掴んできた。勝った喜びに浸るのも、悪くないな。
「本当におめでとう。さて、じゃあそろそろ帰ろうか」
「そうだな」
「そうだね」
「……」
☆ ☆ ☆
日溜君達と別れ、俺と香山は静かに帰路についていた。
「……そういえば」
「どうした?」
「お前、本気で蓮に勝てたと思ってるだろ?」
「え。うん。だって、そうじゃないの?」
「マジで馬鹿だな。多分お前に同情したんだろうが、わざと負けたんだよ」
「う、嘘だろ……」
それがもし事実だとすれば、朝日君イケメン過ぎだろう。そして俺は結局可哀想な奴という事か。
「嘘じゃない。アイツは絶対もっとできる」
「ハァ、そっか。朝日君凄いなぁ。俺もあんな人間になりたい」
「無理だな」
「ひどっ。即答かよ」
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