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清算③
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「だったら、大人しく——」
「初めから、知っている。要らぬ世話だ」
と、ここで突然に、強大な圧迫感が出現し、一瞬にしてその場の緊張感が高まる。
気配を消し、物陰に潜んでいたジグムントが、フェリの前へと音もなく、しかしその威風堂々とした威圧感はそのままで、歩み出た。
ジグムントの顔には、もう我慢ならぬ、と書いてあった。青筋を立て、怒りを露わにし、静かに鋭利な殺気を男に向けていた。
体格でいえば、ジグムントの方が、ムンデの戦士よりも一回りは小さい。けれど、その貫禄と威厳は、比べようがない。
「なぜ、お前が……っ!」
「何を驚いているんだ?
お前がフェリを見張らせていたことに、気づかぬはずがなかろう。金で繋いだ関係など、その程度だ。
お前は、ずっと、フェリが一人になるのを狙っていただろう。
それがわかっていて、みすみす一人にさせると思うのか?」
突然のグランカリスの覇王の出現に、ムンデの戦士もたじろぐ。
フェリは、それはそういう反応になるだろうな、と思った。
いくらムンデ国がグランカリス帝国の占領下に置かれているとはいえ、その最高指揮官がこのような辺境の地に乗り込んでくるなど、誰も考えない。
ジグムントは、フェリが自分の真実を知る、ずっと以前から、“白き人”の存在を知っていた。血の呪いを知っていた。
知った上で、フェリのことを傍におき、触れて、繋ぎ止めていた。
知られる以前なら、知られたくないと……特に、ジグムントだけには知られたくない、必死で隠しただろう。姿をけすだろう。
しかし、既に知られてしまっていては、隠しようもない。逃げられぬよう、こうも固く繋がれては、姿を眩ますこともできない。
先ほどまでの威勢はどこへ、巨漢は脂汗を浮かべ、じりじりと間合いを取っている。
戦士であるが故に、いくら愚かとはいえ、その力量差は見てとれるらしい。
「このような矮小で愚鈍な男に仕えていたとは。フェリの苦労が偲ばれる」
言って、ジグムントは嘆息した。
貴方と比べれば誰しもそうですよ、とフェリは心の中で密かに呟いた。
「拘束しろ」
ジグムントの静かな力強い号令で、林に潜んでいたグランカリス兵が姿を現す。そして、ムンデの戦士を取り囲み、縄をかけた。
「くそっ!くそっ!!」
男は地団駄を踏み、そして言葉にならない咆哮をあげた。
一度は身体や腕を拘束した縄を、力任せに引きちぎる。
そして、
「殺してやるっ!殺してやるっ!殺してやるっ!!!」
憎悪に駆られ、フェリへと突進した。こうなれば、道連れだ、と男は叫び、巨体からは想像できない速さでフェリへと迫る。
フェリは、まるで、全てがゆっくりと流れているように、冷静にことを見守った。
男は、サーベルを大きくフェリへと振りかぶる。けれど、それがフェリへと届くことはなかった。
次の瞬間には、いつの間にか抜剣した、ジグムントの見事な一閃が、戦士の手首を切り落としたからだ。
音もなく、腕から切り離され手首は、サーベルと共に、ごとり、と地面へ落ちる。
そして、男が悲鳴を上げるのも待たずに、ジグムントは、さらに返しで男の頸部を強く叩きつけた。
巨体はそのまま崩れ落ち、男は顔面から、地面へと突っ伏した。
フェリはただ、痛そうだな、と思った。全く慌てることもなく、恐怖も感じなかった。
「私のものに手を出すとは。
死に急ぐな。死よりも深い絶望を見せてやろう」
男の拘束を再度指示したジグムントは、「止血は、加減しろ」と、命を下す。覇王の深い怒りが、今この場で最も恐ろしい。この場の全員が、満場一致でそう思った。
ただ一人、フェリを除いて。
フェリにとっては、ジグムントの傍が、この世で最も安全な場所と、感じられ、一切の憂いを抱かなかった。
「初めから、知っている。要らぬ世話だ」
と、ここで突然に、強大な圧迫感が出現し、一瞬にしてその場の緊張感が高まる。
気配を消し、物陰に潜んでいたジグムントが、フェリの前へと音もなく、しかしその威風堂々とした威圧感はそのままで、歩み出た。
ジグムントの顔には、もう我慢ならぬ、と書いてあった。青筋を立て、怒りを露わにし、静かに鋭利な殺気を男に向けていた。
体格でいえば、ジグムントの方が、ムンデの戦士よりも一回りは小さい。けれど、その貫禄と威厳は、比べようがない。
「なぜ、お前が……っ!」
「何を驚いているんだ?
お前がフェリを見張らせていたことに、気づかぬはずがなかろう。金で繋いだ関係など、その程度だ。
お前は、ずっと、フェリが一人になるのを狙っていただろう。
それがわかっていて、みすみす一人にさせると思うのか?」
突然のグランカリスの覇王の出現に、ムンデの戦士もたじろぐ。
フェリは、それはそういう反応になるだろうな、と思った。
いくらムンデ国がグランカリス帝国の占領下に置かれているとはいえ、その最高指揮官がこのような辺境の地に乗り込んでくるなど、誰も考えない。
ジグムントは、フェリが自分の真実を知る、ずっと以前から、“白き人”の存在を知っていた。血の呪いを知っていた。
知った上で、フェリのことを傍におき、触れて、繋ぎ止めていた。
知られる以前なら、知られたくないと……特に、ジグムントだけには知られたくない、必死で隠しただろう。姿をけすだろう。
しかし、既に知られてしまっていては、隠しようもない。逃げられぬよう、こうも固く繋がれては、姿を眩ますこともできない。
先ほどまでの威勢はどこへ、巨漢は脂汗を浮かべ、じりじりと間合いを取っている。
戦士であるが故に、いくら愚かとはいえ、その力量差は見てとれるらしい。
「このような矮小で愚鈍な男に仕えていたとは。フェリの苦労が偲ばれる」
言って、ジグムントは嘆息した。
貴方と比べれば誰しもそうですよ、とフェリは心の中で密かに呟いた。
「拘束しろ」
ジグムントの静かな力強い号令で、林に潜んでいたグランカリス兵が姿を現す。そして、ムンデの戦士を取り囲み、縄をかけた。
「くそっ!くそっ!!」
男は地団駄を踏み、そして言葉にならない咆哮をあげた。
一度は身体や腕を拘束した縄を、力任せに引きちぎる。
そして、
「殺してやるっ!殺してやるっ!殺してやるっ!!!」
憎悪に駆られ、フェリへと突進した。こうなれば、道連れだ、と男は叫び、巨体からは想像できない速さでフェリへと迫る。
フェリは、まるで、全てがゆっくりと流れているように、冷静にことを見守った。
男は、サーベルを大きくフェリへと振りかぶる。けれど、それがフェリへと届くことはなかった。
次の瞬間には、いつの間にか抜剣した、ジグムントの見事な一閃が、戦士の手首を切り落としたからだ。
音もなく、腕から切り離され手首は、サーベルと共に、ごとり、と地面へ落ちる。
そして、男が悲鳴を上げるのも待たずに、ジグムントは、さらに返しで男の頸部を強く叩きつけた。
巨体はそのまま崩れ落ち、男は顔面から、地面へと突っ伏した。
フェリはただ、痛そうだな、と思った。全く慌てることもなく、恐怖も感じなかった。
「私のものに手を出すとは。
死に急ぐな。死よりも深い絶望を見せてやろう」
男の拘束を再度指示したジグムントは、「止血は、加減しろ」と、命を下す。覇王の深い怒りが、今この場で最も恐ろしい。この場の全員が、満場一致でそう思った。
ただ一人、フェリを除いて。
フェリにとっては、ジグムントの傍が、この世で最も安全な場所と、感じられ、一切の憂いを抱かなかった。
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