ハッピーエンドをつかまえて!

沢谷 暖日

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あと、三日

魔法の使用

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 リリィが魔法を使ってみせたその場所へ、私も足を向ける。
 太陽の光がちょうど暑くなってきた。 
 冷えていた身体があったまってきたからだろう。
 だから林檎の木の下。その場所はちょうどいい涼しさである。

「よし! リリィ見ててよ!」

 先までの興奮状態はまだそのままで。リリィを見て言う。
 「見てる見てる」とリリィは返してきた。
 今から実践するのが、なんだかとても楽しみ。
 これでリリィみたいな、かっこいい氷の魔法が打てるといいけど。

「あ、その前に。リリィ」
「なに?」

「さっきさ、氷をてのひらに現出させた後さ、なんか少しその氷を放つまで時間があったよね」
「あ、うん。あの状態で、さらに魔力を注入したの。だから、あんなに勢いよく氷が発射されたってこと。すごい疲れた」

「魔法の威力ってそうやって上げるんだね」
「うん。というか、これは『魔術の書』に載ってたことのはず」

「確かに。風の魔法のところにも書いてた……」
「うんうん」

「え、でもさ。疲れるのなら、なんでそんなことをわざわざしたの?」
「……それは。ミリアにかっこいいところ、見せたかったから」

「そ、そうなんだ。確かに、凄くかっこよかった」
「うん。ミリア昔から、かっこいいものが好きって言ってたから。だから、かっこいい感じに魔法を発射してみたの」

「あー、そんな話してたっけ。覚えてないかも。ごめん」
「うん。覚えてないよね。別にいいよ」

 それは、リリィがこの街から引っ越す前に、私が言った言葉だろうか。
 うん。確かに、自分はずっと昔からかっこいいものが好きだった。
 かっこいい人の妄想とか凄いしてた。
 それを覚えていたリリィは、さっきみたいにしてくれたのか。
 ……なんか、凄い私のこと理解してくれてるなって思う。
 こんな会えない期間が長かった。
 むしろ、面と向かって話したことは無かったはずなのに。
 こうして覚えてくれていて、こんな風にかっこいいところを見せてくれるっていうのは、なんだか素直に嬉しさがある。
 これが、リリィの愛の力。なんちゃって。

「…………」

 テキトーに思考したそれが無性に恥ずかしくなり、リリィに向けていた顔を、氷の魔法がぶつけられた塀の方に移行させた。

「じゃ、じゃあやってみますね!」
「うん」

 私の背中にリリィの頷きが当たる。
 「よし」と溜息を吐くように頷いた私は、てのひらを正面に向ける。

 先のリリィの言葉、そして行動を思い出す。
 まず。目を瞑る。だよね。
 と、その通りに、私は瞼をゆっくりと閉じた。

 ここまでは、今までの私がやっていたくらいには簡単なこと。
 問題はここから。
 血液の流れ。すなわち魔力。その流れを意識する。
 曖昧じゃだめだ。それを認識できないといけない。
 無意識に閉じている瞼を、更に深く閉じて、探す。私の魔力を。
 そうしていると不意に現れた。不自然な身体の疼き。
 何かが変だ。そう思った途端に気付く。

 ──これだ。

 見つけた。
 身体の隅々を巡る、私の魔力を。
 やばい。私、意識できている。これが魔力なんだ。
 魔力を認識するって、こんなに──。いや。

 ──この集中を切らしたらだめだ。

 本能が私にそう訴えかけ、無駄な思考をシャットアウトする。
 次は、その流れを私の掌へと──。一気に運ぶ。
 魔力が、本当に手に流れていく感覚を覚えて。

「──きた」

 瞼を開き、見た。
 手が、弱い輝きを見せる。
 リリィほどの光じゃないと、見てとれた。
 やはり、まだ私の力は弱いってこと。
 いや。それでもいい。ここまでこれたんだ。

 次は。作りたい魔法の種類。造形。それを思考する。

 私が作りたいのは──。

「……『アイス』」

 そう強く意識した刹那。
 掌に冷気が──いや、私の掌から冷気が出る感覚がした。
 身体の中の魔力量が、小さくなっていく。それが分かる。
 まだ終わりじゃない。次は造形だ。

 私が造りたいのは──氷の球。

 掌から放たれていた冷気は、だんだんと意識したものを形成し始めて。
 やがて、小さな。それでいて、綺麗な氷の球へと造形された。

「──よし」

 でも。まだだ。
 リリィみたいに、かっこよく魔法を放ちたい。
 そのために、私は魔力を放出し続ける。

 しかし、呼吸が荒い。
 頭も少しぼーっとしてきた。
 でも、あんなかっこよく魔法を打てたら、どんなに幸せかなって。
 そういう思いが、私の疲れを吹き飛ばす。

 もう身体に流れる魔力が少なくなってきた。
 それが分かるほどに、先よりも流れる魔力の勢いが減っていた。
 そろそろ、十分か、な。

 力を込めていた掌に、グッと力を込めて──。

「いっけー!」

 氷の球を、発射した。
 球の威力は弱いけど。
 掛け声は相変わらず格好つかないけど。
 確かに。
 そう確かに。
 私の初めての魔法はかっこよかった。

 思ったのも一瞬。
 魔法を放った、反動がくる。
 その反動が大きすぎて、重心が後ろに傾く。

 ──やばい。倒れる。
 そう、覚悟した時だった。

「ミリア。頑張りすぎ」

 その声と共に、リリィの柔らかな感触が私の背中を包み込んだ。
 30度くらいに傾いた私の体を、彼女はしっかりと抱擁した。

「けど、ちゃんと塀まで届いたね」

 リリィが塀を指す。
 その指が私の肩越しに映った。
 指から出る見えない線を辿るように塀を見る。
 それは少しだけ、水で湿っていた。

「……頑張りすぎた」
「本当に。私が支えなかったらミリア、地面とごっつんこしてたよ」

「面目ないです」
「けど、凄い。私が一回教えただけで出来るなんて」

「リリィの教え方がよかったんだよ」
「そうだといいけど」

「うん。そうだよ」

 あれだけ練習しても使えなかった魔法が、今、使えたのだから。
 本当にリリィの教え方がよかったと言える。

「……それにしても。凄い」

 私に、こんなことができるなんて。
 魔法なんて、しばらく使えないんじゃ無いかって諦めてた。
 でも。使えた。リリィのおかげだ。
 彼女に疑心を抱いていた、朝の自分がバカみたいだ。
 凄くいい人で。優しくて。
 それで、私のことを好きでいてくれて。
 とても、いい人だと思う。

「ミリア。ちょっと重い」

 嘘。やっぱりいい人じゃない。
 ……けど、嫌な人じゃない。

「ごめん、リリィ」

 言って、私は身体を起こす。
 そして、振り向いた。

 リリィが映る。
 額には少量の汗をかいていた。
 そんなに私、重かったかな……。
 心配しながらも、私は。

「ありがとう、リリィ」

 ペコリと、お辞儀を一つ。
 顔をまた見てみると、嬉しそうに「うん」と言った。
 それに続けて、

「ありがとう、ミリア」

 そう私に、感謝の言葉を──。って。

「え! なんか私、感謝されるようなことした⁉︎」
「うん。してる。分かんなくていいけど」

「えー、教えて!」

 いうと、彼女は微笑んだ。
 彼女の笑みを見るのは、初めてのことかもしれない。
 美しいというより、可愛いと思えるような、そんな笑顔だった。

「教えない」
「えー。……んー、まぁいっか。リリィ、本当にありがとう」

「うん」
「にしても、ちょっと疲れた。ベッドにお昼寝に行っていい?」

「いいよ」
「ありがと」

 本当に疲れた。
 でも、それ以上に本当に嬉しかった。
 私が、かっこよくなれたのだから。
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