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やはり人間関係は難しい 前編
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俺たちはNクラスに配属されることが決定した。
突然、そんなことを言われて戸惑うのは当然のことだろう。まさしく、そうだ。
俺は今困惑を通り越して恐々としていた。
これは数分遡り説明するとしよう。
俺たちはあらゆる勲章が壁中にかけられた、『聖ヴォルスロット魔法魔術学校』最上階の学長室に訪れていた。
「まぁ気を楽にして適当にかけてくれ」
言われた通り、俺たちは赤色のクッションに金縁の高級感漂うソファに腰掛けた。
ああ……。座り心地最高……!!
「ではまず、総督が君たちをこの学園の入学をお願いした理由を話すとしよう。質問はその度してくれて構わない」
アイザックの声は表情と態度に似合わず、暗かった。
「この世界の三種族の三竦みの関係については知っているな?」
「ええ」
「いいえ」
アリスは縦に俺は横に首を振る。
その後、アイザックとアリスがともに驚いた表情で俺を見つめてくる。
(悪かったな、知らなくて。俺はこんなでも転生者なんですわ)
「……サイズ。騎士団長には言っておいてもいいんじゃない。これからこの学校に通う上で、私達を総括する者なんだし」
アリスは気を回してくれたようだが……どうかな。
こういうことを公言するのはいいこととは思えない。むしろこの後、厄介ごとが舞い込むフラグを立てるようなもの。
だからと言って言わないのも問題のように思える……。
とすると、アイザックには沈黙と了解を押し付けるしかないな。
(『影』、ステータスプレートを表示してくれ)
《了承、ステータスプレートを表示》
==================================
サイズ Level7
MP:400/400
HP:4000/4000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造・弱部判定・保護魔法・浄化・生命活性化
==================================
「見てください。これを見てどう思いますか?」
沈黙の後の驚き。
「……君は魔法を使えないのか?それにどうかと聞かれても、はっきり言って低スペック。ただこのスキルの量だけが気になるところだ」
やっぱりね。この世界の一般的な人から見てもそういう評価か。だとすれば、何もアリスのときと一句違わない説明でいいだろう。
「……ですよね。それでもし俺が“転生者”だと言ったらどう思いますか?」
「信用しないな。そんなことはあり得ない。“転生者”が伝説の存在であることは言うまでもない周知の事実だ。ここ何世紀もの間、そのような存在はこの地に降り立っていない」
そこまでの存在だったとは……。これでアリスがなかなか信用してくれなかった訳がわかった。
「真実はそうなのかもしれないし、本当は隠れていただけでいたのかもしれないですよね?」
「確かにその通りだ。異世界に転生となれば困惑するのは無理もない。だが、それを言っては元も子もないだろう」
違和感。
もしかするとあの女神は、転生しても一向に行動に移さない“転生者”を行動に移させるために俺には特殊なことをしたのではないか。
そうであれば、予想を裏切るこの流れにも納得がいく。
実験台というわけで、俺からみれば決していいことではないのだが……。
「アイザック、もう俺が言いたいことは分かりましたね?」
「それはな。だが、証拠はどこにある。見栄を張ろうとしてそんなことをいう輩が今までにいなかったと思うか?当然いた。それを君はどう証明する」
証拠はないのか。
推理小説なら犯人側のセリフのテンプレート。
「詮索する者が犯人だ」「証明できないなら私を解放してもらおう」と同列の言葉だが犯人はこの場合いない。
何が言いたいかというと、だから証明は必要ないと言いたいのだが世の中はそういうわけにはいかない。
「……アリス。すまないが、こっちに来てくれないか」
「……分かったわ」
命がかかっているとなるとアリスも俺も冗談が言えず、辛気臭い空間が出来上がる。空気が張り詰める。
「アイザック、これは一度しか見せません。なのでよく見て記憶に焼き付けてください」
「……分かった」
(『影』、アリスの封印解除のディスクトップを表示。……決して、解除するんじゃないぞ)
《了承、心得てます。封印解除のディスクトップを表示》
==================================
魔力解放、封印解除の申請が下りました。
封印を破りますか。
(注)封印の器は崩壊します。
==================================
電子音とともに、恨めしい画面が表示された。
「アイザック、これが俺が“転生者”である証拠だ。信じられないことかもしれないが事実だ。だが、これを見れば分かるように俺には力がない。全てはアリスに封じられている。だが、俺は代償を受けたくない。したがって封じを破るつもりはない。これでも、俺を雇うのかい?」
(『影』画面を停止。消してくれ)
《了承、画面を停止します》
どうしようもなくここからいなくなりたい気分になった。
俺の力は認められたものではないこと。
アリスに俺の力を封じられていることが彼女にとっては辛いのではないかという不安。
だから、休まず強くなろうとしているのではないかという申し訳なさ。
ごめん……。アリス……。
いっそ俺はいなくてもいいのでは、とまで思わせられる。
もしここで雇われなければどのみち俺は職をなくして死ぬわけだが。
「みくびられたものだ。……こちらとしては可能性がある者が増えてありがたい限りではないか。それと……沈黙と了解を約束しよう。ただし総督にのみ報告する。いいな?」
「は、はい……」
いいのか。俺は認められていいのだろうか。
俺がアリスの封印を解いていないことは俺の甘さで、社会的に見ればいいことではない。
俺の力は何かしらの意味を持っているんだと思う。それを使わなければいかなくなったとき、俺は封印を解くことができるだろうか。
無心になることができるのだろうか……。
「いいのよ?」
アリスは沼のような居心地の悪い空間でそんなことを言い出した。
「別に私の封印について悩まなくてもいいのよ?私が考えてないというのは嘘になるけど、それはあなたのせいじゃない。これも何か、神のみぞ知る意味のあることなのよ」
何故、今そんなことを言うんだ?
俺の心が聞こえているかのように。
弱目に祟り目ならぬ弱目に優し目か……。
脳天に雷が落ちちまったよ……。そんなことはないはず……なんだがな。
「あ、ああ、そうかもしれないな。うん、ありがとう……」
「さ、サイズ……どうしたの?」
俺は気がつくとアリスから目が離せなくなっていると、少し顔を紅潮させながら戸惑い気味に話しかけられた。
「え?ああ!いや、なんでもないんだ、うん」
慌ててそう答えた。ヤベ、見惚れてた。
「さぁ、お二人の恋のキューピットに俺はなれたかな?」
この騎士団長……おっさんだ。
「茶化さないでください。私達はあくまで、封印の関係ですよ。あくまでね……」
「ええ、そうですよ……」
アイザックはニヤニヤをとき、真顔になって言った。
「それならそれでいい。だがな、人がそれぞれを想い合い理由はどうあれ協力できるのであれば、それは本物だよ。本物ほど役に立つ偽物はない。だから俺は君たちを評価するよ。そして、希望の通りに事が運ばれることを確信を持ちつつ、願っているよ」
とんだ憂さ晴らしをいただいた。
俺はアイザックを全面的に信用してしまった。逆に借りを返したいと思った。
この人がトップである所以がこれなのだと納得した。
人間関係は時に人を幸福にさせる。
突然、そんなことを言われて戸惑うのは当然のことだろう。まさしく、そうだ。
俺は今困惑を通り越して恐々としていた。
これは数分遡り説明するとしよう。
俺たちはあらゆる勲章が壁中にかけられた、『聖ヴォルスロット魔法魔術学校』最上階の学長室に訪れていた。
「まぁ気を楽にして適当にかけてくれ」
言われた通り、俺たちは赤色のクッションに金縁の高級感漂うソファに腰掛けた。
ああ……。座り心地最高……!!
「ではまず、総督が君たちをこの学園の入学をお願いした理由を話すとしよう。質問はその度してくれて構わない」
アイザックの声は表情と態度に似合わず、暗かった。
「この世界の三種族の三竦みの関係については知っているな?」
「ええ」
「いいえ」
アリスは縦に俺は横に首を振る。
その後、アイザックとアリスがともに驚いた表情で俺を見つめてくる。
(悪かったな、知らなくて。俺はこんなでも転生者なんですわ)
「……サイズ。騎士団長には言っておいてもいいんじゃない。これからこの学校に通う上で、私達を総括する者なんだし」
アリスは気を回してくれたようだが……どうかな。
こういうことを公言するのはいいこととは思えない。むしろこの後、厄介ごとが舞い込むフラグを立てるようなもの。
だからと言って言わないのも問題のように思える……。
とすると、アイザックには沈黙と了解を押し付けるしかないな。
(『影』、ステータスプレートを表示してくれ)
《了承、ステータスプレートを表示》
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サイズ Level7
MP:400/400
HP:4000/4000
適性魔法:なし
装備:灼熱の黒刃
スキル:武器創造・弱部判定・保護魔法・浄化・生命活性化
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「見てください。これを見てどう思いますか?」
沈黙の後の驚き。
「……君は魔法を使えないのか?それにどうかと聞かれても、はっきり言って低スペック。ただこのスキルの量だけが気になるところだ」
やっぱりね。この世界の一般的な人から見てもそういう評価か。だとすれば、何もアリスのときと一句違わない説明でいいだろう。
「……ですよね。それでもし俺が“転生者”だと言ったらどう思いますか?」
「信用しないな。そんなことはあり得ない。“転生者”が伝説の存在であることは言うまでもない周知の事実だ。ここ何世紀もの間、そのような存在はこの地に降り立っていない」
そこまでの存在だったとは……。これでアリスがなかなか信用してくれなかった訳がわかった。
「真実はそうなのかもしれないし、本当は隠れていただけでいたのかもしれないですよね?」
「確かにその通りだ。異世界に転生となれば困惑するのは無理もない。だが、それを言っては元も子もないだろう」
違和感。
もしかするとあの女神は、転生しても一向に行動に移さない“転生者”を行動に移させるために俺には特殊なことをしたのではないか。
そうであれば、予想を裏切るこの流れにも納得がいく。
実験台というわけで、俺からみれば決していいことではないのだが……。
「アイザック、もう俺が言いたいことは分かりましたね?」
「それはな。だが、証拠はどこにある。見栄を張ろうとしてそんなことをいう輩が今までにいなかったと思うか?当然いた。それを君はどう証明する」
証拠はないのか。
推理小説なら犯人側のセリフのテンプレート。
「詮索する者が犯人だ」「証明できないなら私を解放してもらおう」と同列の言葉だが犯人はこの場合いない。
何が言いたいかというと、だから証明は必要ないと言いたいのだが世の中はそういうわけにはいかない。
「……アリス。すまないが、こっちに来てくれないか」
「……分かったわ」
命がかかっているとなるとアリスも俺も冗談が言えず、辛気臭い空間が出来上がる。空気が張り詰める。
「アイザック、これは一度しか見せません。なのでよく見て記憶に焼き付けてください」
「……分かった」
(『影』、アリスの封印解除のディスクトップを表示。……決して、解除するんじゃないぞ)
《了承、心得てます。封印解除のディスクトップを表示》
==================================
魔力解放、封印解除の申請が下りました。
封印を破りますか。
(注)封印の器は崩壊します。
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電子音とともに、恨めしい画面が表示された。
「アイザック、これが俺が“転生者”である証拠だ。信じられないことかもしれないが事実だ。だが、これを見れば分かるように俺には力がない。全てはアリスに封じられている。だが、俺は代償を受けたくない。したがって封じを破るつもりはない。これでも、俺を雇うのかい?」
(『影』画面を停止。消してくれ)
《了承、画面を停止します》
どうしようもなくここからいなくなりたい気分になった。
俺の力は認められたものではないこと。
アリスに俺の力を封じられていることが彼女にとっては辛いのではないかという不安。
だから、休まず強くなろうとしているのではないかという申し訳なさ。
ごめん……。アリス……。
いっそ俺はいなくてもいいのでは、とまで思わせられる。
もしここで雇われなければどのみち俺は職をなくして死ぬわけだが。
「みくびられたものだ。……こちらとしては可能性がある者が増えてありがたい限りではないか。それと……沈黙と了解を約束しよう。ただし総督にのみ報告する。いいな?」
「は、はい……」
いいのか。俺は認められていいのだろうか。
俺がアリスの封印を解いていないことは俺の甘さで、社会的に見ればいいことではない。
俺の力は何かしらの意味を持っているんだと思う。それを使わなければいかなくなったとき、俺は封印を解くことができるだろうか。
無心になることができるのだろうか……。
「いいのよ?」
アリスは沼のような居心地の悪い空間でそんなことを言い出した。
「別に私の封印について悩まなくてもいいのよ?私が考えてないというのは嘘になるけど、それはあなたのせいじゃない。これも何か、神のみぞ知る意味のあることなのよ」
何故、今そんなことを言うんだ?
俺の心が聞こえているかのように。
弱目に祟り目ならぬ弱目に優し目か……。
脳天に雷が落ちちまったよ……。そんなことはないはず……なんだがな。
「あ、ああ、そうかもしれないな。うん、ありがとう……」
「さ、サイズ……どうしたの?」
俺は気がつくとアリスから目が離せなくなっていると、少し顔を紅潮させながら戸惑い気味に話しかけられた。
「え?ああ!いや、なんでもないんだ、うん」
慌ててそう答えた。ヤベ、見惚れてた。
「さぁ、お二人の恋のキューピットに俺はなれたかな?」
この騎士団長……おっさんだ。
「茶化さないでください。私達はあくまで、封印の関係ですよ。あくまでね……」
「ええ、そうですよ……」
アイザックはニヤニヤをとき、真顔になって言った。
「それならそれでいい。だがな、人がそれぞれを想い合い理由はどうあれ協力できるのであれば、それは本物だよ。本物ほど役に立つ偽物はない。だから俺は君たちを評価するよ。そして、希望の通りに事が運ばれることを確信を持ちつつ、願っているよ」
とんだ憂さ晴らしをいただいた。
俺はアイザックを全面的に信用してしまった。逆に借りを返したいと思った。
この人がトップである所以がこれなのだと納得した。
人間関係は時に人を幸福にさせる。
応援ありがとうございます!
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