腹ペコ海香のひとりぼっち料理帖

黒猫

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2品目 ハードボイルドゆで卵と基本のラーメンパスタ

腹ペコ海香のお料理教室

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『料理の初手は、お湯を沸かすこと』

「そうなの?」
「え、いや、ま、そうじゃない時もあるけど……」

 ワンルームマンションの狭ーいキッチンに二人立つのは、やっぱりちょっと窮屈です。でもここは心を鬼にして、お姉ちゃんに料理のいろはを教え込みます!
 自己流ですけど。
 あと、うちはマンションじゃなくてアパートですけど。

「今日はまず、お姉ちゃんにゆで卵を作ってもらうね?」
「おお、ゆで卵! とっても難しそう! 大丈夫かしら?」
「難しいってことは無いよ……大丈夫、大丈夫! ま、コツは色々あるけど。でも、うーんそうだね、お姉ちゃん、クッキングタイマーは持ってる?」
「…………」

 お姉ちゃん、フリーズしちゃいました。
 こんなところで固まられても……困っちゃいます。

「あのね、お姉ちゃん、その目の前に貼っつけてあるやつだよ。時間を計るの。茹で時間とか……茹で時間とか?」
「ああこれね! 知ってるわ! 持ってません!」
「百均ので十分だから買おうね。じゃ、簡単に説明するね?」
「はいよろこんでー!」

「……まずは、お鍋にたまごを入れまして。そうしたら、水を被るくらい、じゃーっと。あ、お姉ちゃん、たまご割りそうだから先に水入れたほうがいいかも」
「失礼ね!」

 ちなみに、たまごはちょっと古くなっちゃったのを使うほうが、殻が剥きやすいのでいいです。わたしは、冷蔵庫のたまごの残りが三つとか四つになったらゆで卵にしちゃって、新しいのを買ってくるようにしてます。

「火にかけまして、菜箸でたまごをぐるぐる回します」
「それはどうして? どうしてぐるぐるするの?」
「黄身がね、真ん中で固まるんだよ」
「ふーん」

 たまごを水から茹でるのは、殻が割れちゃわないようにです。べつに割れても大丈夫なんですけど、白身がにょろんと出ちゃうのあんまり見たくないので……。
 ぐるぐるは、真ん中黄身にこだわらなければやらなくていいです。わたしも普段はやりません。でも、せっかくですから、ね?

「ねえ海香、あと一体どれくらい、私はこれをやり続けなければならないの?」
「あ、沸騰してきたね。火、弱めていいよ。ぐるぐるももういいかな。そうそう、時間もここから計ります。タイマー、ピッて押して?」
「おお、忙しい!」

 お姉ちゃん、すっごい真剣です。なんか、いいですね、こうやって慣れないこと頑張ってる姿って。かわいいです。

「これで7分か8分くらい茹でればいいよ。10分ちょっとで固ゆでだね。ハードボイルドだよ」
「ほーん」
「その間に、色々用意するね。お姉ちゃんは、とりあえず見てて?」
「はいよろこんで……じゃないわ! おう、よろこんでー! こうね!」
「なに、それ?」
「ハードボイルド!」

 何を言ってるのかさっぱりですが、ラーメンの具を用意します。
 塩漬けメンマをざっと洗って塩を落として、さらにボウルに入れて水でもみ洗いします。何回か洗ったら、小鉢で水に浸けておきます。
 乾燥わかめも、水で戻しておきます。
 あとは……スライスのベーコンを3センチくらいで切って、もやしとほうれん草も洗っておきましょう。

「ねえ海香、これは一体、何を作ろうとしているの?」

 おっと、言ってませんでした!

「これはね、基本のラーメンパスタだよ。これ覚えると色々応用利くから選んでみました!」
「???」

 そうなんです。お料理初心者のお姉ちゃんのために、簡単に作れてバリエーションも豊富で、しかも料理の基本を押さえるのにぴったりなメニューを、今日はチョイスしました。お姉ちゃん思いの優秀な妹です!

「あ、ゆで卵、そろそろいいね。ボウルに氷水、用意してもらっていい?」
「氷水!」
「どうしたの?」
「お姉ちゃんね、氷水、好きなの。なんだかわくわくしない? 氷水」
「うん……ちょっと、わかんないかな。ごめんね? お姉ちゃん」

 茹で上がったたまごをざるにあけて、ひとまずたまごと鍋に水をかけて湯気をなんとかします。視界を奪われるのは恐怖ですので。そしてたまごを氷水にインし、冷やします。急冷であればあるほどいいです。殻が剥きやすくなります。あと、半熟を狙う時なんかも、余熱で固まるのを抑えられますので、厳密な勝負をかけたい時にも効果的です。ボウルを使うと、氷の冷たいのが底に行きますので、理にかなってます。

「な、なかなかアグレッシブじゃないの!」
「次いくよ、お姉ちゃん! パスタを茹でるから、またお湯を沸かすんだ!」

 思えば愛用の電気ケトルを活用してあげればよかったですね! これは痛恨のミスです!

 ……というわけで、お湯が沸くまでの間、しばらくぼーっとします。二人でたまごを見つめます。
 あ、そうです、今のうちにお姉ちゃんにまた色々説明しましょう!

「えっとね、これからパスタ……スパゲティを茹でるんだけど、パスタはみんな、茹でる時は塩を入れるのね。入れないと入れ忘れたーってなるから!」
「ええ、肝に銘じておくわ」

 さすがお姉ちゃん、吞み込みが早いです!

「よし、じゃあお湯沸いたから、塩入れるね!」
「賛成です!」

 この塩加減も実は大事です。後で絡めるソースや具材によって、塩の量を加減します。今回はメンマがしょっぱいので、小さじ一杯くらいで十分です。
 続いて、パスタ……スパゲティを投入します。

「一人分は普通だいたいこのくらいなんだけど、わたしちょっと腹ペコだから、ちょっと多めに入れるね!」
「なるほど!」

 ここでまたいちおうタイマーを入れますが、うーん、そうですね、諸事情がありますのでこれはあくまでも目安です。
 菜箸でパスタをつんつんして、鍋の中で泳ぐようになってまた沸騰したら、なんと! 蓋をして、火から下ろしちゃいます! くれぐれもひっくり返さないよう気をつけます!
 選手交代です。フライパンをコンロに乗せて、サラダ油を引きます。
 そうです! うちのキッチンは、コンロが一口しか無いのです! 諸事情というのは、このことでした。
 なので、パスタの鍋をいったん下ろしました。これでもちゃんと茹で上がりますので、大丈夫です。お姉ちゃんは、ただ静かにわたしの動きを見守ってます。

「ベーコンともやしを炒めるんだけど、先にベーコンをじっくり炒めてから、次にもやし。軽く塩も振ってね。あ、そうだ! お姉ちゃん、たまごをお椀に移してもらっていい? もうだいぶ解けちゃってるけど、残ってる氷水も。ボウル使うから!」
「は、はい!」

 なんだかお姉ちゃん、ちょっとたじたじです。だいぶわたしの勢いに押されちゃってます。ごめんね? ここからさらにばばーっていくから!

「よし! もやしもおっけー! そしたらまた選手交代! どいたどいたー!」

 鍋をコンロに戻して、麺の状態を確認します。まだコシが強いです。なら大丈夫ですね、再び沸騰したら、ほうれん草を菜箸でつまんで湯がきます。
 ごちゃまぜ系のスパゲティなら、先に切ってフライパンでもやしベーコンと一緒に炒めるのですが、今回は別にします。ささーっと湯がいたら、ざるに移して水気を切って、まな板に横たえます。

 さて、いよいよ麺をあけます。火を止めて(これ忘れないでください!)、ざるをセットしたボウルにざざーっと出します。茹で汁も使いますのでご注意です。
 そしてプライパンをコンロに乗せ、麺をどざーっと投入し、メンマも入れちゃいます。麺が少し浸るくらいに茹で汁も加えます。混ぜます。鶏がらスープの素(顆粒)も入れて、混ぜ混ぜです。
 ここでちょっと味を見てみましょう。薄かったら、メンマの戻し汁で調整します。
 メンマの戻し汁はしょっぱいですけど、メンマの風味もたっぷりなので活用しちゃいます。でも、メンマ自体もまだけっこうしょっぱいので、全体的に薄味な感じで大丈夫です。
 おっと危ない、ごま油を入れのを忘れるとこでした。うん、いい香りです。お姉ちゃんをすっかり置いてきぼりにしちゃいました。

「これでだいたいできあがり! あ、そうだった! お姉ちゃん、ゆで卵剥いて!」
「私が? いいの?」
「いいよ! そしたら半分こしようね。ちゃんと黄身が真ん中になってるかな? どうかなー?」
「ああ! そんな楽しみがあったわね! よし、お姉ちゃんに任せなさーい!」

 ちゃんと殻を剥けるか心配です。けど、あんまり見ないでおいてあげましょう。わたしはお皿の用意をします。あとは、フライパンの中身をお皿に盛って、ゆで卵とほうれん草を切って、それとわかめをトッピングしてコショウで仕上げるだけです。

 ピンポーン

 その時突然、家のチャイムが鳴りました。
 だ、誰ですか!?



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