堕ちる犬

四ノ瀬 了

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大丈夫、大丈夫、お前みたいに無茶なことさせないから。だって、俺ってお前より優しいからね。

 優越者から親密を示されるのは腹立たしいことである。
 それに対しては応えることを許されないからだ。           
 ニーチェ 善悪の彼岸 


 霧野の顔の上には、憎しみとも羞恥ともとれる淡い表情が浮かんでいた。元々はっきりした、鋭いナイフで切ったような作りの目元口元の端が、感情の発露で、濡れ滲み、眉は顰められている。しかし、そこに悲壮感はない。寧ろ見る者を煽情的な気分にさせるのだった。

 二条は最初こそ霧野ではなく、川名と間宮の様子を伺い見ていた。勝負に対する自信はあった。しかし、相手が相手だ。間宮はいつもの通り上手くやっているように見えた。一呼吸おいて、霧野を見降ろした。その瞬間に、心の中に在った一抹の不安が、これから起きることの興奮と期待に塗り替えられるのを感じた。川名の方を伺い見るのをやめ、霧野のその煽情的な彼の頭を掴んだ。

「なんだよ、てっきり組長に懐柔されたかと思っていたんだが、まだまだ可愛い顔するんだなお前。伸びしろしかないね。」

 掌の中で微かに彼の身体が強張った。二条の雄は余程興奮した。霧野の充血した瞳が、揺れた。

「どうした?やるんだろ?さっきまでこそこそ作戦会議してたんじゃねぇのか~?」

 そうして、いつの間にか立ち上がった二条の鬼棒が、霧野のすべすべとした頬の上を滑った。二条は霧野を掴んだ顔、親指をその薄っすらと躊躇いがちに開いていた口の中に突っ込み、鋭い歯の上に指を這わせ、舌を弄り引き出した。

 二条は霧野を見ながら、思う。”本来なら”霧野が自ら進んでヤリ始めるを待つべきだろうと、そうしないと、主従関係を構築する上で教育にならないから。

 しかし、今は勝負。この雄奴隷に仕込みや調教を施す時ではないのだった。そんな仕込みは全て、今一時のこの勝負の後にゆっくりやればいいのだ。完全に自分の手中に納めてから。一度こっちの手にしてしまえば、川名も目が覚め、多少は飽きるはず。今までもそういうことはあったし、止めてきた。互いにそういう役目。

 このままこの男を川名の元に置き続けるのは、個人的感情もそうだが、組としてあまりに危険過ぎると感じる。そもそもこの男は人に取り入るのが上手い。今の立場を利用する方針に切り替えることを考えはじめても、おかしくはない。この男に限っては、今の状態でも危険分子になり得る。二条はそう判断した。

 大事に発展する前に、こちらで回収して徹底的に仕込むか殺した方が良い。親指でならした口、その濡れた口腔の隙間へ勢いよく肉棒を突っ込んでやる。呻き声と共に彼の肉体が軽く跳ね、紅く染まった。

「……、……。」
「……、……。」

 視線が交錯する。二条が目を細めると先に霧野の方が観念したように目を逸らした。
 何故なら、興奮してしまっているから。それを気が付かれたくない、そして理解したくない、それだけの単純な挙動。可愛らしい。

 そう、今最優先にすべきこと、それは、この雄を厳しく調教することでは無く寧ろ、可愛がってやること。

 この雄の場合は特に乱暴にしてやるほどいいのだ。
 それはこれまでのこの男との関わり方でわかったこと。
 仕事においても性的な側面においても、同じこと。

 いくら霧野が模倣の天才だとしても、ノンケ、そして、最高にホモフォビアの男が短期間で身に付けさせられた小手先のフェラの技術など、こちらの責め方次第でいくらでも簡単に崩せる。そもそも間宮は、いや黒木は潜在的に同性嗜好が強いのを表に出せないでいたのだ。それをこちらが見込んで長期間かけて仕込んできたモノ、つまり最初から好きなのだから、負ける理由がない。引き寄せた霧野の頭の、その首筋に通された首輪が目についた。

 その時、珍しく、軽く、二条の頭に血が上る感じがしたのだった。何を熱くなっている。こんなもの、刺青と違っていつでも取り外し可能じゃないか。視線を感じた。川名の方を見た。川名が、まるで何か射るような視線でもって、二条を見ていたのだった。

(なん、だ……?)

 間宮に奉仕させながら。川名の手が優しげに間宮の頬を撫でていた。二条の乱暴なイラマチオともとれるような手つきとはまるで反対。その手の中で、間宮が震えて、首筋から背中まで、漆黒の刺青の僅かな隙間に見えるその本来の白い皮膚を紅染めている。

(間宮の奴……)

 もう一段階、頭に血が上る感覚がした。川名の単純な挑発に過ぎないとわかっていても。二条は普段の調子で笑って返そうと思ったが、口元が強張った。川名の瞳が普段以上に、ひと際冷めた瞳が、こちらを見続けている。

 その時、意図せず二条の喉奥から小さく声が漏れた。自らの手で押し付けていた雄の頭が、むしゃぶりつくように二条を、その口腔で、責めていたからだった。遥が、こんな風に男の、それも俺の一物を進んで啜るとはね……、正直、いい、が、今、そそられている場合ではない。今じゃない。あとでいい。

 川名の視線も一度下の方へ行ったが、また、二条に視線を戻した。二条の身体から、ぶわっと厭な汗が湧き出た。川名は二条とは対照的に全然余裕の体で二条の方を見ながらフェラを続行させている。なにか、珍しく笑っているように見えた。『今、俺がお前を犯している。』とでも言わんばかりの眼で。

 二条の腰から下の感覚がだんだんと、おかしくなりはじめた。間宮の様子もどうにも妙だ。普段より気持ちが上がっているのが身体からわかる。発汗と震えからわかる。感じてる?冷え冷えとして色づきもせず、変わらない川名の顔と対称的に二条の顔は、やや発汗した。

 二条は自分の手を霧野の頭から首の方へのばし、首輪の上から左右二点頸動脈の探り当て、上から抑えた。ごぼごぼと溺れるような音がし、肉棒に絡まっていた舌が、こわばった。張りのある硬い肉が肉棒の上でビクッと緊張する。陸に上げられた魚のように。

 そうだ。そのまま、堕ちろ。一瞬緩め、また力を入れる。酸素濃度を少しずつ減らしていってあげる。
 こうされれば、誰だって技巧的なフェラなどできるわけ……。

 しかし、二条の思惑は外れた。一度は強張った舌だったが、一層強く、ムキになったように、ペニスに無理やりむしゃぶりつくようになって、そこにきてようやく、完全に逆効果だったこと、つまり霧野には、間宮に通じていたことが、通じない、間宮以上に、真性に、マゾの素養が高いことを改めて思い起こされたのである。

「う゛……‥!」

 やはり、彼の、余多ある天武の才のひとつ、あるいは、全ての根底にあるのが、マゾヒズムなのではないか。自分と逆方向に天才。そう思うと、余計に、自分の手で一からやりたいのに、という気になってきてしまい、高まってくる、今高まってはいけないのに……。圧倒的勝者の視線で、川名がこちらを見ているのを、知っている。

 駄目だ、このままだと。つい、指に力が入った。人の肉を裂ける程の二条の指の力、その力を受けた反動で、霧野の喉は反射的に二条の雄を飲み込むように蠢いてその先端を肉で覆い実に器用に吸い立てたのだった。

「!!」

 喉の奥に、零れ放たれる、二条の精液、その瞬間、二条が抑え込んでいた頭が、堰を切ったかのように、ものすごい力で二条の腕を跳ねのけ、二条を見上げた。口を珍しく左右に、そう、犬のように大きく、見ようによっては笑ってでもいるように、開いて、その中を大量の白い雄液でただれさせているのを、半ば挑発するように、緑がかった瞳で上目遣い黙って見せてきたのである。口角の端から、ぽた、ぽた、と、精液の混じった唾液があごをつたい、垂れていた。

「お前……、」

「ああ、終わった?」

 間宮の向こう側で身なり整えながら、川名が立ち上がり、二条の方へつかつかと回り込んでくるのだった。川名は霧野を見降ろしながら間宮の方を親指でさした。

「やった。じゃあ、アレ、一週間、貸してね。」

 川名は霧野の頭に手を伸ばした。霧野の頭はその反動で勢いよくうつ向いてしまって表情は見えないが、俯いたと同時に口の中に在ったものその全部を畳の上に吐き出していた。

「何やってるんだ、ハル、せっかく二条からもらったものを吐いたら駄目だ。」

 川名は霧野を撫でていた手を上から抑え畳に頭をつけさせた。霧野の口が素直に開くまでずっとそうして、彼が観念して舌を出すと手を離し、立ち上がり今度は二条を真正面から見るのだった。足元に霧野を侍らせ、時にその頭を踏みしだきながら。

「ああ、ああ、心配しなくても、大丈夫、大丈夫、お前みたいに無茶なことさせないから。だって、俺ってお前より優しいからね。」

 二条は川名を尻目に霧野を見降ろした。隠そうとしているが、明らかに感じていた。服を纏っていない身、ありとあらゆる部分から、わかる。踏まれた先から首筋を赤く染めて、呻いている。呻く程、感じている。ただ高い声一つ、あげないで、恨み節のように唸っているのが、可愛らしかった。ゆえに、やはり、今の敗北が悔やまれる。

「は、組長が俺より優しいだって?笑えない御冗談……」

「冗談に聞こえたか。別にどうとでもとればいい。」

 川名は霧野から足を退けると「お前ら暇だろ。俺が二条と会話してる間、続きをしてろ。」と言い放った。
 二条の下半身以上に、霧野と間宮の下半身は互いに豊満な肉がぶつかり合いディルドで結合させられ、腰が抜けんばかりになって、とっくに限界なのである。しかし、間宮が導き、先行するように黙って動き出した手前、霧野も、合わせ打ちするしかない。続きを、ディルドを互いの裂け目に入れ合い突きあう性行為を、二人の前で続行するのだ。身体の、男の奥、淫の宮を、弄り続ける。異物が擦り続ける。同じ恥辱の気持ちよさの感覚を共有していると思うと、霧野の沸騰した頭は更にはどうにかなりそうであった。

「ああ、その調子でやってろよ。俺がどちらか一方でも手を抜いてると判断した場合、今やってるそれを皆の前でやらせるから。わかった?」

 返事をしたのは間宮である。皆とは事務所でやるってことだ。もうだいたいのことは霧野の代わりに間宮が先行してくれるのだった。霧野はただもう力の入らない腰を精神力だけでなんとか振ってるだけ。本当は、止まらない、武骨な腰が。内腿の筋がぴくぴくと震えて、中に、にゅるにゅるとはいってき、良いところを押し、間宮の尻の感触を覚え、向こうも呻く、もう、どうしてか、とまらなかった。全身で動く。どちらのものともしれない液体が垂れ滴る。いつの間にか声が漏れ、勃起した雄があてもなく揺れ、泣いている。

「間宮と並べても悪くない仕上がりかな。」
「そうですね。ある程度どこに出しても恥ずかしくない段階まで来たんじゃねぇですか。」
「ある程度はね。そういえばこの前、近くに用事があったから壮一君の墓に寄ったよ。」
「……。何で、アンタが。」
「あまり手入れされた形跡がないね。本当は中にはもう何も無いから?」
「俺の質問は無視ですか。」
「別に。意味なんか無いよ。生きていることそれ自体には意味なんか無いのと同じだ。二条、お前は物事に意味を求めすぎているんじゃないかな。本当はそんなものないと知っているのに。」
「……。」
「お前には自分の行動を後から無理やり理由付けする癖があった。前より随分薄れたけど。」
「論点をずらさないでくれませんかね?遠回しに言っても駄目みたいだからはっきり言いますけど金輪際近づかないでもらいたいですね奴の墓には。」
「ところで、ゲームは続行する?降りる?」
「……なに?続行ですって?」

 二条は霧野達の淫な遊戯から視線を逸らし、いぶかし気に川名を見た。

「そうだよ。お前が乗るのなら続行する。そんなに俺に間宮ごときをとられたのが気に入らないというなら、もう1ゲーム、俺とやればいいんだ。そうだろ。」

「気に入らないなんて、言ってねぇですよ」

「いや、言ってるね、お前の全身が。珍しくさっきから、いやゲームの途中からやけにピりついてるじゃないか。え?どうしたんだよ?」

 川名も、二頭のもつれあう雄の方から、二条の方へ視線を上げ、微笑んだ。そして二頭の雄を見ていたのと同じような視線で、二条を舐め回すように見たのだった。嬉々としたものが浮かんでいる。先ほど間宮の口の中を犯しながらこちらを見ていたあの瞳の面影が蘇ってくるではないか。

「それに、まだひとつ、残ってるだろ、賭けてないものが。」

「……。」

「お前の身体」

「許さない……絶対、そんなことは……俺が……!」

 突如として憎しみの籠った声がしたと思えば、まだ下半身同士ディルドで霧野とつながったままの間宮の方からである。漏らした痕が彼の太ももの下に拡がっている。

 その時、川名の瞳の中から一切の色が失われたのを二条は目の前で見ていた。川名は視線を霧野の方へ落とし「ハル、もうそいつと結合するのをやめろ。」と冷めた声で言った。霧野は這うようにしながら、ディルドから逃れ、抜けた拍子に「ぁっ」と小さく喘ぎながら身を震わせていた。

 間宮の裂け目からもゆるゆるとした調子でディルドが抜けていき、畳の上の水たまりの上に転がった。辺り一面に潮の香りが拡がっている。部屋には、精の匂いが充満していった。霧野の淫花が小さく痙攣しながら誘うように口を開いたままになっている。部屋の隅に侍っていたノアが耳を立て立ち上がりかけたのを川名が「ノア、あとで沢山遊ばしてやるから、待ってろ」と制するとまた元のように戻り、丸くなった。川名は霧野を見下げたまま言った。

「お前が勝ったんだ。何か褒美が欲しいだろ。」
「……。」
「何がいい?」

 川名の雰囲気が重くなったことに気が付いたのは二条だけではなく霧野も同じだった。

「では、今の、間宮の発言を、許してやっては、くれませんか。」

 二条は霧野の意外な発言に驚いたが、川名はまるで最初から想定していたかのようで、特に動じた様子もない。

「……。」

 川名は何を考えているかわからないような視線をしばらく彷徨わせていたが再び霧野の方を見た。

「ああ、そう……、そうか……、それがお前の今、一番に、求めていることなのか……へぇー……面白い。わかった、いいよ。お前に免じて特別に、不問にしてやるよ。……で?、二条、さっきの話の続きだけど、どうする?」

「降りますよ。また、とりにくればいいだけの話だ。」

「そうだろう、その方が良いね。お前は馬鹿じゃないから。ところで、やっぱり、良かっただろ?殺しは無し、と、最初に俺と、取り決めしておいて。」

 これが、川名じゃなかったら、×××××。

「間宮、ハルのおかげで俺に何もされないで済むのだから、お礼してやらないと。」
「……、はい、なんでも、おっしゃる通りにします。」

 二条が降りたことで、先ほどまでとは異なり、間宮は冷静、何の感情もこもって無い声で、その場の誰とも一切目を合わさず畳に手を付いて川名の方へ身体だけを向けた。

「ハルのことを悦ばせてやれるよな。」
「はい、もちろんのことです。」

 間宮は霧野の方へ目も合わせないまま近づいていき、そのまま覆いかぶさろうとする。勿論霧野は何も言われない限り抵抗するし、川名もそれを認めているようだった。裸同士もみ合いのキャットファイトになり、そこそこの見ごたえ。霧野が、やめさせろだなんだと川名か二条にも言っているように聞こえるが、その権限は今、川名にしかない訳で、川名が黙っている以上何もできないし、する気も無いし、する意味も全く、ない。

 だが、腕力だけの勝負となると、互いに体力も同等程度消費している状態で、それでも若干霧野の方が優勢ということになる。やはり、彼は素晴らしい。そうすると何故かタイミングよく、襖があいて男達が入って来て、都合の良い状態に取り押さえるのだった。そのまま間宮の雄が堂々と天を突き、仰向けに抑えつけられた霧野の方へ向かってくる。が、また、火事場の馬鹿力とでもいうのか、霧野が男を振り払い、なぎ倒し、また、間宮との取っ組み合いになる。二条は特に加勢もせず、その様子をやれやれといった調子で見ていたのだが、ふと、部屋の隅に放っておかれていたトランクを開けてみた。よく手入れされた縄だ。そうして、一仕事だけしてやろうと思って、立ち上がる。自然、間宮がどき、周りの人群も、割れた。

 周りの男が捌けたことで、霧野が、え、と横たわったままで、二条の方にぐるりと目をやって瞬時に立ち上がった。もう立ってるのもやっとに違いないのに、闘志をむき出し、「やった!お前に、勝ったら、全部ちゃらでいいのかなぁ!」とあまりに錯乱した問いを放った。

 良い訳ないだろう、冷静に考えて。でもここは「ああ、いいよ別に。それで……。」と川名の代わりに勝手に答えてやる。そのほうがお前が、やる気出してくれて、楽しめそうだから。

 そうして二条は霧野のそれでも人並みより随分と早い打撃をかわしかわし、わずかな隙をついて容赦なく肩車で投げ飛ばし、それでも起き上がってくるところを容赦ない大外刈りで強めに転がした。背中から畳の上に勢い奇麗に落下、人によっては脳震盪を起こすか受け身の技量が無く打ちどころが悪ければ、最悪死ぬ。霧野は極限状態でも受け身をとってダメージを軽減させた。素晴らしい反射神経。立とうとする、が、それより前に飛びついて寝技に持っていく、もう立たせない。二度と。永遠に地を、這いつくばらせる。今の技から立てたら、それこそ……、化け物、……しかし、霧野は寝技をすんでのところで器用に振りほどき、再び二条の前に、立ってみせたのだった、そうして、二条は自分と同じ化物が、一瞬目の前に顕現するのを、見た。「……けない、ここで、負けたら……」と手負いの獣はそう呟くものの、畳に膝を突いてしまう。たった数秒の事だった。それでも、良い物を見た。

 二条が霧野のすぐ横に立って見やると、まだ、まだ、と立ち上がろうとしている。もういい。ここまで追い込んでやれるなら。戦士。なんとしてでも、また別の機会を作ってやる。お前は俺を久しぶりにそういう気にさせた。二条はそばに屈みこんでその熱い身体を縄で抱いてやって、もう何も言わなくても済むように、口に縄を噛ませた。
 
 この部屋の梁に縄で人を横釣りに吊り縄をするのには、丁寧にやって通常30分程度かかる。しかし、あまりに集中していたか、愉しかったのか、その作業が終わるまでの時間は、二条には体感で3分ほどに感じたのだった。

 唸る熱い肉の塊が、横を向いて宙ぶらりんになって浮いていた。身体は左向きになった状態で、今頭の方が少しだけ下半身より下になっている。頭が下に、下半身が上になる程、受け手にとってはきつい責めとなる。この支点は縄の心得があればある程度調整可能で、頭を一気に下に下げ、頭に血を昇らせることもできれば、上に戻して回復させてやることもできる。霧野の肉体は、数点の縄の支点で吊られて、左脚は畳まれ上に、右脚は畳まれ重力のいくように下に下がり、上下に「I」の字を描くように開かされていた。大きく開いた豊満な太もも、その間で、紅き雄が勃起、猛り狂う、くぼみある尻、その間に咲いた淫花、裂け目が誰からもよく見える。筋の張った筋肉質な脚と脚の間で、そこだけがやわらかく、口を開っきぱなしなって濡れている。もがけば、いや、呼吸するだけでも、縄が敏感な皮膚を擦れ淫部が昂り薫った。身体の跳ねが激しくなる。ほの紅くなった全身で呼吸している。その場にいた誰もがしばらく何も言えずしばらく見惚れていた。

 二条がその腰の肉に触れてやるだけで、そこから、まるで獣の毛が逆立つように、サァッと皮膚が波立ち鳥肌立ち、敏感の皮膚が色めきだつ。その皮膚は、手に吸い付くように、甘え濡れるのだ。

「ん゛んん…‥ふぅうう…んんん…」

 もがき喘ぐ雄。吊られた肉塊。二条は、視線を動かす。大きく武骨な腰、呼吸によって滑らかに蠢く引き締まった腹部、膨らんだ胸部、充血した小さな突起、汗ばみ、喘ぐように蠢く首筋、そして顔。鳶色の瞳。最後まで噛みつくような瞳をしているのが、敵ながらやはりとても気に入った。二条は手を這わせながら、這わせる度に震えるその身体、霧野の頭の方へと近づいていった。威嚇するような唸り声が、縄を噛まされ食いしばった喉の奥でひと際大きくなった。獣だ。さっきみたくやってみろとその口に自分の肉棒を突っ込んでみたくもなる。

 しかし、代わりに二条はポケットからハンカチを取り出し、それで霧野の目元を覆ってやった。それで同じように、さっきとは逆の方向に動く、首筋に手を当て、上から下に、撫で上げていくと肉の張りつやがよくなり、みるみる温かくなっていった。もう、いきり立って仕方がない肉棒を掴み上げると、すっかり仕上がった調子で、さっきより甘い声で啼く。二条の手の中でみるみる熱く硬くなり、快楽が高まり、雫が、ふつふつと、湧きはじめる。啼いてしまってから、恥じるように頭を下に下げるのだが、その勢いでゆらゆらと縄目の中で身体が揺れ、身体を感じさせられたか、息があがっていく。梁に通された縄も、霧野の決して軽くはないその重量に悲鳴を上げるように軋んだ音を立てた。二条は川名に視線を送った。川名は頷いた。

 彼の身体を、二条の雄が、突き上げる。宙ぶらりんになった身体は、啼き、感じた。今の霧野には、自分の身体がどうなって、どこがどうされているのか、わからない、身体が浮いて、接地点が無い故、唯一、ただ一点だけの感覚が非常に敏感になる。身体が別の物と接地している箇所、つまり、男の肉棒とその肉棒によって突かれる箇所だ。己の肉奥の感覚、そして快楽だけに、厭でも集中せざる得ない。二条は霧野の身体に覆いかぶさるようにして、強く突きあげた。

 肉筒を通って弾ける快楽が、その鋼鉄で強く、突かれる度、身体の中で音叉の響きのように増幅され、増幅され、脳まで、届く、キク、ゥ、痺れ、ル、!、ァ!ァ!感じたくない、と思うのに、止まらない、突きあげられる欲望、モットツヨク、その度掻き消されるカラ、自分が、強烈な日光に浴びせられ世界全体がまっ白くなるように、自分が自分で、無くなっていくような、とめどない、××××、暗闇の中、身体の内側が痺れ、響き続ける、乱暴にされる程、厭と思う程、強烈な快楽を産んでは終わり、産んでは終わりを、果てなく、繰り返す。肉筒の中に雄を激しく出し入れされ、まるで胎内で快楽を、無理やり、産まされている。もう、終わりなど無いように思えた。目隠しされた布の下で、瞼の下で、霧野の瞳はぐるぐるとあらぬ方向を彷徨っていた。

 快楽を逃がす術もない。そしてその、他人を威圧する目と口を覆われているから、好きだなだけ、無様に垂れ流せる。ふいに、今霧野が、多くの人間に見られていることを、快楽の狭間で思い出したとしても、その悔しさや恥ずかしさ全てが肉の快楽に変換され、身体を火照らせるのだった。二条が霧野の身体を貫き始めて少しして、びゅう、と霧野の身体から白い液体が噴いて出て、畳を穢したのだった。つづいてぼたぼたぼた……とまるで蝋でも垂れたかと錯覚する程、涎、汗がしぶいて、堕ちていった。二条はそのまま続行する。自分も、汗ばんでいた。

 耳に子気味良い、低い呻く、慟哭が、腰のうごきにあわせて、ペニスにまで、じんわりと、振動となって響いてくるではないか。霧野の不安定な姿勢の中で、中空に浮いたその身体では、ただ、その肉穴だけが、他者との接点になる。だから余計、噴火口は熱せられ、さらに、熟される。もちもちと、肉が、突く程に、柔らかく絡み、吸い付てくる。一度イったから、筋の締りが、良い。

 霧野の鳴きが小さくなって、身体の張りが弱く、縄にもたれ、しなだれるようになってきたと感じると二条はその尻を手で勢い平手で打ってやった、紅く手形が付く程に、そうするとまた、彼の身体に彼の強い魂が戻って来て、自分のこの屈辱的な役目を、思い出し、身体が雄を求め締まった、きゅうきゅうと、痙攣しながら。逃げ場なんてない。そうして、二発ほど出し、二条は下がった。あとはもう、流れのままだ。手出し無用。これだけ人が居るのだから。霧野がどうこうというより、川名の気が済むまで、続くことになる。

 最後に見た霧野の瞳の輝きに、少し、ほんの一瞬、厭な考えが、二条の中を通過していった。魔がさしかけた。

 ……つまりそれは……、遥のために……このまま、全部、ぶちこわしにしてやること。

 他のすべてを捨て、欲しい物だけさっさと手に入れて、高跳び、雲隠れする。
 金の心配はない。それに、間宮は手足として使えるだけでなく、偽造パスポートも証書も、お手のもの。

 力は、この手にある。それから、もしここで自分が力を使ったら、勿論間宮もその瞬間にこちら側に加勢することは自明の理であり、別に、これだけ護衛が居ようと、銃を携行してようと、関係がない。川名一人殺す位、まったく不可能なことではない。ただ、理性で考えて、やらないだけ。仮に今一時の強い感情だけでそんなことをして、組が終わってしまっては、元も子もない。それに組長をヤルならもっと周到に素敵な場を用意する必要がある。タイミングとバランスの問題でしかない。

 憎いから殺す、わけない。

 むしろ逆。組長にはお世話になった恩もある、理解もある、金もくれる、仕事もくれる、それから、”肉”もくれる。ただ一つ、気にかかることは、強い男ほどいたぶってみたい啼かせてみたいという気持ちが常につきまとい、組長からも見透かされているということだ。そこを利用されていると感じることも無いでもない。

 だが、やはり、遥のせいなのか、普段とは逆に、めずらしく川名の方から二条へ、あからさまに気持ちをぶつけてきた。つまり、やはり互いに腹の底で考えているこの泥のようなやり場のない情念が、在るということがわかったのだ。

 双方の奴隷を使った行為中の時の、あの異様な眼つき。それからゲームの続行の異様としか言えない提案。普段なら、まずあり得ない。霧野との結びつきが、川名の本質的な部分を露出させたのか。

 あれは間宮の口淫で感じさせられているというより、明らかに間宮の口をただ、己の自慰の道具として、利用してるだけだった。間宮のことは最初から全く道具ぐらいにしか思ってない。そこに感情は欠片も無いのだ。感情の向いている方向が、最初から違っていた。そこが敗因のひとつでもある。つまり、いくら間宮が道具として優れていたとしても、所詮道具は道具であって、それ以上の物では無い。それよりも、川名にとって大事のは二条の方だったということだ。感情の矛先が違う。

 今、やりあわないのは、利害関係上の問題で、実行してないだけ。互いに核兵器を持っている国同士と同じ、穏やかな冷戦状態だってこと。意外とそれでこの組の治安が保たれてるんだから良い。他の組だったら終わってる状態、分裂状態ととられてもおかしくないが、ここではそうはならず、寧ろ均衡が保たれているのが、この組織の居心地のいい部分でもある。

 遥を縛ってやるのは好きだ、偽りの言葉でなくて、身体が素直に啼くのを、指先で、感じられるから。もともと他の者たちに比べて知性のある澤野と話すことに、二条は悦びを覚えていたが、こうして性的な面においても、自分と逆の才のある霧野とは縄を通して対話することができることも、わかったのだ。仕上がった後の、身体と身体の真実の対話である。二条は以前に増して、欲しくなった。だが川名の調教が進んでいることも事実。

 霧野ともう少し遊んでいたい、が、しかし、今は撤退するしか選択肢はない。こんな人混み、しかも川名に見られながらじゃ、しかも、負けた後じゃ、ちょっとね。これ以上長居する気に慣れないし、示しがつかない。今続けてやっても、おそらくまだ、気持ちが入っていかない。もっと、身体の発する本当の声を聴いてやるには、こんな場所は相応しくない。遥から、間宮から、そして、人の群れから遠ざかる。全部から遠ざかる。

 そうだ、まだ、終わった訳じゃない、少なくともこの立場にいる限り、機会はいつでも用意されている。

「なんだ?お前帰るのか?もう少しばかり遊んで行けばいいのに。」

 背中を向けかけたところに川名の無邪気な声が追ってくる。
 わかってて聞いてる。気分がすこぶる悪いことを。自分でも意外だった。

「悪いけど、今日はもう、気分じゃねぇんで……でも、そうだなぁ、組長のこと、一発、殴らせてくれるのなら、いいですけどねぇ……。」

「あは、厭だよ、痛いから、お前の一発は。」



「おやおやどうした。珍しいじゃないかこんな時間に。ひとりかい?」
「……。ああ、ところでお前こそ何してたんだ、そんな血まみれで、まぁおおよそ想像つくけど……客が俺じゃなかったらどうすんだよ。業者とかさ。」
「つい夢中になってたものだからな。上がってくつろいでてくれよ。適当なところで終わるから。それとも君も一緒に見るかい。」

 姫宮は二条の返事も聞かずに背を向け自分の城、薄暗い診療所の奥へと戻っていった。
 ちら、と姫宮の研究室を覗くと想定通り死体を弄っていた。二条がそのまま通り過ぎようとすると「なんだよぉ、見て行かないのか、結構自信作なんだけどなぁ。」と爽やかな声だけが追いかけてくる。

 部屋の前を通り過ぎても血の臭いだけは鼻の奥に残った。書斎に入り、適当な書をとってソファに腰掛けたと同時に気配を感じて顔を上げると、驚いた表情をした、とても診療所という場所にはそぐわない服装、メイド服姿の金髪褐色肌の人物がドアを開いて半身を覗かせたところだった。先に二条から姿を発見され驚いたのだろう。

「おくつろぎのところ、大変、失礼いたしました!」

 メイドは頭を下げた拍子に開け方が微妙だった書斎の扉に頭をぶつけ、鈍い声を上げて頭を押さえた。

「い゛!!お見苦しいところをお見せし、申し訳ありません、あの、紅茶か、珈琲か、お入れします。」
「……、……。」

 メイドは恐る恐ると言った調子で顔を上げ、赤面したが、二条が黙ったままでいるとだんだんと泣きそうな顔へ変わっていく。二条は昂っていた気が、ある意味、いい具合に、だんだんと、冷めていくのを感じた。

「あの……」

『だって、俺ってお前より優しいからね。』

 ふいに、川名のあの鼻につく言葉が頭の中にリフレインした。もし川名が今ここに座っていたら、まず気が付いていたとしても、このメイド”もどき”を泣かせるようなことにはならず、紅茶でもと優雅に言ってやるのだろうが、それが優しさだろうか。いや、違う。川名の優しさなど、邪悪の優しさ。俺はもっとストレートな方が良い。

「こっちに来いよ。」
「え…あ…はい!」

 メイドもどきは二条のすぐ横でおずおずした様子で立っている。二条はしばらく黙っていたが、ふいに顔をあげ、しかし視線は合わせないまま「アイツから言われなかった?客人より上の目線に立つなって。」と言ってあげることにした。するとメイドもどきは「あっ」と言いながら腰を抜かしたように膝を突いて「すみません!すみません、ごめんなさい!ごめんなさい!!!」と甲高い声で二条の足もとに縋りつくようにしてがくがく震え始めた。その手の、メイド服の実に似合わないこと。

 そう、いくら顔が一般的水準で雌、一般的水準で可愛い造りと言ったって、骨格まで誤魔化すのは至難の業。
 野郎、ちぇ、男じゃねぇかよ、こいつ。

「いいよ、別に、アイツには黙っといてやるから。アイツが自分のことに夢中だったこと、それから俺が最初の来客でよかったな。ところでお前いつからここにいるんだ?」
「……、……。」
「言えない?まぁ、どうでもいい。勝手に人と私的な会話をするなとでも言われてんだろ。どうせ。実は今日、忘れ物をしちまったんだよ、いつもこういう待ちの時に使うんだけど、お前、そいつの代わりになってくれねぇかな。」
「もちろんです、私にできることなら、なんでもします。」
「何でも?へぇ、じゃあ聞くけど、お前一体、何ができるっていうんだ?」
「言われたことならなんでも」
「あ?そういうことは聞いてねぇんだよな。俺はお前のアピールポイントを聞いてる訳。なんもなしぃ?じゃあ俺が自決しろと言ったらお前、死ぬのかナ?ふふふ。」
「……、……、」
「はぁ、しらける、つまらんね。」
「ごめんなさい、ごめんなさい……」

 その時「ごめんごめん、お待たせ」と新しい白衣に着替えた姫宮が入って来、二条の足もとに蹲っているメイドを見て「なんか、あった?」と急に低い声で、問うた。メイドの肩が震えたのを二条は眺めていた。正直、姫宮の元で飼われるのが一番悲惨だと思うのは自分だけか。姫宮のやり方を真似たいと思ったことは無いし、真似ようと思って真似できるものではない。たまに互いに協力することはあっても。

「いやぁ、別に。なぁんもねぇし、なぁんもしてねぇよ。」
「本当?ふぅん、まぁ別にいいよ、後でどうとでも聞けるからね。クロ、紅茶。新しいやつ。」
 ”クロ”は頭を二条の前で這いつくばったままさらに垂れ、そのまま部屋を後にした。
「何だよあれ。相変わらず悪趣味だな。」

 姫宮は二条の向かいのソファに座って足を組みにこにこと笑っている。

「うん、悪趣味だろ。でも、意味はあるんだ。俺が何の考えも無しにあんなことやらせてると思うのか?そんなの時間の無駄だよ。あいつはね、可愛く見えるだろうが、ここいらじゃ結構な問題児だったんだよ。まぁ、所謂不良ってやつかも。俺達とは真逆の存在かもしれないよね。だからその時点でもうさ、動物と変わらない。動物。動物の親ってのは大体動物と相場が決まっているよね。そうだろ。案の定誰もろくにあいつを養育していなかったみたい、ふふふ、だからね、俺が親の代わりになって一体どこまで矯正できるのか実験をしてみようと思ったんだよ。それってとても社会善だと思わないかな。いいことだって、思わないかい。実に有意義なことだよ。俺はね、この地域の悪については大体知ってるんだ、昔からある悪、新しく生まれた悪、それからお前と、俺という、必要悪。あいつ、見た目が可愛かっただろ、それでいて腕っぷしが弱いわけでも精力が弱いわけでもないんだ。むしろ逆さ。可愛いことがコンプレックスで、その反動で悪いことをするようになった、そんなタイプだと分析する。そして、悪いことを強いこととはき違えてる。若い時にはさもありなん、か?ま、獣らしく基礎的な身体能力と持久力は高い。そうでないと話にならない。だろ?そして現代っ子らしく普通の喧嘩もすれば弱い物虐めもする。彼女も作るが他の女ともあたりまえに寝る。妊娠させる。堕胎させる。悪い大人とつるむ。全体的にタチが悪い動物だ。もう、かなりの数の人間から恨まれている。で、どうやら最後に妊娠させた相手が悪かったみたいだな。俺のところに情報が来たのも、そういうネットワーク経由、二度と社会復帰できなくして欲しいとまで、頼まれたね。別に俺って便利屋じゃないからさ、はじめはことわろうと思ったんだ、興味ないし、でも、本体を見せてもらったら、まぁ素体が悪くないから、じゃあってことで引き取ったんだ。俺に引き取られたことを追々感謝するようになると思うよ。もしもう何年か放っておいたら、二条のところにも話が言ってたかもしれないし、ともすれば一緒に働いてたか、献上されてたかも、ね……。ふふ、でも、先に俺が見つけたから、丁度今、空きがふたつあることだし、拾って俺が新しい生き方を教育してあげようと思ったんだ。その方があれだって幸せだから。だってああいう生物にとって、目的なく人を傷つけるだけの獣の生活をしているより、人間に尽くしている方が余程有意義だろうからね。無理に人間してるよりもっと本来の獣らしい生き方を俺の元で習った方が良いんだよ。あそこまで持ってくまで結構苦労したんだけど、昨日少しなじったら嬉ションしていたよ。気持ち悪いよね。あは。最近はナース服着せて看護助手もやらせてるんだ。患者や近隣住民からは完全に女だと思われているみたいだ。それがどれほどアレの心を蝕むのか考えただけで愉快だよ。」

「……。お前と会話していると、安心するよ……。」

「そいつはよかった。ところでどうした?珍しく、傷心しているんじゃないか。」

 その時、紅茶の入ったポットとティーカップ2つをお盆に乗せてクロが戻ってきた。彼は緊張した硬い仕草でテーブルに紅茶をセットし、一歩下がった。2つのティーカップに湯気が立っている。内一つ、紅茶の注がれたカップに姫宮が口をつけ、そのまま立ち上がったかと思うと、そのまま勢いティーカップの中身をクロの顔面にかけた。あっ!!!という悲鳴と共に顔を覆って、カップが落ちる、それより前にクロの身体が反射的に動いて、カップが落ちるより早く片手の中にその熱いカップを収め、盆の上に置きなおした。顔半分と左手が赤く爛れている。

「ほら。いい反射神経してるだろ。」
「ふーん。………。………。」

 確かに見た目に反して身体能力は悪くなさそうだ。細身の分素早さには特化しているかもしれない。二条の動体視力の中ではクロが瞬間的にしゃがんだ拍子にスカートがめくれてそこに発達した褐色尻肉が見えていた。黒いティーバックが食い込んで、一物が無理やり収納されている様子だった。

「ところでクロ、彼は俺の友達のヤクザで二条というんだ。お前さっき何を話していた。」

 ヤクザという単語でクロの表情に小さな動揺が浮かんでいたが「私に、何ができるかっていう、ことをお伺い、頂きました。」と小さな可愛らしい声で言った。

「あ、そう。何にもできないお前に何ができるか聞くなんて二条もとってもとっても酷なことするんだねぇ。もう下がっていいよ。あ、そうだ、忘れてた。今どうして俺に紅茶かけられたか勿論わかってるよな?」
「……淹れ方を、間違ってました、か」
「…………、お前、マジで言ってんの?……”か”、……じゃなくて、間違ってました、だろ。ああ、なんて恥ずかしいのだろう。最悪な気分だ、ほらみてごらん、二条もあきれてるよ。ああ、まだ、人前に出す段階じゃなかったか。もう一回最初から」
「間違ってました。申し訳ございません、淹れなおしてきます。」
「別にいいよ、もう。俺が呼ぶまでその面見せてくれるな。そうだ、しばらくその恰好のままウチの裏の工事現場の近くにでも立っているんだな。」
 クロの顔がサッと青くなり指先が震えたのを二条は見逃さなかった。
「工事現場?何故そんな場所に行かせる。」
 姫宮はにこにことした表情を見せ「え?、何故って、またまたぁ…‥。わかるだろう。」と言った。その笑顔が、全てを語っていた。
「わかりたくねぇかな。」
 二条は再びクロの方を見た。
「お前はそれでいいのかよ。俺がこいつに一言言って、助けてやろうか?」
 
 クロは一瞬目を見開いて二条を見た。その瞳の奥に、小さな希望の光が灯ったのだが、また、俯き、軽く一礼して部屋を音もなく出ていった。少し、右足を引きずっているのが気になった。

「ふふ、どうだい?悪くないだろ。」

 と、姫宮はポットから自分で紅茶を注いで「こっちも悪くないね。」と飲み直していた。
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