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本編
42 平穏
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薪割り用の小型斧を手に持ち、庭の一角にある切り株の前まで歩いてきた私は、その周辺に無造作に置いてある薪を一本拾い上げる。そして、その薪を切り株の上に立てると、先端に刃を食い込ませた。
「えいっ!」
掛け声とともに薪もろとも一気に斧を振り下ろすと、狙い通り薪は真っ二つに割れた。
その要領で、私は次々と薪を割っていく。コンコンと小気味いい音を立てて薪が割れていく様は、一種の爽快感を感じるほどだ。そうやって暫くの間、薪割りを続けていると不意に背後から声をかけられた。
「やあ、セレス。精が出るね」
「あ……ネイトくん!」
ネイトの存在に気づいた私は一先ず薪割りを中断し、彼のもとに駆け寄った。
「お帰りなさい。疲れたでしょう?」
「まあね……。案の定、今日も駄目だったよ」
ネイトはそう言って、困ったように肩をすくめてみせた。
彼はフォーサイス村に来て以来、この近辺に移住する目的で屋敷に滞在しながら新しいマスター探しをしている。でも、これが中々上手くいかないようなのだ。
やはりこのご時世、マスターが見つからずに隔離施設行きになるリアンがほとんどの割合を占めているので、そうそう簡単に見つかるものではないのだろう。
本当は私と一緒にラウラと隷属契約をするのが一番いいのだが、生憎、六十歳以上の高齢者が二人以上のリアンと隷属契約をするためには二週間に一度、魔力検査を受けに行かないといけないらしい。なんでも、魔力の衰えが著しい高齢者のホルダーは隷属者を管理する能力が低下すると見なされているらしく、国が厳しくチェックしているのだとか。
その話を聞いた時は、いくら魔力の衰えが始まるのが六十歳頃だからとはいえ、お年寄り相手に二週間に一度の検査は厳しすぎると思った覚えがある。
ここに来た当初、ラウラは「私が魔力検査に出向けば済む話だから」と言ってネイトも一緒に隷属契約をするよう勧めてくれた。
けれど、ネイトは「それでは彼女の負担になるようで気が引けるし、自分のために手間を取らせるのも悪いから他を当たってみよう」と思ったらしく、近辺で新しい雇い主を探すことにしたのだそうだ。
「それにしても……まさか、異世界に転生してからこんなことで苦労するなんて思わなかったよ」
ネイトはそうぼやいてため息を漏らすと、「まるで元いた世界みたいだ」と言葉を続けた。それに対して、「そう言えば、そうだね」と私も苦笑する。
前世の私達は高校生のうちに死んでしまったので所謂、就職活動というものは経験していない。
とはいえ、周囲の人間を見ていればその大変さは嫌でも理解できたため、ネイトは今自分がやっていることを元いた世界の就職活動に例えたのだろう。
「ところで、セレス。薪割りをしていたの?」
ネイトは切り株のそばに放置してある薪と斧を見て、そう尋ねてきた。
この世界の暖房器具は元いた世界と違って、暖炉が主流だ。本格的な冬の到来までまだ半年以上あるけれど、できるだけ早く薪割りを済ませて棚に積んでおかなければならない。そうしたほうが薪を乾燥させる期間が長くなるし、結果的によく燃える薪が作れるからだ。
「え? うん、そうだよ」
「この仕事は、流石にセレスにはきついんじゃないかな?」
「そんなことはないよ? この斧は女性や子供でも薪割りがしやすいように工夫がなされているし、薪を棚に積むのは隣人さんが手伝ってくれることになっているし、暖炉に火をつけるのだってラウラさんが魔法でやってくれるし……」
そう返し「大丈夫だよ」と微笑んでみせると、ネイトはすたすたと切り株のほうまで歩いていった。
「……?」
そのまま様子を窺っていると、ネイトは私が先程まで使っていた斧を手に取り、薪割りを始めた。
「よし。これくらいだったら、夕飯の時間までには終わりそうだな。余計なお世話かもしれないけれど……せめて、今ここにある分くらいは僕に手伝わせてほしいな。他にも、やらなきゃいけないことは色々あるんだろう? 薪割りは僕に任せて、セレスは他の仕事を済ませてくるといいよ」
「ネイトくん……ありがとう!」
今日も今日とて、ネイトは私を気遣ってくれているようだ。私は仕事を手伝ってくれたネイトにお礼を言うと、屋敷に戻り夕飯の支度を始めることにした。
少し早い気もするけれど……今日はネイトも一緒だし、今から準備を始めていつもより豪勢な食事を作ることにしよう。
「えいっ!」
掛け声とともに薪もろとも一気に斧を振り下ろすと、狙い通り薪は真っ二つに割れた。
その要領で、私は次々と薪を割っていく。コンコンと小気味いい音を立てて薪が割れていく様は、一種の爽快感を感じるほどだ。そうやって暫くの間、薪割りを続けていると不意に背後から声をかけられた。
「やあ、セレス。精が出るね」
「あ……ネイトくん!」
ネイトの存在に気づいた私は一先ず薪割りを中断し、彼のもとに駆け寄った。
「お帰りなさい。疲れたでしょう?」
「まあね……。案の定、今日も駄目だったよ」
ネイトはそう言って、困ったように肩をすくめてみせた。
彼はフォーサイス村に来て以来、この近辺に移住する目的で屋敷に滞在しながら新しいマスター探しをしている。でも、これが中々上手くいかないようなのだ。
やはりこのご時世、マスターが見つからずに隔離施設行きになるリアンがほとんどの割合を占めているので、そうそう簡単に見つかるものではないのだろう。
本当は私と一緒にラウラと隷属契約をするのが一番いいのだが、生憎、六十歳以上の高齢者が二人以上のリアンと隷属契約をするためには二週間に一度、魔力検査を受けに行かないといけないらしい。なんでも、魔力の衰えが著しい高齢者のホルダーは隷属者を管理する能力が低下すると見なされているらしく、国が厳しくチェックしているのだとか。
その話を聞いた時は、いくら魔力の衰えが始まるのが六十歳頃だからとはいえ、お年寄り相手に二週間に一度の検査は厳しすぎると思った覚えがある。
ここに来た当初、ラウラは「私が魔力検査に出向けば済む話だから」と言ってネイトも一緒に隷属契約をするよう勧めてくれた。
けれど、ネイトは「それでは彼女の負担になるようで気が引けるし、自分のために手間を取らせるのも悪いから他を当たってみよう」と思ったらしく、近辺で新しい雇い主を探すことにしたのだそうだ。
「それにしても……まさか、異世界に転生してからこんなことで苦労するなんて思わなかったよ」
ネイトはそうぼやいてため息を漏らすと、「まるで元いた世界みたいだ」と言葉を続けた。それに対して、「そう言えば、そうだね」と私も苦笑する。
前世の私達は高校生のうちに死んでしまったので所謂、就職活動というものは経験していない。
とはいえ、周囲の人間を見ていればその大変さは嫌でも理解できたため、ネイトは今自分がやっていることを元いた世界の就職活動に例えたのだろう。
「ところで、セレス。薪割りをしていたの?」
ネイトは切り株のそばに放置してある薪と斧を見て、そう尋ねてきた。
この世界の暖房器具は元いた世界と違って、暖炉が主流だ。本格的な冬の到来までまだ半年以上あるけれど、できるだけ早く薪割りを済ませて棚に積んでおかなければならない。そうしたほうが薪を乾燥させる期間が長くなるし、結果的によく燃える薪が作れるからだ。
「え? うん、そうだよ」
「この仕事は、流石にセレスにはきついんじゃないかな?」
「そんなことはないよ? この斧は女性や子供でも薪割りがしやすいように工夫がなされているし、薪を棚に積むのは隣人さんが手伝ってくれることになっているし、暖炉に火をつけるのだってラウラさんが魔法でやってくれるし……」
そう返し「大丈夫だよ」と微笑んでみせると、ネイトはすたすたと切り株のほうまで歩いていった。
「……?」
そのまま様子を窺っていると、ネイトは私が先程まで使っていた斧を手に取り、薪割りを始めた。
「よし。これくらいだったら、夕飯の時間までには終わりそうだな。余計なお世話かもしれないけれど……せめて、今ここにある分くらいは僕に手伝わせてほしいな。他にも、やらなきゃいけないことは色々あるんだろう? 薪割りは僕に任せて、セレスは他の仕事を済ませてくるといいよ」
「ネイトくん……ありがとう!」
今日も今日とて、ネイトは私を気遣ってくれているようだ。私は仕事を手伝ってくれたネイトにお礼を言うと、屋敷に戻り夕飯の支度を始めることにした。
少し早い気もするけれど……今日はネイトも一緒だし、今から準備を始めていつもより豪勢な食事を作ることにしよう。
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