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魔物は強い
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サイズは早々に火山を下山していた。現在は深い森の中にいる。杉の木か白樺か比較的見通しの良い森であったことは不幸中の幸いだと言えるだろう。
世の中とはどこも良いと呼べる場所はないだろう。だが角度によって、見方によって良い場所とも悪い場所とも言える。そう言ってしまえば、こことて良いと呼べる場所なのかもしれない。
「……独り言を考えるのも疲れてきたな」
時計がないから正確な時間は分からないのだが、かれこれ俺は使えそうな材料を拾いつつひたすらある方向に歩いていた。
だが水源に出会えてはいなかった。水がないのはまずい。人は2パーセント水分を失ったとき喉が渇き、3パーセントで脱水症状になる。とすると、あと1パーセントが猶予ということだ。
「おかしいなぁ。アニメやライトノベルの主人公は最初に必要最低限の装備とか、開始の場所が始まりの街だったりとかするのに」
不親切だぞ、女神。
俺は切り株の上に腰を下ろした。ただ歩くだけでは拉致が開かないからとりあえず作れる装備を作ろうと考えたのだ。
「ええと、女神は作れるって言ってたがどうすれば良いんだ?」
やっぱり不親切だ。
しかし文句ばかり言っていても始まらない。これも魔法だよな。だったらやっぱり呪文とかなのか?
溶岩に俺は手をかざした。
「エヘン……この溶岩を剣に変えよ」
森の中に俺の声が響いた。そして静寂。
恥ずかしいすぎる。誰もいないとはいえこれではただの厨二病じゃないか!?アニメは好きだが俺はその分類ではない。
「ハァ、誰かもう一人でも仲間がいればアイデアが出るのにな。そうイメージが膨らむのに」
ん?イメージ……。そうかイメージだ!
もう一度溶岩に手をかざし、溶岩が剣に変化する様子をイメージする。片手剣の直剣。
すると、溶岩が輝き変形した。黒字の剣の真ん中に赤いルビーがついている。
「出来た……」
サイズは驚きが隠せず震える手で剣を手に取った。同時に目の前にホログラムのような画面が現れた。
==================================
サイズ Level1
MP:100/100
HP:1000/1000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造
==================================
ステータス、これがステータスというものなんだろう。
だがLevel1はいいとしても、適性魔法がないって。女神さん、俺の魔力封印しすぎではありませんかね。
「それと……これは何だ。灼熱の黒刃ーー」
自分で言いつつ今作った剣のことを言っているのだと納得する。
とにかく武器はできた。防衛戦はできた。
あと必要なのはやはり水、それと寝床。
全くもって手に入る気がしない。本来クールな俺が以前慌てたのは小学生の時、トイレでバスを止めさせてしまった時くらいくらいのものだ。
周りを見渡し、気づく。助けもなければ、自分でそれらを手に入れることはできない。
まいったなと、頭を掻こうとして……反応がある。理屈はない、が何かがいるという確信がある。
混乱する。
おいおい、待ってくれ。
相手が魔物であれ理解してくれよ。時間をくれ、落ち着くから。まず落ち着くことが大切だ。落ち着くには……掌に人の字を書けばいいんだっけ?
人、人、人……
って全然無意味だ。ダメだ、何か自信と確信を持てる方法を探さないと。
そんなものはない。それを得ようというのは傲慢だ。全国大会決勝戦で緊張するなと言っているようなものだ。
だったらどうする。何もしないで魔物に立ち向かうのか。
いや、それも違う。できることはある。
思い出せ、アニメや漫画で剣を振るっていたチート主人公たちの剣技を。
それも無理だ。使っている技の全てが難易度高めだ。付け焼き刃の剣技でできることはない。
だったらどうする。俺にできることは……テニス。テニスの素振りでできることはないだろうか。
自慢ではないが、テニスなら自信がある。中学の頃、県選抜にも選ばれていたくらいだ。
剣の重さも感覚的には少し重いが、あまり変わりない。これなら行ける。
その時、
パキッ
前方から枝が折れた音がした。落ちていた枝を魔物が踏んだのだろう。
俺の全神経が、その音と雰囲気に集中する。
ガルルルルッ!!
少しでも気を抜けば腰が抜けそうになる。
頭を上げた時、そこにいた魔物は狼だった。ゲーム的にいうならウルフだ。
剣の重心を利き手利き足の右前に傾ける。これはラノベ引用の体勢だ。テニスのフォアの意識が割と合う。
ウルフが軽く動くだけで、身の毛がよだつ。
できれば来ないで欲しい。自分としても何をしているかわからない。
人を助けて命を落とし、転生してまで命を狙われ。もう人生観の哲学書をリアリティを持って詳細に書けそうだ。高校生が書いたというだけで没にされそうではあるが。
ウルフの吐息が、ヨダレが、鋭い牙の隙間から滝のように流れ出す。
ウォォォォ!!
甲高い遠吠えで戦火が切って落とされた。
ウルフの瞳に俺が映っているのがはっきり見える。
彼も生きるために俺を襲ってきている。
そうとなれば遠慮はない。俺も生きるためにウルフを本気で殺しにいく。俺は獣が好きだから仲良くなりたいがそういうわけにはいかないだろう。
剣を持つ右手に力を入れた。
ウルフが二メートル以上高くジャンプして飛びかかってくる。
腹が見えた……今だ!
横に交わしつつ切ったつもりだったが、あえなく爪で防がれていた。
「何かのスキルで魔物紹介してくれるものはないのか」
ポケットの図鑑みたいに。
『スキルを手に入れますか?スキル魔物紹介』
この声は……!理不尽極まりない女神様だな。
確か三つの願いを叶えてくれるとかいう。勝手に願いが発動したのか?本当に理不尽だな……。
だが、流石にこのスキルに人生三度の願いを使うのはもったいない気がする。だったら、
「自分で欲しいスキルを選べるスキルが欲しい。いくつまでならできる?」
ウルフに襲われながらの会話だ。夢中で無茶な願いを遠慮なく言っている気がする。
『だったら五つ、五という数字はバランスもいいですし、魔法性質の数でもありますし。あなたに五つのスキルを授与します』
「ありがとうございます。承りましたよ、女神様」
魔物紹介というのもいいが、対人では使えない。とすると、弱部判定とかがあればいい。
《スキル『弱部判定』を取得しますか?》
突然、俺の脳裏に声が響いた。
何だ?この声は何だ?これはスキルではないのか?
まぁいい。
「取得する!」
《スキル『弱部判定』を取得しました。スキルを常時発動型に切り替えますか?》
「頼む!」
人の感情を持たない、人工知能AIが話しているような片言の機械音といえばいいのだろうか。そんな奴と俺は意思疎通を成功させた。
ピロンッ!!
という着信音の後に視界に一瞬のノイズが入り、コンピューターゲームのディスクトップのように見え方が変化した。
ウルフには頭や足首にダイヤマークで弱点が指定してあり、左上にはHPやMPまで表示されている。
それだけではない。ウルフの攻撃が何通りか瞬時に先読みできるようになっていた。
スキルはどうやらこの世界においてかなりの価値があるようだ。
《スキル『弱部判定』から申告。口からファイアボールを飛ばした後、爆発の煙に隠れて奴は背後に回り込んでくる》
「了解……」
口元で火球が生まれ、一度ウルフは飲み込んだ。
不発かと思われたファイアボールはものすごい火力で発射された。想定できていなければ直撃だっただろう。
俺はファイアボールをほとんど無視し、後ろに剣を突き出した。
生温かい液体が体に飛び散る。
ピロンッ!
と、さっきよりはひと回り小さい着信音が鳴った。そして再びステータスが開かれる。
==================================
スピーイングウルフ(ランクE)の討伐に成功しました。
経験値を取得、EXP100
Level1→Level2
==================================
冷や汗が手から足から顔から吹き出る。
ランクE……。ゲーム的に見れば最低ランクの魔物……。スライム相当に俺は死にかけたってことなのか?
この現実ゲームの環境はいわゆるぶっ壊れだ。
ん?魔物って……強くね!?
世の中とはどこも良いと呼べる場所はないだろう。だが角度によって、見方によって良い場所とも悪い場所とも言える。そう言ってしまえば、こことて良いと呼べる場所なのかもしれない。
「……独り言を考えるのも疲れてきたな」
時計がないから正確な時間は分からないのだが、かれこれ俺は使えそうな材料を拾いつつひたすらある方向に歩いていた。
だが水源に出会えてはいなかった。水がないのはまずい。人は2パーセント水分を失ったとき喉が渇き、3パーセントで脱水症状になる。とすると、あと1パーセントが猶予ということだ。
「おかしいなぁ。アニメやライトノベルの主人公は最初に必要最低限の装備とか、開始の場所が始まりの街だったりとかするのに」
不親切だぞ、女神。
俺は切り株の上に腰を下ろした。ただ歩くだけでは拉致が開かないからとりあえず作れる装備を作ろうと考えたのだ。
「ええと、女神は作れるって言ってたがどうすれば良いんだ?」
やっぱり不親切だ。
しかし文句ばかり言っていても始まらない。これも魔法だよな。だったらやっぱり呪文とかなのか?
溶岩に俺は手をかざした。
「エヘン……この溶岩を剣に変えよ」
森の中に俺の声が響いた。そして静寂。
恥ずかしいすぎる。誰もいないとはいえこれではただの厨二病じゃないか!?アニメは好きだが俺はその分類ではない。
「ハァ、誰かもう一人でも仲間がいればアイデアが出るのにな。そうイメージが膨らむのに」
ん?イメージ……。そうかイメージだ!
もう一度溶岩に手をかざし、溶岩が剣に変化する様子をイメージする。片手剣の直剣。
すると、溶岩が輝き変形した。黒字の剣の真ん中に赤いルビーがついている。
「出来た……」
サイズは驚きが隠せず震える手で剣を手に取った。同時に目の前にホログラムのような画面が現れた。
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サイズ Level1
MP:100/100
HP:1000/1000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造
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ステータス、これがステータスというものなんだろう。
だがLevel1はいいとしても、適性魔法がないって。女神さん、俺の魔力封印しすぎではありませんかね。
「それと……これは何だ。灼熱の黒刃ーー」
自分で言いつつ今作った剣のことを言っているのだと納得する。
とにかく武器はできた。防衛戦はできた。
あと必要なのはやはり水、それと寝床。
全くもって手に入る気がしない。本来クールな俺が以前慌てたのは小学生の時、トイレでバスを止めさせてしまった時くらいくらいのものだ。
周りを見渡し、気づく。助けもなければ、自分でそれらを手に入れることはできない。
まいったなと、頭を掻こうとして……反応がある。理屈はない、が何かがいるという確信がある。
混乱する。
おいおい、待ってくれ。
相手が魔物であれ理解してくれよ。時間をくれ、落ち着くから。まず落ち着くことが大切だ。落ち着くには……掌に人の字を書けばいいんだっけ?
人、人、人……
って全然無意味だ。ダメだ、何か自信と確信を持てる方法を探さないと。
そんなものはない。それを得ようというのは傲慢だ。全国大会決勝戦で緊張するなと言っているようなものだ。
だったらどうする。何もしないで魔物に立ち向かうのか。
いや、それも違う。できることはある。
思い出せ、アニメや漫画で剣を振るっていたチート主人公たちの剣技を。
それも無理だ。使っている技の全てが難易度高めだ。付け焼き刃の剣技でできることはない。
だったらどうする。俺にできることは……テニス。テニスの素振りでできることはないだろうか。
自慢ではないが、テニスなら自信がある。中学の頃、県選抜にも選ばれていたくらいだ。
剣の重さも感覚的には少し重いが、あまり変わりない。これなら行ける。
その時、
パキッ
前方から枝が折れた音がした。落ちていた枝を魔物が踏んだのだろう。
俺の全神経が、その音と雰囲気に集中する。
ガルルルルッ!!
少しでも気を抜けば腰が抜けそうになる。
頭を上げた時、そこにいた魔物は狼だった。ゲーム的にいうならウルフだ。
剣の重心を利き手利き足の右前に傾ける。これはラノベ引用の体勢だ。テニスのフォアの意識が割と合う。
ウルフが軽く動くだけで、身の毛がよだつ。
できれば来ないで欲しい。自分としても何をしているかわからない。
人を助けて命を落とし、転生してまで命を狙われ。もう人生観の哲学書をリアリティを持って詳細に書けそうだ。高校生が書いたというだけで没にされそうではあるが。
ウルフの吐息が、ヨダレが、鋭い牙の隙間から滝のように流れ出す。
ウォォォォ!!
甲高い遠吠えで戦火が切って落とされた。
ウルフの瞳に俺が映っているのがはっきり見える。
彼も生きるために俺を襲ってきている。
そうとなれば遠慮はない。俺も生きるためにウルフを本気で殺しにいく。俺は獣が好きだから仲良くなりたいがそういうわけにはいかないだろう。
剣を持つ右手に力を入れた。
ウルフが二メートル以上高くジャンプして飛びかかってくる。
腹が見えた……今だ!
横に交わしつつ切ったつもりだったが、あえなく爪で防がれていた。
「何かのスキルで魔物紹介してくれるものはないのか」
ポケットの図鑑みたいに。
『スキルを手に入れますか?スキル魔物紹介』
この声は……!理不尽極まりない女神様だな。
確か三つの願いを叶えてくれるとかいう。勝手に願いが発動したのか?本当に理不尽だな……。
だが、流石にこのスキルに人生三度の願いを使うのはもったいない気がする。だったら、
「自分で欲しいスキルを選べるスキルが欲しい。いくつまでならできる?」
ウルフに襲われながらの会話だ。夢中で無茶な願いを遠慮なく言っている気がする。
『だったら五つ、五という数字はバランスもいいですし、魔法性質の数でもありますし。あなたに五つのスキルを授与します』
「ありがとうございます。承りましたよ、女神様」
魔物紹介というのもいいが、対人では使えない。とすると、弱部判定とかがあればいい。
《スキル『弱部判定』を取得しますか?》
突然、俺の脳裏に声が響いた。
何だ?この声は何だ?これはスキルではないのか?
まぁいい。
「取得する!」
《スキル『弱部判定』を取得しました。スキルを常時発動型に切り替えますか?》
「頼む!」
人の感情を持たない、人工知能AIが話しているような片言の機械音といえばいいのだろうか。そんな奴と俺は意思疎通を成功させた。
ピロンッ!!
という着信音の後に視界に一瞬のノイズが入り、コンピューターゲームのディスクトップのように見え方が変化した。
ウルフには頭や足首にダイヤマークで弱点が指定してあり、左上にはHPやMPまで表示されている。
それだけではない。ウルフの攻撃が何通りか瞬時に先読みできるようになっていた。
スキルはどうやらこの世界においてかなりの価値があるようだ。
《スキル『弱部判定』から申告。口からファイアボールを飛ばした後、爆発の煙に隠れて奴は背後に回り込んでくる》
「了解……」
口元で火球が生まれ、一度ウルフは飲み込んだ。
不発かと思われたファイアボールはものすごい火力で発射された。想定できていなければ直撃だっただろう。
俺はファイアボールをほとんど無視し、後ろに剣を突き出した。
生温かい液体が体に飛び散る。
ピロンッ!
と、さっきよりはひと回り小さい着信音が鳴った。そして再びステータスが開かれる。
==================================
スピーイングウルフ(ランクE)の討伐に成功しました。
経験値を取得、EXP100
Level1→Level2
==================================
冷や汗が手から足から顔から吹き出る。
ランクE……。ゲーム的に見れば最低ランクの魔物……。スライム相当に俺は死にかけたってことなのか?
この現実ゲームの環境はいわゆるぶっ壊れだ。
ん?魔物って……強くね!?
応援ありがとうございます!
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