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格好がつかない
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しばらく歩くと絶壁が国を囲むようにきりたっているのが見えた。
地の利をいかしたここは中堅国『サンライズ連合国』。絶壁の端には朝日を表すロゴマークの描かれた国旗がはためいている。非常に分かりやすい限りである。
意匠を凝った鉄製の両開きの大門がそびえたつ眼下に俺たちは辿り着いた。
「冒険者か?入国申請書は発行済みか?」
大門の前に立ち鎧姿の槍持ち監視兵が声をかけてくる。国への忠誠心が窺える、威厳に満ちた、国からの信頼も多大という見てくれ。年齢は……不詳だ。目以外見えないからな。
「ええと、そうだ。その入国申請書は持ち合わせていないんだがどうすればいい」
敬語を使わないのは冒険者としては正解だよな。相手に見下されないようにすべき方策だよな。
「そうか、であればそこの鏡の前に立ってステータスを表示してくれ」
ステータスを鏡の前で表示するだけで信用を勝ち取れるというのはどういうことなのだろう。
それではいささか怪しいような、ということで俺はいつも通り『影』に質問をしてみたのだが、得体の知れない言葉が長ったらしく出てきたのでここは俺が簡潔に日本語風にアレンジして語ろうと思う。
まず、この鏡はアーティファクトと呼ばれるものらしい。
アーティファクトとは現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことで、まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われているもの。つまり神具だそうだ。
うん、さすが俺。完璧煩悩者に優しい説明。俺の後ろにいるやつはこんな説明を絶対にすることができないんだぜ。
「よし、入国を許可する。次はそこの付き人だ。お前もこの男と同じことをしろ」
兵士は仕事として淡々と命を出す。
対してこの男どうしてこんなに上から目線なの、という蔑むような視線が怖い。入国審査で問題を起こすのではないかという不安が芽生えてならない。
その後、同シチュエーションが終了し、
「よし、共に入国を許可する。ようこそ『サンライズ』へ!」
兵士がこの女の陰険さを察知する間も無く俺たちは入国を果たした。
これはスペクタクルだと言ってもいい。
転生者は難解な人生を過ごすことが本来のあり方であり、俺TUEEEEとして生きるラノベ主人公たちは架空の存在でしかなかった、と落胆していたサイズの説に亀裂が入ったのだ。過度ではない。
俺にもやっと訪れたのだ。
隣には美人のヒロインが。世界は俺を中心として周り、ピンチには必ず強力なスキルが手に入る。
運命的人物はあり、世界は俺を中心に回り始めている(?)。
鼻息を荒くしてほくそ笑む痛い気な男子高校生がそこにはいた。
入るたび西洋風の街並みとレンガ調(?)の地面に思わずオオッ……という歓声が漏れ出す。
街の至る所に、透き通るような青色で水面をキラキラと輝かせている小川もその景色にマッチして絶景である。
「で、どうするの?」
アリスはクアッと子猫のような欠伸をしていた。
「ところでなんだが街って言うのは具体的に何があるんだ?やはり武器屋とか、料理店とか、ギルドとかか?」
アリスは目を細め顔をしかめる。が、動じない。
「そうね。あなたの予想は大方合っているわ」
何かを俺に言わせるつもりか、アリスの言動は素っ気ない。
「で、どうしようか?」
蔑みを隠しきれず、体は引き気味に表情は真顔という背徳的な絵図が完成していた。が、俺は気にしないさ、気にしなな……。噛んだ……。
この後アリス節が炸裂する。正論をひたすらに饒舌に語り尽くす独特の感性。
「それは私がした質問なのだけど。そりゃあ、あなたに期待した私も間違いだけど、失望したわ。あなたに女性をリードしようという気はないのかしら。そうね、ないわね。忘れていたわ、あなたは一貫してそういう人だったわね。知識も行動力もない。ここまで来たら知識ある私がリードすべきかと思ってきたわ」
本当だよ。お前がリードしろよ。転生者の俺はこの世界のことをまるで知らないんだからリードしろと言われても大変なんだよ。
だが今の俺のは巨大な器を獲得したので、大概のことは受け止め切れるのだ。
「まぁいいわ。武器屋に行きましょう。あそこは魔道具や新製品の武器が売っていたりして面白いのよ」
鼻歌まじりにアリスは歩く。年相応の純粋にショッピングを楽しむ彼女の姿は心なしか可愛く思えた。
「ところでさ、今日の宿って希望はあるのか?」
「………………」
「………………」
何故だろう。ずっとアリスの静かな表情を見ていたくなる。艶やかな髪、白魚のようなきめ細かい肌、潤んだ瞳、形の良い桜色の唇。
その唇がわずかに動いた。
「……驚いた、あなたの顔を見ているとあれだけの熱が途端に冷めるわね。何?あなた吸熱機なの?」
不愉快な言い回しだ。
クソ……俺も冷めちゃったよ。危うく見てくれに魅了されて血迷うところだった。もうほんとこの気持ちを返してほしいこの女。
「それでご希望のお店はあるのでしょうか?アリスさん」
その後、アリスの首が三十度程傾いた。いかにも不思議そうなのが余計に気になった。
彼女とて年頃の女子だろう。だったらミシュラン五つ星とかに憧れたりするものなのではないだろうか。
俺としては高級感ある店は金に酔うので気は進まないのだが、行きたいというのなら、ここは人間できた人代表として言ってやることとしよう。
「そんなこと言ってどうするのよ。私たちにそんな権利ないわよ。何しろ私たち文無しなのだから」
呆気に取られる暇もない。
街で野宿は大問題だ。休みたいから街に来たのに泊まれない。何という新機軸。
初期装備なしからスタートのゲームというのも乙なものだ。
「もっと早く言って欲しかったというのは否めないが、仕方ない。ギルドにーー」
「武器屋に行くわよ」
金を稼がないと何もできない、ということは今の彼女にとって大したことではないらしい。
いつもの五割増くらいアリスは人の話を聞く気がない。何より、「嫌なら何処かへ行きなさい」と目が語っていた。
「りょ、了解です……。行きましょうか、武器屋。買いたいものがあれば、仕事にも精が出るだろうしな」
サイズは両手を下げ、うなだれる。
激情的になりかけた感情は、石垣が崩れ落ちるように萎んだ。
もう……どうとでもなれ。野宿なんてばっちこいだ。何しろ俺は器の大きい男だからな……。
自ら自分を擁護するなんて……心が痛いぜ。
俺が無双できる異世界はここではないのだろうか。
そろそろ俺は確信しかける……実際の勇者は格好がつかない。
地の利をいかしたここは中堅国『サンライズ連合国』。絶壁の端には朝日を表すロゴマークの描かれた国旗がはためいている。非常に分かりやすい限りである。
意匠を凝った鉄製の両開きの大門がそびえたつ眼下に俺たちは辿り着いた。
「冒険者か?入国申請書は発行済みか?」
大門の前に立ち鎧姿の槍持ち監視兵が声をかけてくる。国への忠誠心が窺える、威厳に満ちた、国からの信頼も多大という見てくれ。年齢は……不詳だ。目以外見えないからな。
「ええと、そうだ。その入国申請書は持ち合わせていないんだがどうすればいい」
敬語を使わないのは冒険者としては正解だよな。相手に見下されないようにすべき方策だよな。
「そうか、であればそこの鏡の前に立ってステータスを表示してくれ」
ステータスを鏡の前で表示するだけで信用を勝ち取れるというのはどういうことなのだろう。
それではいささか怪しいような、ということで俺はいつも通り『影』に質問をしてみたのだが、得体の知れない言葉が長ったらしく出てきたのでここは俺が簡潔に日本語風にアレンジして語ろうと思う。
まず、この鏡はアーティファクトと呼ばれるものらしい。
アーティファクトとは現代じゃ再現できない強力な力を持った魔法の道具のことで、まだ神やその眷属けんぞく達が地上にいた神代に創られたと言われているもの。つまり神具だそうだ。
うん、さすが俺。完璧煩悩者に優しい説明。俺の後ろにいるやつはこんな説明を絶対にすることができないんだぜ。
「よし、入国を許可する。次はそこの付き人だ。お前もこの男と同じことをしろ」
兵士は仕事として淡々と命を出す。
対してこの男どうしてこんなに上から目線なの、という蔑むような視線が怖い。入国審査で問題を起こすのではないかという不安が芽生えてならない。
その後、同シチュエーションが終了し、
「よし、共に入国を許可する。ようこそ『サンライズ』へ!」
兵士がこの女の陰険さを察知する間も無く俺たちは入国を果たした。
これはスペクタクルだと言ってもいい。
転生者は難解な人生を過ごすことが本来のあり方であり、俺TUEEEEとして生きるラノベ主人公たちは架空の存在でしかなかった、と落胆していたサイズの説に亀裂が入ったのだ。過度ではない。
俺にもやっと訪れたのだ。
隣には美人のヒロインが。世界は俺を中心として周り、ピンチには必ず強力なスキルが手に入る。
運命的人物はあり、世界は俺を中心に回り始めている(?)。
鼻息を荒くしてほくそ笑む痛い気な男子高校生がそこにはいた。
入るたび西洋風の街並みとレンガ調(?)の地面に思わずオオッ……という歓声が漏れ出す。
街の至る所に、透き通るような青色で水面をキラキラと輝かせている小川もその景色にマッチして絶景である。
「で、どうするの?」
アリスはクアッと子猫のような欠伸をしていた。
「ところでなんだが街って言うのは具体的に何があるんだ?やはり武器屋とか、料理店とか、ギルドとかか?」
アリスは目を細め顔をしかめる。が、動じない。
「そうね。あなたの予想は大方合っているわ」
何かを俺に言わせるつもりか、アリスの言動は素っ気ない。
「で、どうしようか?」
蔑みを隠しきれず、体は引き気味に表情は真顔という背徳的な絵図が完成していた。が、俺は気にしないさ、気にしなな……。噛んだ……。
この後アリス節が炸裂する。正論をひたすらに饒舌に語り尽くす独特の感性。
「それは私がした質問なのだけど。そりゃあ、あなたに期待した私も間違いだけど、失望したわ。あなたに女性をリードしようという気はないのかしら。そうね、ないわね。忘れていたわ、あなたは一貫してそういう人だったわね。知識も行動力もない。ここまで来たら知識ある私がリードすべきかと思ってきたわ」
本当だよ。お前がリードしろよ。転生者の俺はこの世界のことをまるで知らないんだからリードしろと言われても大変なんだよ。
だが今の俺のは巨大な器を獲得したので、大概のことは受け止め切れるのだ。
「まぁいいわ。武器屋に行きましょう。あそこは魔道具や新製品の武器が売っていたりして面白いのよ」
鼻歌まじりにアリスは歩く。年相応の純粋にショッピングを楽しむ彼女の姿は心なしか可愛く思えた。
「ところでさ、今日の宿って希望はあるのか?」
「………………」
「………………」
何故だろう。ずっとアリスの静かな表情を見ていたくなる。艶やかな髪、白魚のようなきめ細かい肌、潤んだ瞳、形の良い桜色の唇。
その唇がわずかに動いた。
「……驚いた、あなたの顔を見ているとあれだけの熱が途端に冷めるわね。何?あなた吸熱機なの?」
不愉快な言い回しだ。
クソ……俺も冷めちゃったよ。危うく見てくれに魅了されて血迷うところだった。もうほんとこの気持ちを返してほしいこの女。
「それでご希望のお店はあるのでしょうか?アリスさん」
その後、アリスの首が三十度程傾いた。いかにも不思議そうなのが余計に気になった。
彼女とて年頃の女子だろう。だったらミシュラン五つ星とかに憧れたりするものなのではないだろうか。
俺としては高級感ある店は金に酔うので気は進まないのだが、行きたいというのなら、ここは人間できた人代表として言ってやることとしよう。
「そんなこと言ってどうするのよ。私たちにそんな権利ないわよ。何しろ私たち文無しなのだから」
呆気に取られる暇もない。
街で野宿は大問題だ。休みたいから街に来たのに泊まれない。何という新機軸。
初期装備なしからスタートのゲームというのも乙なものだ。
「もっと早く言って欲しかったというのは否めないが、仕方ない。ギルドにーー」
「武器屋に行くわよ」
金を稼がないと何もできない、ということは今の彼女にとって大したことではないらしい。
いつもの五割増くらいアリスは人の話を聞く気がない。何より、「嫌なら何処かへ行きなさい」と目が語っていた。
「りょ、了解です……。行きましょうか、武器屋。買いたいものがあれば、仕事にも精が出るだろうしな」
サイズは両手を下げ、うなだれる。
激情的になりかけた感情は、石垣が崩れ落ちるように萎んだ。
もう……どうとでもなれ。野宿なんてばっちこいだ。何しろ俺は器の大きい男だからな……。
自ら自分を擁護するなんて……心が痛いぜ。
俺が無双できる異世界はここではないのだろうか。
そろそろ俺は確信しかける……実際の勇者は格好がつかない。
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