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訓練始まる
主砲撃て!
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「全砲門、装填完了!」
砲術長・日野の声が艦橋に響く。しかし、その声には不安がにじんでいた。
光学式測定――つまり望遠鏡で目測して距離を測る方法は、最新のレーダー測定に比べてどうしても精度が劣る。外れる確率は高く、失敗が目に見えている。
「よし。第一主砲、射角二〇、距離一万二千!」
副長の指示が飛ぶと、砲員たちは一斉に動き出す。誰もが緊張していた。
私は大きく息を吸いこみ、声を張った。
「――撃て!」
轟音が海を震わせた。
大和の主砲三九センチ砲が火を吹き、甲板も窓も震える。遅れて衝撃波が頬を叩き、海面に高い水柱が立ち上がった。だが――標的艦からは大きく外れていた。
「あ……」
日野の口から、今にも崩れ落ちそうな声がもれる。
海軍の厳しい予算状況では、一発の訓練弾ですら貴重だ。無駄にしたという罪悪感は重くのしかかる。
「大丈夫だよ。初撃で当たる方が珍しいんだし、実戦で当てればそれで十分だから」
航海長の碧衣が、日野を抱きしめるようにして頭をなでた。
「航海長の言う通りだ」
私も艦長代理として、士気を取り戻そうと声をかける。
「失敗を恐れる必要はない。この一発を、次の一発につなげればいい」
「……はい!」
少し元気を取り戻した日野は、再び計器に向き直った。
「偏差射撃!」
副長の掛け声と同時に、艦橋の暗い空気が吹き飛ぶ。全員が再び慌ただしく動き出した、そのとき――。
「艦長代理! 機関部より報告! 第三缶室、蒸気圧力低下!」
通信兵が叫び、艦橋が一気にざわついた。
蒸気圧が下がれば速力が落ちる。そうなれば訓練どころか、艦の安全すら危うい。
私はほんの一瞬だけ考え、すぐに命じた。
「副長、砲撃訓練を中止! 速力を維持しつつ機関部に伝達、応急修理を最優先!」
「了解!」
副長は怒鳴るように命令を復唱し、各部署へ声を飛ばす。
航海長が不安そうに私を見た。
「艦長代理、これでは予定通りの訓練が……」
「無理をして艦を壊すつもりはありません」
私は彼女を遮った。
「大和を動かすのは機械じゃない。人です。まずは彼女たちを信じましょう」
数分後。
蒸気に包まれた第三缶室では、整備兵たちが必死にボルトを締め直していた。汗にまみれ、怒鳴り合いながらも手は止まらない。
「第三缶室、復旧しました!」
報告が届いた瞬間、艦橋の空気が一気に明るくなる。
私は大きく頷き、再び命令を下した。
「では――訓練を続けます。大和は止まらない!」
「全砲門、再装填!」
副長の声に、砲員たちが力強く応じる。さっきよりもずっと大きな声だった。
艦内に活気が戻り、誰もが次の一撃を待ちわびていた。
私は艦橋の窓越しに、静かに標的艦を見つめる。海の彼方に浮かぶその影は、ただの古い艦船にすぎない。だが――。
「次は外せない」
胸の奥で、誰にも聞こえないようにつぶやいた。
大和の巨砲が再び火を吹くその瞬間が、近づいていた。
砲術長・日野の声が艦橋に響く。しかし、その声には不安がにじんでいた。
光学式測定――つまり望遠鏡で目測して距離を測る方法は、最新のレーダー測定に比べてどうしても精度が劣る。外れる確率は高く、失敗が目に見えている。
「よし。第一主砲、射角二〇、距離一万二千!」
副長の指示が飛ぶと、砲員たちは一斉に動き出す。誰もが緊張していた。
私は大きく息を吸いこみ、声を張った。
「――撃て!」
轟音が海を震わせた。
大和の主砲三九センチ砲が火を吹き、甲板も窓も震える。遅れて衝撃波が頬を叩き、海面に高い水柱が立ち上がった。だが――標的艦からは大きく外れていた。
「あ……」
日野の口から、今にも崩れ落ちそうな声がもれる。
海軍の厳しい予算状況では、一発の訓練弾ですら貴重だ。無駄にしたという罪悪感は重くのしかかる。
「大丈夫だよ。初撃で当たる方が珍しいんだし、実戦で当てればそれで十分だから」
航海長の碧衣が、日野を抱きしめるようにして頭をなでた。
「航海長の言う通りだ」
私も艦長代理として、士気を取り戻そうと声をかける。
「失敗を恐れる必要はない。この一発を、次の一発につなげればいい」
「……はい!」
少し元気を取り戻した日野は、再び計器に向き直った。
「偏差射撃!」
副長の掛け声と同時に、艦橋の暗い空気が吹き飛ぶ。全員が再び慌ただしく動き出した、そのとき――。
「艦長代理! 機関部より報告! 第三缶室、蒸気圧力低下!」
通信兵が叫び、艦橋が一気にざわついた。
蒸気圧が下がれば速力が落ちる。そうなれば訓練どころか、艦の安全すら危うい。
私はほんの一瞬だけ考え、すぐに命じた。
「副長、砲撃訓練を中止! 速力を維持しつつ機関部に伝達、応急修理を最優先!」
「了解!」
副長は怒鳴るように命令を復唱し、各部署へ声を飛ばす。
航海長が不安そうに私を見た。
「艦長代理、これでは予定通りの訓練が……」
「無理をして艦を壊すつもりはありません」
私は彼女を遮った。
「大和を動かすのは機械じゃない。人です。まずは彼女たちを信じましょう」
数分後。
蒸気に包まれた第三缶室では、整備兵たちが必死にボルトを締め直していた。汗にまみれ、怒鳴り合いながらも手は止まらない。
「第三缶室、復旧しました!」
報告が届いた瞬間、艦橋の空気が一気に明るくなる。
私は大きく頷き、再び命令を下した。
「では――訓練を続けます。大和は止まらない!」
「全砲門、再装填!」
副長の声に、砲員たちが力強く応じる。さっきよりもずっと大きな声だった。
艦内に活気が戻り、誰もが次の一撃を待ちわびていた。
私は艦橋の窓越しに、静かに標的艦を見つめる。海の彼方に浮かぶその影は、ただの古い艦船にすぎない。だが――。
「次は外せない」
胸の奥で、誰にも聞こえないようにつぶやいた。
大和の巨砲が再び火を吹くその瞬間が、近づいていた。
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