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24 容疑と捕縛
しおりを挟む夜会が無事に終わってからは夫人の体調はあまり変わらず、割合に穏やかな毎日が続いていた。
宰相とオーランドは、まだ和平協定を結んでいない近隣諸国が国境近くに進軍してきたとの報告を受けて、また王宮に詰めていた。
交戦は起きていず睨み合いらしいが、戦争が起きて欲しくないとサブリナは少しハラハラしていた。
この国はそこまで大きくない国だが、鉱物などの資源が豊かだ。
そのため資源を狙って侵略しようとする諸国との交戦がまだまだ多く緊迫感は絶えないが、王と宰相はその交戦を利用して領土拡大を推進している。
大きな戦争は終わってだいぶ平和になったが、それでもまだ油断ができないのが現状だ。
オーランドは近衛騎士団員だから、国境まで進駐することはまず無いし、行くとなれば王太子と一緒に戦後処理の平定軍としての出征だから心配はないと夫人からは聞かされている。
それでも危険な目にあってほしくないと祈るばかりだ。
サブリナはそんな風に考えてしまう自分に苦笑する。夫人に公爵家の嫁としての教育を受けながら、本当の夫のようにオーランドを思ってしまう自分が愚かなのに。
でも・・・、と夫人と庭の造園の相談をしながら思う。自分の心は、心だけは自由。だから自分が夫の無事を祈るのは許して欲しいと・・・。
それは突然だった。
昼食後、いつも通り夫人のマッサージをし午睡の世話を終えた、なんら普段と変わらない日。
宰相やオーランドが不在の時は、割合静かな公爵家だが、その日は珍しく馬や馬車の足音が鳴り響き、玄関ホールが俄かに騒がしくなっていた。何事かとサブリナもホールに向かえば、執事やメイド達がホールに集まり、そして見たことのない制服の騎士達が10人以上居並んでいる光景が広がっていた。
そして、その中央で執事長のエイブスが騎士団長と思しき男とおし問答をしている。
「なんと無礼な!!それでしたら旦那様、ウィテカー公爵に先にお話しを通していただきませんと、私共には対応致しかねます」
エイブスが冷静にその騎士を押し留めようとしていると「逆らうのか!」と騎士に腕を取られる。痛みに顔を歪める執事長に、サブリナは驚いて何事かと口を挟もうと思った時、その騎士は仰天すべきことを言い出した。
「我はマカレーナ侯爵領直轄、第一騎士団、団長ランドルフ・タウンゼントだ。ウィテカー公爵夫人付きの侍女をこちらに出せ。マカレーナ侯爵夫人ならびに令嬢エブリスティ様毒殺未遂容疑がかかっている」
毒殺未遂容疑!!
予想だにしなかった物騒な言葉にホールにいた使用人達がざわりと揺れた。
「どういうことでしょうか?」
エイブスが何かを言う前よりも先に、サブリナは問うた。使用人達の一番後ろにいたが、みんながサブリナの声に脇に寄る中を静かに騎士の前に進み出る。
騎士団長のランドルフが、ほぉと言うようにサブリナを上から下まで舐めつけるように見た。
鋭い騎士の視線に晒されて身体が震えそうになるが、サブリナは自分を叱咤すると真っ直ぐにランドルフを見た。
「私がお探しのウィテカー公爵夫人付きの侍女かと存じます。ただ・・・心当たりがございません。仔細をお教えくださいませ」
言って腰を落とし深々と頭を下げると、ランドルフはよかろうと答えて続けた。
「昨日、エブリスティ令嬢が午後の茶にハーブティーを飲まれたところ、舌にピリピリするような異変を感じられた。すぐに飲むのを止め、医師に診てもらったところ、そのハーブティーに・・・トリカブトが大量に混入されていることが分かった」
「そんなっ!!」
トリカブトという言葉にサブリナは声を上げた。
「そして、そのハーブティーはウィテカー公爵夫人からマカレーナ侯爵夫人へ先だっての夜会で贈られたものだということが分かっている。その際にウィテカー公爵夫人は、自分の侍女に特別にブレンドしてもらった、とマカレーナ侯爵夫人に話されたそうだ」
確かにそうだ。
マカレーナ侯爵夫人が季節の変わり目に頭痛と不眠に悩まされるとのことで、それに効くハーブティーを作って欲しいと夫人に頼まれた。
サブリナは薬草やハーブを調合して悩みに効果があるお茶を作った。だが、断じて自分はトリカブトを入れはしない。
そもそも、トリカブトは必要ないので持ってすらいないのだ。
絶対に毒草を見間違えたりはしない。
それなのに何故?
鼓舞するためにグッと両手を前倒し組むと、僅かにカタカタと震えてしまう。それを抑え込みながら、なんとか口を開く。
「エブリスティご令嬢とマカレーナ侯爵夫人の体調は大丈夫でいらっしゃいますでしょうか」
その質問にフンっと鼻を鳴らし小馬鹿にしたような笑みを浮かべるとランドルフは答えた。
「幸いにも侯爵夫人は飲まれていない。エブリスティ様は一口含んだところで吐き出されているから命の心配はない」
その言葉に良かった、と安堵すると同時にサブリナはランドルフを真っ直ぐに見返すと続けた。
「私はトリカブトを間違っても入れたりはしません」
そう告げた途端に、腕をきつく取られる。
「ブリーさん!!」
「ブリーっ!!サブリナお嬢様っ!!!!」
ギリギリと強く掴まれたのを見て、エイブスとシャルが悲鳴にも似た声で自分を呼ぶ。
抵抗しようと一瞬もがくが、騎士の力に敵うわけもなく、見上げれば、騎士団団長は厳しい顔で自分を見下ろしている。
「申し開きは詰所で聞く。女に手荒な真似はしたくない。大人しく出頭しろ」
これ以上事を荒立てれば、夫人にもウィテカー公爵にもオーランドにも迷惑がかかる。サブリナは静かに頷くと、エイブスと真っ青な顔のシャルを振り返った。
「大丈夫です。何かの間違いだと思うから、誤解を解いてきます」
その言葉が終わらないうちに、サブリナの両手には鉄の枷がかけられ、腰には逃げられないようロープが結ばれて、付いてきた他の騎士が持つ。
あまりの罪人扱いにさすがに動揺するが、屋敷の使用人やシャル達の方がよっぽどショックを受けたようで、泣き出していた。
なるべく冷静に、毅然と見えるように・・・サブリナは静かに皆んなに安心させるように微笑む。上手く笑えていたかは自信がないが。
「大丈夫よ。心配しないで」
それだけを言って、真っ直ぐに玄関を見る。乱暴に腕を取られて、ジャラリと両手首の枷が音を立てると、使用人たちから次々に嗚咽が上がった。
無表情のランドルフの行くぞ、との声を合図に、物々しくサブリナは引っ立てられていく。囚人用と思われる質素な馬車に押し込められると、ぐっと唇を噛み締めた。
・・・やってないのだから大丈夫。
無実を立証して見せる。
そう決意しながら、サブリナはウィテカー公爵家に迷惑をかけてしまったことを、ただただ心配していた。
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