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出航
主機関始動!
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艦内に警笛が鳴り響いた。
「総員配置につけ!」
副長の鋭い声が艦内スピーカーから流れ出し、甲板にいた水兵たちが一斉に走り出す。
戦艦大和、かつての帝国海軍の象徴。その巨体が再び息を吹き返す瞬間が訪れようとしていた。
「……始まるのですね」
航海長が低くつぶやく。その横顔は緊張に引き締まり、だがどこか誇らしさも漂っていた。
私は艦橋に立ち、目の前に広がる計器と海原を交互に見つめる。
副長がこちらを振り向いた。
「艦長代理、ご命令を」
わずかに息を吸い込み、私は声を張る。
「第一機動、主機関始動!」
「主機関始動!」
号令が伝えられるや否や、艦内の空気が震えた。重油と鉄の匂いが混ざり合い、艦底から響く轟音が甲板まで伝わってくる。大和の鼓動――それはまるで巨人の心臓が再び動き始めたようで、私の胸まで震わせた。
「……本当に動くのですね」
若い通信士が呟き、すぐに気まずそうに口をつぐんだ。
私は小さく頷き、彼女に笑みを向ける。
「ええ。大和はまだ戦えるわ」
その瞬間、ブリッジの全員の視線が一斉に私に集まった。
期待、緊張、そして疑念すら入り混じった複雑な眼差し。
「航海長、針路〇八〇、速力半速」
「了解、針路〇八〇、速力半速!」
ゆっくりと、大和が海面を切り裂き始める。
重く、鈍いはずの船体が、まるで眠りから目覚めた獣のように滑らかに動き出す。
艦橋の窓越しに広がる海が、これまでとは違う輝きを放って見えた。
私は静かに拳を握りしめる。
「大和――私が必ず導いてみせる」
主機関の振動がまだ艦体を揺らしている。
艦橋での緊張が一段落すると、副長が私に進言した。
「艦長代理、次の航行まで少し余裕がございます。乗組員たちの様子をご覧になっては?」
私はうなずき、艦内を見回ることにした。
廊下には新米の水兵が慌ただしく工具を抱えて走り、食堂からはスープの匂いが漂ってくる。どこか懐かしい――だが同時に、戦艦大和が“今も生きている”ことを実感させる光景だった。
「おい、急げ! 艦長代理に見られているぞ!」
整備兵の一人が声を上げると、若い兵が慌てて姿勢を正した。
私は苦笑し、声をかける。
「気にしないで。持ち場をしっかり守ってくれれば十分よ」
その言葉に彼女らは少し驚き、そして安堵したように笑った。
……まだ私は彼女らから“指揮官”として認められてはいない。けれど、こうして少しずつ心の距離を縮めていくしかないのだろう。
食堂では、通信士の少女が隅でノートを開いていた。
「勉強?」と尋ねると、彼女は慌てて閉じる。
「は、はいっ。艦隊暗号の解読です! 早く覚えないと役に立てませんから……」
「焦らなくてもいいわ。大和は逃げないし、私たちもあなたを待ってる」
私がそう言うと、彼女の頬が赤く染まった。
――艦は巨大だが、そこに乗るのは人。
その人の一人ひとりが、この戦艦の心臓の一部を担っている。
そう思うと、胸の奥がじんと温かくなった。
---
数日後。
艦内の緊張感が再び高まる。
「訓練演習の準備完了しました!」
航海長が報告する。
艦橋に戻った私は、全員の視線を受け止める。
「よし……では始めましょう。大和の力を、皆で確かめるのです」
「総員、訓練配置につけ!」
副長の号令が響き、艦内が再び活気に包まれる。
こうして――大和の“初陣”が幕を開けた。
「総員配置につけ!」
副長の鋭い声が艦内スピーカーから流れ出し、甲板にいた水兵たちが一斉に走り出す。
戦艦大和、かつての帝国海軍の象徴。その巨体が再び息を吹き返す瞬間が訪れようとしていた。
「……始まるのですね」
航海長が低くつぶやく。その横顔は緊張に引き締まり、だがどこか誇らしさも漂っていた。
私は艦橋に立ち、目の前に広がる計器と海原を交互に見つめる。
副長がこちらを振り向いた。
「艦長代理、ご命令を」
わずかに息を吸い込み、私は声を張る。
「第一機動、主機関始動!」
「主機関始動!」
号令が伝えられるや否や、艦内の空気が震えた。重油と鉄の匂いが混ざり合い、艦底から響く轟音が甲板まで伝わってくる。大和の鼓動――それはまるで巨人の心臓が再び動き始めたようで、私の胸まで震わせた。
「……本当に動くのですね」
若い通信士が呟き、すぐに気まずそうに口をつぐんだ。
私は小さく頷き、彼女に笑みを向ける。
「ええ。大和はまだ戦えるわ」
その瞬間、ブリッジの全員の視線が一斉に私に集まった。
期待、緊張、そして疑念すら入り混じった複雑な眼差し。
「航海長、針路〇八〇、速力半速」
「了解、針路〇八〇、速力半速!」
ゆっくりと、大和が海面を切り裂き始める。
重く、鈍いはずの船体が、まるで眠りから目覚めた獣のように滑らかに動き出す。
艦橋の窓越しに広がる海が、これまでとは違う輝きを放って見えた。
私は静かに拳を握りしめる。
「大和――私が必ず導いてみせる」
主機関の振動がまだ艦体を揺らしている。
艦橋での緊張が一段落すると、副長が私に進言した。
「艦長代理、次の航行まで少し余裕がございます。乗組員たちの様子をご覧になっては?」
私はうなずき、艦内を見回ることにした。
廊下には新米の水兵が慌ただしく工具を抱えて走り、食堂からはスープの匂いが漂ってくる。どこか懐かしい――だが同時に、戦艦大和が“今も生きている”ことを実感させる光景だった。
「おい、急げ! 艦長代理に見られているぞ!」
整備兵の一人が声を上げると、若い兵が慌てて姿勢を正した。
私は苦笑し、声をかける。
「気にしないで。持ち場をしっかり守ってくれれば十分よ」
その言葉に彼女らは少し驚き、そして安堵したように笑った。
……まだ私は彼女らから“指揮官”として認められてはいない。けれど、こうして少しずつ心の距離を縮めていくしかないのだろう。
食堂では、通信士の少女が隅でノートを開いていた。
「勉強?」と尋ねると、彼女は慌てて閉じる。
「は、はいっ。艦隊暗号の解読です! 早く覚えないと役に立てませんから……」
「焦らなくてもいいわ。大和は逃げないし、私たちもあなたを待ってる」
私がそう言うと、彼女の頬が赤く染まった。
――艦は巨大だが、そこに乗るのは人。
その人の一人ひとりが、この戦艦の心臓の一部を担っている。
そう思うと、胸の奥がじんと温かくなった。
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数日後。
艦内の緊張感が再び高まる。
「訓練演習の準備完了しました!」
航海長が報告する。
艦橋に戻った私は、全員の視線を受け止める。
「よし……では始めましょう。大和の力を、皆で確かめるのです」
「総員、訓練配置につけ!」
副長の号令が響き、艦内が再び活気に包まれる。
こうして――大和の“初陣”が幕を開けた。
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