素直になれないツンデレ王太子は、目覚めない悪役令嬢にもう一度プロポーズがしたい

彼岸花

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第11話

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「それでは、早速、術を施行したいと思います。皆さん、よろしいですか?」

 ハンスが後ろを振り返り、ルナリアの寝室に集まった一同──アッシュフィールド伯爵夫妻、ライザ、リチャード、そして俺に向かって確認をとる。
 既にルナリアは自分の実体に重なっている。
 後は、ハンスが術を施行するだけだ。

「はい。どうか、娘を助けてやってください。お願いします」
「私からも頼む。どうか、私たちの大切な娘を目覚めさせてやってくれ」

 伯爵夫妻は、懇願するようにハンスに頼み込む。

「私からもお願いします、ハンスさん。どうか、ルナリア様を助けてください」
「ハンスさん、僕からもお願いします。彼女がこうなってしまったのは、僕の責任でもあるのです。謝る機会すら失われてしまったら、もうどうしたらいいか……」

 ライザとリチャードも、それぞれ頼み込む。
 特に、リチャードはあの時引き止められなかったことを気に病んでいるのか、部屋に入る前から顔を曇らせていた。

「皆さん、落ち着いてください。大丈夫です。きっと、ルナリア様を目覚めさせてみせますから。……それでは、始めます」

 ハンスは一同を落ち着かせると、以前と同じようにルナリアの額に手を乗せ、術を施行した。
 ルナリアの実体が、ふんわりとした優しい光を帯びる。
 一同は、その様子をハラハラしながら見守っていた。

「あと少し……あと少しなのですが……」

 気づけば、術を施行してから五分ほど経っていた。
 ハンスは、何やら手こずっている様子だ。
 一体、どうしたのだろうか?
 怪訝に思った俺は、ハンスに訊ねる。

「一体、どうしたんだ……?」
「いえ、その……この世への一番の未練を自覚すれば、理論上は目を覚ますはずなのですが……あと一押し、何かが足りないようなのです」
「なっ……」

 ハンスの額には、じっとりと汗が滲んでいる。
 恐らく、彼が使っている術は相当体力を使うのだろう。
 このままでは、ルナリアが目覚めないままハンスの体力が尽きてしまいそうだ。
 あと一押しと言われても、一体何が足りないんだ?
 駄目だ、わからない。

「大地く……じゃなくて、アロイス様!」

 突然、自分の実体に重なっていたルナリアの声が聞こえてくる。

「……どうした? ルナリア」
「わたくしの実体に、キスをしていただけませんか?」
「え!?」
「そうすれば、わたくし……実体に戻れるような気がするのです。根拠はありませんけれどね」
「……よし、わかった。やってみる」

 そう返した俺は、ベッドに手をつき、ルナリアの口元に自分の唇を寄せる。
 唇同士が重なった瞬間、ルナリアの体温が伝わってきた。
 とても温かい。彼女が生きている証拠だ。
 まだ、このぬくもりを手放したくない。
 そう思い、ルナリアの手をぎゅっと握る。

 ──だから、どうか帰ってきてくれ。ルナリア。

 そう願った次の瞬間。
 無反応だったルナリアの手が、僅かに動いた。
 間違いない。彼女は、自分の力で俺の手を握り返している。

「成功です! 成功ですよ! 皆さん!」

 頭上から、ハンスの歓喜の声が聞こえてくる。
 おもむろに顔を上げると、嬉しそうに涙ぐんでいるルナリアと視線がぶつかった。

「ルナリア! 良かった! 目覚めたんだな!」
「アロイス様……!」

 ルナリアは俺の顔を見るなり、一目散に胸に飛び込んできた。
 突然だったのでよろけそうになったが、何とか抱き留めた俺はしっかりと彼女の背中に手を回す。

「まあ、ルナリア! まさか、本当に目を覚ますなんて……!」
「ルナリア……! ああ、良かった! 心配したぞ!」
「お帰りなさい、ルナリア様!」
「ルナリア嬢! 戻ってこれて、本当に良かった……!」

 伯爵夫妻とライザ、リチャードも皆目に涙を浮かべてルナリアの帰還を喜んでいる。

「一見したところ、後遺症もないようですし、大成功ですよ。頑張った甲斐がありました!」

 ハンスの言葉を聞いた俺は、ほっと胸を撫で下ろす。

「ハンス。本当にありがとう。正直なところ、最初は疑っていたんだ。だけど、君は本物だった。俺やルナリアにとって、英雄といっても過言ではないよ」
「そんな……私は当然のことをしたまでですよ」

 言って、ハンスは恥ずかしそうに頭をかく。
 そんな会話をしていると、腕の中にいたルナリアが不思議そうに顔を覗き込んできた。

「そう言えば、アロイス様……呪いはどうなったのですか? わたくしに対して、普通に接していらっしゃいますけれど……」

「あれ? そう言えば……」

 指摘されて、はっと気づく。
 確か、あの魔女は俺が過ちに気づいた時に呪いが自然に解けると言っていたな……。
 ひょっとしたら──

「『ルナリアが目覚めたら、改めてプロポーズをしよう』と心に決めていたから、自然と呪いが解けたのかもしれないな」
「どういうことでしょうか……?」
「俺は今までずっと、ルナリアは自分以外の誰かと結婚したほうが幸せになれると思っていたんだ。だけど、ルナリアはそれを望んでいなかった──つまり、その誤った考えを正すことができたから、呪いが解けたんだと思う。……あくまで、憶測だけどな」
「そうだったのですね。……って、プロポーズ!?」

 ルナリアの頬が、一瞬で淡紅色に染まる。
 実を言うと、これは二度目のプロポーズだったりする。
 一度目は、幼い頃──まだ、俺が前世の記憶を取り戻す前に、婚約者として初めて顔を合わせた日にした。
 確か、俺の一目惚れだったと思う。記憶を取り戻す以前の話とはいえ、我ながら大胆だったなと苦笑してしまう。

「ああ。というわけで、改めてプロポーズさせてくれ。……コホン」

 俺は咳払いをひとつすると、そのまま話を続けた。

「ルナリア・アッシュフィールド。俺は、君を心から愛している。どうか、俺の妻になってもらえないだろうか?」

 言いながら、ルナリアの前に跪き、その白い手に口づけを落とす。

「……はい、謹んでお受けいたします!」

 ルナリアは満面の笑みでそう返してくれた。
 次の瞬間、室内に拍手が沸き起こる。
 どうやら、みんな祝福してくれているようだ。
 一度、婚約解消にまで至った俺たちがよりを戻すとなると、国民への説明など色々問題が山積みだが……まあ、なるようになるだろう。


 そんなわけで、俺とルナリアは長年すれ違った結果、めでたく結ばれることができた。
 もし、俺が『アルカナと月の神子』をプレイしていなかったら、今世で梢と巡り会えなかったかもしれない。
 何故この世界に二人揃って転生したのかについては、結局の所わからない。
 でも、まあ……それほど俺たちの絆が強かったということなのだろう。

 ──さて。一段落ついたことだし、二度目の人生を謳歌するとしよう。

 そんなことを考えながら、俺は隣にいるルナリアの手を取った。
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