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本編
36 楽園(リヒトside)
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ダンスホールを出て中庭の一角に移動した俺達は、一先ず話がしやすいように壁に背を預け横並びになった。
「いやぁ、それにしても、見事なダンスだったよ。思わず見入ってしまった」
クリスフェルは俺とジゼルが踊る様子を眺めていたらしく、やや高揚気味に媚びへつらってきた。
「それはどうも。お褒め頂き光栄です」
そう返した俺は愛想笑いをした。何でもいいから、早く本題に入ってほしい。
この男は、どうしてあの実験のことを知っているんだ……?
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はクリスフェル・ラティモア。気軽に『クリス』と呼んでくれて構わないよ。経歴については、さっき君の近くにいたご令嬢達が粗方説明してくれたから、省かせてもらうよ」
クリスフェルはそう言い終えると、胸ポケットから髪留めを取り出し、胸のあたりまで伸びた長髪を首の後ろで一纏めにした。
中性的な美貌によく似合う彼の長い黒髪は妖艶かつエキゾチックな雰囲気を演出しており、その顔立ちはどこか前世で散々見慣れた日本人を彷彿とさせる。
前世の感覚で例えるなら、東洋的な風貌の美男と言ったところだろう。
「わかりました。……では、クリスさん。本題に入る前に一つ聞いておきたいことがあります。あなたは、その話をどこで知ったのですか?」
「そんなに知りたいかい? まあ、当然か。何しろ、あの計画は、魔術研究所の企業秘密──それも、最高機密だろうからね」
飄々とした態度でそう言って退けたクリスフェルは、横目でちらりと俺のほうを見た。
今から十一年前、王都の魔術研究所で通称『エデン・プロジェクト』と呼ばれる計画をもとにして、ある人体実験が極秘で行われた。
エデン・プロジェクトとは、その名の通り『楽園』を目指す計画である。研究者達の最終目標は『この世からリアンという存在をなくすこと』だ。
そもそも、同じ人間なのに『ホルダー』や『リアン』などと呼び区別化を図るから、無闇な差別を生み出すのだ。
そのため、多くの研究者達は「昔のように全ての人間が魔法を使える世界に戻ることができれば、差別がなくなるはずだ」と考えている。
差別も苦しみもない、誰もが幸せになれる魔法が発展した世界──そんな楽園のような世界を創り出すためには、年々増加している『リアン』という存在をどうにかしなければならない。そういう強い思いがあって、二十年ほど前にこの計画が立ち上げられたらしい。
研究はリアン達を治療するための薬の開発とともに徐々に進められ、十一年前、ついに初の実験が行われることになった。
被験者達は、ある『罪』を犯した者の中から選ばれた。その罪とは……一言で言えば、『殺人』だ。
この世界では殺人罪に最も重きを置いており、更生の余地すら与えられない重罪なのである。殺した相手がたとえリアンだろうが、一人殺せば終身刑か死刑のどちらかになる。
だから、極端な話、ホルダーが自分の隷属者に虐待を行ったとしても見逃されるが、勢い余って殺してしまえば権力も地位も何かも失い終身刑の囚人か死刑囚に成り下がるのだ。
この法律があるお陰で、マスターによる隷属者への虐待行為が行われていたとしてもそれが原因で隷属者が死に至ることはめったにない。
それはさておき、およそ十数名の被験者を集めて実施されたその実験の内容は非常にリスクを伴うものだった。
まず、ホルダーとリアンが二人一組になる。そして、両者は共に研究所で開発されたカプセル状の装置の中に入り、体温を低温状態に保つために所謂『コールドスリープ』の処置を施される。
元いた世界では、コールドスリープなんてSFでしか見たことがなかったし、勿論それを実現することなんて不可能だった。だが、この世界では魔法があるため、難なくそれができてしまうのだ。
仮死《コールドスリープ》状態になった被験者達は、今度は装置に備え付けられた機能である電気ショックが与えられる。この時、電気ショックは頭部のみに施し、他の部位には施さないのがポイントだ。
何度か電気ショックを繰り返していると、被験者達の体が青い光を帯びる。被験者達は、その状態で一週間ほどコールドスリープを続ける。すると、一週間後、カプセルから出てきたリアンの被験者に劇的な変化が現れるのだ。
リアンの被験者に現れた劇的な変化──それは、『なぜか魔法が使えるようになっている』というものだった。
研究者達によると、狭い空間で二人の人間がコールドスリープ状態に陥ると、この世界の人間の特性なのか不思議と魔力を共有しようとする現象が起こるのだそうだ。これは、その不可解な現象を利用した試みだった。つまるところ、人工的に魔力共有を引き起こさせたのだ。
とはいえ、前述したようにこの実験にはデメリットもあった。カプセルに入った被験者のうち、数名は魔力を共有したことによって拒絶反応を起こしてしまい、死に至ってしまったのである。
被験者達は皆、終身刑や死刑を言い渡された囚人ではあるが、いくらなんでも倫理に反するとして一時は研究が中断された。
しかし、近年見られるリアンへの差別の激化を見かねた研究者達は再びエデン・プロジェクトを再開させることにしたのだ。
「親善大使を務めていると、何かと色んな人と接する機会が多いんだよ。以前、君が所属している魔術研究所の研究員と酒を交わす機会があったんだが……その時、彼は酔いつぶれてしまってね。介抱をしていたら、彼の鞄から資料が落ちてしまったんだよ。それを拾おうとして、偶然『エデン・プロジェクト』についての研究資料が目に入ってしまったというわけさ」
「なるほど……」
何たる失態だろう。故意に情報を流出させたわけではないとはいえ、このようなミスを犯すのは研究員として絶対にあってはならないことだ。そう思いつつも、俺はクリスフェルに問いかける。
「そこまではわかりました。それで、あなたは一体何が目的なんですか?」
クリスフェルは一呼吸置くと、落ち着いた様子で口を開いた。
「単刀直入に言う。僕にその実験を施してほしい」
「は……?」
クリスフェルが発した言葉に、思わず耳を疑う。この男は、一体何を言っているんだ?
「なんでも、その実験は、ホルダー同士でも可能だそうじゃないか。しかも、高い魔力を持つ者ほど死亡リスクは低くなるらしいね」
「……つまり、何が言いたいんですか?」
「僕はね、君の魔力が欲しいんだよ。君の魔力を少しだけ僕に分け与えてくれれば、僕はさらなる魔力を手にすることができる。なに、簡単なことさ。少しの間、一緒にカプセルに入ってくれるだけでいい。そのための協力者や施設は僕の権力があれば容易く用意できるからね。勿論、謝礼は弾ませてもらうよ」
「……」
どうやら、クリスフェルは今の地位では満足できず、俺の魔力を吸い取って、さらに上にのし上がるつもりらしい。
勿論、突然今まで以上の魔力を発揮すれば不自然極まりないだろうが……ホルダーなら皆、努力次第では多少の魔力の向上は見込めるため、あくまで常識の範囲内で魔力の強化を図るつもりなのだろう。
「お断りさせて頂きます。大体、それを行ったとして、一体僕に何のメリットがあると言うんですか? 別に、経済的に困窮しているわけでもないのに……」
「確かにそうだ。だが……もし僕が君の秘密を知っているとしたら、どうだろう? そう、例えば──僕が君とお姉さんの関係を知っている、とかね」
「なっ……」
「どうやら、君は双子のお姉さんと近親相姦の関係にあるらしいね。そのために縁談を破談にしたとか……」
「……その話、一体どこで知ったんですか?」
一応、尋ねてみたものの、思い当たる節は一つしかない。恐らく、ジゼルだ。あの女が口外したとしか考えられない。
「ジゼル嬢から聞いたのさ。彼女とは、ちょっとした知り合いでね。ああ、彼女を責めないであげてくれ。僕が脅迫して、吐かせたんだよ。『学院での不正を口外されたくなかったら、リヒト・ローズブレイドについて知っていることを何でもいいから話せ』ってね」
「……」
「ちなみに、ジゼル嬢に不正を働くように唆したのは僕だよ。まさか、彼女もそのせいで後々不利な状況に追い込まれるとは思ってもみなかったんだろうけれど。しかし、君も詰めが甘かったね。『優秀な魔術師の妻』という肩書きが欲しかったジゼル嬢は、何があろうと君との結婚だけは押し切るつもりだったらしいから、恐らく、ああでもしないと君との結婚を諦めてくれなかったと思うが……それにしたって、自分達の関係をばらすなんて下策だよ。ジゼル嬢に僕のような後ろ盾がいる可能性を考えなかったのかい?」
そう尋ねられ、思わず俯く。勿論、その可能性も考えた。考えたからこそ、ジゼルの身辺調査は隈なく行った。
だが、クリスフェルとの繋がりがあったのは想定外だったのだ。
「ジゼル嬢も驚いていたよ。『あのローズブレイド家のご子息が、実の姉と禁断の関係を結んでいたなんて、今でも信じられない』とね。それと──穢らわしいとも言っていたな」
「穢らわしい……ですか」
「そうさ。世間では、君達のような人間は忌むべき存在なんだよ。もし、僕が君達姉弟の関係を口外したら、どうなると思う?」
「……」
言葉に詰まった俺は、再び俯いた。だが、クリスフェルは追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「恐らく、最愛のお姉さんとも引き離されるだろうね。だって、そうだろう? リアンだと判明した姉を守るために隷属契約をした優しい弟の真の目的は、その姉と隠れて近親相姦をするためだったんだから。家族どころか、世間が許さないだろう。……もう、ここまで言えばわかるだろう? 君に拒否権はないんだよ」
「──わかりました。その話、お引き受けいたします」
意を決した俺は、クリスフェルにそう返事をする。
それを聞いたクリスフェルは、にこっと微笑み、「よろしく頼むよ」と言いながら握手を求めてきた。
「ただ、少し時間を下さい。こちらにも、色々と準備がありますから……」
「勿論。それは構わないよ」
クリスフェルと握手を交わした俺は、要求を受け入れたふりをしつつ、頭の中では彼を始末する方法を淡々と考えていた。
「いやぁ、それにしても、見事なダンスだったよ。思わず見入ってしまった」
クリスフェルは俺とジゼルが踊る様子を眺めていたらしく、やや高揚気味に媚びへつらってきた。
「それはどうも。お褒め頂き光栄です」
そう返した俺は愛想笑いをした。何でもいいから、早く本題に入ってほしい。
この男は、どうしてあの実験のことを知っているんだ……?
「そう言えば、自己紹介がまだだったね。僕の名前はクリスフェル・ラティモア。気軽に『クリス』と呼んでくれて構わないよ。経歴については、さっき君の近くにいたご令嬢達が粗方説明してくれたから、省かせてもらうよ」
クリスフェルはそう言い終えると、胸ポケットから髪留めを取り出し、胸のあたりまで伸びた長髪を首の後ろで一纏めにした。
中性的な美貌によく似合う彼の長い黒髪は妖艶かつエキゾチックな雰囲気を演出しており、その顔立ちはどこか前世で散々見慣れた日本人を彷彿とさせる。
前世の感覚で例えるなら、東洋的な風貌の美男と言ったところだろう。
「わかりました。……では、クリスさん。本題に入る前に一つ聞いておきたいことがあります。あなたは、その話をどこで知ったのですか?」
「そんなに知りたいかい? まあ、当然か。何しろ、あの計画は、魔術研究所の企業秘密──それも、最高機密だろうからね」
飄々とした態度でそう言って退けたクリスフェルは、横目でちらりと俺のほうを見た。
今から十一年前、王都の魔術研究所で通称『エデン・プロジェクト』と呼ばれる計画をもとにして、ある人体実験が極秘で行われた。
エデン・プロジェクトとは、その名の通り『楽園』を目指す計画である。研究者達の最終目標は『この世からリアンという存在をなくすこと』だ。
そもそも、同じ人間なのに『ホルダー』や『リアン』などと呼び区別化を図るから、無闇な差別を生み出すのだ。
そのため、多くの研究者達は「昔のように全ての人間が魔法を使える世界に戻ることができれば、差別がなくなるはずだ」と考えている。
差別も苦しみもない、誰もが幸せになれる魔法が発展した世界──そんな楽園のような世界を創り出すためには、年々増加している『リアン』という存在をどうにかしなければならない。そういう強い思いがあって、二十年ほど前にこの計画が立ち上げられたらしい。
研究はリアン達を治療するための薬の開発とともに徐々に進められ、十一年前、ついに初の実験が行われることになった。
被験者達は、ある『罪』を犯した者の中から選ばれた。その罪とは……一言で言えば、『殺人』だ。
この世界では殺人罪に最も重きを置いており、更生の余地すら与えられない重罪なのである。殺した相手がたとえリアンだろうが、一人殺せば終身刑か死刑のどちらかになる。
だから、極端な話、ホルダーが自分の隷属者に虐待を行ったとしても見逃されるが、勢い余って殺してしまえば権力も地位も何かも失い終身刑の囚人か死刑囚に成り下がるのだ。
この法律があるお陰で、マスターによる隷属者への虐待行為が行われていたとしてもそれが原因で隷属者が死に至ることはめったにない。
それはさておき、およそ十数名の被験者を集めて実施されたその実験の内容は非常にリスクを伴うものだった。
まず、ホルダーとリアンが二人一組になる。そして、両者は共に研究所で開発されたカプセル状の装置の中に入り、体温を低温状態に保つために所謂『コールドスリープ』の処置を施される。
元いた世界では、コールドスリープなんてSFでしか見たことがなかったし、勿論それを実現することなんて不可能だった。だが、この世界では魔法があるため、難なくそれができてしまうのだ。
仮死《コールドスリープ》状態になった被験者達は、今度は装置に備え付けられた機能である電気ショックが与えられる。この時、電気ショックは頭部のみに施し、他の部位には施さないのがポイントだ。
何度か電気ショックを繰り返していると、被験者達の体が青い光を帯びる。被験者達は、その状態で一週間ほどコールドスリープを続ける。すると、一週間後、カプセルから出てきたリアンの被験者に劇的な変化が現れるのだ。
リアンの被験者に現れた劇的な変化──それは、『なぜか魔法が使えるようになっている』というものだった。
研究者達によると、狭い空間で二人の人間がコールドスリープ状態に陥ると、この世界の人間の特性なのか不思議と魔力を共有しようとする現象が起こるのだそうだ。これは、その不可解な現象を利用した試みだった。つまるところ、人工的に魔力共有を引き起こさせたのだ。
とはいえ、前述したようにこの実験にはデメリットもあった。カプセルに入った被験者のうち、数名は魔力を共有したことによって拒絶反応を起こしてしまい、死に至ってしまったのである。
被験者達は皆、終身刑や死刑を言い渡された囚人ではあるが、いくらなんでも倫理に反するとして一時は研究が中断された。
しかし、近年見られるリアンへの差別の激化を見かねた研究者達は再びエデン・プロジェクトを再開させることにしたのだ。
「親善大使を務めていると、何かと色んな人と接する機会が多いんだよ。以前、君が所属している魔術研究所の研究員と酒を交わす機会があったんだが……その時、彼は酔いつぶれてしまってね。介抱をしていたら、彼の鞄から資料が落ちてしまったんだよ。それを拾おうとして、偶然『エデン・プロジェクト』についての研究資料が目に入ってしまったというわけさ」
「なるほど……」
何たる失態だろう。故意に情報を流出させたわけではないとはいえ、このようなミスを犯すのは研究員として絶対にあってはならないことだ。そう思いつつも、俺はクリスフェルに問いかける。
「そこまではわかりました。それで、あなたは一体何が目的なんですか?」
クリスフェルは一呼吸置くと、落ち着いた様子で口を開いた。
「単刀直入に言う。僕にその実験を施してほしい」
「は……?」
クリスフェルが発した言葉に、思わず耳を疑う。この男は、一体何を言っているんだ?
「なんでも、その実験は、ホルダー同士でも可能だそうじゃないか。しかも、高い魔力を持つ者ほど死亡リスクは低くなるらしいね」
「……つまり、何が言いたいんですか?」
「僕はね、君の魔力が欲しいんだよ。君の魔力を少しだけ僕に分け与えてくれれば、僕はさらなる魔力を手にすることができる。なに、簡単なことさ。少しの間、一緒にカプセルに入ってくれるだけでいい。そのための協力者や施設は僕の権力があれば容易く用意できるからね。勿論、謝礼は弾ませてもらうよ」
「……」
どうやら、クリスフェルは今の地位では満足できず、俺の魔力を吸い取って、さらに上にのし上がるつもりらしい。
勿論、突然今まで以上の魔力を発揮すれば不自然極まりないだろうが……ホルダーなら皆、努力次第では多少の魔力の向上は見込めるため、あくまで常識の範囲内で魔力の強化を図るつもりなのだろう。
「お断りさせて頂きます。大体、それを行ったとして、一体僕に何のメリットがあると言うんですか? 別に、経済的に困窮しているわけでもないのに……」
「確かにそうだ。だが……もし僕が君の秘密を知っているとしたら、どうだろう? そう、例えば──僕が君とお姉さんの関係を知っている、とかね」
「なっ……」
「どうやら、君は双子のお姉さんと近親相姦の関係にあるらしいね。そのために縁談を破談にしたとか……」
「……その話、一体どこで知ったんですか?」
一応、尋ねてみたものの、思い当たる節は一つしかない。恐らく、ジゼルだ。あの女が口外したとしか考えられない。
「ジゼル嬢から聞いたのさ。彼女とは、ちょっとした知り合いでね。ああ、彼女を責めないであげてくれ。僕が脅迫して、吐かせたんだよ。『学院での不正を口外されたくなかったら、リヒト・ローズブレイドについて知っていることを何でもいいから話せ』ってね」
「……」
「ちなみに、ジゼル嬢に不正を働くように唆したのは僕だよ。まさか、彼女もそのせいで後々不利な状況に追い込まれるとは思ってもみなかったんだろうけれど。しかし、君も詰めが甘かったね。『優秀な魔術師の妻』という肩書きが欲しかったジゼル嬢は、何があろうと君との結婚だけは押し切るつもりだったらしいから、恐らく、ああでもしないと君との結婚を諦めてくれなかったと思うが……それにしたって、自分達の関係をばらすなんて下策だよ。ジゼル嬢に僕のような後ろ盾がいる可能性を考えなかったのかい?」
そう尋ねられ、思わず俯く。勿論、その可能性も考えた。考えたからこそ、ジゼルの身辺調査は隈なく行った。
だが、クリスフェルとの繋がりがあったのは想定外だったのだ。
「ジゼル嬢も驚いていたよ。『あのローズブレイド家のご子息が、実の姉と禁断の関係を結んでいたなんて、今でも信じられない』とね。それと──穢らわしいとも言っていたな」
「穢らわしい……ですか」
「そうさ。世間では、君達のような人間は忌むべき存在なんだよ。もし、僕が君達姉弟の関係を口外したら、どうなると思う?」
「……」
言葉に詰まった俺は、再び俯いた。だが、クリスフェルは追い打ちをかけるように言葉を続ける。
「恐らく、最愛のお姉さんとも引き離されるだろうね。だって、そうだろう? リアンだと判明した姉を守るために隷属契約をした優しい弟の真の目的は、その姉と隠れて近親相姦をするためだったんだから。家族どころか、世間が許さないだろう。……もう、ここまで言えばわかるだろう? 君に拒否権はないんだよ」
「──わかりました。その話、お引き受けいたします」
意を決した俺は、クリスフェルにそう返事をする。
それを聞いたクリスフェルは、にこっと微笑み、「よろしく頼むよ」と言いながら握手を求めてきた。
「ただ、少し時間を下さい。こちらにも、色々と準備がありますから……」
「勿論。それは構わないよ」
クリスフェルと握手を交わした俺は、要求を受け入れたふりをしつつ、頭の中では彼を始末する方法を淡々と考えていた。
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