【R18】禁忌の主従契約 ~転生令嬢は弟の執愛に翻弄される~

彼岸花

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本編

46 大罪(リヒトside)

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 ちょうど、処置が施されてから七日目の朝のことだった。
 俺は無事コールドスリープから目覚めた。クリスフェルは俺より早く目が覚めたらしく、すでに研究者達と実験結果のことについて話し合っている様子だった。

「あの……それで、実験は成功したんですか?」

 やや気怠さを感じつつも、俺は上体を起こし口を開く。その途端、室内にいる全員の視線がこちらに集中した。

「やあ、リヒトくん。目が覚めたのか。お陰様で、大成功だったよ。僕の魔力値は申し分ないほど上がっているし、今のところ体調も良好だ。念のため、暫くの間は経過観察のためにこの実験室に通うことになると思うが、君もそれで構わないよね?」
「ええ、それは構いませんよ」
「リヒトくんには、本当に世話になったからね。アフターケアは十分にさせてもらうよ」

 上機嫌な様子で俺を気遣うクリスフェルに、素っ気なく「わかりました」とだけ返す。
 散々狡猾な手口で他人を利用しておきながら、金と申し訳程度のアフターケアで帳消しにしようとしているのが透けて見える。
 きっと、このままクリスフェルを生かしておけば事あるごとに俺を利用しようとしてくるだろう。やはり、この男は後々弊害になりかねないので、始末しておかなければ……。





 あの実験から数日が経ったある日のこと。
 クリスフェルが今回の実験を無事終えた祝杯として、俺を晩餐会に招待した。
 晩餐会といっても、今回の実験は関係者以外は知らないため、実質的には俺とクリスフェルの二人だけの晩餐会になるだろう。
 この晩餐会は、俺にとってまたとない機会だった。こんなにも早くクリスフェルを暗殺できる機会がやってくるとは思わなかったため、二つ返事で承諾してしまった。少し怪しまれたかもしれない。

 実験に携わった研究者達からは「まだまだ油断は禁物だから、少しでも異変を感じたらすぐに連絡をするように」と念を押された。
 実験からすでに数日が経過しているが、魔力共有による拒絶反応が起こる可能性は十分にあり得るらしい。
 つまり、今クリスフェルが倒れれば、彼の死因は『魔力を共有したことによる拒絶反応』として片付けられる可能性が高いというわけだ。この機会を利用しない手はないだろう。

 この数日間、俺は有給休暇を利用してセレスの現在の居場所であるフォーサイス村に出向き偵察を行った。勿論、ばれないように変装をして細心の注意を払った上でだ。
 クリスフェルが言っていた通り、セレスは村で下働きをしながら細々と暮らしている様子だった。
 久々に見た双子の姉の元気な姿を確認して安心すると同時に、自分の知らないところで楽しそうに笑い穏やかな日々を送っている姉が憎らしくも思えて、俺の中で安堵と憎悪が入り混じったような形容し難い感情が込み上げてきた。
 すぐにでも出ていって彼女を奪い返したい気持ちで一杯になったが、急いては事を仕損じる。一通り偵察を終えた後、俺はクリスフェルの暗殺に専念するため一先ずリーヴェの町に戻った。





 それから三日後。何はともあれ、俺は晩餐会に出席するために再びラティモア邸に出向くことにした。
 屋敷に到着するなり、俺はクリスフェルの自室に案内された。予想通り、今夜は二人で酒を飲み交わす程度の規模の小さい晩餐会を行う予定らしい。

「それでは、今回の実験の成功を祝して──乾杯!」
「……」

 ご機嫌なクリスフェルとは対照的に、俺は無言でワイングラスを上げ形ばかりの乾杯をする。

「それで、どうだったんだ? 行ったんだろう? フォーサイス村に」
「……ええ、行きましたけど」

 思わず「貴様には関係のないことだろう」と声を荒らげそうになったが、ぐっと堪えて言葉を飲み込む。

「その様子だと、新しいマスターとネイトくんが妨げとなってセレスちゃんを奪い返すのに苦戦しているようだね。君さえよければ、僕が代わりに二人を始末してあげてもいいけれど……どうする?」

 無言のままでいると、クリスフェルは意外な提案を投げかけてきた。いや、想定の範囲内ではあるか。
 クリスフェルの言う『始末』が社会的な抹殺なのか、それとも物理的な死なのかは定かではないが、恐らくここで恩を売って俺を手駒にするつもりなのだろう。そもそも、セレスの逃亡はクリスフェルの策略なのだから、「恩を売る」という表現は正しくないのかもしれないが……。

「遠慮することはないさ。僕達はもう友人だろう? 何せ、魔力を共有した仲なんだからね」
「……いえ、遠慮しておきます。自分で何とかしますから」
「ふーん……なるほど。すると、君は自分の手を汚すつもりなのか。せっかく『協力するよ』と申し出ているのだから、友人の厚意は素直に受けるべきだと思うけれどね」

 尚も粘り続けるクリスフェルに、俺は断固として拒否の姿勢を突きつける。
 暫くそんなやり取りをしていると、控えめにドアをノックする音が聞こえてきた。ソファから立ち上がったクリスフェルがドアを開けると、そこには使用人らしき女性が立っていた。
 クリスフェルはドアを半開きにして、そのまま使用人と会話を続けた。「ああ、後で連絡する」とか「先方にはそう伝えておいてくれ」などと言っているから、恐らく仕事関係の話だと思う。

 話はもう暫く続きそうだったので、俺はこの機会を利用することにした。
 まず、料理を取るふりをして、二人に気づかれないように先日作った毒薬を指輪からクリスフェルのグラスに流し込む。そして、素知らぬ顔で料理を口に運んでいるように見せかけた。
 というのも、俺は基本的にクリスフェルのことを信用していないため、できることならこの屋敷で出された料理や飲み物には口をつけたくないからだ。
 暫くの間そうやって演技を続けていると、会話を終えたクリスフェルが戻ってきた。

「やあ、待たせたね」

 クリスフェルはそう言いながら、意外にもすぐにグラスを手に持った。先程まで使用人と会話をしていたせいか喉が渇いたらしく、彼はグラスに注がれたワインを一気に飲み干した。
 その様子を見た俺は、心の中でほくそ笑む。指輪に仕込んだ毒は致死量であるため、順調にいけばクリスフェルはこの後──

「うぐっ……!? くっ……あ……がはっ……!」

 そう思った矢先。思惑通り、ワインを飲み干したクリスフェルはうめき声を上げその場に倒れ込んだ。きっと、毒が効いてきたのだろう。
 クリスフェルは一頻り苦しみ悶えると、やがてぴくりとも動かなくなった。どうやら、事切れたようだ。
 死に際に、俺が犯人であることに気づいたのだろうか。大きく見開かれた彼の黒い瞳は、酷く驚いた様子でこちらを見据えている。

 俺はソファから立ち上がり、床の上で仰向けになっているクリスフェルを蔑むように見下ろす。そして、すぐさま床に膝をついて手首の脈を取り、完全に絶命したことを確認すると、死者と化したクリスフェルに向かってそっと囁いた。

「……お疲れ様でした、クリスさん。『お友達ごっこ』がしたいのなら、あの世で別の誰かとやって下さいね。生憎、俺はまだ死ぬつもりはありませんから」

 口から血の混ざった泡を吐き、さらに涙とも汗とも判別のつかぬ液体にまみれたクリスフェルの顔は酷く醜かった。自慢だったであろう彼の美貌は無残にも崩れ去り、見る影もなくなっている。
 死に方だけ見れば、誰もが不憫に思うような惨憺たる死に方だ。けれど、これまで散々汚いやり方で他人を利用し、のし上がってきた男にはきっとこれが相応しい末路なのだろう。
 そんなことを考えつつも、俺は大げさに部屋のドアを開け、近くを通りかかった使用人に助けを求める。

「助けてくれっ! クリスさんが……! クリスさんが、突然苦しみだして……!」

 ……といった具合に、さも気が動転しているかのように振る舞いながら、クリスフェルが倒れたことを伝えた。
 だが……どういうわけか、演技でもないのに俺の体は小刻みに震えている。これが武者震いなのか、それともいよいよ殺人まで犯してしまった自分への恐怖心から来る震えなのかはわからない。けれど──

 ──もうすぐ、セレスに会える。もう少しだけ我慢すれば、彼女は俺のもとに戻ってくるんだ。

 それだけを励みに、俺はひたすら前に進み続けた。
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