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出航
航海長:米内碧衣
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点呼を終えた午前の甲板は、訓練生たちの声で賑わっていた。
一華は艦長室へ戻る途中、廊下の角で航海長の碧衣に呼び止められる。
「艦長代理、少しいいですか?」
柔らかい声音に、一華は思わず肩の力を抜いた。
碧衣は温和な微笑を浮かべ、手には湯気の立つカップを二つ持っていた。
「朝から緊張しっぱなしでしょう。はい、温かいお茶です」
「……ありがとう。気が利くのね」
受け取ったカップから、ほのかな香ばしさが広がる。
金属の廊下を並んで歩くと、冷えた空気の中に茶の湯気がゆらゆらと揺れた。
「艦長代理、声がよく通っていましたよ。訓練生たちも、安心していたと思います」
「……そう見えたかしら。正直、私は内心で必死だったのだけれど」
「ええ。ですが、そういう必死さが伝わるからこそ、皆も本気になるんです」
碧衣は言葉を選ぶようにゆっくり話す。その優しい調子に、一華の胸の奥の張り詰めた糸が少しずつほどけていく。
副長の前では、弱さを見せられなかった。けれど、碧衣の前だと……。
「……碧衣がいると、少し気が楽になるわ」
思わず本音がこぼれた。碧衣は驚いたように目を瞬かせ、すぐに頬を緩めた。
「そう言っていただけると光栄です。艦長代理は責任を一身に背負っておられます。でも、人は誰かに支えられてこそ強くなれるものですよ」
「支え……か」
「ええ。副長は厳しく支え、私は少し甘やかして支えます。それで丁度いいのでは?」
冗談めかした言葉に、一華は苦笑する。けれど頬が熱を帯びるのを止められなかった。
そのとき、艦の鐘が鳴り、訓練生の掛け声が遠くから響いてきた。
碧衣は立ち止まり、制服の裾を整える。
「そろそろ見回りの時間ですね。艦長代理、後ほどまた」
柔らかな笑顔を残して歩き出す航海長の背を見送りながら、一華は胸の奥が妙に温かくなっているのを感じた。
この人の隣なら……私、少しは艦長代理らしくいられるのかもしれない。
一華は艦長室へ戻る途中、廊下の角で航海長の碧衣に呼び止められる。
「艦長代理、少しいいですか?」
柔らかい声音に、一華は思わず肩の力を抜いた。
碧衣は温和な微笑を浮かべ、手には湯気の立つカップを二つ持っていた。
「朝から緊張しっぱなしでしょう。はい、温かいお茶です」
「……ありがとう。気が利くのね」
受け取ったカップから、ほのかな香ばしさが広がる。
金属の廊下を並んで歩くと、冷えた空気の中に茶の湯気がゆらゆらと揺れた。
「艦長代理、声がよく通っていましたよ。訓練生たちも、安心していたと思います」
「……そう見えたかしら。正直、私は内心で必死だったのだけれど」
「ええ。ですが、そういう必死さが伝わるからこそ、皆も本気になるんです」
碧衣は言葉を選ぶようにゆっくり話す。その優しい調子に、一華の胸の奥の張り詰めた糸が少しずつほどけていく。
副長の前では、弱さを見せられなかった。けれど、碧衣の前だと……。
「……碧衣がいると、少し気が楽になるわ」
思わず本音がこぼれた。碧衣は驚いたように目を瞬かせ、すぐに頬を緩めた。
「そう言っていただけると光栄です。艦長代理は責任を一身に背負っておられます。でも、人は誰かに支えられてこそ強くなれるものですよ」
「支え……か」
「ええ。副長は厳しく支え、私は少し甘やかして支えます。それで丁度いいのでは?」
冗談めかした言葉に、一華は苦笑する。けれど頬が熱を帯びるのを止められなかった。
そのとき、艦の鐘が鳴り、訓練生の掛け声が遠くから響いてきた。
碧衣は立ち止まり、制服の裾を整える。
「そろそろ見回りの時間ですね。艦長代理、後ほどまた」
柔らかな笑顔を残して歩き出す航海長の背を見送りながら、一華は胸の奥が妙に温かくなっているのを感じた。
この人の隣なら……私、少しは艦長代理らしくいられるのかもしれない。
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