怪獣特殊処理班ミナモト

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第2章 王族親衛隊

不釣り合い

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「これは……」
「赤本さん、まずは生存者を探しましょう。この辺りに敵性反応はありません」
「敵性反応?機材も無しにどうやって……いや、それは後だ。源、お前を信用するぞ?」
「はい。僕は検問を見てくるので、赤本さんたちは特殊処理班の面々を探してください」
「分かった。無線での報告は情報を絞ってくれ」
「了解です」
 源はテントの残骸から拳銃を拾うと、それを持って検問に続く道を駆け抜けた。車で向かうより走る方が早く着く。源が検問に到着すると、案の定検問職員と護衛の隊員たちは殺害されていた。こちらは傷跡も少なく、どうやら人間の手によるものだと分かった。
(先ほどの武装集団といい、神獣協会には人間の勢力も存在するのか?聞く話によると政治家に怪人が紛れていたらしい。つまり裏から特定の組織や人物に根回しをすることも可能だ。となると怪しいのは……」
 その時源は、背後に怪人の気配を感じ取った。源は咄嗟に振り返って拳銃を構えた。
「な、あなたは…!」
 そこにはボロボロになった千秋が立っていた。頭を覆う装甲は半分に割れ、右腕は半分欠損している。そしてなによりも、砕けた装甲から覗く、その巨体に不釣り合いな幼い顔が目に写った。その目は灰色で、血走っている。まるで獣のような鋭さだった。源は、その顔に見覚えがあった。
「周、千尋ちゃん?」
 そう呼ばれた千秋は一瞬顔を明るくすると、すぐに複雑な表情で俯いた。源は銃を下ろすと、千秋に近づいた。なるべくゆっくりと歩み寄ると、源は千秋の目の前に立った。
「……ごめんなさい」
 千秋、いや、周千尋はそう言うと、途端に目を潤ませた。周はそれを源に見せまいとぎゅっと目をつぶった。その端から涙が零れた。源は手を伸ばしてその涙をぬぐってやった。源には周の考えていることがなんとなく理解できた。そして言った。
「理由は聞かないよ、千尋ちゃん。皆を守ってくれてありがとう。僕はその姿を尊敬する」
「源、さん…!私、ほんとは……」
「分かってる。僕も君とおんなじだよ。だからもう大丈夫。ここに敵はいない」
 周はその言葉を聞いて、身に着けていた装甲のロックを解除すると、排熱と共に背中が開き、そこから周が降りてきた。そしておずおずと源の前に姿を現すと、今度は周が源を見上げた。その服装はオーバーサイズのTシャツを一枚着ているだけで、パイロットスーツもなにも着ていなかった。
「まさか、こんな形で会えるなんて思わなかった」
 それに周は顔を赤らめた。
「……あまり服装には注視しないで下さい。それより、私のことはいいですから白石さんたちを……」
「そうだった。千尋ちゃん、案内してくれる?」
「分かりました。それと、実は私子供では無くて、だから今まで…」
「子供じゃないって……ああ、なるほど。じゃあ敬語の方がいいですね」
「私は別にため口でも…」
「何か言いました?」
「いや、なんでもないです。先を急ぎましょう」
 周は機械化装甲に乗り込むと、装甲の欠損部分をホログラムで補った。そして二人は歩き出した。
「宇都宮駅の構内にバリケードがあります。そこに白石さん他班員たちと生存者が」
「了解です。赤本さんたちにも伝えておきますよ」
 源は無線で簡潔に情報を伝えた。
「どうやら赤本さんたちの方が駅に随分近いみたいです。僕たちは状況を確認しつつ向かいましょう」
「…はい」
「どうかしましたか?」
「その、源さんはどうやってその形態に?」
 形態というのは、トラグカナイを取り込んだ源の身体のことを言っているのだろう。
「玄武の意識を取り込みました。その過程で体が変異したんだと思います」
「それは……!」
「事態がひと段落したら出頭しますよ。大怪獣の意識を自分の体に移すなんて、安全保障に関わります」
(第一、この行動は自分のエゴでしかない。でもある程度の自己矛盾は覚悟しているつもりだ)
「……怪獣の意識って、どのような感じなんでしょうか。傲慢で、残酷で、人間を見下したりしていましたか?」
 やけに具体的だ。
「そうですね……玄武の場合は、傲慢ではなかったかもしれません。一見そんな風にも見えるんですけど、意外と優しさはありますよ。残酷ではあるし、人間は見下していると思いますが」
 そんな源の答えに頭の中のカナは黙り込んだままだ。意外と心当たりがあるのだろうか。
「ねえよ、ンなもん」
(お前、俺と口を利かないなんて言ってたくせに案外良くしゃべるよな)
「ハッ、あまりの馬鹿さ加減、日和り見加減に口を挟みたくなっただけだ。勘違いすんな」
(はいはい、そうかよ。ところでカナ、千尋さんの体…)
「ああ、ありゃ気色悪いな。半分怪人、半分人間ってところだ。どうせ体をイジられたんだろうよ」
(やっぱりそうか。であればあの見た目の説明もつく)
「そんな怪獣もいるんですね」
 周は源に応える。その声はどこかやりきれなさを感じさせた。
「……千尋さんはどうやってその身体に?」
 周は過去を思い返すように黙り込んだが、やがて話し出した。
「すでに源さんは気付いているかと思いますが、私のこの姿は加齢を反映していません。成長が止まっているんです。大体11歳くらいから。ですから実年齢はとっくに過ぎています。それもこれも、協会の研究が原因なんです」
「……富士工業地帯ですか」
「それは第一次進攻が起きてからです。私が生まれたのは西暦の終わり、そして神獣協会に拉致されたのが1歳の時です。そのころは協会本部は皇居地下にありました。そこで私はとある研究の被験者にされました」
「とある研究とは…?」
「人間の適合率を引き上げる実験です。その意図は怪人を増やすため、でした。知っての通り、適合率が低くては脳に奴らの精神を移しても、肉体が拒絶反応を起こし廃人となります。ですから怪人となれる器を作り出そうとしたんです。今のところ、完全な成功には至っていませんでしたが」
「千尋さんはその研究の過程で今の姿になった…」
「そうです。もっとも、私は失敗作です。適合率を上昇させることには成功しましたが、それも長年にわたる投薬によるものだったし、さらにコアを移植される段階になって私は、体が無意識にコアを浄化していたんです。その結果、無意識下の浄化でコアが半分体と融合して、この姿になりました」
「そうだったんですか……では倉庫の子供たちも」
「彼らは何もされていませんよ。その前に助けが来ましたから」
 周はそう言って源に笑いかけた。砕けた装甲版から覗くその顔は、大人びた言動とは裏腹に無邪気で幼く、そこに過去から伸びる影は見えなかった。源は思わず目を逸らした。
「おいおい、それはどうかと思うぜ、俺は。記憶を取り戻してあんなに取り乱すんだ、それぐらいには一途だと思ってたんだがガッカリだな。しかも趣味が悪い」
(そういうことじゃない。彼女の過去を知ってそのギャップに少しいたたまれなくなっただけだ。それに、俺はカナ一筋だ)
「忘れてたくせに」
(それは言わないでくれよ……)
「……まあその陰気な顔に免じてそうしといてやるよ。せいぜい後悔しとけ」
(してるさ、死ぬまでずっとこうだよ)
 源は少しため息をついた。周は続ける。
「……私、源さんには感謝してるんです。源さんが私や子供たちを見つけてくれた時、しゃがんで私と同じ目線に立ってくれて、頭に手を置いて、その、撫でてくれて。私、あんな風に優しくされたの初めてで、それで…」
 周はそこで言葉に詰まった。ちらりと見えた耳は赤くなっている。
「コレ、最後まで付き合わなくちゃいけないのか?」
 カナが苦言を呈す。源はそれを無視した。そしてようやく周は口を開いた。
「とても、嬉しかったです」
 少し声が震えていた。心拍数もかなり上がっている。緊張しているのだろうか。
「まさかそんな風に思ってくれるだなんて思いませんでした。もしよければまた頭を撫でましょうか?なんて冗談で…」
「よ、よろしくお願いします」
「え?」
「今おっしゃっていた、頭を…」
「あ、あー……」
「どうするよ。こいつ結構乗り気だぜ」
(場の雰囲気を和ませようとしただけなのに、あらぬ方向に進んでしまった気がする…)
「まあ絵面だけ見りゃ不健全だな」
 源は話をはぐらかすことにした。自分から言い出した手前、無責任極まりないのだが。
「機会があれば、ですかね」
「はい、そうですね…」
 なんだか微妙な雰囲気になってしまった。が、それは幸運なことに長くは続かなかった。
『こちら赤本、全員無事に合流した。そちらの位置を送ってくれ』
『えっと、橋の前です』
『反対側か……3分ほどで合流できる。西口で待っていてくれ』
『了解です』
「赤本さんたちが構内で合流したそうです。西口で待ち合わせます」
「分かりました」
 2人は橋を渡って宇都宮駅に入ると、ほどなくして班員たちと合流した。
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