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王都へはいけない
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それから三日、俺たちは同じ森の中を彷徨っていた。
『影』やアリスからのご教授によりこの森が“ジャクの森”という名前だということやこの世界に生息する種族や魔物についての知識を得ることができた。
種族とは日本で発売されているゲームと何も変わらない内容だった。
亜人族、魔人族、人間族の三種族がいるそうだ。それにこいつらは馬鹿で強欲であるために、自然や生物のことなど意に介さず三竦みの状況を長くにわたって続けているらしい。
亜人族だの、魔人族だの表現はわかりづらいが、俺の解釈だと人種と考えれば良さそうだ。身体能力が長けていたり、生存適応能力が高いだとかというのを魔力が高いとか、知能に長けているとかと言葉を変えた感じらしい。
しかもここは、文明が中世の遅れている世界。
目があっただけで処刑!とかなるんだろうなぁ。嫌だな~怖いな~、関わりたくないな……。
とも言っていられないということも、アリスに叩き込まれた……。
「この三種族での戦争は頻発に起きているの。そんな時は、種族長から戦に出るように命が下る。それを拒否でもしてみれば非種族民だと迫害されるくらいならまだ良いもの。残虐刑で処刑されるわ」
ということらしい。
それにしても非種族民って……。こっから一世紀でも経てば“非国民”!って小五のガキが言うような軽~いネタにされるんだろうな。
続いて魔物だが、これは簡単に言えば“災害”らしい。言ってみれば天気だ。
雨にも霧雨とか、長雨とか、集中豪雨とか種類があるように魔物にも強い弱いがあるだけの話らしい。
まぁ、俺は霧雨レベルでギリギリのスライム相当の人間だが。
気落ちする俺が面白く思えたか『影』からの無駄な付け足しが繰り出される。
《あのスピーイングウルフですが、こちらの世界では魔物を見たことのない学生の模擬演習用の魔物です》
さすがはEランク……。イー攻撃仕掛けてくるね……。
この三日間俺たちが何をしていたかと言うと、嫌々ながらアリスの熱に負け魔物討伐をやっていた。
水分調達、食料調達、経験値アップと魔物討伐は皮肉にも生きるための努力としては、一番効率の良い方法なのである。
コンビニでジュースを買い、お菓子を買い、寝ながら食べて経験値アップしていた頃が俺にもありました……。つい数日前のことなのに、遠い過去のように感じる。
その成果と言ってはなんなのだが、俺のHPとMPは格段に上がっていた。Level10だったアリスの協力もあり、スピーディーにレベル上げができていた。
一人のレベル上げならばかなりの時間がかかるらしい。
死の可能性のある低レベル帯の人間は毎度毎度戦々恐々のなか経験値を集めなければならないからだ。これは、
「一人のレベル上げは波に乗るまで最悪よ……。自分の魔法が敵に効かないことを認識して、一体一体命懸けなのだから」
という彼女の実体験からの話だから虚偽はない。
ちなみに今の俺とアリスのステータスはこうである。
==================================
サイズ Level7
MP:400/400
HP:4000/4000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造・弱部判定・保護魔法・浄化・生命活性化
==================================
アリス Level15
MP:1600/1600
HP:8000/8000
適性魔法:火、風、水
装備:氷結の矢・短剣
スキル:標準
==================================
魔物を倒せば経験値を獲得できて、レベルが上がり強くなれるというのは『影』からもアリスからも聞かされていたこと。なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまうサイズ。自分の成長が目に見えてわかるというのはやはり嬉しいことだ。
しかし、アリスのステータスを見て喜びも吹き飛び、かわりに理性と首の傾きが発生した。
(HPは妥当だが、このMPおかしくね?それに適性魔法が五つ中三つ。過半数なんですけど!?俺の転生者という肩書が痛すぎるぜ……)
《放浪の娘アリスのステータスは転生者サイズによる補正効果だと考えるべきだという解析結果が出ております。オバ》
こんな時にトランシーバーネタを挟んでくるあたり、このスキルには間違いなく自我があると俺は推測したね。
それに補正効果だと?主人の俺が負けているんですが。補正しすぎだろ!
と、こんな感じで俺は三日間を過ごしていた。
どんな生活をしていたか、一切具体例を持っていないように思えるかも知れないが、それこそ仕方ないことなのである。
この三日間、俺たちのしてきたことと言ったら、食事、魔物討伐、野宿くらいのものだ。
いや、俺はもう一つ学んだことがあったな。
「よそ見しないで急ぎで『保護魔法』をかけなさい。ここは森の中なのよ。そんなことができないの?だったら身を守れる優秀な武器がもう一セットあった方がいいのだけど」
彼女は会話の流れはあくまで冷静に、でも言葉選ばず結構な毒舌だということである。
しかし……なまじ美人なだけに恨めない。そこが卑怯なところだ。
(『影』、『保護魔法』の展開を頼む)
《了承、常備展開型に再度切り替えます》
「ねぇ、サイズ。人と話し合ったのはいつぶり?」
唐突に何の前触れもなく、脈略もなく、俺の度肝を抜くだけでは飽き足らず破壊するような質問をしてきやがった。
失礼すぎやしないか。
怒涛の展開で忘れ去られた設定かもしれないけれど、俺は中学時代テニスで腕を鳴らした選手だったんだ。つまり、友達も多かった。
俺の秀でた脳味噌によると卒業し、春休みを迎え、事件の前、あれは五ヶ月前の二月。
友人A『終わっちゃったね』
俺『そうだな。でも高校も同じだし変わらんだろ』
友人A『そうだね。高校もよろしく!じゃあね』
了
以来、友人Aとは話していない。噂で離れていく薄っぺらい関係だったってことだ。友人Aは女子生徒なのだ。トラウマだ。
人間、忘れようとすることほど強く認識してしまうものだ。シロクマ効果とか言ったっけな。
今思えば、そんなこと他愛もないことだがな。
迷宮回路を迷走していると、アリスは高々と宣言した。
「余裕を持つ者が持たぬ者に問題を定義する。それこそが社会の規則の混沌よ。非戦闘者には冒険者を、疲労の冒険者には料理を、料理人には報酬を。得て不得手を補う。これこそが重要なことよ」
「つまり……目的を作れと?」
「三日間、私に付属してレベルを上げるだけ。それが悪いわけではないけれど目的を持たずなあなあの生活を続ける人間は存在価値がないと思うわよ。種族の金を無駄遣い、はたまた貢献は皆無。本当に死ねばいいのに」
分っかりにくい演説と俺の目的の否定をどうもありがとう。
でも、後者を言えば間違い無く殺される。事実、もう一つの理由と言ったらこれくらいしかないだろう。
「ええとですね……」
身体がビクッと悲鳴を上げる。
『保護魔法』掛けているせいかな。アリスのキリッとした時の視線には苦笑いと冷や汗の回避が不可となる。
「ひとまず俺の目的は、アリスの封印を何事もなく解くことということで……」
「私が死んだら、百代末裔まで呪い殺すわよ」
「……尽力します」
苦笑いの再来。
この清楚系毒舌ヒロインめ。
そりゃまあクールな美人で、説教は言われていて悪い気はしない。
ただ今や嫌な微笑みを浮かべていた。嗜虐的なクールビューティーというやつだ。
「でもそのためには王都に行かなくてはならないわね。情報が足りないわ。でもあと三つ、あなたのレベルを上げなければならないわね」
「なぜ?」
「王都に入るにはLevel10が最低条件なのよ」
これは顎に手を当てて「ふむ」と思案顔にならずにはいられないな。
「王都ってどこにあるんだ?」
「北西へずっと先よ。徒歩で行けば一年以上」
これは思案顔というより、穿ち顔になるな。
聞き返すべきか、答えはNoだろう。こいつは発想はぶっ飛んで入るが、大真面目なのだから。
その分たちが悪いというのは心内だ。
「と、とにかく、一度落ち着く場所が欲しい。王都じゃない街とかはないのか?」
「あるわよ、ここから南東二十キロ」
俺は快く了承を示した。
大きく首を振っている。俺の了承は理解しただろう……。
大いに結構だと、徳のある、模範的な、度量の大きい人間であるとして構えたのは気づかれてはいないはずだ。
彼女が南西へと体の向きを変えた時、俺の首はひっくり返った。
……遠くなってんじゃん……。
主人公が序章にして王都に辿りつき金持ちになる。
あれはファンタジーである。空想である。妄想である。
実際の勇者は……迷走する。
『影』やアリスからのご教授によりこの森が“ジャクの森”という名前だということやこの世界に生息する種族や魔物についての知識を得ることができた。
種族とは日本で発売されているゲームと何も変わらない内容だった。
亜人族、魔人族、人間族の三種族がいるそうだ。それにこいつらは馬鹿で強欲であるために、自然や生物のことなど意に介さず三竦みの状況を長くにわたって続けているらしい。
亜人族だの、魔人族だの表現はわかりづらいが、俺の解釈だと人種と考えれば良さそうだ。身体能力が長けていたり、生存適応能力が高いだとかというのを魔力が高いとか、知能に長けているとかと言葉を変えた感じらしい。
しかもここは、文明が中世の遅れている世界。
目があっただけで処刑!とかなるんだろうなぁ。嫌だな~怖いな~、関わりたくないな……。
とも言っていられないということも、アリスに叩き込まれた……。
「この三種族での戦争は頻発に起きているの。そんな時は、種族長から戦に出るように命が下る。それを拒否でもしてみれば非種族民だと迫害されるくらいならまだ良いもの。残虐刑で処刑されるわ」
ということらしい。
それにしても非種族民って……。こっから一世紀でも経てば“非国民”!って小五のガキが言うような軽~いネタにされるんだろうな。
続いて魔物だが、これは簡単に言えば“災害”らしい。言ってみれば天気だ。
雨にも霧雨とか、長雨とか、集中豪雨とか種類があるように魔物にも強い弱いがあるだけの話らしい。
まぁ、俺は霧雨レベルでギリギリのスライム相当の人間だが。
気落ちする俺が面白く思えたか『影』からの無駄な付け足しが繰り出される。
《あのスピーイングウルフですが、こちらの世界では魔物を見たことのない学生の模擬演習用の魔物です》
さすがはEランク……。イー攻撃仕掛けてくるね……。
この三日間俺たちが何をしていたかと言うと、嫌々ながらアリスの熱に負け魔物討伐をやっていた。
水分調達、食料調達、経験値アップと魔物討伐は皮肉にも生きるための努力としては、一番効率の良い方法なのである。
コンビニでジュースを買い、お菓子を買い、寝ながら食べて経験値アップしていた頃が俺にもありました……。つい数日前のことなのに、遠い過去のように感じる。
その成果と言ってはなんなのだが、俺のHPとMPは格段に上がっていた。Level10だったアリスの協力もあり、スピーディーにレベル上げができていた。
一人のレベル上げならばかなりの時間がかかるらしい。
死の可能性のある低レベル帯の人間は毎度毎度戦々恐々のなか経験値を集めなければならないからだ。これは、
「一人のレベル上げは波に乗るまで最悪よ……。自分の魔法が敵に効かないことを認識して、一体一体命懸けなのだから」
という彼女の実体験からの話だから虚偽はない。
ちなみに今の俺とアリスのステータスはこうである。
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サイズ Level7
MP:400/400
HP:4000/4000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造・弱部判定・保護魔法・浄化・生命活性化
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アリス Level15
MP:1600/1600
HP:8000/8000
適性魔法:火、風、水
装備:氷結の矢・短剣
スキル:標準
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魔物を倒せば経験値を獲得できて、レベルが上がり強くなれるというのは『影』からもアリスからも聞かされていたこと。なら当然だろうと思いつつ、口の端がニヤついてしまうサイズ。自分の成長が目に見えてわかるというのはやはり嬉しいことだ。
しかし、アリスのステータスを見て喜びも吹き飛び、かわりに理性と首の傾きが発生した。
(HPは妥当だが、このMPおかしくね?それに適性魔法が五つ中三つ。過半数なんですけど!?俺の転生者という肩書が痛すぎるぜ……)
《放浪の娘アリスのステータスは転生者サイズによる補正効果だと考えるべきだという解析結果が出ております。オバ》
こんな時にトランシーバーネタを挟んでくるあたり、このスキルには間違いなく自我があると俺は推測したね。
それに補正効果だと?主人の俺が負けているんですが。補正しすぎだろ!
と、こんな感じで俺は三日間を過ごしていた。
どんな生活をしていたか、一切具体例を持っていないように思えるかも知れないが、それこそ仕方ないことなのである。
この三日間、俺たちのしてきたことと言ったら、食事、魔物討伐、野宿くらいのものだ。
いや、俺はもう一つ学んだことがあったな。
「よそ見しないで急ぎで『保護魔法』をかけなさい。ここは森の中なのよ。そんなことができないの?だったら身を守れる優秀な武器がもう一セットあった方がいいのだけど」
彼女は会話の流れはあくまで冷静に、でも言葉選ばず結構な毒舌だということである。
しかし……なまじ美人なだけに恨めない。そこが卑怯なところだ。
(『影』、『保護魔法』の展開を頼む)
《了承、常備展開型に再度切り替えます》
「ねぇ、サイズ。人と話し合ったのはいつぶり?」
唐突に何の前触れもなく、脈略もなく、俺の度肝を抜くだけでは飽き足らず破壊するような質問をしてきやがった。
失礼すぎやしないか。
怒涛の展開で忘れ去られた設定かもしれないけれど、俺は中学時代テニスで腕を鳴らした選手だったんだ。つまり、友達も多かった。
俺の秀でた脳味噌によると卒業し、春休みを迎え、事件の前、あれは五ヶ月前の二月。
友人A『終わっちゃったね』
俺『そうだな。でも高校も同じだし変わらんだろ』
友人A『そうだね。高校もよろしく!じゃあね』
了
以来、友人Aとは話していない。噂で離れていく薄っぺらい関係だったってことだ。友人Aは女子生徒なのだ。トラウマだ。
人間、忘れようとすることほど強く認識してしまうものだ。シロクマ効果とか言ったっけな。
今思えば、そんなこと他愛もないことだがな。
迷宮回路を迷走していると、アリスは高々と宣言した。
「余裕を持つ者が持たぬ者に問題を定義する。それこそが社会の規則の混沌よ。非戦闘者には冒険者を、疲労の冒険者には料理を、料理人には報酬を。得て不得手を補う。これこそが重要なことよ」
「つまり……目的を作れと?」
「三日間、私に付属してレベルを上げるだけ。それが悪いわけではないけれど目的を持たずなあなあの生活を続ける人間は存在価値がないと思うわよ。種族の金を無駄遣い、はたまた貢献は皆無。本当に死ねばいいのに」
分っかりにくい演説と俺の目的の否定をどうもありがとう。
でも、後者を言えば間違い無く殺される。事実、もう一つの理由と言ったらこれくらいしかないだろう。
「ええとですね……」
身体がビクッと悲鳴を上げる。
『保護魔法』掛けているせいかな。アリスのキリッとした時の視線には苦笑いと冷や汗の回避が不可となる。
「ひとまず俺の目的は、アリスの封印を何事もなく解くことということで……」
「私が死んだら、百代末裔まで呪い殺すわよ」
「……尽力します」
苦笑いの再来。
この清楚系毒舌ヒロインめ。
そりゃまあクールな美人で、説教は言われていて悪い気はしない。
ただ今や嫌な微笑みを浮かべていた。嗜虐的なクールビューティーというやつだ。
「でもそのためには王都に行かなくてはならないわね。情報が足りないわ。でもあと三つ、あなたのレベルを上げなければならないわね」
「なぜ?」
「王都に入るにはLevel10が最低条件なのよ」
これは顎に手を当てて「ふむ」と思案顔にならずにはいられないな。
「王都ってどこにあるんだ?」
「北西へずっと先よ。徒歩で行けば一年以上」
これは思案顔というより、穿ち顔になるな。
聞き返すべきか、答えはNoだろう。こいつは発想はぶっ飛んで入るが、大真面目なのだから。
その分たちが悪いというのは心内だ。
「と、とにかく、一度落ち着く場所が欲しい。王都じゃない街とかはないのか?」
「あるわよ、ここから南東二十キロ」
俺は快く了承を示した。
大きく首を振っている。俺の了承は理解しただろう……。
大いに結構だと、徳のある、模範的な、度量の大きい人間であるとして構えたのは気づかれてはいないはずだ。
彼女が南西へと体の向きを変えた時、俺の首はひっくり返った。
……遠くなってんじゃん……。
主人公が序章にして王都に辿りつき金持ちになる。
あれはファンタジーである。空想である。妄想である。
実際の勇者は……迷走する。
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