土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家

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第5章 新選組の再集結

第10話

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 会議の後、林忠崇はふと思いついたことがあって、大鳥圭介を訪ねた。

「旧新選組の面々と土方歳三少佐の再会の集いをしたいか」
「はい、どんなものでしょうか。
 志願兵の中で80名余りが旧新選組所属です。
 その中には土方少佐の連絡に応じて来た兵もたくさんいます。
 土方少佐も一言言いたいでしょうし」
「悪くはないが、一部の兵だけひいきしているように見えても困るな」
 林の言葉に、大鳥は考え込んだ。

  その様子を見た林は、更なる提案をした。
「旧新選組の者が集会をしたいといってきたが、土方少佐は当事者なので、代理で私が大鳥大佐に許可を求めた、という形はどうでしょうか」
「誰か心当たりでもあるのか」
「はい」
 林には心当たりがあった。

 林は、その足で斎藤一と島田魁の元へ向かった。
「我々を、新選組の面々の集会の発起人ですか」
「私は部外者なので発起人にはなれません。
 代わりに発起人になってくれませんか」
 林の言葉に、斎藤と島田は驚いたが、確かに久闊を叙するのはいいことである。

「いいですが、一つ条件があります」
 斎藤が悪い顔をして言った。
「何でしょうか」
 林の問いに、斎藤はある提案をし、林は唸った。

「まあ、いいでしょう。
 それでは名前をお借りします」
 最終的に林は、斎藤の提案を呑み、斎藤と島田の元を辞去した。

「厚かましいお願いではありませんか」
 林が去った後、島田は斎藤をたしなめた。

「厚かましいお願いかもしれんが、林大尉が新しい新選組の副長みたいなものだ。
 そして、幸いなことに林大尉の剣の腕は中々だ。
 かつての新選組の面々に、林大尉の剣技を披露してみたいと思わんか」
「思いますね。
 特に相手が相手ですし、得意技も沖田を思い出させるものですし。
 ところで、相手には事前に言っておかなくてもいいのですか」
 斎藤の言葉に、島田は肯きながら言ったが、相手のことも気になった。

「事前に言ったら、面白味が減ると思わないか」
「確かにそう言われれば」
「それにあいつの今の剣の腕も知りたい。
 あいつの腕が落ちていると、私には思えないが」
「あの人の剣の実力が落ちている、とは私にも思えませんね」
「それに土方さんと同じ船で来た、というのもちょっと自分のしゃくに障るしな」
「その理由が最大では」
「悪いか」
「悪くはないですよ。私もその点では同感ですし」
 斎藤と島田は、そうやり取りを続け、最後には、お互いに笑いながら言い合った。

 林は、大鳥のもとへ行っていた。
「斎藤一さんと島田魁さんが、再会の集いの発起人になってくださいました。
 これでどうでしょうか」

 林の言葉に、大鳥が肯きながら言った。
「よし、いいだろう。
 明日から第1大隊がいなくなるからな。
 少し施設に余裕ができる。
 訓練が終わった後、明日の夕方からやるといい。
 土方歳三少佐には私から言っておく」
「ありがとうございます」
 林は、素直に感謝した。

 土方少佐は、大鳥旅団長に呼び出しを受けたが、事情を知らなかったことから慌てた。
 何事か、と思いつつ大鳥旅団長のもとに行くと、大鳥旅団長が開口一番に言った。
「よい部下を持ったな。
 斎藤一と島田魁から林大尉に対して、旧新選組の面々で一度集まりたいとの希望があった。
 本来なら土方少佐に言うべきとは思ったが、公私混同と思われそうで、林大尉に言ったそうだ。
 林大尉も考えた末、私にその話を持ち込んだ。
 君も一度、出動前に旧交を温めたいだろうし、私が許可する。
 明日の夕方から集まるといい」

「ありがとうございます。
 私も一度、前線に赴く前に、旧知の面々と出動前に旧交を温めたいと思っていました」
 大鳥の言葉に、素直に土方は感謝しながら想った。

 内戦のために集えた、というのが皮肉な話だが、かつての仲間が集えるとは。
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