63 / 120
第6章 激闘、田原坂
第5話
しおりを挟む
このような伝習隊の苦戦を、決して海兵隊は看過してはいなかった。
3月7日、長崎にいる海兵隊の幹部は、大鳥圭介を半分取り囲むような状況で、激論を交わしていた。
「新選組を行かせてくれ」
土方歳三は、半分叫ぶように力説した。
「いや、ここは衝鋒隊が行くべきだ」
滝川充太郎が反論した。
「両方行ければ、最善なのですが、薬莢の問題が解消していませんからね」
本多幸七郎が、土方と滝川を半分なだめるように発言する一方、林忠崇と北白川宮殿下は、土方と滝川の激論に口を挟めない状況だった。
伝習隊の苦戦の状況は、長崎にいる海兵隊の幹部間でも把握されていた。
陸軍と海兵隊の関係が良好とは言いかねる現在、速やかに海兵隊の増援を田原坂に送り込まねばならない。
問題は、その増援の内容だった。
シャスポー銃の薬莢問題が、解決していない現状で、大規模な増援を海兵隊が送り込んでも、射撃不能の部隊が増えるだけだった。
現状は伝習隊の弾薬を賄うだけなら余裕があるが、更に2個大隊を送り込んだら、弾薬というか薬莢不足はどうにもならなくなるというのが海兵隊幹部の共通認識だった。
それ故に長崎に到着した薬莢の乾燥を待った上で、8日に1個大隊が増援として出発ということに決まった。
次の問題は、どの大隊を出すかということに移った。
大鳥は、沈思黙考をしばし続けた後に、意を決して発言した。
「新選組に行ってもらう」
「衝鋒隊ではダメなのか」
その言葉を聞いた瞬間、滝川は叫んだ。
「違う。西郷軍を釣るためには、新選組の方が向いているからだ。
衝鋒隊でも釣れないことはないが、新選組の方が西郷軍に与える影響が大きい」
「確かにな」
大鳥の言葉に、滝川は無念の思いがこみあげるのを感じたが同意した。
「ありがたい。最善を尽くさせてもらう」
逆に土方は喜んだ。
3月8日、編制を完結した新選組こと第3海兵大隊は長崎を出発した。
その先頭には誠の旗が掲げられており、土方がその傍に立って進んでいた。
砲兵を伴っていないことや、伝習隊救援のために、前線へと急行軍した結果、3月10日夕刻に。新選組こと第3海兵大隊は、田原坂前面に到着した。
田原坂の激戦当時、従軍記者として、それを報じていた福地源一郎は、新選組こと第3海兵大隊の田原坂への到着を、次のように記事において報じている。
「夕闇が迫る頃、北方から旗を掲げた千人近い部隊が、自分のいる所に迫ってきた。
何者ぞ、と誰何する声が、何処からか上がるが、その部隊が更に迫ると、誰何する声を上げた者たちは一様に沈黙して、更にその部隊が迫るにつれ、道路脇に整列しよう、と自分の近くにいた将兵は動き出し、多くの者が道路脇に自然と整列して、無言のうちに敬礼を始めた。
やがて、私の視界の中に、その旗には誠の1字が書かれていて、その傍を1人の偉丈夫が進み、更にその後を明らかに最精鋭とみえる男たちが無言のまま、行進してくるのが入った。
その偉丈夫は無言のまま答礼し、それに続く男たちも無言のままに答礼して行進を続け、熊本鎮台救援に向かう第1旅団司令部へと向かった。
私はその姿を見た後もしばらく声が出なかったが、勇を振るって、近くにいた兵に尋ねることにした。
あの部隊は何者か。
私の問いに、兵は畏怖を滲ませた声で即答した。
あれこそ新選組に相違ない、その先頭に立つ偉丈夫は、土方歳三殿。
私も大いに畏怖した。
あれほどの男と、それに続く男たちを、目にしたのは、生まれて初めてだった。
そして、それが味方であることに、心から感謝の念を私は抱いた、いや、抱かざるを得なかった。
もし、あれが敵軍だったら、その思いが頭をかすめるだけで、りつ然とする思いに私は囚われる有様だった」
3月7日、長崎にいる海兵隊の幹部は、大鳥圭介を半分取り囲むような状況で、激論を交わしていた。
「新選組を行かせてくれ」
土方歳三は、半分叫ぶように力説した。
「いや、ここは衝鋒隊が行くべきだ」
滝川充太郎が反論した。
「両方行ければ、最善なのですが、薬莢の問題が解消していませんからね」
本多幸七郎が、土方と滝川を半分なだめるように発言する一方、林忠崇と北白川宮殿下は、土方と滝川の激論に口を挟めない状況だった。
伝習隊の苦戦の状況は、長崎にいる海兵隊の幹部間でも把握されていた。
陸軍と海兵隊の関係が良好とは言いかねる現在、速やかに海兵隊の増援を田原坂に送り込まねばならない。
問題は、その増援の内容だった。
シャスポー銃の薬莢問題が、解決していない現状で、大規模な増援を海兵隊が送り込んでも、射撃不能の部隊が増えるだけだった。
現状は伝習隊の弾薬を賄うだけなら余裕があるが、更に2個大隊を送り込んだら、弾薬というか薬莢不足はどうにもならなくなるというのが海兵隊幹部の共通認識だった。
それ故に長崎に到着した薬莢の乾燥を待った上で、8日に1個大隊が増援として出発ということに決まった。
次の問題は、どの大隊を出すかということに移った。
大鳥は、沈思黙考をしばし続けた後に、意を決して発言した。
「新選組に行ってもらう」
「衝鋒隊ではダメなのか」
その言葉を聞いた瞬間、滝川は叫んだ。
「違う。西郷軍を釣るためには、新選組の方が向いているからだ。
衝鋒隊でも釣れないことはないが、新選組の方が西郷軍に与える影響が大きい」
「確かにな」
大鳥の言葉に、滝川は無念の思いがこみあげるのを感じたが同意した。
「ありがたい。最善を尽くさせてもらう」
逆に土方は喜んだ。
3月8日、編制を完結した新選組こと第3海兵大隊は長崎を出発した。
その先頭には誠の旗が掲げられており、土方がその傍に立って進んでいた。
砲兵を伴っていないことや、伝習隊救援のために、前線へと急行軍した結果、3月10日夕刻に。新選組こと第3海兵大隊は、田原坂前面に到着した。
田原坂の激戦当時、従軍記者として、それを報じていた福地源一郎は、新選組こと第3海兵大隊の田原坂への到着を、次のように記事において報じている。
「夕闇が迫る頃、北方から旗を掲げた千人近い部隊が、自分のいる所に迫ってきた。
何者ぞ、と誰何する声が、何処からか上がるが、その部隊が更に迫ると、誰何する声を上げた者たちは一様に沈黙して、更にその部隊が迫るにつれ、道路脇に整列しよう、と自分の近くにいた将兵は動き出し、多くの者が道路脇に自然と整列して、無言のうちに敬礼を始めた。
やがて、私の視界の中に、その旗には誠の1字が書かれていて、その傍を1人の偉丈夫が進み、更にその後を明らかに最精鋭とみえる男たちが無言のまま、行進してくるのが入った。
その偉丈夫は無言のまま答礼し、それに続く男たちも無言のままに答礼して行進を続け、熊本鎮台救援に向かう第1旅団司令部へと向かった。
私はその姿を見た後もしばらく声が出なかったが、勇を振るって、近くにいた兵に尋ねることにした。
あの部隊は何者か。
私の問いに、兵は畏怖を滲ませた声で即答した。
あれこそ新選組に相違ない、その先頭に立つ偉丈夫は、土方歳三殿。
私も大いに畏怖した。
あれほどの男と、それに続く男たちを、目にしたのは、生まれて初めてだった。
そして、それが味方であることに、心から感謝の念を私は抱いた、いや、抱かざるを得なかった。
もし、あれが敵軍だったら、その思いが頭をかすめるだけで、りつ然とする思いに私は囚われる有様だった」
0
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
大東亜戦争を有利に
ゆみすけ
歴史・時代
日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を
皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。
日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-
ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。
1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。
わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。
だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。
これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。
希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。
※アルファポリス限定投稿
山本五十六の逆襲
ypaaaaaaa
歴史・時代
ミッドウェー海戦において飛龍を除く3隻の空母を一挙に失った日本海軍であったが、当の連合艦隊司令長官である山本五十六の闘志は消えることは無かった。山本は新たに、連合艦隊の参謀長に大西瀧次郎、そして第一航空艦隊司令長官に山口多聞を任命しアメリカ軍に対して”逆襲”を実行していく…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる