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第1部 メアリー・グレヴィル
第40話
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アンが幽閉されている産屋を出て、交替でアンの面倒を見ている侍女4人の内2人に、アンとヘンリー大公の様子を私は尋ねた。
なお、4人共が長年、ヘンリー大公に仕えており、信頼できる侍女で固められている。
他の2人にも尋ねたかったが、偶々買い出し等のために外出していたり、休暇で不在だったりで、私は尋ねることができなかったのだ。
すると、私が別々に事情を聴いたにも関わらず、二人共が似たようなことを言った。
要約すると。
「ヘンリー大公は、心を病まれたアン様にほだされてしまったようです。それこそ、仕事を終えて、帰られたら、すぐに食事等を済まされて、アン様が幽閉された部屋に籠られ、朝まで出られません。更に、どうも入られてから深夜になるまで、お二人は励まれているのではないかと」
何に励んでいるのか、それは言うまでもない。
40歳前後の男性が、フルに仕事もしながら、そんな生活を送っては。
私は、背中が冷たくなってきた。
私がヘンリー大公の帰宅を待っていると、夜になって、仕事を終えたヘンリー大公が帰ってきた。
私は、1月余り振りに見るヘンリー大公の様子、顔色に慄然とした。
今なら、静養に努めれば、回復するだろうが、このままでは。
「一緒に夕食を食べながら、話しませんか」
「ああ、構わないとも」
私の提案を、ヘンリー大公は快諾したが、答える声に力が感じられなくなっている。
これは良くない、私は更に不安を高めた。
私は前世の知識まで動員して、温かく滋養のある夕食を準備してもらい、ヘンリー大公と会食を始めた。
私は礼儀もあり、酒類をたしなまないことにしたが、ヘンリー大公は、ポートワインを少したしなまれている。
ポートワインに、私の目は鋭くなった。
ポートワインの意味は。
「申し上げにくいのですが、何故に」
「そう聞く時点で分かっておるのだろう。アンのためだ」
私の問いに、ヘンリー大公は答えた。
そう、ポートワインは、この異世界では、男女の交わりの前に、男が呑み、女に勧める酒とされている。
これは良くない、私は更にそう判断を固めた。
「ヘンリー大公殿下」
私は、義理の叔父にして義弟に対し、敢えて敬称を付けて呼びかけた。
これは、あらたまった話をするという前振りになる。
ヘンリー大公は、気持ち背筋を伸ばし、あらたまった姿勢になった。
「アンを抱くのを、少しお控えください。このままでは、アンは更に病みかねません」
「何故かね」
「アンは、自分が召人だと、更に想い込みかねません」
私とヘンリー大公は、そうやり取りをし、ヘンリー大公は、私の言葉に、顔色を変えた。
おそらく、ヘンリー大公にも、少し自覚があったのだ。
だが。
「分かってくれ。アンに私は惚れてしまった。そして、アンは」
そこで、ヘンリー大公は、言葉を濁したが、私には続く言葉が分かってしまった。
今のアンは、ひたすらヘンリー大公との身体の交わりを求めるのだ。
自分を愛さないで下さい、メアリ様に申し訳ない、身体だけの関係でいてください。
そう、アンはヘンリー大公に訴えているのではないか。
そんな風に、アンが訴えるようになったのは、私のアンに対する仕打ちのせいだ。
アンは心を壊してしまい、自分を召人で、ヘンリー大公と自分は身体だけの関係でいなければならない、と思い込んで、そのように行動している。
そして、ヘンリー大公は、そのアンの言動にほだされてしまい、アンと身体の関係を持って、溺れている。
アンは、本当に魔女に変じてしまったのではないか、そう、私は内心で想わざるを得なかった。
「いっそのこと、アンと共に自分は逝きたい、と想うことさえあるのだ」
ヘンリー大公が続けて私に対してこぼした言葉は、私の心を凍らせた。
なお、4人共が長年、ヘンリー大公に仕えており、信頼できる侍女で固められている。
他の2人にも尋ねたかったが、偶々買い出し等のために外出していたり、休暇で不在だったりで、私は尋ねることができなかったのだ。
すると、私が別々に事情を聴いたにも関わらず、二人共が似たようなことを言った。
要約すると。
「ヘンリー大公は、心を病まれたアン様にほだされてしまったようです。それこそ、仕事を終えて、帰られたら、すぐに食事等を済まされて、アン様が幽閉された部屋に籠られ、朝まで出られません。更に、どうも入られてから深夜になるまで、お二人は励まれているのではないかと」
何に励んでいるのか、それは言うまでもない。
40歳前後の男性が、フルに仕事もしながら、そんな生活を送っては。
私は、背中が冷たくなってきた。
私がヘンリー大公の帰宅を待っていると、夜になって、仕事を終えたヘンリー大公が帰ってきた。
私は、1月余り振りに見るヘンリー大公の様子、顔色に慄然とした。
今なら、静養に努めれば、回復するだろうが、このままでは。
「一緒に夕食を食べながら、話しませんか」
「ああ、構わないとも」
私の提案を、ヘンリー大公は快諾したが、答える声に力が感じられなくなっている。
これは良くない、私は更に不安を高めた。
私は前世の知識まで動員して、温かく滋養のある夕食を準備してもらい、ヘンリー大公と会食を始めた。
私は礼儀もあり、酒類をたしなまないことにしたが、ヘンリー大公は、ポートワインを少したしなまれている。
ポートワインに、私の目は鋭くなった。
ポートワインの意味は。
「申し上げにくいのですが、何故に」
「そう聞く時点で分かっておるのだろう。アンのためだ」
私の問いに、ヘンリー大公は答えた。
そう、ポートワインは、この異世界では、男女の交わりの前に、男が呑み、女に勧める酒とされている。
これは良くない、私は更にそう判断を固めた。
「ヘンリー大公殿下」
私は、義理の叔父にして義弟に対し、敢えて敬称を付けて呼びかけた。
これは、あらたまった話をするという前振りになる。
ヘンリー大公は、気持ち背筋を伸ばし、あらたまった姿勢になった。
「アンを抱くのを、少しお控えください。このままでは、アンは更に病みかねません」
「何故かね」
「アンは、自分が召人だと、更に想い込みかねません」
私とヘンリー大公は、そうやり取りをし、ヘンリー大公は、私の言葉に、顔色を変えた。
おそらく、ヘンリー大公にも、少し自覚があったのだ。
だが。
「分かってくれ。アンに私は惚れてしまった。そして、アンは」
そこで、ヘンリー大公は、言葉を濁したが、私には続く言葉が分かってしまった。
今のアンは、ひたすらヘンリー大公との身体の交わりを求めるのだ。
自分を愛さないで下さい、メアリ様に申し訳ない、身体だけの関係でいてください。
そう、アンはヘンリー大公に訴えているのではないか。
そんな風に、アンが訴えるようになったのは、私のアンに対する仕打ちのせいだ。
アンは心を壊してしまい、自分を召人で、ヘンリー大公と自分は身体だけの関係でいなければならない、と思い込んで、そのように行動している。
そして、ヘンリー大公は、そのアンの言動にほだされてしまい、アンと身体の関係を持って、溺れている。
アンは、本当に魔女に変じてしまったのではないか、そう、私は内心で想わざるを得なかった。
「いっそのこと、アンと共に自分は逝きたい、と想うことさえあるのだ」
ヘンリー大公が続けて私に対してこぼした言葉は、私の心を凍らせた。
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