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あなたがいてくれたから
しおりを挟む夜明けの光が、希望のように私たちを包み込んでいた。
国境を越え、隣国へと足を踏み入れた瞬間、深い安堵感が全身を駆け巡った。
まるで、重たい鎖を断ち切ったかのような、解放感。
もう、エドワードの支配する歪な檻のような王国に戻る必要はない。
ーー私たちは自由なのだ。
セシリアは、私の手をしっかりと握りながら、力強く言った。
「さあ、アリア。ここからが私たちの新しい人生の始まりだ」
彼の言葉に、私は深く頷いた。
もう、過去の影に怯える必要はない。未来に向かって、力強く歩んでいこう。
私たちは、隣国の小さな村にたどり着いた。静かで穏やかな、私たちのいた王国とは全く違う雰囲気の場所だった。
人々は素朴で親切で、私たちを受け入れてくれた。
セシリアは、男性として生きることを決意し、「セシル」という名で新たな人生を歩み始めた。
セシルは、持ちまえの才能と知識を活かし、村の医者として働き始めた。
彼の医療技術は高く評価され、村人からの信頼も厚かった。
困難を乗り越えて、本来の姿で生きるセシルは凛々しく、そして頼もしい。
私も、アリアという名前を捨て、「リリア」という偽名を使って、静かに暮らすことにした。
セシルと一緒に、小さな家を借り、ささやかながらも幸せな日々を送っていた。
私は、村の子供たちに読み書きを教えていた。
子供たちは純粋で、私との時間を喜んでくれた。
王城での出来事は、今となってはまるで悪夢のようだった。
エドワードの歪んだ愛、逃亡劇の緊迫感、セシリアの勇気……全てが、遠い過去の記憶のように感じられた。
しかし、完全に過去を忘れ去ることはできなかった。
時折、狂ったように私を求めるエドワードの醜悪な姿が夢に出てきて、飛び起きることもあった。
それでも、セシルが傍にいてくれたおかげで、私は徐々に過去のトラウマを克服していくことができた。
数年が経ち、セシルはとうとう成人の儀を迎えた。
彼の肉体は正式に男性となり、セシルという名前を正式に自分のものとした。
その姿は、以前にも増して美しく、そして輝いていた。
「おめでとう、セシル」
私は、心からの祝福の言葉を贈った。
セシルは、照れくさそうに笑いながら言った。
「ありがとう、リリア。これも、君がいてくれたおかげだ」
私たちは、静かに見つめ合った。言葉は必要なかった。
ーー私たちは、お互いの気持ちをとうに知っていた。
「リリア」
「……はい」
「私の妻になってください」
「……!喜んで……っ!」
私は感極まってセシルに飛びついた。
しばらくして、村人たちが私たちのために小さな結婚式を挙げてくれた。
素朴で温かな結婚式。私とセシルは手作りの衣装に身を包み、子供たちから祝福の花びらを浴びて、心から笑いあった。
「綺麗だよ、リリア」
「ーー貴方こそ、世界一素敵だわ……セシル」
ーーこうして、私は、世界一の推しの花嫁になったのだった。
時折、街へ降りると、セシルの噂を聞くことがあった。
彼は、優れた医者として多くの人々を救い、孤児院などを回っては慈善活動を行い、尊敬を集めていた。
そして、いつしか、人々は彼のことを「慈愛のセシル」と呼ぶようになった。
私たちは、もう二度と、エドワードの支配を受けることはない。
私たちは、自由なのだ。
自分たちの選んだ道を、自分たちの力で切り開いていける。
夕焼けに染まる空を見上げながら、私は静かに微笑んだ。
セシルと出会えたこと、そして、この新しい人生を手に入れられたこと。全てに感謝しながら、私は未来へと歩みを進めていく。
この人生は、乙女ゲームではなく、私だけの物語なのだから。
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