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『天候を操る者』は、覆す
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──『天候を操る者』。
彼らは天界を、大きく変化させる。
ある者は『神のルール』を定め、天界の社会の軸をはっきりさせた。
ある者は、まず、天界に『天気』という概念を生み出した。
またある者は悪天候で人々を脅し、『悪』という概念を生み出した。
さて、では──
リョーゼちゃん、彼女は何を変えてくれるのかな?
◆ ◆ ◆
「陛下、大変です!」
僕が眠い目を擦りながら資料を眺めていると、衛兵の一人が冷や汗をかいてやってきた。
「? 何があった?」
「エニソン家が……大規模な家族喧嘩をしてるんです!」
(そんなに騒ぐほどの事か? 大規模といっても所詮は……)
しかしそこで、僕は気付いた。
そう、あの家には。
天候を操る者がいる!
「ちょっと行ってくる!」
僕は急いで宮殿──と呼べる程立派ではないが──から出て、エニソン宅に向かった。
エニソン宅に近付いていけば近付いていく程分かる、この雷の音。
リョーゼちゃんが、母と同様に、家族の誰かを殺そうとしている。
(止めないと! 僕の代でエニソン家崩壊なんて、洒落にならない!)
──ゴロゴロゴロ……ドーーン!
「ぐああああ!」
(この声は…まさか!?)
渋い男性の声。という事は。
若い兄二人(トミー、ターベル)ではないだろう。
つまりは──
彼女達の父・『ドナー=エニソン』と、いう事か。
僕は深く息を吸った。
「リョーゼちゃん! 聞こえているかい? お願いだよ! こんな事はやめてほしい! きっとお兄さん達だってこんな事を望んでは……」
彼女は僕の声が聞こえたらしく、軽くしゃがんで背後にいた兄達の存在をアピールした。
トミー君は僕の事を視界に入れず、どこか遠くを眺めていた。
それに対してターベル君はニコニコの笑顔で僕に手を振っている。
「これは、私達三兄妹の意志です! いつだって、新たな世界を築くのは若者! 貴方なんてその例ですよ!」
リョーゼちゃんは髪を風になびかせながら、たくましく叫んだ。
「……僕は、リョーゼがリンとして生きる事は悪い事だと考えていました。けど、それは母様達の思いで、僕自身の考えている事ではないと、分かったんです!」
トミー君は相変わらず目も合わせないままだが、妹に負けじと、自分も叫んだ。
「ボクはただ、面白い事をしたいだけですからね。それに、可愛い弟と妹の行動を、否定するわけにはいきませんし」
ターベル君はヘラヘラ笑いながら言っていた。
だが、彼はきっと、心から弟達を想っているのだろう。
「……まず、こんな事になった理由は?」
「父さんが、トミーの日本担当継続が気に入らないみたいで」
ターベル君はちらりと、雷に打たれて地に伏せているドナーさんに視線を向けた。
「それに、私の姿も。お母さんの死から、何も学習していないみたいです」
リョーゼちゃんが毛先を弄びながら話す。
そういえば、もう雷はやんでいる。空も明るくなっている。
という事は、ドナーさんは死んでいる、もしくはかなり死に近い状態なのだろう。
トミー君が僕に近寄り、深々と頭を下げる。
「さて、ご迷惑お掛けしましたが、もう終わったんで大丈夫ですよ。これから、日本をどんどん創っていく予定です」
「そうか……。まぁ、死んだ者の命はもう戻らない。これ以上問題を起こすのは、やめてね」
僕は特に何もしていないのだが、何だかすごい疲れた。
「はい!」
「あ、そうだっ! 王様には一応言っておきますけど、私、お兄様が日本を創ったらそこで生活する事にしました!」
リョーゼちゃんが純粋で輝かしい笑顔を向ける。
「……え?」
「天界にいても楽しくないので。やっぱり、愛した人がいた土地ですからっ」
リョーゼちゃんの愛した人に関してはよく分からないけど、まぁ、さすがとしか言いようがない。
「まあ、頑張ってね」
「はい!」
(うわぁ、すごいなぁ)
リョーゼちゃんは、僕がトミー君に初めて仕事を命じた時と同じような、心が癒やされるような笑みを浮かべていた。
♠ ♠ ♠
リョーゼちゃんは、神は天界に住むものという常識を覆してきた。
(ふぅ、参ったなぁ……)
とは思うものの、やはり嬉しさはある。
もしかしたら僕の名も、今後天界で語り継がれるかもしれない!
そう考えただけでにやけてしまう。
「へ、陛下……?」
部屋に入ってきたメイドが僕の表情を見てドン引きしている。
「ん? あぁ、申し訳ない。で、何か?」
「あ、はい。あの、リョーゼ様の送別パーティーのお時間です」
「おお、ありがとう。では、早速出席してくるとしよう。」
メイドは深々と礼をした。
「楽しんでくださいね」
「……あぁ」
パーティーとはいったものの、それはかなり質素である。
それというのも、リョーゼちゃんからのリクエストで、
「自分がいなくなるだけなのに、あまり壮大にやってほしくはなくて……」
だそうなのだ。
そのため、人数も三兄妹と関わりのある人物数名で、そのうちの一人が僕という訳だ。
「あ! 王様っ! こんにちは~」
リョーゼちゃんは僕を見つけると、無邪気な笑顔で手を振ってきた。
「こんにちは。これで全員なのかい?」
僕は手を振り返し、質問した。
見たところ、参加しているのは三兄妹を含めないと、僕と──七人程度しか来ていない。
「全員ですよ。……少ないと思いましたか?」
「ゔ。まあ多少ね。君達にはもっと沢山招ける人もいるだろうと思って」
彼女は斜め下を向いた。
「……皆、この姿の私を認められなかったみたいです。エニソン家と親交が深い家は、ルールにうるさいので」
「とまあ、そんな感じですよ」
「! やあ、ターベル君」
ターベル君はワイングラスを片手に妖しい笑みを浮かべている。
「どうも、陛下」
「……というか君、ちゃんと神として仕事をしているのかい? 何だか怪しいんだよなぁ」
最近いつも、エニソン家に訪れるとターベル君は研究だの遊びだのしていて、仕事をこなしている気配がない。
「してますよ。ね、リン?」
『リン』と呼ばれ、リョーゼちゃんは表情を輝かせる。
「えぇ! もちろん! お兄さまは、仕事のスピードがとても早いんですよ!」
「……ならいいけどね。で、トミー君はどこに?」
辺りをキョロキョロするも、姿がない。さっきは確かに見たのだが。
「あ、お兄様なら家に戻りましたよ。日本の様子を見に。すっごいはしゃいでました」
「そうか。ありがとう」
兄と違って、トミー君は仕事を進んで行っているのか。感心だ。
「さて、では、パーティー開始で~す!」
リョーゼちゃんが嬉しそうに叫ぶ。
「美味し~ね。たまにはこういうのも悪くないよね」
彼女の傍らで、ターベル君はグビグビワインを飲んでいた。
「じゃあまずは、私の──」
それから数時間後。
日本の様子が落ち着いてきたようなので、途中からトミー君の参加などがあったリョーゼちゃん送別パーティーが、終了した。
いつの間にかしんみりとした空気になっていて、僕も自然と涙をこぼす。
「……リョーゼちゃん。日本でも、頑張るんだよ」
王だというのに、僕はろくなアドバイスも出来ないのか。と、情けなくなる。
「大丈夫です。きっと、明日香ちゃんが見ていてくれますからっ」
周りの者達は泣いているにも関わらず、リョーゼちゃん本人はずっと笑顔だ。
それだけ『明日香』という人物の事を想っているのだろう。
「……そうかい」
なんだか微笑ましい。
「じゃあ、行ってきますっ」
これからの生活への期待が詰まった眩しい笑顔で、弾んだとてもきれいな声色で、彼女は言った。
そのまま彼女は、以前使用した映画館のある場所へと向かっていったのだった。
《完》
彼らは天界を、大きく変化させる。
ある者は『神のルール』を定め、天界の社会の軸をはっきりさせた。
ある者は、まず、天界に『天気』という概念を生み出した。
またある者は悪天候で人々を脅し、『悪』という概念を生み出した。
さて、では──
リョーゼちゃん、彼女は何を変えてくれるのかな?
◆ ◆ ◆
「陛下、大変です!」
僕が眠い目を擦りながら資料を眺めていると、衛兵の一人が冷や汗をかいてやってきた。
「? 何があった?」
「エニソン家が……大規模な家族喧嘩をしてるんです!」
(そんなに騒ぐほどの事か? 大規模といっても所詮は……)
しかしそこで、僕は気付いた。
そう、あの家には。
天候を操る者がいる!
「ちょっと行ってくる!」
僕は急いで宮殿──と呼べる程立派ではないが──から出て、エニソン宅に向かった。
エニソン宅に近付いていけば近付いていく程分かる、この雷の音。
リョーゼちゃんが、母と同様に、家族の誰かを殺そうとしている。
(止めないと! 僕の代でエニソン家崩壊なんて、洒落にならない!)
──ゴロゴロゴロ……ドーーン!
「ぐああああ!」
(この声は…まさか!?)
渋い男性の声。という事は。
若い兄二人(トミー、ターベル)ではないだろう。
つまりは──
彼女達の父・『ドナー=エニソン』と、いう事か。
僕は深く息を吸った。
「リョーゼちゃん! 聞こえているかい? お願いだよ! こんな事はやめてほしい! きっとお兄さん達だってこんな事を望んでは……」
彼女は僕の声が聞こえたらしく、軽くしゃがんで背後にいた兄達の存在をアピールした。
トミー君は僕の事を視界に入れず、どこか遠くを眺めていた。
それに対してターベル君はニコニコの笑顔で僕に手を振っている。
「これは、私達三兄妹の意志です! いつだって、新たな世界を築くのは若者! 貴方なんてその例ですよ!」
リョーゼちゃんは髪を風になびかせながら、たくましく叫んだ。
「……僕は、リョーゼがリンとして生きる事は悪い事だと考えていました。けど、それは母様達の思いで、僕自身の考えている事ではないと、分かったんです!」
トミー君は相変わらず目も合わせないままだが、妹に負けじと、自分も叫んだ。
「ボクはただ、面白い事をしたいだけですからね。それに、可愛い弟と妹の行動を、否定するわけにはいきませんし」
ターベル君はヘラヘラ笑いながら言っていた。
だが、彼はきっと、心から弟達を想っているのだろう。
「……まず、こんな事になった理由は?」
「父さんが、トミーの日本担当継続が気に入らないみたいで」
ターベル君はちらりと、雷に打たれて地に伏せているドナーさんに視線を向けた。
「それに、私の姿も。お母さんの死から、何も学習していないみたいです」
リョーゼちゃんが毛先を弄びながら話す。
そういえば、もう雷はやんでいる。空も明るくなっている。
という事は、ドナーさんは死んでいる、もしくはかなり死に近い状態なのだろう。
トミー君が僕に近寄り、深々と頭を下げる。
「さて、ご迷惑お掛けしましたが、もう終わったんで大丈夫ですよ。これから、日本をどんどん創っていく予定です」
「そうか……。まぁ、死んだ者の命はもう戻らない。これ以上問題を起こすのは、やめてね」
僕は特に何もしていないのだが、何だかすごい疲れた。
「はい!」
「あ、そうだっ! 王様には一応言っておきますけど、私、お兄様が日本を創ったらそこで生活する事にしました!」
リョーゼちゃんが純粋で輝かしい笑顔を向ける。
「……え?」
「天界にいても楽しくないので。やっぱり、愛した人がいた土地ですからっ」
リョーゼちゃんの愛した人に関してはよく分からないけど、まぁ、さすがとしか言いようがない。
「まあ、頑張ってね」
「はい!」
(うわぁ、すごいなぁ)
リョーゼちゃんは、僕がトミー君に初めて仕事を命じた時と同じような、心が癒やされるような笑みを浮かべていた。
♠ ♠ ♠
リョーゼちゃんは、神は天界に住むものという常識を覆してきた。
(ふぅ、参ったなぁ……)
とは思うものの、やはり嬉しさはある。
もしかしたら僕の名も、今後天界で語り継がれるかもしれない!
そう考えただけでにやけてしまう。
「へ、陛下……?」
部屋に入ってきたメイドが僕の表情を見てドン引きしている。
「ん? あぁ、申し訳ない。で、何か?」
「あ、はい。あの、リョーゼ様の送別パーティーのお時間です」
「おお、ありがとう。では、早速出席してくるとしよう。」
メイドは深々と礼をした。
「楽しんでくださいね」
「……あぁ」
パーティーとはいったものの、それはかなり質素である。
それというのも、リョーゼちゃんからのリクエストで、
「自分がいなくなるだけなのに、あまり壮大にやってほしくはなくて……」
だそうなのだ。
そのため、人数も三兄妹と関わりのある人物数名で、そのうちの一人が僕という訳だ。
「あ! 王様っ! こんにちは~」
リョーゼちゃんは僕を見つけると、無邪気な笑顔で手を振ってきた。
「こんにちは。これで全員なのかい?」
僕は手を振り返し、質問した。
見たところ、参加しているのは三兄妹を含めないと、僕と──七人程度しか来ていない。
「全員ですよ。……少ないと思いましたか?」
「ゔ。まあ多少ね。君達にはもっと沢山招ける人もいるだろうと思って」
彼女は斜め下を向いた。
「……皆、この姿の私を認められなかったみたいです。エニソン家と親交が深い家は、ルールにうるさいので」
「とまあ、そんな感じですよ」
「! やあ、ターベル君」
ターベル君はワイングラスを片手に妖しい笑みを浮かべている。
「どうも、陛下」
「……というか君、ちゃんと神として仕事をしているのかい? 何だか怪しいんだよなぁ」
最近いつも、エニソン家に訪れるとターベル君は研究だの遊びだのしていて、仕事をこなしている気配がない。
「してますよ。ね、リン?」
『リン』と呼ばれ、リョーゼちゃんは表情を輝かせる。
「えぇ! もちろん! お兄さまは、仕事のスピードがとても早いんですよ!」
「……ならいいけどね。で、トミー君はどこに?」
辺りをキョロキョロするも、姿がない。さっきは確かに見たのだが。
「あ、お兄様なら家に戻りましたよ。日本の様子を見に。すっごいはしゃいでました」
「そうか。ありがとう」
兄と違って、トミー君は仕事を進んで行っているのか。感心だ。
「さて、では、パーティー開始で~す!」
リョーゼちゃんが嬉しそうに叫ぶ。
「美味し~ね。たまにはこういうのも悪くないよね」
彼女の傍らで、ターベル君はグビグビワインを飲んでいた。
「じゃあまずは、私の──」
それから数時間後。
日本の様子が落ち着いてきたようなので、途中からトミー君の参加などがあったリョーゼちゃん送別パーティーが、終了した。
いつの間にかしんみりとした空気になっていて、僕も自然と涙をこぼす。
「……リョーゼちゃん。日本でも、頑張るんだよ」
王だというのに、僕はろくなアドバイスも出来ないのか。と、情けなくなる。
「大丈夫です。きっと、明日香ちゃんが見ていてくれますからっ」
周りの者達は泣いているにも関わらず、リョーゼちゃん本人はずっと笑顔だ。
それだけ『明日香』という人物の事を想っているのだろう。
「……そうかい」
なんだか微笑ましい。
「じゃあ、行ってきますっ」
これからの生活への期待が詰まった眩しい笑顔で、弾んだとてもきれいな声色で、彼女は言った。
そのまま彼女は、以前使用した映画館のある場所へと向かっていったのだった。
《完》
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