ハッピーエンドをつかまえて!

沢谷 暖日

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あと、三日

単純であり、複雑な

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 敷いていた広い布から立ち上がる。
 靴を履いて、木陰の外へ。

「暑い……」

 先までは言い訳で『暑い暑い』言っていたが、本当に今は暑い。
 こうなってくると冬が恋しいけれど。
 冬の時も『早く夏になれ……』みたいなこと思っていたっけ。
 なんてどうでもいいことを思考しながら、私は太陽に背を向けた。

「……ミリア」

 背に声が飛ばされる。
 その方には太陽があったので、振り返らずに私は返事をした。
 だって振り返ったら眩しいし。

「どうしたの? ……って、魔法を教えてくれるんだよね」
「うん……」

 そう頷く声が聞こえて、足音がこちらに近付いてきた。
 そして、私の背中で立ち止まる。
 なんか。朝、リリィが気絶した時もこんな状況だったような……。

 数拍、間を置いて。
 リリィは後ろから、私の服のエリを少しだけ引っ張った。
 私の首が服に少しだけ絞められて、後ろがちょっとだけスーってする。

「リリィ?」

 問うてもすぐに反応はくれず、ちょっと不思議に思いながらも、リリィが何をしてくれるのかを待つ。
 その時、リリィの手が私の首筋に少しだけ触れる。
 次に、彼女の息を吸う音が聞こえたかと思えば。

「……『アイス』」
「ひゃっ──!」

 食卓でリリィが言ったのと同じ言葉が聞こえて、私の背に冷気と氷が侵入。
 滑る氷はとても冷たく、私の熱い身体を一気に冷やしていく。

「ちょ、ちょちょちょ! いきなり何!」

 後ろに太陽があるとかもう今更気にする暇もなく、勢いよく振り返る。
 リリィは悪びれる様子も見せず「どうしたの?」と言ってきた。

「いやいや! どうしたのじゃなくて! なんで氷! 背中を暴れ回ってるんですけど‼︎ 冷たい冷たいーー!」

 この氷を追い出したい。
 しかし着衣しているのは上下繋がっていて、お腹が締め付けられているタイプのワンピースなので、どこからこの氷を追い出せばいいのか分からない!
 手も背中までは伸びないし、服を脱ぐにも今はリリィがいて脱げないし!
 ただただジタバタして、氷を色々な場所に移動させている。
 冬になると夏が恋しくなる気持ちを今、味わわされているのか、私。

「ミリア、暑そうにしてたから。涼しくしてあげようと」
「た、確かに暑かったけども! 加減ってものがありましてね! せめて水とかそういうのにしてよ! いや、水も服が濡れちゃうからやなんだけど!」

 もう思考よりも先に言葉が出ていた。
 発言を遡ると、本当に意味の分からないこと言っているって思う。
 けど、氷の冷たさに飛び跳ねている今、思考する暇はほぼない。

「嫌だった?」

 リリィは少し悲しそうに問うてくる。

 ……さっきから、これがずっと続いてる気がする。
 悲しそうに言われて、それで私の心が揺らいでっていう。その流れが。

「い、嫌じゃないけど! 冷たい! めっちゃ冷たい! ……リ、リリィ! もう十分涼しくなったと言うか、もう寒いくらいだからこの氷を取り出して‼︎」

 もはや私の声は叫びである。
 近所迷惑にならないか心配なくらいだ。
 しかし本当に冷たい。この冷たさは多分慣れでは克服できないと思う。

 私はリリィに背を向けて「はい! 早く!」と急かした。

「わかった」

 私の叫びにかき消されそうになったその返事をちゃんと聞き取る。
 また先のようにエリを引っ張られて、そこにリリィの手が入り込む。
 そのリリィの手は、氷と比べているからなのか、かなり温かい。
 私の背中を這うようにその手が動き、氷の存在を探していた。

「もうちょっと右!」

 指示をし、手がちゃんと氷のあるところへと辿り着いた。
 スッと何かの重りが取れたかのように、氷がリリィによって持ち上げられた。

「──っはぁーー!」

 寒さが背中に長すぎる余韻を残している。
 しかし、夏の日差しを浴びていれば、それは弱まっていきそうだった。

「どう? 涼しめた?」
「……ん、まぁ涼しめたけども!」

「けども?」
「今さっき言った通り加減がね! あると私は思うんですよ!」

「そう。これで私のこと好きになってくれるかなって思ったんだけど」
「なぜこれで好きになると思うの⁉︎」

「ミリアって単純な人だし……」
「単純じゃない! 割と複雑!」

 言い終えてから、やっぱり単純な人かもしれないと思う。
 だって。私って、すぐに顔を赤くするし。他にも色々。
 今みたいに悲しそうに言われたら、すぐに励まそうとするとことか。
 けど。それを考える私の脳内は凄く複雑に絡み合っていて。
 複雑と単純って反対の意味の言葉だけど。
 その事を踏まえてみると、案外似ているとこがある。
 私にとったら……だけど。

「ミリア、なんか楽しそうだね」
「なんで!?」

「顔が笑ってる」
「笑ってない! ……え、笑ってるの?」

 顔をペタペタ触ってみる。
 どうなんだこれ。笑ってるの?

「うん。笑ってる」
「……マジすか」

「私といるのが楽しいってことだよね」
「確かに、最近、こういう同い年の人との関わりって少なかったかも。遊ぶにしても歳下の子ばかりだし……」

 楽しいって言えば楽しいのかもしれない。

「そっか」
「うん」

「なんか朝の時に比べて、だいぶ私に心を許しているよね? 早くない?」
「……確かに、早い。私って、こういう誰にでも優しい超いいやつだからかな」

「ミリアは超いいやつ。知ってる」
「も、もっと崇めてくれてもいいんだよ?」

「わー、いいやつー」
「そんな感情の死んだ顔で言われても……」

「本当だから」
「それは。ありがとう」

「どういたしまして」
「ありがとうありがとう」

 我ながらなんだ、この中身の無さすぎる会話は。
 というか、何かを忘れているような気がする……。
 ──あ。

「魔法教えてください!」

 なぜ、これを忘れていたのだろう。
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