〜Addicted to U〜 キスまでの距離

嘉多山瑞菜

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《第16章》― 俺だけが、お前の「特別」でいたいんだ…。他の奴がお前の特別なんて嫌だ…―

2

 仕事のトラブルが続いていた。亮は会社の幹部として、自分の責任をこなしていく。心身共に疲労とストレスが溜まっていた。

 桂と全く逢えなくなっていた事が、亮のストレスに拍車を掛けて行く。

「山本の好きなサーモンのクリームシチューを、このオイルを使って作るよ」

 そう張り切って亮に告げた桂…亮の土産に嬉しさで満面の笑みを浮かべていた…それなのに、自分がイタリア土産に買ってきたオイルやパスタを、まだ亮は味わっていなかった。あの日以来、急速に仕事が忙しくなってしまっていたからだった。

 電話を掛けてこない桂に不安を募らせながら、亮は自分から毎日電話をする様になっていた。

― 逢おう…桂…—
 寂しいんだ…お前に逢えなくて…。口にする事の出来ない想い…。

― 無理するなよ。仕事が落ちついてからで良いから—
 物分りの良い事を言う桂…。
どうして…そんな風に言うんだ?

 お前は俺に会えなくても平気なのか…?それとも……「リナ」と逢うのか…?

 不安ばかりが膨らんでいく。

 今日も会議の一つを終えると亮は自室に戻った。秘書が労うように亮の好きなコーヒーを淹れておいていく。
秘書が何件かの伝言を言うのを、亮は疲れた面持ちで聞きながら芳しい香りをたてるコーヒーを口に含んだ。

「リョーちょっとよろしいですか?」

 ノックもそこそこにジュリオが部屋に入ってくる。

「あぁ…なんだ?」

 亮はジュリオの慌てたような表情に怪訝な顔で出迎えた。秘書が話しを打ち切って、軽い会釈をジュリオにして出て行く。

「コーヒー飲むか?」

 ジュリオがソファに座るのをチラリと見ると、亮は声を掛けた。

「SI.お願いします」

 ジュリオは亮と違って感情の起伏が激しい。ソファの上できょろきょろと落ちつかなげに視線をさ迷わせている。言葉にイタリア語がまじっているあたり、かなり動揺しているようだ。

 らしくない友人の様子に眉を顰めながら、亮はジュリオにコーヒーを手渡すと自分も向かいの席に座った。

 ジュリオはコーヒーカップに口をつけると、真っ直ぐに亮を見詰めた。

「イタリア語で話してもよろしいですか?」

 突然のジュリオの願いに内心驚きながらも、亮はどうぞ、と答えていた。日本では絶対にイタリア語を使わないジュリオが、自ら誓いを破ってイタリア語で喋りたいと言うのだ…。

 内心の動揺がそのままジュリオの表情に出ていた。言葉を選ぶかのように額に手をあてたまま、ジュリオは考え込む。

「おい…一体なんなんだよ」

 焦れた亮が話しを急かした。その言葉にジュリオが、決意したように口を開いた。

「お前とカツラどうなってんだ?」

 いきなりイタリア語でプライベートな話題を…思っても見なかった事を切り出されて、亮が不機嫌に眉根を寄せた。

「質問の意味が分からない…」

 憮然という亮の言葉をジュリオが「NO!」と言う強い口調で遮った。

「気取るな!リョー。最近お前、カツラと逢っていないって言ってたよな?もちろん仕事が忙しいのは分かる。でも…放っておきすぎじゃないのか?」

 ジュリオの言葉に亮がそっぽを向いた。いちいち当たっていて腹が立ったのだ。

「それが、お前とどう関係あんだよ」

 亮は忌々しげにジュリオを睨むと自分は日本語で訊ねた。自分と桂の事に口を出して欲しくない…というのが亮の本音だったのだ。

 そんな亮の思惑をあっさりジュリオは無視すると、話を続けた。

「お前…カツラを手放す気か?カツラ、お前の気持全く分かっていないぞ」

 そんな事…分かっている…。
ジュリオの言葉に、亮は俯きながら呟いた。手元を所在なげに見つめる。

「お前はカツラが好きだと言った。でもタケシと別れず、カツラを抱かず、カツラを中途半端な立場に追い詰めている。近頃のカツラ、表情が無くなってきた…」

 激した口調で身振り手振りで喋り続けるジュリオの最後の言葉が、思いがけず弱々しくなった。

「お前の言っている事は、全部正しいさ。ジュリオ。でも…今の俺にはこれが精一杯なんだ…。桂にわかってもらえるように…俺は今努力するだけなんだ…」 

 亮は弱り切った声音で呟くように言った。疲労感がどっと湧いてくる…。
ただでさえ疲れているのに、ジュリオの言葉でますます疲れが滲んでくる。

 大体どうしてジュリオがいきなりこんな事を言い出すのか分からなかった。亮は疲れた表情でこめかみを擦るとジュリオに問い掛けた。

「ジュリオ…何で急にそんな事言い出すんだ?」

 亮の問いに、それまで強気だったジュリオの視線が揺らいだ。一瞬口を開きかけて、躊躇うようにまた口が閉じられる。

「おい…何か言いたい事があるんだろ?言えよ」

 苛々して亮がジュリオに話しの続きを促した。暫くの沈黙の後、ジュリオがゆっくりと口を開いた。

「カツラが綺麗な女性と一緒に歩いていた」

 あれは、絶対恋人だ…そう告げられた言葉に亮の顔から色が失われていた。
 
 
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