神ノ創造する日本

鍵山 カキコ

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トミーの思い

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 トミーとヤエラは二人、エニソン宅へ向かっていた。
「雷がひどいな。これはリョーゼちゃんの力?」
「だと思われます。大方、母様を殺すためにやった。といった所でしょう」
 ヤエラはトミーが平然とそう述べた事に驚いた。
「母が死んだ……と思われるのに、随分余裕だね君は」
「言う程、母様のことを好んでいた訳では無いので……。それに、きっとエニソン家は崩壊の方向に向かっていますから」
「恐ろしい事を言うね」

     ◆ ◆ ◆

「どうぞ」 
 トミーが差し出した純白のティーカップには、青紫色の液体が溢れんばかりに入っている。
 ヤエラの顔が引きつった。
「な、何だい、これは」
「兄様の部屋にあった飲み物です。王様相手に何もお出ししないのは無礼かと思いまして」
(王に得体の知れぬ物飲ませる方が無礼だろう!)
 と思ったヤエラだが、その言葉は胸にしまっておいた。
(ズレているのかこの子……)
「コホン。さて、まずはお疲れ様。君ならやってくれると、信じていたよ」
 トミーの表情が、パァッと明るくなる。
「光栄ですっ」
 彼のそんな顔を見ていたら、ヤエラの頬は自然と緩んだ。
「フフフ。それで、訊きたい事があるのだが」
「? 何でしょう?」
 トミーはそう言って、コキュリと青紫色の液体を口に含んだ。
(え。凄いな、飲めるのか)
「? えっと……そんな驚かれることしましたか?」
 ヤエラは大口を開けて驚いていたようだ。
「あ、すまない。失礼だが、それを飲んだのに驚いてしまってね」
「……兄様は、考えていることこそ分からないけれど、何故だか信頼出来るんです。だから兄様の作った物は、飲めます」
「ほぅ」
 ヤエラは、「兄弟とはこういうものなのか?」とでも言いたげな表情だ。
「ところで、それ、何か説明とかなかったのかい?」
「…入っていた容器に、『吐露』と記載されていました」
「……? 飲む物の説明に、吐露?」
 ヤエラは首を傾げる。
「そう! 吐露さ!」
 トミーの座るソファの後ろから現れたターベルが叫んだ。
「に、兄様っ」
「やっぱり家に居たね、トミー。行動が早いっていうかなんていうか……」
「ターベル君、吐露の飲み物って何だい?君が作ったんだろう?」
「えぇ、陛下。それは正真正銘、ボクが作った物です。『吐露の薬』と、言うべきですかね。……トミーは結構、周りに流されやすい子なんですよ。何か命令されればよっぽどの事が無ければ従うし、誰かに不満を言ったりもしない。『良くできた子』と言えば聞こえは良いでしょうが、一番損をするのは本人でしょう?不満も何もかも溜め込み、自分の意見も言わず、殻にこもりっぱなしの人生。兄として、そんなのは嫌なんですよ、ボク」
「だから僕に気持ちを吐露させる為に……?」
 トミーは涙ぐんでいた。
 ターベルはそんな彼にウインクをしてみせた。
「折角我が国の王が目の前にいるんだ! 言いたいこと全部ぶつけてみなよ!」
「……うん!」
 ヤエラもトミーを受け入れる準備はできているようで、彼は大きく頷いていた。
「僕は──母様の言う事に従っていたくなかった! 自由が欲しかった! 日本なんてどうでも良かった! 滅ぼすなんて本当は嫌だった! どんどんどんどん罪悪感が込み上げてきて……どうしようもないんだ! 見て見ぬふりの父様とおさまなんて大嫌いだ! どしうて兄妹の中で一番の出来損ないって部外者に決め付けられないといけないの? 嫌だ! 何もかも!」
 ──バタンッ。
「うわぁ!? 大丈夫かい、トミー君!」
「大丈夫、疲れただけですよ。真情を話すなんて、きっと初めてのことですから」
「失礼だけど……に、兄らしいんだね。ターベル君も」
 ターベルは声を上げて笑った。
「アッハハハハ! 意外ですか~。まぁ、そう見えますよね。何せ、ボクは狂ってると言われがちですから」
(笑うところなのか?)

「──!」
 トミーが目を覚ました。
「あ、お目覚めのようですよ」
(兄様? 僕、何を──)
 トミーは頭を押さえながら周りを見回した。
「どうしたんだい? トミー君」
「陛下。思い出せなくて、何故寝ていたのか、何をしていたのか」
「そうなんだ……」
「陛下は覚えていらっしゃいますか?僕の行動」
「……」
 ヤエラはターベルにアイコンタクトを送る。
 ターベルはいたずらっ子のように笑いながら、
「シー」
と言って人差し指を口に当てた。

『目覚めた時にトミーが記憶を失っていたら、吐露した事自体がストレスとなってしまった可能性があります。……その時は、何も教えなくていいです』

「いや、覚えてないなぁ。というか、訊きたいことがあるんだった」
(僕そこまで長い間眠っていなかったと思うけどなあ。忘れっぽいのか、陛下も)
「何でしょうか?」
 ヤエラは、珍しく王としての威厳をもった真剣な表情になった。
「これから日本、詳しく言えば日本が存在していたあの地を、どうしていきたいか、君の意見を」
「──!」
 トミーは目を見開く。
「そうですね……。このまま担当が僕のままだというのなら、一から、創り直していきたいと思います」
「……言い方としては悪いけど、君はまだ百歳になったばかりだ。神としては未熟すぎる」
 トミーはショックを受けたようだ。
「っなら! どうして日本を担当させたんですか!?」
「……君が、トミー=『エニソン』だったからだよ」
 トミーはヤエラを睨みつける。
「結局名前か! 僕は家になんて頼りたくないんです! そんな情けない事!」
 トミーの心の傷を、ヤエラは更に抉る。
「でも、君がエニソンじゃ無かったら、日本の事は頼まなかったよ」
 だが彼の予想に反して、トミーは静かに呟いた。
「だけどエニソンは、きっと壊れる……」
(?)
 ヤエラには彼の言葉の意味が分からなかった。
 それは、彼がまだ王として完全なる知識を得ていない、ということを物語っている。
「で、結局日本はどうするんですか?」
 トミーの目は虚ろだ。
「まぁ、君に任せるけどね」
「……あれだけ人の事を貶しておいて、それですか」
「僕はそういう神なんだ♪」
 ヤエラはニコリと笑った。
「性格の悪い……こんなのが王だなんて、終わってますよ」
「王に対して失礼な言動は許されないぞ!」
「はぁ、こういう時だけ権力を使って……」
「フフ。ごめんごめん。軽いおふざけだよ。笑って流してくれ」
 やれやれ……などと何度もぼやくも、トミーの顔には笑みがこぼれていた。
「それで、どういう国を作っていくつもり?」
「僕の管理下で、僕を楽しませてくれるような……そんな国です」
「神の……いや、『神ノ創造する日本』だな、まさしく」
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