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Ⅱ.体に優しいお野菜編
56.俺は、改めて自己紹介する④
しおりを挟む「くそっ!馬鹿にしやがって!!」
ほら見ろ。デュランがキレたじゃねぇか。いや、とっくにキレてたか。
「この小さな石一つで……この街程度なら、今すぐ消滅できるんだぞ!」
「ああ……そうだろうな」
デュラン、お前こそ自分が手にしているものの恐ろしさがわかってねぇよ。
“澱み”はわずかであっても、生物を存在を根底から蝕む恐ろしい力を孕んでいるんだからな。
その結晶なんて、気が触れてるとしか思えねぇ。
街を消滅できる程度で済めばいい方で。もう二度と生物が育まれない土地に成り果てんぞ。
そして、それは徐々に拡大していくだろうな。どこまでも。
「わかってんなら。話は早い。ヴァレリウス、お前これを飲めよ」
「………は?」
予想外の要求に俺は固まる。
「ええっ!?正気!?!?そんな不味さを凝縮したような塊、ヴァルに食べさせるなんて!!」
「お前は黙ってろ」
今は、不味いとか、不味くないの問題じゃねぇんだよ。
この辺りの生物が死んで、不毛の地となるか否かの瀬戸際だよ。
「お前が飲めば、街は助かる。そうなんだろう?ヴァレリウス」
「それは………」
確かに、俺は“澱み”を溜め込む体質だから。俺が飲めば、身体に留まり、街を“澱み”が直接的に侵すことはないだろう。
けど、だからと言って別に俺が平気だと言うことじゃない。
デュランは、街を盾に……俺が大切にしているものを助けたければ、あれを飲んで死ねと、そう言っているつもりなんだろうが。
「いいぜ。飲んでやるよ」
デュラン、お前、本当に何もわかってねぇな。
お前は俺に、これを飲んで死ぬよりも苦しめ、と。
そう言ってんだぞ。
「うそでしょ……ヴァル、本気?」
「ああ。お前はこうして俺にくっついとけ」
きっぱりと言い放つ俺を、ルルドはいつになく強張った表情で、背に抱きついたまま見上げていた。
「…………うん。わかった」
デュランは俺とルルドを忌々しげに睨み付けて、ルルドがそのデュランを憎々しげに睨み返している。
デュランが無造作に黒い石を放る。それを、無言で受け取ると、口に入れ、即座に飲み下した。
ルルドが後ろで「うっ……」と嘔気を嚙み殺す声が聞こえる。
喉を灼熱感が襲い、身体が引き裂かれるような激痛に意識が霞んだ。ぐらついて倒れそうになったとき、俺の名を呼ぶ白い竜の声が聞こえて、ぐっと地面を踏みしめて体内の“澱み”を意識する。
ぼやけた視界をかすめたデュランは、俺から目をそらし、顔をゆがめているように見えた。
デュラン、なんでお前が傷ついた顔してんだよ。お前が、望んだんだろうが。せめてちゃんと見ておけよ。バカ野郎。
ただ無尽蔵に暴れ回る強大な力を、死に物狂いで感じて、整えていく。じんじんと痺れる身体の中で、それは明確な色や形、匂いをもって巡っていく。
ルルドが触れたところが熱い。熱くて、甘く疼く。とくとく流れ出る吸引力を感じて……俺の中から、“澱み”が……黒い竜気が抜け落ちていくのを、確かに感じる。
しばし、心地よくすらあるピリピリと微弱な電気が流れるような浮遊感に身をゆだねていると、徐々に身も心も正常に戻ってきた。
はぁ……と大きく息を吐く。全身から噴き出した汗で、じっとりと湿る。
熱いのか、寒いのかよくわかんねぇな。
心配そうに俺を支えていたルルドを見て、一度頭を撫でた。
そして、デュランに向き直る。
「これで、満足かよ……?デュラン」
「は……なんで、……なんで、死なねぇんだよ……」
それは、黄金竜の長のお陰だよ。間違いなく。
確かに、いいタイミングだったよ。この俺が感謝しても良いくらい、良いタイミングで現れてくれた。
お陰で、ルルドはより成熟した竜へと近づいた。そして、だから、俺はルルドの竜騎士となった。
だから、俺は助かった。俺のままでいられたのだ。
“澱み”の塊を、認識できるようになった俺は、黒い結晶を取り込み、身体の中に溢れるその力の存在を認識し、そして操ることができた。
そしてルルドは……成長したことで、俺の体内に溜まった黒い竜気を、触れたところから吸収することができるようになっている。
ルルドに接したところから感じる、引き込まれるような心地よさは、間違いなく食わせているときと同じ感覚だ。
案の定、ルルドは俺にくっついたままで「ふわわぁー……なに、このものすっごく美味しい匂いは。僕、たまらないんだけど」なんて、恍惚としながら一層ぴったりと抱き着いている。
“澱み”を取り込むと並行して、こうしてルルドが俺の中の黒い竜気を食ってくれるから、俺は俺でいられたのだ。
いくら、竜騎士だなんだといっても作りは所詮、人の体だ。
俺だけでは、俺は俺のままでいれなかった。
………肝心のルルドは、自分の成長に気づいてもねぇみたいだけど。
まぁ、こんな事情はデュランには教えるつもりはない。
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