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Ⅰ.主食編
2.僕、とにかく腹ぺこです②
ヴァルはポケットから煙草を取り出すと、ポッと火をつけて大きく吸い込み、
「神 官の糞共が、いつもいつも俺をこき使いやがって。あんな奴らは、竜に喰われて今すぐ死ね」
煙と一緒に毒を吐いた。
『残念だけど竜は人食べないよ。たぶん』
ヴァルに拾われて、かれこれ1年程が経つ。
ヴァルからの情報で僕が神殿について理解したことは、私利私欲にまみれた腐敗した組織で、神官は糞野郎の集団だ。ということだ。以上。
そして、ヴァルはその人たちにとっても苦労させられているらしい。
ぐきゅるるるぅぅぅ~……
と、ここでまた、僕のお腹が盛大になった。
ヴァルはくつくつと笑いながら言う。
「ま、とりあえず食えよ」
『うん!いただきます!』
がう、という声と共に一度ぺこりといただきますの挨拶をして、ヴァルの用意してくれたご飯に口を付けた。
ヴァルは、ちょっと目つきが鋭くて、なんというか……一見すると悪人顔で、ちょっと怖い。
鈍色の髪を後ろに一つに結わえていてるのだけど、その髪がすっごくぱさぱさで、さらに顔色は悪いし肌もカサカサで、唇の色も悪いし、隈があって……何故だかいつもしかめっ面だ。
すっと通った鼻筋が凛々しくて、薄い唇もシャープな顎も、とっても整った顔だとおもうんだけど……だからこそ、そのくたびれた感じが、人相の悪さを10倍くらい増し増しにしてる。
でも僕はこの鋭い感じが……特に、ヴァルの瞳がとっても好きだ。
ヴァルは濃い紫色の瞳をしているのだけど、光の加減によっては赤くも、青くも見える。
強く光があたれば、黄色にも見えて……時には、深い黒にも見える、不思議な色の瞳。
でも、目付きがどんよりしてることも多くて、ちょっと心配だ。
スープを半分くらい食べたら、次はパン。
このパンはそのままだと固くてしょっぱいから、スープにふやかして食べる。
前足でパンを挟んで、歯で食いちぎって、スープにぽちゃんと落とす。ふやけたところでスープを啜りながら一緒に食べるのが、美味しい食べ方。
前にヴァルがそうやって食べてて、真似したらとってもおいしくて。もうこの食べ方以外、考えられない。
ほあ~……美味しいよぉ。
いつもとおんなじ、優しい味。ヴァルの味。
むしゃむしゃと食べる僕のことを、いつものようにヴァルがじっと見てる。
ふっと僕を見ていたヴァルの瞳が細められて、頬が緩む。
僕がこうして美味しそうにご飯を食べていると、ヴァルはとっても優しい顔になる。
実は笑うと可愛いってこと、皆はきっと知らないと思う。
……そうだといいな。
「神官共は、予言を利用して私腹を肥やすことしか考えてねぇからな。実際、腹が肥えて弛んでんだから、ホント笑える」
そう言うヴァルの顔は全然笑ってない。
正確には、口は右の口角だけ持ち上がって笑ってる風なんだけど、目が全然笑ってない。
すっごく目が据わってて、どう見ても悪だくみしてる、悪い人にしか見えない。
ヴァルはとっても優しいのに、ちょっと嘘つきだ。
「200年前の予言を信じてるなんて、どいつもこいつも頭おかしいんじゃねぇのか。
現実見ろって話だぜ」
ヴァルがこうやって、ご飯を食べる僕の背を撫でながら、ぶつぶつと愚痴をこぼすのも、いつものことだ。僕は聞くだけしかできないけれど……。
いくらでも聞くから何でも話してよね!
ぐきゅるるるうぅぅ~……。
三度鳴った僕のお腹の音に、ヴァルはくつくつと笑いながら言う。
「世界の危機より、日々の糧だよな」
『うん、僕もそう思う』
同意を込めて、ばう、と返事をして、ぱたぱたとしっぽを振った。
「お前、いつもきれいに食べるな」
すべてを舐めつくし平らげたお皿を、ヴァルが片付けてくれる。
ヴァルは僕の食べ方を、キレイて言ってくれるけど、実は僕、これにも違和感かあって。
僕は今、犬に擬態してるから、当然いわゆる犬食いスタイルだ。
今の手の形態上、手に持って食べることは難しいし。だって、どう見ても前足だし。前足じゃ、お箸もスプーンも持てないし。
でもこれって、すっごく行儀悪いなって思うんだよね。ね?そう思うよね?
で、それよりも、どうしても僕が抵抗があるのは……、
「地面に落ちたら、絶対食べねぇし。贅沢な犬だな」
それそれ!落ちたのを食べることに!だって普通に汚いよね?絶対ムリだよ!
……まあ大好物なら、3秒ルールくらいは、甘んじて受け入れるけど。
湿った食べ物に、泥がべちゃっとついたやつとかは、ムリ!絶対に、ムリ!!
そもそも僕、犬じゃないし。竜だし
「お前は、いつも毛並みがきれいだな」
ヴァルは、気持ちよさそうに僕のもこもこで、ふわふわで、さらさらの自慢の白い毛をもふもふと撫でまわしていく。
ああ、この手。すごく気持ちいい。撫でられたいポイントを押えた、絶妙な力加減で……あ、そこそこ。もっと撫でて。
「お前は、何の種類の犬なんだろうな?」
『だから、僕、犬じゃないんだってば!』
ほら、両耳の上に角だって生えてるでしょ。
まあ、けど……その唯一竜を主張する角も、ふさふさの毛に埋もれてしまってるから、一見すると耳の垂れた大型犬みたいだけど。
でも、僕は空だって飛べる!そんな犬いる?
……え?いないよね?
「お前、飼い主はいねぇのか?」
ヴァルはそう言いながら、僕の首につけられた首輪に触れる。
この首輪はヴァルがつけてくれたもので、真っ黒な革製で銀の留め具がついているシンプルなものだ。
迷子防止と害獣駆除の対象にならないため、らしい。
首輪なんてこの200年で初めてつけたけど、なかなか悪くない。普段は白い毛にほぼ隠れてしまうけど、黒い革がチラ見えしてお洒落なデザインで僕は気に入っている。
『飼い主なんているわけないでしょ!僕、竜なのに。ヴァルのご飯が一番美味しいから、ここにいるんだよ!』
推定100年間、人族の中で色々なものを食べたけれど、ヴァルのくれるご飯が間違いなく一番美味しい。
たぶん200歳くらいの僕だけど、こんなの初めてだ。
え?竜としてのプライド?何それ?美味しいの??
プライドで、お腹は膨れない。
ヴァルと一緒にいるためなら……美味しいご飯のためなら、子供たちに犬扱いされようと、僕は甘んじて受け入れる。
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