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第三章 『嫌な展開』
幼馴染とプール
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見間違いかもしれないと、俺は必死に目を擦った。手を濡らすプールの水がしみて痛くなることなど、厭わずに。
しかしその光景は確かに存在していて、俺の繊細な心を、これでもかという程の勢いで叩き割った。
「どうしたんだ、多田ぁ。なんだか悲しそうな顔をしてるけどぉ」
空を見上げながら、まるで酩酊したみたいに緩んだ表情の日溜君が言う。
何故あの空に視線を向けながら俺の表情の異変に気付いたのかは分からないが、とりあえず「いや、目にゴミが入っただけ」と返事をし、彼と同じように空を仰いだ。
(確かに俺の瞳には──愛花が映った。どう考えても、あれは他人の空似じゃない)
ただ、問題なのはアイツがプールに来ていたことではない。
そう。アイツはっ、愛花は……
「……。多田、元気出せよ」
「え、急に真剣に何。日溜君」
「誤魔化さなくていい。今お前、ちょっと前の俺と、おんなじ顔してる」
「ひ、日溜君……っ」
──男と二人きりで、プールに来ていたんだ。
「俺の父さんのヤケ酒を彷彿とさせる食べっぷりだな~」
「……腹壊すぞ」
俺は日溜君と共に、香山の元でかき氷を口にかき込んでいた。辛い気持ちになったときには、食べるのが一番だ。
ズキッ!
「ゔっ……」
冷たいものは、ゆっくり食べた方がいいな……。
「突然プールから上がったと思ったらガツガツかき氷を頬張って、多田は一体どうしたんだ?」
「う~ん、まぁ端的に言うと、失恋だな」
「失恋? じゃあ愛花がここに来てるってことか?」
「そういうことだな」
頭痛に悩まされる俺に哀れみの目を向けながら、香山と日溜君の会話は続く。
「でも、その愛花ちゃんも、後ろめたさは感じてたんだろうな。わざわざバイトがあるって嘘ついてたんだから」
「嘘……。あぁ、あれか」
「彼氏ができたなら、「彼氏ができたんだ」って言ってくれた方が俺としてはいいけどな~。嘘つかれると、虚しい期待しちゃうし」
「そ、そういうものなのか?」
日溜君の思考が理解し難いのか、香山はなんだか素っ頓狂な表情だ。
「そりゃそうだろ。気を遣ってくれてるのは嬉しいけど、スパッと振ってくれた方が気が楽。ま、それでも執着したくなっちゃうんだけど」
「なる、ほど」
振ることはあっても決して振られることは無い香山。こちら側の気持ちなんて初めて知ったんだろうな。
「……言っておいた方が、いいかもしれないな」
「は?」
やっと頭が治った俺に真剣な面持ちを向け、香山はおもむろに口を開く。
「愛花は、お前に嘘なんてついていない」
「……え? ど、どういうこと?」
「「バイトがある」と嘘をついていたのは僕なんだ」
「な、なんでそんなこと」
ばつが悪そうに、香山は俯いた。
「よ、良かれと思って……。まさか、それが傷付ける原因になるとは思いもしなかったんだ。その……すまなかった」
こんなに香山が下手に出るなんて、珍しい。
(急にとてつもなく真面目になるから、憎めないんだよな)
「い、いいよ別に。香山が嘘ついたことによって愛花と付き合えなくなったって訳じゃないんだし。それに、俺のためを思ってしてくれたことなんだろ? 香山がそんな優しいことをしてくれたんだから、むしろ嬉しいよ」
「多田……」
「……」俺達のやりとりを見ながら、シャクシャクとかき氷を食べていた日溜君が一言。「お前ら、伊達に幼馴染やってないんだなぁ」
「なんだよ、藪から棒に」照れくさそうに香山が返す。今日は香山の表情がコロコロ変わるので、なんとなく幸運な感じがするな。
「いや、なんか……小さい子みたいに、素直に自分の気持ちを言えてるからさ。いいなぁって」
「なんだよ、それ」
香山が顔を後ろへ向ける。これは完全に、照れている。照れまくっている。
こんな香山の姿、今日を逃したら次は無いかもしれない。だから、しっかり記録として残しておかなくては!
日溜君とアイコンタクトをとって、すぐさま俺は携帯電話を取り出す。
そして次の瞬間、日溜君は香山にしがみつき、俺は香山の顔の方へ回り込む。
「ちょっ、何してるんだお前等!」
「香山! ハイ、チーズ!」
「は、はぁ!?」
──パシャ。
「消せ! その写真を今すぐ削除しろ多田ぁ!」
「これは永久保存版だから、削除は許されないよ」
「ふざけてないで今すぐ消せ、多田! というか日溜、いい加減離れてくれっ。多田を追いかけられないだろ」
「香山~、暴れないでくれ~」
「無視するなぁ!」
こんなに香山に意地悪できるなんて、今日は予想外のことが多過ぎる。
中にはこれ以上ない程の悪い出来事もあったけれど、これだけ愉快な仲間がいれば、悲しみも笑顔に塗り替えられる。
(これから先も、きっと同じように苦しみを乗り越えていくんだろうな)
本当に愛花を諦めなければならないという苦悩のことを考える隙などなかった。俺は今、ただケラケラと声を張り上げて笑っている。明るい感情しか湧いてこないのだ。
「皆さ~ん、そろそろお昼にしましょうっ。……って、一体何があったのですか?」
「愛ちゃん! 別に大したことじゃないよ。盗撮したら、香山が暴れだして」
「香山さんって、写真苦手そうですもんね……。納得です」
「そんなことはいいから、早くご飯食べましょ。沢山泳いだからお腹がペコペコだわ」
「そうですね、メイさん」
──人生は、何が起こるか分からない。
この夏休み中にとある重大なことを知るなんて、この時の俺は考えてもいなかったのだ……。
しかしその光景は確かに存在していて、俺の繊細な心を、これでもかという程の勢いで叩き割った。
「どうしたんだ、多田ぁ。なんだか悲しそうな顔をしてるけどぉ」
空を見上げながら、まるで酩酊したみたいに緩んだ表情の日溜君が言う。
何故あの空に視線を向けながら俺の表情の異変に気付いたのかは分からないが、とりあえず「いや、目にゴミが入っただけ」と返事をし、彼と同じように空を仰いだ。
(確かに俺の瞳には──愛花が映った。どう考えても、あれは他人の空似じゃない)
ただ、問題なのはアイツがプールに来ていたことではない。
そう。アイツはっ、愛花は……
「……。多田、元気出せよ」
「え、急に真剣に何。日溜君」
「誤魔化さなくていい。今お前、ちょっと前の俺と、おんなじ顔してる」
「ひ、日溜君……っ」
──男と二人きりで、プールに来ていたんだ。
「俺の父さんのヤケ酒を彷彿とさせる食べっぷりだな~」
「……腹壊すぞ」
俺は日溜君と共に、香山の元でかき氷を口にかき込んでいた。辛い気持ちになったときには、食べるのが一番だ。
ズキッ!
「ゔっ……」
冷たいものは、ゆっくり食べた方がいいな……。
「突然プールから上がったと思ったらガツガツかき氷を頬張って、多田は一体どうしたんだ?」
「う~ん、まぁ端的に言うと、失恋だな」
「失恋? じゃあ愛花がここに来てるってことか?」
「そういうことだな」
頭痛に悩まされる俺に哀れみの目を向けながら、香山と日溜君の会話は続く。
「でも、その愛花ちゃんも、後ろめたさは感じてたんだろうな。わざわざバイトがあるって嘘ついてたんだから」
「嘘……。あぁ、あれか」
「彼氏ができたなら、「彼氏ができたんだ」って言ってくれた方が俺としてはいいけどな~。嘘つかれると、虚しい期待しちゃうし」
「そ、そういうものなのか?」
日溜君の思考が理解し難いのか、香山はなんだか素っ頓狂な表情だ。
「そりゃそうだろ。気を遣ってくれてるのは嬉しいけど、スパッと振ってくれた方が気が楽。ま、それでも執着したくなっちゃうんだけど」
「なる、ほど」
振ることはあっても決して振られることは無い香山。こちら側の気持ちなんて初めて知ったんだろうな。
「……言っておいた方が、いいかもしれないな」
「は?」
やっと頭が治った俺に真剣な面持ちを向け、香山はおもむろに口を開く。
「愛花は、お前に嘘なんてついていない」
「……え? ど、どういうこと?」
「「バイトがある」と嘘をついていたのは僕なんだ」
「な、なんでそんなこと」
ばつが悪そうに、香山は俯いた。
「よ、良かれと思って……。まさか、それが傷付ける原因になるとは思いもしなかったんだ。その……すまなかった」
こんなに香山が下手に出るなんて、珍しい。
(急にとてつもなく真面目になるから、憎めないんだよな)
「い、いいよ別に。香山が嘘ついたことによって愛花と付き合えなくなったって訳じゃないんだし。それに、俺のためを思ってしてくれたことなんだろ? 香山がそんな優しいことをしてくれたんだから、むしろ嬉しいよ」
「多田……」
「……」俺達のやりとりを見ながら、シャクシャクとかき氷を食べていた日溜君が一言。「お前ら、伊達に幼馴染やってないんだなぁ」
「なんだよ、藪から棒に」照れくさそうに香山が返す。今日は香山の表情がコロコロ変わるので、なんとなく幸運な感じがするな。
「いや、なんか……小さい子みたいに、素直に自分の気持ちを言えてるからさ。いいなぁって」
「なんだよ、それ」
香山が顔を後ろへ向ける。これは完全に、照れている。照れまくっている。
こんな香山の姿、今日を逃したら次は無いかもしれない。だから、しっかり記録として残しておかなくては!
日溜君とアイコンタクトをとって、すぐさま俺は携帯電話を取り出す。
そして次の瞬間、日溜君は香山にしがみつき、俺は香山の顔の方へ回り込む。
「ちょっ、何してるんだお前等!」
「香山! ハイ、チーズ!」
「は、はぁ!?」
──パシャ。
「消せ! その写真を今すぐ削除しろ多田ぁ!」
「これは永久保存版だから、削除は許されないよ」
「ふざけてないで今すぐ消せ、多田! というか日溜、いい加減離れてくれっ。多田を追いかけられないだろ」
「香山~、暴れないでくれ~」
「無視するなぁ!」
こんなに香山に意地悪できるなんて、今日は予想外のことが多過ぎる。
中にはこれ以上ない程の悪い出来事もあったけれど、これだけ愉快な仲間がいれば、悲しみも笑顔に塗り替えられる。
(これから先も、きっと同じように苦しみを乗り越えていくんだろうな)
本当に愛花を諦めなければならないという苦悩のことを考える隙などなかった。俺は今、ただケラケラと声を張り上げて笑っている。明るい感情しか湧いてこないのだ。
「皆さ~ん、そろそろお昼にしましょうっ。……って、一体何があったのですか?」
「愛ちゃん! 別に大したことじゃないよ。盗撮したら、香山が暴れだして」
「香山さんって、写真苦手そうですもんね……。納得です」
「そんなことはいいから、早くご飯食べましょ。沢山泳いだからお腹がペコペコだわ」
「そうですね、メイさん」
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