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第三章 『嫌な展開』
ただの自己中ではないってこと……?
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「ご、ごめんなさい、晃狩様。……けど、本当に、これが本心だから。貴方にふさわしいのは、私だから」
「本心だったら何でも言っていいのかよ!! 相手側の気持ちを考えられないのかよっ」
「……お、おいなんかヤバくないか?」
「誰か先生呼んだほうがいいんじゃない?」
普段は比較的大人しいこの俺が、突然女の子の胸ぐらを掴んで叫んでいるのだ。クラスメート達が違和感を抱かないはずがない。
しかし。
「いや、大丈夫だ。言わせてやってくれ」
先生の元へ行こうと駆け出した女子生徒を手で制止したのは、まっすぐに俺を見つめる香山だった。「たまにはストレスを発散しなければ息が詰まるだろう」
「ストレス……。羽衣さんが多田君に与えてたの?」
「ああ。まぁ、あまり詳しくは言えないが」
「そっか。……それでもこの状況が異常だってことくらい分かるよ。だってあの多田君があんなに怒ってるんだもん」
「そうか、それは良かった」
二人の会話を耳にして、自分の行動が否定されていないことに安心した。
しかしそんなことよりも今は、目の前のことに集中するべきだよな。
「相手側の、気持ち……?」
「そうだよ。俺や、愛花の気持ちだよ」
「そんなの、分からない」
「はぁ?」
「だって、教えてもらってないから。今、自分が感じている以外のことまで、考えられないから」
羽衣さんはしゅんと下を向いた。先程のように開き直ってこられたらどうしようと思ったが、さすがの彼女にも思うところがあるのだろう。
「“考えられない”じゃなくて、“考えようとしていない”、って訳ではなくて?」
軽蔑という感情がこれでもかというほど塗りたくられた表情で、加納院さんが会話に入ってきた。その後ろでは愛ちゃんも羽衣さんを睨めつけている。
「……」
一歩後退った羽衣さん。一度強く瞳を閉じてから、おもむろに語り出す。
「確かに私、相手がどう思うか、なんて考えたこと無かった。けど、「考えなさいよ」って、言われてない。だから、それが当たり前なんだと思う。そういう中で、育ったから」
「ハァ。冬、よーく聞きなさい。──それは開き直って自分を正当化しているだけよ」
その声はずいぶん冷えきっていた。加納院さんの抱く羽衣さんへの思いも、まさにこんな感じなのだろう。
「適当なこと、言わないで。メイさんは、知らないんだから。私を取り巻く、環境のことを」
「うん、そうね。確かに知らないわ。でもね、アンタのは言い訳よ。百パーセントね」
「だから、知らないのに、見てないのに、決めないで。どうして、証拠もないのにそうやって断言できるの?」
「それはね、アンタが今までも、ず~っとそうやって逃げてきたからよ。『他人の気持ち』からね」
「っ……」
とうとう言い返せなくなってしまった羽衣さんは、か弱い眼光を加納院さんに向ける。
「ほら図星。理解してるんじゃない、自分自身で。それなのに改善しようとしないなんて、ただの最悪な女じゃないの」
「! ち、違う。私は、『最悪』じゃない! それに、メイさんこそ、私の気持ちを考えてない。そっちだって、自分だけが正しいと思ってる。私も、メイさんも、変わらない……!」
バタッ!
「最悪」に反応し発作のように意見を述べた羽衣さんは、なんの前触れもなく崩れ落ちてしまう。
「えっ? 急にどうしたの羽衣さん!?」
「わ、分からないわ。ただ、一番に考えられるのは──」
先程まではただただ冷たい顔をしていた加納院さんだが、途端に焦ったような様子を見せる。「トラウマが、フラッシュバックした可能性ね」
「ト、トラウマ?」
彼女にもそんなものがあったのか、とまではいかないが、なんとなく意外だった。普段自分勝手に振る舞っている人でも、つつかれたくない心の闇があるものなんだな。
「とりあえず、保健室に運びましょうっ。このまま放って置くわけにもいきませんから」
今まで何のアクションも起こさず静かに事を見守っていた愛ちゃんが、騒ぎが大きくなるのを懸念してか羽衣さんを担ぎ出した。それを見た加納院さんは慌てて彼女を手伝う。
「なんか、見た目の割に重いわね、この子」
「ちょっ! 沢山人が見ているというのにどうしてわざわざ声に出しちゃうんですか! そういうことは心の中に留めておくことでしょう!」
「え、ごめん。つい」
「はぁ……。まぁ今はいいです、とにかく急ぎましょう」
「そうね」
唐突にいつもの日常に戻った二人のやり取り。
それを見て、クラスメイト達も段々とほっこりしてきたようだ。「あんなに細身なのに重いなんて不思議だね」だとか、「神田さん達の力が弱いだけなんじゃないの?」だとか、くだらない会話をして盛り上がっている。
「……どうしよう。付いていく?」
二人がかりでえっさ、ほいさと女体を運ぶ少女達を目で追いながら、いかにも手持ち無沙汰といった感じの小熊さんに尋ねる。
彼女は「私が決めるんですか!?」とでも言いたげだったが、その気持ちを言葉にすることはなく「そうしましょう」と頷いた。
「本心だったら何でも言っていいのかよ!! 相手側の気持ちを考えられないのかよっ」
「……お、おいなんかヤバくないか?」
「誰か先生呼んだほうがいいんじゃない?」
普段は比較的大人しいこの俺が、突然女の子の胸ぐらを掴んで叫んでいるのだ。クラスメート達が違和感を抱かないはずがない。
しかし。
「いや、大丈夫だ。言わせてやってくれ」
先生の元へ行こうと駆け出した女子生徒を手で制止したのは、まっすぐに俺を見つめる香山だった。「たまにはストレスを発散しなければ息が詰まるだろう」
「ストレス……。羽衣さんが多田君に与えてたの?」
「ああ。まぁ、あまり詳しくは言えないが」
「そっか。……それでもこの状況が異常だってことくらい分かるよ。だってあの多田君があんなに怒ってるんだもん」
「そうか、それは良かった」
二人の会話を耳にして、自分の行動が否定されていないことに安心した。
しかしそんなことよりも今は、目の前のことに集中するべきだよな。
「相手側の、気持ち……?」
「そうだよ。俺や、愛花の気持ちだよ」
「そんなの、分からない」
「はぁ?」
「だって、教えてもらってないから。今、自分が感じている以外のことまで、考えられないから」
羽衣さんはしゅんと下を向いた。先程のように開き直ってこられたらどうしようと思ったが、さすがの彼女にも思うところがあるのだろう。
「“考えられない”じゃなくて、“考えようとしていない”、って訳ではなくて?」
軽蔑という感情がこれでもかというほど塗りたくられた表情で、加納院さんが会話に入ってきた。その後ろでは愛ちゃんも羽衣さんを睨めつけている。
「……」
一歩後退った羽衣さん。一度強く瞳を閉じてから、おもむろに語り出す。
「確かに私、相手がどう思うか、なんて考えたこと無かった。けど、「考えなさいよ」って、言われてない。だから、それが当たり前なんだと思う。そういう中で、育ったから」
「ハァ。冬、よーく聞きなさい。──それは開き直って自分を正当化しているだけよ」
その声はずいぶん冷えきっていた。加納院さんの抱く羽衣さんへの思いも、まさにこんな感じなのだろう。
「適当なこと、言わないで。メイさんは、知らないんだから。私を取り巻く、環境のことを」
「うん、そうね。確かに知らないわ。でもね、アンタのは言い訳よ。百パーセントね」
「だから、知らないのに、見てないのに、決めないで。どうして、証拠もないのにそうやって断言できるの?」
「それはね、アンタが今までも、ず~っとそうやって逃げてきたからよ。『他人の気持ち』からね」
「っ……」
とうとう言い返せなくなってしまった羽衣さんは、か弱い眼光を加納院さんに向ける。
「ほら図星。理解してるんじゃない、自分自身で。それなのに改善しようとしないなんて、ただの最悪な女じゃないの」
「! ち、違う。私は、『最悪』じゃない! それに、メイさんこそ、私の気持ちを考えてない。そっちだって、自分だけが正しいと思ってる。私も、メイさんも、変わらない……!」
バタッ!
「最悪」に反応し発作のように意見を述べた羽衣さんは、なんの前触れもなく崩れ落ちてしまう。
「えっ? 急にどうしたの羽衣さん!?」
「わ、分からないわ。ただ、一番に考えられるのは──」
先程まではただただ冷たい顔をしていた加納院さんだが、途端に焦ったような様子を見せる。「トラウマが、フラッシュバックした可能性ね」
「ト、トラウマ?」
彼女にもそんなものがあったのか、とまではいかないが、なんとなく意外だった。普段自分勝手に振る舞っている人でも、つつかれたくない心の闇があるものなんだな。
「とりあえず、保健室に運びましょうっ。このまま放って置くわけにもいきませんから」
今まで何のアクションも起こさず静かに事を見守っていた愛ちゃんが、騒ぎが大きくなるのを懸念してか羽衣さんを担ぎ出した。それを見た加納院さんは慌てて彼女を手伝う。
「なんか、見た目の割に重いわね、この子」
「ちょっ! 沢山人が見ているというのにどうしてわざわざ声に出しちゃうんですか! そういうことは心の中に留めておくことでしょう!」
「え、ごめん。つい」
「はぁ……。まぁ今はいいです、とにかく急ぎましょう」
「そうね」
唐突にいつもの日常に戻った二人のやり取り。
それを見て、クラスメイト達も段々とほっこりしてきたようだ。「あんなに細身なのに重いなんて不思議だね」だとか、「神田さん達の力が弱いだけなんじゃないの?」だとか、くだらない会話をして盛り上がっている。
「……どうしよう。付いていく?」
二人がかりでえっさ、ほいさと女体を運ぶ少女達を目で追いながら、いかにも手持ち無沙汰といった感じの小熊さんに尋ねる。
彼女は「私が決めるんですか!?」とでも言いたげだったが、その気持ちを言葉にすることはなく「そうしましょう」と頷いた。
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