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第1部 メアリー・グレヴィル
第41話
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「ヘンリー大公殿下」
私は、言葉を極めて、ヘンリー大公殿下を諫めねば、と考え、更に言葉を続けようとしたが、ヘンリー大公が私を見る目に込められた想いに気が付いて、沈黙してしまった。
ヘンリー大公は、わざと私から目をそらして、更に言葉を継いだ。
「誠に失礼ですが、あなたはこの世の人ですか」
私は即答できなかった。
何故なら、私は前世の記憶があり、更にこの世界のある意味、創造主でもあるのだから。
だから、この世の人といえるか、と言われると。
私が即答しないことを、暗黙の肯定、とヘンリー大公は取られたのだろう。
ヘンリー大公は、私に半ば追い討ちを掛けた。
「帝室と大公家の対立は、深刻化する一方ですが、だからといって、帝室への武力行使を、帝室に所縁のあるあなたが言い出すとは。元皇帝ジェームズは、あなたの実の従兄ですよ。ボークラール家の人間でない、貴方が言われるとは、どうにもね」
ボークラール家、この世界の帝国の軍事貴族の筆頭といえる名家だ。
「帝室の剣」、「ボークラール家の当主が命じれば、1万の騎士が集うかもしれぬ」
と謳われる程の威勢を誇る。
だが、その一方で。
「ボークラール家の共食い」
とも言われる程、血族間の対立が激しいことでも有名だ。
ボークラール家では、実の親子兄弟間でも、容赦なくお互いに刃を向け、命の取り合いをするのが稀ではない。
「ボークラール家の人間にしてみれば、従兄弟ともなると血族ではなく、赤の他人も同然」
という俚諺が語られる程だ。
これは、軍事貴族の特性によるものが大きく、ボークラール家だけではなく、多くの軍事貴族で見られるが。
ボークラール家に次ぐ名家、マイトラント家では血族間の対立が小さいことから、尚更、ボークラール家の特性として見られることが多い。
私は言葉に詰まらざるを得なかった。
本来からすれば、私はもう少し血族である元皇帝ジェームズ、そして、アンに優しくて当然なのに。
私は、実の妹のアンを容赦なく攻撃して精神崩壊に追い込み、更に従兄を討とうとしているのだ。
私にしてみれば、正当で当然の話だが、第三者から見ればどうだろうか。
ヘンリー大公は、私の答えが得られないものと思っていたのだろう。
半ば独り言を紡いでいった。
「アンがね。気の毒でならないのです。貴方の言葉で、父から勘当され、母代わりの乳母に最初から裏切られていたと思い込んだのでしょう。それに、チャールズとの関係でも罪悪感があったのでしょう]
ヘンリー大公は、そこで一息入れて、言葉を続けた。
「アンに、チャールズ、キャロライン、という言葉を聞かせると、反射的に耳を塞いで身体を丸めて固まってしまうのです。また、身の上話をさせると、私の父は、私が産まれてすぐに死んだ、母は、乳姉妹のメアリばかり大事にして、私にメアリ様の役に立つように頑張りなさい、と教えてきた、というのです。貴方は、何でアンがそこまで言うまでに追い込む必要があったのですか。貴方は、そんなつもりは無かった、と言われるでしょうが。それを言えば、アンにしても、最初からは、貴方を裏切るつもりは無かったのですよ」
ヘンリー大公の言葉に、私は俯かざるを得なかった。
このような事態にまで、突入してしまったのは、私にしてみれば、アンが全部悪い、と言い張りたいが、実際にはそんなことがないのは、私自身、重々分かっている。
本当に、色々とすれ違ってしまった末、としか言いようが無い。
だから。
「アンと結婚して生活する内に、私はアンをあらためて好きになりました。そして、アンが心を壊してしまったので、ずっと傍にいて癒してやりたい、と想っているのです」
ヘンリー大公の言葉に、私は反論できなかった。
私は、言葉を極めて、ヘンリー大公殿下を諫めねば、と考え、更に言葉を続けようとしたが、ヘンリー大公が私を見る目に込められた想いに気が付いて、沈黙してしまった。
ヘンリー大公は、わざと私から目をそらして、更に言葉を継いだ。
「誠に失礼ですが、あなたはこの世の人ですか」
私は即答できなかった。
何故なら、私は前世の記憶があり、更にこの世界のある意味、創造主でもあるのだから。
だから、この世の人といえるか、と言われると。
私が即答しないことを、暗黙の肯定、とヘンリー大公は取られたのだろう。
ヘンリー大公は、私に半ば追い討ちを掛けた。
「帝室と大公家の対立は、深刻化する一方ですが、だからといって、帝室への武力行使を、帝室に所縁のあるあなたが言い出すとは。元皇帝ジェームズは、あなたの実の従兄ですよ。ボークラール家の人間でない、貴方が言われるとは、どうにもね」
ボークラール家、この世界の帝国の軍事貴族の筆頭といえる名家だ。
「帝室の剣」、「ボークラール家の当主が命じれば、1万の騎士が集うかもしれぬ」
と謳われる程の威勢を誇る。
だが、その一方で。
「ボークラール家の共食い」
とも言われる程、血族間の対立が激しいことでも有名だ。
ボークラール家では、実の親子兄弟間でも、容赦なくお互いに刃を向け、命の取り合いをするのが稀ではない。
「ボークラール家の人間にしてみれば、従兄弟ともなると血族ではなく、赤の他人も同然」
という俚諺が語られる程だ。
これは、軍事貴族の特性によるものが大きく、ボークラール家だけではなく、多くの軍事貴族で見られるが。
ボークラール家に次ぐ名家、マイトラント家では血族間の対立が小さいことから、尚更、ボークラール家の特性として見られることが多い。
私は言葉に詰まらざるを得なかった。
本来からすれば、私はもう少し血族である元皇帝ジェームズ、そして、アンに優しくて当然なのに。
私は、実の妹のアンを容赦なく攻撃して精神崩壊に追い込み、更に従兄を討とうとしているのだ。
私にしてみれば、正当で当然の話だが、第三者から見ればどうだろうか。
ヘンリー大公は、私の答えが得られないものと思っていたのだろう。
半ば独り言を紡いでいった。
「アンがね。気の毒でならないのです。貴方の言葉で、父から勘当され、母代わりの乳母に最初から裏切られていたと思い込んだのでしょう。それに、チャールズとの関係でも罪悪感があったのでしょう]
ヘンリー大公は、そこで一息入れて、言葉を続けた。
「アンに、チャールズ、キャロライン、という言葉を聞かせると、反射的に耳を塞いで身体を丸めて固まってしまうのです。また、身の上話をさせると、私の父は、私が産まれてすぐに死んだ、母は、乳姉妹のメアリばかり大事にして、私にメアリ様の役に立つように頑張りなさい、と教えてきた、というのです。貴方は、何でアンがそこまで言うまでに追い込む必要があったのですか。貴方は、そんなつもりは無かった、と言われるでしょうが。それを言えば、アンにしても、最初からは、貴方を裏切るつもりは無かったのですよ」
ヘンリー大公の言葉に、私は俯かざるを得なかった。
このような事態にまで、突入してしまったのは、私にしてみれば、アンが全部悪い、と言い張りたいが、実際にはそんなことがないのは、私自身、重々分かっている。
本当に、色々とすれ違ってしまった末、としか言いようが無い。
だから。
「アンと結婚して生活する内に、私はアンをあらためて好きになりました。そして、アンが心を壊してしまったので、ずっと傍にいて癒してやりたい、と想っているのです」
ヘンリー大公の言葉に、私は反論できなかった。
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